プロ将棋より面白い!…かも。第36回朝日アマ将棋名人戦第1局 ▲倉川尚 vs △清水上徹

第36回朝日アマ将棋名人戦の棋譜は、アマ連のウェブサイトで見れます。

昨日第一局目が、本日朝8時から第二局、決まらなければ午後から第三局が行われます。

挑戦者は倉川尚、タイトルホルダーは最強のアマ、清水上徹。現在四連覇中だ。奨励会修行経験のない純粋なアマとして小学生名人からあらゆるタイトルを総なめにしている。プロとの対戦成績でも善戦しており、プロより強いアマ、と言っても過言ではない。

倉川尚さんは元東大将棋部の主将で年代としては片上大輔プロと同じぐらい?おそらく大学中の交流もあったと思われる。学生時代から今まで特にアマタイトル戦での目立った記録はないと思う。しかし、プロにかぎらずアマでも若年齢化が進むタイトル争いの中、見事初挑戦を決めた。

プロもアマもかなり層が厚いのだということを今回の初挑戦で再認識した。

結果を先に書くと、倉川尚さんが熱戦を制したわけだが、その序盤作戦の練りに練った具合と、中終盤のねじり合いがとてもおもしろい将棋だった。また、実績としては劣る挑戦者が先勝したほうが、清水上徹さんには申し訳ないが盛り上がる、という側面もあるだろう。

振り駒で先手番を引いた倉川尚さんは、初手2六歩。振り飛車党に対して飛車先を決めるメリットのほうがあるかもしれない。特に一般的な研究将棋からMY定跡・MY研究方面に持ち込む意味でも。

それにしてもこのオープニングには驚いた。飛車先を決めてから自ら角交換。私は相居飛車のこのオープニングでは自分から角交換することが(最近は減ったが)ある。

なので電王戦の阿部光瑠プロがやった時にプロでもやるのか!と少し驚きつつ喜んだ記憶がある。今回のはもっと凝っていて、角交換してから端歩の突き越し。ゴキゲン中飛車の丸山ワクチンやら、後手のレグスペやら、あとは最近の藤井流の角交換振り飛車の手順を全部踏まえた作戦。

相手の清水上徹さんも振り飛車の専門家なので、この作戦の意図はすぐに汲み取っただろう。とはいえ、序盤で少し時間に差がついたのはもしかしたら大きかったかもしれない。

このへんは倉川尚さんの試合巧者っぷりが出ていたように思う。挑戦者が少し先行する形でレースを引っ張る形で、将棋が進んでいく。

丸山ワクチンvsゴキゲン中飛車っぽい展開で両者左美濃に。リスクを取らずに双方同じぐらいの囲いにできれば悪くない、と倉川尚さんは思ったかもしれない。後手はバランス重視で金銀分断の片銀冠になることが多いので四枚銀冠を構築することも想定していたとおりなのだろう。

後手のその代償は2五桂ポン。すぐにどうなるわけではないが、この桂馬が取りきられることは基本的には殆どないので、気分が悪いはずはない。

45手目の局面。後手は歩得だが、陣形の差で専門的には先手がやや指しやすいように思う。ただ具体的な良さにつなげるまでは遠い。そのように見るのが人間だと思う。コンピュータ将棋はどのように評価するのだろうか。

・・・と思ってGPS将棋にかけてみたのだが、面白いことにほぼ互角とみていた。理由は端歩の関係性をそれほど重く見ない、というコンピュータ将棋らしいところにあるような気がする。やや先手良し、というところであるいはそのほうが正しい見方なのかもしれない。

端歩は将来のための年金・貯金のようなものなので早死したら活きないものなのでw

中盤の難所、と思われるところで先手が端に桂馬を跳ねた。後手の飛車が二筋から五筋に転じた場面だ。この後手の桂馬は飛車を無力化出来るならば2一に置いてるよりも価値がある。相手玉側に近いところに成り込むことはそんなに期待していない。

そこで3筋になってもいいですよ、と先手は▲1七桂。それぐらい、飛車の活用を急がないと勝機がないとみたのだろう。もし3七に成ると双方の陣形をみたときに後手の左金が浮いているのが非常に目立つ。先手の飛車は二段目になりこんでくるので、銀ブラならぬ金ブラなのでよろしくない。

飛車を捌かせると勝てないとみた清水上徹朝日アマ名人は角を打ち込むことで二筋の歩を支える。先手の倉川尚さんも馬を作ろうと5三に手筋の歩を垂らす。角交換型の振り飛車ではよく出てくる手だ。

63手目の局面。ここが後手からみた頑張りどころだったようで、本譜は等価交換で馬まで先手に作られて飛車が隠居してしまったので後手が辛くなった。

局後の感想として示された手順はなかなか凝ったものだが、そこまでやって後手良しというものではなく、振り飛車らしい曲線的な指し回しでチャンスを伺うことが出来たはずだ、という感じ。

確か倉川尚さんはこの挑戦権を獲得した際の指し回しもかなり強気の震えない指し回しだったようだが、この日も初挑戦とは思えない堂々としたもので、流石に学生将棋でトップクラスである東大将棋部で主将を務めていた人はハートが強いなと思った次第。

清水上徹朝日アマ名人としては、この四連覇中にはなかったビハインドスタート。如何に震えない倉川尚さんとはいえタイトルが掛かればそれなりにクルだろうし、ここからは逆に清水上徹さんの四連覇の経験値が出てくるところだろう。

第二局は繰り返しますがこの後、アマ連のwebサイトで中継されます。動画系の何かがあるのか…は知らないですが、多分ないと思います。


棋士が数学者になる時 千駄ヶ谷市場3棋士が数学者になる時 千駄ヶ谷市場3
(2013/05/23)
先崎 学

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内容紹介
私は声を発した。
「詰んでただろ」
木村がきっと私を睨んだ。
「どこでですか」
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しばし木村の目が泳いだ。「どこですか」。
投了直後で興奮しており、図が頭の中で作れないのだ。
私はていねいに、先の変化を説明した。ふたりは同時に悲鳴のような声を出した。
(本文より)

特別な才能を持った選ばれた人間が、強いプレッシャーと戦い続けながら一手一手に魂を込め続ける棋士たちの日常。
高度な技術と強い執念がないまぜになった対局室には、今日も新しいドラマが生まれる。
先崎学が将棋そのものというテーマに真正面から挑んだ「千駄ヶ谷市場」シリーズ、ついに最終巻。
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