佐藤慎一敗れる。第二回電王戦第二局▲ポナンザ対△佐藤慎一

既に大きく報じられていると思うので、どのように書くか?というのは悩ましい。あまり情緒的にならずに事実とそれに基づく私の正直な感想を残そうと思う。

まずはこの将棋、序盤から力戦形となった。人間から誘導したわけではなく、ポナンザのほうが誘導した形。このあたり、開発者の山本一成氏の思想によるものだったらしい。

もし佐藤慎一プロが角道を二手目に指していたら角頭歩にしていたという話もTwitter上でとある開発者の言葉として伺うことが出来た。本譜は、先手中飛車と見せて相矢倉系の力戦となった。

後手はアマでも分かる角交換の権利を得て早々に将棋としては終わっていた。そう言い切るのは良くないかもしれないが、将棋という真理を探究するゲームにおいては、後手が良くなっていた序盤だった。

大平プロや田中寅彦プロが、これは間違えなければ人間が勝つべき勝負になった、というような感想をTwitter上で残していたが、まさにその通りだと私も思う。

ただし、真理を探究するゲームではなく勝ち負けを競うという別の側面からいうと、当然ながらにまだこれからの将棋であり、事実形勢が何度か入れ替わる形で最後に大きくミスをした佐藤慎一プロが敗れることとなった訳だが。

後で振り返って私が感心したのは昼食休憩ぐらいからの先手ポナンザの構想。ひとまず形としてはこう指すところという▲8八玉をなかなか指さずに別の手を優先していったところだ。玉を人間であれば不安定と見る7七の位置に置いたままに6五の位を取るという発想は人間にはないもので、この手順だけでも今回の電王戦を開催した意味があると思う。

コンピュータに創造的な手を指せるのか?という問いに対する一つの回答と言っては言い過ぎだろうか?

事実、この構想により先手がペースを掴むこととなった。もう一つコンピュータによる新手筋とまではいかないものの、状況によっては成立する可能性がある手としては▲7七金がある。この金は後に玉頭まで来て金冠を構築することになるが、昭和の既に鬼籍に入られている先生方であれば、たまに出現しそうな形である。

プロの最新の棋譜により得た大局観、評価関数によりこのような少し古風な味が出てくるのは何とも不思議ではあるが、人間とコンピュータ将棋の心がどこかで通い合う可能性を私は感じた。

この不思議な構想をポナンザが示したのは佐藤慎一プロの桂馬の二段跳ねによるものだった。第一回戦の阿部こうるプロと習甦の対戦ではコンピュータ将棋が跳ねた6五の桂馬が勝負の分かれ目となったが、本局も6五の桂馬がやや形勢が苦しめだった佐藤慎一プロの逆転の軌跡だった。

コンピュータ将棋が正しいかどうかは分からないのだが、この二局で分かることはこういう桂馬の単騎跳ねを充分に脅威として見ているということだ。

桂馬に跳ばれる前に金を玉頭にかわすというのは良し悪しは別にして明快な先受けではある。また、飛車を浮いた手も同じ意味がある。コンピュータ将棋はああいう桂馬の単騎跳ねを大局観で無理筋であると読めないために、必要以上に評価し、怖がるということなのだ。

コンピュータ将棋に恐怖はないと先週書いたがそうではなかった。コンピュータ将棋はこの桂馬をきちんと彼らなりの理論で怖がっていた。評価していたのである。

これは明らかな現時点でのコンピュータ将棋の劣るところだ。トップクラスのプロ棋士であれば、例えば羽生善治であればこういう相手の癖は取り込んで行く可能性が高いと思う。

電王戦の特別対談で川上量生と羽生善治が語る中で羽生善治が、そういう個性みたいなものがコンピュータ将棋にあるのかどうか?というのには興味があると書いていたが、この桂馬の評価がまさにそれに該当するだろう。

それにしてもコンピュータ将棋選手権など見ていても良くわからなかったが、あから戦、ボンクラーズ戦、そしてこの電王戦の二つの将棋でコンピュータ将棋のまだ至らない点が個人的にはかなり明らかになったと感じている。

佐藤慎一プロの反撃で後手に形勢がわずかではあるものの傾いた。先手の▲2五桂という手は前述の桂馬の過剰評価も絡んでいると思われる。先手の暴発気味の大捌きで駒損が拡大した。後手は桂馬の代わりに飛車を貰った勘定だ。しかも攻めの桂馬なのだ。

ポナンザが8三に角を打った局面では流石に後手が良いと思う。ここからトップクラスの棋士が指せばほぼ負けることはないと思う。

佐藤慎一プロはここから疑問手を何度か指す。疑問手は言い過ぎかもしれないが、形勢の差を広げるべきところで、その広げ方を間違ってしまった。コンピュータ将棋に駒を与えながら攻めの火種を残しながらの戦いを選択してしまったのだ。

飛車を五筋に回っておけば良かったものを打った角の顔を立ててしまうような手順を選ぶことで自ら苦境を招いてしまった。この辺りもしかすると、普通の精神状態ではなかったのかもしれない。

もう一勝負と龍を自陣に引かずにコンピュータ将棋の好きな桂馬を打たせたところでは、やや不穏な空気が流れている。厳密には無理筋、無理攻めであると思う。しかし、時間が切迫しており、コンピュータには持ち駒が沢山ある。こうなるとプロでも負ける展開だ。阿部こうるプロが先週言っていたように、だいぶ良くてもひっくり返される可能性があるのが、終盤におけるコンピュータ将棋の強さなのだ。

将棋の終盤は基本的には計算能力だけの世界なのでコンピュータ将棋はノーミスでぴったりついてくる。人間は持ち時間が少ないと間違う可能性がある。コンピュータ将棋は一つしかない勝ち筋であっても、それを発見する可能性も高く、見つければ間違うことがない。

そういう世界に佐藤慎一プロは持ち込ませてしまったと思う。最後の分かりやすいチャンスは入玉だったか。それで本当にきれているのかは分からないが、やや不利な局面で作った馬の顔を立てるような、ないところに意味を見出してしまう人間らしい手だと思うのだが、佐藤慎一プロは指さなかった。理由は是非聞いてみたいところ。

ここで馬で歩を払う手。


最終盤、幾つか印象に残った手があった。まずは佐藤慎一プロが5一に歩を打った手を見てコンピュータ将棋が形勢判断の点数を先手に大きく傾けたこと。それゆえの離して打った飛車。

確かに本譜をみると後に三段目に成る手があったので六筋に飛車を置いたのは良い手だったと言える。終盤は速度ということなのか、受けただけの手ということで評価されなかったのか。

佐藤慎一プロが桂馬を7三に打った手はかなり良くない気がした。Twitterでは負けたら敗着と私はつぶやいたが、既に辛くなっていたか、勝負として勝ちにくい展開だったとも思う。

まだ頑張れば勝てたかもしれないが、△3五馬で最後の望みも絶たれてしまった。ただこの一手をそれほど悔やむ必要はないと思う。無理そうだけど繋いでくる…のはコンピュータ将棋の専売特許なので遅かれ早かれだっただろうから。

と言うわけで公式にプロ棋士がコンピュータ将棋にはじめて負けた日としてこの日は記録される訳だが、既に将棋のプロ棋士が幾つかの場所や条件では負けることはかなり前から知られていたことである。

故米長邦雄氏のコンピュータ将棋との対戦に関する著作で既に一年も前に書かれている事実なのだった。

なので今回の佐藤慎一プロの敗戦はそれほど衝撃的なことではない。勿論、勝てた将棋だったと思うし、あの序盤だったのでプロ棋士には勝って欲しい将棋だった。

しかし通算成績で指しわけ程度の、ある意味プロ棋士の基準値とも言える佐藤慎一プロが序盤でコンピュータ将棋の不備を的確に咎め、その後作戦負けに陥り、中盤で盛り返し、コンピュータ将棋の得意な展開に持ち込まれる懸念のある変化を選択し、そして時間切迫もあり負けてしまったというのは、一つの重要なサンプルではあると思う。

そういうわけでこの負けがプロ棋士にとって大きな意味合いを持つかと言えばそういうわけではない。大山康晴先生が予言していたようにコンピュータ将棋はミスをしないが人間はミスをする、ということである。

佐藤慎一プロ個人としてはどうだろうか。幾つもの苦難を乗り越えてここまで来たのだから、この敗戦も決して乗り越えられないものではないと思うので、その乗り越えて行く様を見守りたいと思う。そういう姿を見せることがこれからの使命だろうし、その覚悟を感じさせる記者会見でのコメントだった。

佐藤慎一「(前略)一局の将棋に負けて命を取られるというわけではありませんが、それと同じぐらい魂を込めて指すという姿勢でこれから将棋と向き合っていきたい」

対する開発者の山本一成氏は対戦中ずっと正座を通したそうです。戦前はやや不本意な形でヒール役にされていたところもあったが、当日は真摯そのものでユーモラスな表現は時折あったものの、この勝負に対する真剣さが伝わってきた。

対戦ソフトを貸さないという宣言は空気を読むとなかなかできないとこだが、正しい選択だったと私は同意する。特にコンピュータ将棋に明確な穴があることがほぼ確定的であり、その穴をつくことが、プロであれば難しくない可能性があり、そうなった場合には将棋としての見るべき点がほぼなくなるとこは第一局で分かったので。

第三戦の船江プロは確かツツカナを貸与されているはずだが、ここまでの二戦とはなた異なる将棋を、コンピュータ将棋の新たな側面を盤上に映し出してくれることを確信している。

今、この記事を書いていたら、佐藤慎一プロのブログが更新されていた。内容的にはかなり重いが、私は佐藤慎一プロが必ずここから更に一回り大きくなってくれるであろうことを確信している。

佐藤慎一プロ、山本一成さん、そしてポナンザ、本当にお疲れ様でした。

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電王戦関連の記事第1戦から第5戦までのリンク】

プロ棋士は強いんです!人間圧勝!第二回電王戦、阿部光瑠四段vs習甦

佐藤慎一敗れる。第二回電王戦第二局▲ポナンザ対△佐藤慎一

【追記有】将棋の常識が変わる?詰まし屋一閃?! 第二回電王戦、第3局▲船江恒平五段vs△ツツカナ

【追々々記有り】引き分け:入玉に賭ける星 第2回電王戦第4局 ▲Puella α vs △塚田泰明九段
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