位取り中飛車における相穴熊の楽しみ方 第60回NHK杯1回戦第4局 ▲杉本昌隆七段vs△野月浩貴七段

第60回NHK杯1回戦第4局
▲杉本昌隆七段vs△野月浩貴七段

所要により出かけていたので、例によって番組は見ずに棋譜の入手のみ。

野月の対策に注目したが、居飛穴だった。石田流に対する穴熊よりはやれる手順が多く、有力な作戦だ。相穴熊はアマチュア的には詰まらないと思うのだが、ことこの戦型に限って言えば、穴熊の中でも特殊な戦いになるので観ている人も新鮮味を感じることが出来て、楽しめたのではないか。

ポイントは3筋からの先手の攻めが手になるかどうか、というところ。後手に角でハッチを閉める角穴熊の手順があることが発見され、急激に増えた戦型だ。

通常は中飛車が後手番で出現する形だが、その1手がどこに費やされるのか?というのが一つの注目点。本譜は3筋への攻めに投入されたということだろうか。

後手の陣形が凄い。どう表現すれば良いのか分からないが、後回しに出来る手は後回しにする現代将棋らしい手順だった。奇妙な形だが、角交換に同銀と形を乱さずに取る手段、22角の含み、そして本譜の24角の睨みに対する5筋の防御、全てを実現する水陸両用の駒組みなのだった。

40手目、24歩が入った時点で既に居飛車が一本取ったかもしれない。どう応じても先手の攻めが続きそうだ。攻めの棋風の野月としては気持ちの良い展開だ。

棋界に攻めの棋風の人は例えば火の玉流の有吉先生や、研究家で高橋道雄よりも前にオジサンA級復活を果たした青野や、一見細そうな攻めをつなげてくる北浜など色々いるが、野月の将棋はそれらの中では最も序盤中盤終盤のバランスがとれていると思う。

同角は本譜のように金を玉側に寄せていく意図。(同歩だと角のフォローのために78に行く必要が生じる)。野月は悠々とと金を作り、どうぞ攻めて下さい、こちらはゆっくり香車拾っておきますから、という手を指す。飛車の横利きまで通って、振り飛車からの攻め筋の全てに備えているので余裕なのだった。

振り飛車としては本来であれば気持ちの良いはずの桂馬の65への跳躍も、こうも万全に備えられた53の地点目がけてというのは、面白くない。おまけに54歩も同飛車と取られ、飛車の交換は横からの攻めへの耐久度で居飛車が良いが選択の余地もなく飛車交換となる。

先手の飛車の取り方が、金は上ずるものの桂馬取りの先手。66歩では55飛車の十字飛車があり、ここに来て3筋に手を掛けた振り飛車側の構想が破綻していることが発覚した。そこからは大差で、さすがの杉本も粘り様が無く、野月の圧勝だったと思う。

この将棋は位取り中飛車における相穴熊らしい将棋だった。通常は金を如何に剥がすか?という勝負になりがちだが、やはり普通の相穴熊とは違い、金が全部剥がされても居飛車穴熊が堅い、というのが面白いところだと思う。最後も危なげなく寄せきった野月の完勝譜だと思う。


最新の相掛かり戦法 (プロ最前線シリーズ)最新の相掛かり戦法 (プロ最前線シリーズ)
(2010/02/24)
野月 浩貴

商品詳細を見る


居飛車党なら是非もっておきたい一冊。過去の歴史が一通り詰まったダイジェスト版。最新定跡についてはネットでキャッチアップできるので、これと羽生の頭脳の相掛かりぐらいで先手番における強力な相棒を手にすることができるかもしれません。(気のせいか、この本が出てからは24でも良く相掛かりに遭遇する気がします)。



関連記事


関連するタグ

テーマ : オセロ&将棋&囲碁&チェス
ジャンル : ゲーム

コメントの投稿

非公開コメント

こんばんは

プロ棋士の棋譜が手に入るサイトはないですか?
教えてね!!

Re: こんばんは

> プロ棋士の棋譜が手に入るサイトはないですか?
> 教えてね!!

いつもコメントありがとうございます。携帯で閲覧されてらっしゃいますよね?携帯電話で棋譜再生できるサイトはあいにく知りません。もしPCということであれば、検索エンジンで「棋譜」と調べれば色々出てくると思います。ただし解説コメントが無いので、コメント付きで、ということであればタイトル戦などの中継サイトがよろしいかと思います。
将棋観戦記のtwitter
将棋観戦記のプロフィール

将棋観戦

Author:将棋観戦
「将棋観戦記」というブログで、プロ棋士の将棋を観戦して思ったことを記しています。棋力はありませんが、将棋観戦の楽しさを一人でも多くの人に知ってもらい、「観る将棋ファン」を増やすために貢献できればと思います。主に順位戦速報・タイトル戦等、ネット中継されている将棋を中心に将棋観戦記を書いています。棋譜・符号はなるべく用いずに、将棋のルールが分からない人でも、将棋の勝負の面白みが伝わるように努力します。

基本的にはリアルタイムでの将棋観戦中に思ったことを書き溜めつつ、対局終了後の感想を付け加えて、将棋対局のあった翌日の朝7時頃にアップされるように将棋観戦記を予約投稿しています。「一日一観戦記」をモットーにしているので、同日にネット中継が重なった場合は、対局の重要度を個人的に評価して観戦記の投稿日を調整しています。

将棋観戦中に書き始め、対局が終了すると思われるところから観戦記を完成させていることが多いです。文章内の形勢判断は個人的主観によるもので、観戦中の控え室のプロの意見を取り入れず、将棋ソフトの解析を行なっていないため、形勢判断が正しくない可能性があります。

また、あまり推敲することなく投稿しているので、観戦記内に誤字脱字、情報の誤りがある場合があります。お気づきの場合はコメント欄にてご指摘いただけると助かります。早急に訂正させていただきます。

将棋観戦記の人気記事
将棋観戦記の記事カテゴリ
将棋観戦記の最近の記事
将棋観戦記アーカイブ
将棋観戦記の記事検索
将棋観戦記のランキング
[ジャンルランキング]
ゲーム
161位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
ボードゲーム
3位
アクセスランキングを見る>>
将棋相互リンク