藤井聡太さんのNHK杯デビュー。

2017年5月14日(日)1回戦第7局
▲千田翔太六段vs△藤井聡太四段 
解説杉本昌隆七段

初のNHK杯。戦前のインタビューでは若干緊張している様子が伺えたが、このインタビューは相当場馴れしていないと難しい。実際普通の大人の棋士であってもキョドる場合が多いように思う。

先手は千田翔太六段となった。レーティングで十傑レベル。直近の戦績でもタイトル戦挑戦など活躍している。藤井聡太四段がこれまで公式戦で対戦した相手の中では最も強敵と言える。私は藤井聡太さんが今年中に棋戦優勝やタイトル挑戦をすると思っているので、せっかくの機会なので予定を二時間後ろ倒しにして、久しぶりにNHK杯をリアルタイムで鑑賞した。


この二人の対戦の場合、基本的には角換わり、そして金を中央ではなく玉から一つ離れた所に配置する形になることは予想された展開であり、その通りになった。

この戦型の鑑賞ポイントは、双方の玉がどこで落ち着くのか?という点と、先手だと4筋、後手だと6筋に位を取るのか?という点だと思う。先手玉を68の地点まで進めて、すぐに先手が攻め始めることもあるし、先手が固める意向を示したのをみて、後手が右玉に構え直す(先手の右金が4筋にあるのでイビアナにされてもそこまで固くはないという?)こともある。

位を取る場合は、その下に角を据えてその睨みを上手く利用しながら戦う。逆側としてはその位を伸びすぎとして咎めに行く展開も多いように思う。どういう戦い方であっても、桂馬が単騎で跳ねていくような軽い細い攻めになることが多い。従来の角換わりであれば、先手が派手に歩を突き捨てて(いわゆる「世に伊奈さん」。4・2・1・7・3筋を突き捨てて)桂馬が跳ねた後に1・3筋で歩を叩いて桂馬交換が最低でも担保されていたが、最近はそうなることが少ない。

それにしても。本譜の手順には驚いた。先手は単騎で桂馬を跳ねて、後手が△22銀と引いた。先手の攻めの銀が3四の歩を掠め取り、更に▲5六角と配置したのだった。将棋ウォーズで見かけそうな攻め筋。角が後手陣の両方向を睨んでいるとはいえ、一昔前のプロの将棋ではあまり見られない単純な狙いに見える。

千田翔太六段は、研究にコンピュータソフトを活用しているため、その感性?を上手く取り込みそれが棋風に現れている。具体的にいうと従来のプロよりも細そうな攻めを比較的多く実行する印象がある。同じようにソフトを研究に活用し始めたらしい藤井聡太四段の場合は、対振り飛車戦では比較的アグレッシヴに局面を進めていく(押していく)印象があるが、相居飛車では、特に後手番ではかなり慎重な指し回しというイメージがある。

一方で(以前も書いたが)藤井聡太さんの将棋は小駒の活用が上手く、特に桂馬の使い方にその特徴が出ている。詰将棋が好きで詰将棋作家でもあるということが関係しているように思う。それにしても本局の△4一角には驚いた。単純な狙いのある先手に対して、それを面白くなくするような展開を構想するのが普通?のような気もするが、屈服とまではいかないまでもその角の効果を認めるような手だ。受け一方の手で普通のプロには指しにくいのではないか。

この手の意味を考えると、素人目には「単騎で跳ねている桂馬を取りきれば自然に良くなるであろう」という考えなのかなと。ただ相居飛車ではこういう桂馬を取りきるまでになんやかんやと手にされてしまうことも(個人的な経験では)多い。

先手は後手の4一角に満足し、ひとまず攻めが続けばよいという状況に。桂馬を跳ねてから、両方の端歩を突き捨てて後手の右桂の桂頭を狙う。この辺は先手に幅広い選択肢があり、時間を使っていたが本譜の手順がどうだったか。感想戦の様子をみる限りでは、シンプルにアマチュアでも見える一筋での桂馬・香車交換で先手の指しやすさが維持された可能性がある。(ただそれがどのぐらいの指しやすさなのかは分からないが)。

本譜は先手が相当ヒネった手順に見えた。先手が馬を作ったが後手の四段目の飛車の横利きが、先手の飛車の活用度に勝る展開となった。先手が単純に一筋で桂馬を換えに来ると見えた局面で、いかのようにつぶやいた。




後手からの攻めは相変わらず見えず、とは言え先手の攻めもよくわからない局面でその桂馬の活用が登場した。△7二桂という、”ザ・受けただけ”第二弾、という手だった。普通の人は受けの局面で桂馬を二枚、近いところに打つ手をあまり考えない気がするのだが、藤井聡太さんの場合は特に苦戦しているか難しそうな局面でこのような桂馬の手が多いように思う。

本局の勝着ではないものの、千田翔太六段の悪手を誘った妙着だった。

先手は悪くないが色々な手がみえる中で、微妙に急かされる局面が続いていたので時間が無かった千田さんがウッカリしたのも仕方がないと思う。羽生マジックの進化版というか、羽生さんの場合はかなり厳しい展開で相手を惑わすような手順が若い頃に見られたが、藤井聡太さんの場合はそこまで悪くなっていないのが凄い。デビュー当初の糸谷哲郎さんが羽生マジックの悪力版、みたいな感じだったが、もっと手前の悪くなる三手前ぐらいでの懐の広さ、みたいなものを感じる。

一手で悪くなったため、本局では終盤戦の争いは出現しなかった。

次の対戦相手は森内さん。受けの強い森内さんは阿部光瑠や増田康宏のような攻め味鋭い若手棋士をしばしば返り討ちにしている。どちらが先手番になるのか。戦型は矢倉か角換わりか。個人的には森内さん先手で77銀型相矢倉、というのを見てみたい。

NHK杯のサイトはこちらから↓(棋譜の盤面再生もできます)
http://cgi2.nhk.or.jp/goshogi/shogitou/
http://cgi2.nhk.or.jp/goshogi/kifu/sgs.cgi?d=20170514
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