優しい味わいの「将棋棋士の名言100: 勝負師たちの覚悟・戦略・思考」

遅ればせながら、後藤元気氏の「将棋棋士の名言100: 勝負師たちの覚悟・戦略・思考」を読みました。

発売前にこのブログでも宣伝して、しつこく推していた(確か10冊ぐらいは売りましたよ!w)んですが、感想が遅れました(汗)。同じく推していた赦す人は割りと早く書いたのに大変失礼しました…。(誰に?w

Twitterでそろそろ書かなくちゃ…と呟いたところ、後藤元気さんの目にもとまったようで、お返事もいただけたのでちょっと紹介します。

自分が思っていた以上の広がりを、読んでくださった方が作ってくれた感じです。特に棋士の評判が良かったのが意外でした。でも声をかけてもらったときの反応がうまくできず、羽生さんや森内さんにも、あうあうあうすみませんとなってしまいました。
https://twitter.com/gotogen/status/285064595905851392



ちなみに渡辺竜王は「売れてるの? そう、ふふふ、そうなの」と笑ってました。
https://twitter.com/gotogen/status/285065719069151232



上記のコメントの味わいと同じような暖かくて柔らかい雰囲気が漂う本でした。後藤元気さんのブログや観戦記、ブログの方は当然普段着の書き方なので柔らかさを感じるのは当然かもしれませんが、観戦記にも微妙なユーモアというか、そういうものを感じる。

やはり奨励会員として修行していきた自身の経験が棋士への配慮につながっているというか、必ず一つの勝負には「勝ち」と「負け」が合わせてやってくるものなので、その両方に対する心遣い、のようなものが同じものを目指して戦っていた人間として備わっている、というような。

おもねらずに、日和らずに、深く踏み込むために必要なユーモア、というような印象。

今回、この「将棋棋士の名言100: 勝負師たちの覚悟・戦略・思考」を読んだきっかけは、後藤元気さんのブログの以下の記事だった。

名言は100個で、登場棋士は37人。そういえばしばらく前にネット中継の文記者に掲載する名言一覧を見せたところ、「半分くらいは知らない言葉です」といわれました。文記者は学生時代にマニアックな知識から将棋オ○クと呼ばれていたという噂。お世辞半分としても、結構いい感じではないでしょうか。

将棋棋士の名言100【名棋士特集で楽しむ】



(上記のごとげんさんのブログには紹介記事が幾つかあるのでそれも読んでみてください。書籍の内容のサンプルページも紹介されていて、その面白さがわかります)。

で、全部読んだ感想なんですが。まず「はじめに」の2ページ分の文章がやはりごとげん節というか凄くいいんです。一文だけ印象するとこんな具合。

私はこの螺旋から脱落した落ちこぼれである。それでも棋士になった多くの人達と(なれなかった人たちとも)盤をはさみ、奪い合い、酒を酌み交わしたりもした。だから盤上で行われることもいくらかは理解できるし、番外での大言壮語や泣き言にも気構えることなく寄り添える。



多分なんですがこの「番外での大言壮語や泣き言にも気構えることなく寄り添える」という点において、やはりこの本は後藤元気さんに書かれるべきだったんだろうなと。出版関係者から、出版の誘い?を受けた時に、まず将棋界のためになる本か?を考え、そして誰が相応しいかを考えてその人を紹介する、という後藤元気さん。

このプロセスにも驚いたんですが、自分でやれば金になるけど、その価値を最大化するために適切な人間を推す、という手順は羽生善治が羽生の頭脳を書いて、技術を企業秘密として特許化するのではなく、オープンソースソフトウェアとして広く頒布したのと同じ考え方のようにも思う。

そういう人がなぜ自身で書いたのか?についてはぼちぼち舞台裏がごとげんさんのブログにて紹介されるっぽいのでそれを楽しみに待ちたいところです。

紹介されている名言の中で、どのぐらい知っているか?でその人の将棋マニアっぷりがわかると思いますが、私は二・三割ぐらいだろうか。三割欠けるぐらいだと思う。なのでネット上の情報を遍く網羅したつもりの猛者であってもどうか安心して手にとって貰いたい。

ネットどっぷりな人は(私もそうだが)大抵のものはネットで手に入ると思いがちだが、やはりまだそこにはないものが、オフラインな世界には当然あるわけで、そして多分後藤元気さんはそのへんも考慮したうえで、過去の文献などから掘り起こしているのだろう。

後藤元気さんの観戦記で織り交ぜられる対戦棋士のエピソードがとてもよくて私はすきなのですが、そういう具合に、この書籍でも、棋士の名言にあわせて、後藤さんの補足・解説が入る。ここで注意してもらいたいのは、注釈や棋士紹介ページ、名言の下にある棋士紹介、そして章と章の間にある用語解説。これらの全てをちゃんと読んでほしいということ。

ここは(私を代表とする)ネット将棋オタクには言っておきたいところです。なぜなら、そういう細部にもしっかりと豆知識的なエピソードや、後藤元気さんらしいクスグリがこめられているからです。

私が結構ツボだったのは用語解説です。将棋指すし観るし知ってるしー。と思って危うく読み飛ばすところだったんですが、この本、将棋の局面図がひとつも出てこないことからも分かるように、ディープな将棋ファンやそれこそ将棋棋士から、将棋を知らない人にも読んでもらえるような作りになっているわけです。

そうするとどういうことが起きるかというと、矢倉ってなんですか、四間飛車ってなんですか、捌きのアーティストっていうか、捌きってなんですか、ということが起きるということです。これらに対する解説が面白いです。

例えば、ひとつだけ紹介するとこんな感じ。

棒銀:銀を足早に繰り出していく、攻撃力抜群の戦法。駒組みが明快なので、初級者でも使いやすい(P20)



捌きという用語の解説も私はお気に入りなんですが、なんとも味わい深いと思いませんか?改めて棒銀ってなに?って聞かれたら、およよ…となってしまいそうですが、多分後藤さんもなったんじゃないかなと思いますが、こうやってひとつひとつ、専門的なところをほぐしていったんでしょう。

ぱっとみの文章量は少なくみえて、最初の印象はいい意味で余白がある本だなと。白と黒で装丁を選択されたらしいのですが、そして白にこだわりを持っていたとのことですが、その意図が本文内にもこめられているように思いました。

で、読んでみるとその最小構成に見えたものがとても滋養のある温かみのある、とても心に優しい味わいがある。私は寿司とか刺身とか魚料理が好きなのですが、板前さんや職人さんの「しごと」っていうのはそういう細かいところに出るわけですよね。

魚切って出す、ようはそれだけなんですが、職人の腕によって全くつくりが変わってくる。それこそ藤井猛がいうところの「ファミレスの鰻とうなぎ屋の鰻」みたいなもんですよね。

そういう隅々までに配慮されたしごとがなぜ必要になるか、といえば選んだ棋士の名言が、棋士本人の一流を受け継いだ、その一流のエッセンスが凝縮されたもの、だからです。

名言集っていやらしくまとめようと思えばまとめられると思うんです。ネット上にもありますよね。名言ボットみたいなのもある。(あ、名言ボットを悪くいうつもりはないです。それぞれに役割があるのでどっちもあり)。

ただ、上記に書いたような後藤元気さんが、自身の存在意義というか自身のしごととして今回引き受けた必然性みたいなものを出すためにはこの細かいところまで気を配ったしごとは絶対だったんだろうなと。

一流の将棋棋士たちの、サムライたちの言葉、という良い素材を活かす素晴らしいしごとだったと私は思いました。大変美味しゅうございました(笑)。

で、どんな名言があるの?というところには一切触れません。その紹介した名言をもし知らない人がいたら、初めて目に触れるという感動を奪いたくないからです。それがこの本に対する礼儀かなと思いました。

旨い店は行きつけにする、のが定跡です。後藤元気さんの次の一品が期待されるところですが、まずはこの本を寝床本として味わい続けたいと思います。


注釈:【寝床本】…寝る前に枕元に置いておく本。繰り返し読んでも飽きが来ない、何度読んでも新しい発見がある、どこからでも読めるし、区切りがよい、そういう本。心地良い眠りにつくための儀式としての読書、に適した本。





将棋棋士の名言100: 勝負師たちの覚悟・戦略・思考将棋棋士の名言100: 勝負師たちの覚悟・戦略・思考
(2012/11/22)
後藤 元気

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「将棋観戦記」というブログで、プロ棋士の将棋を観戦して思ったことを記しています。棋力はありませんが、将棋観戦の楽しさを一人でも多くの人に知ってもらい、「観る将棋ファン」を増やすために貢献できればと思います。主に順位戦速報・タイトル戦等、ネット中継されている将棋を中心に将棋観戦記を書いています。棋譜・符号はなるべく用いずに、将棋のルールが分からない人でも、将棋の勝負の面白みが伝わるように努力します。

基本的にはリアルタイムでの将棋観戦中に思ったことを書き溜めつつ、対局終了後の感想を付け加えて、将棋対局のあった翌日の朝7時頃にアップされるように将棋観戦記を予約投稿しています。「一日一観戦記」をモットーにしているので、同日にネット中継が重なった場合は、対局の重要度を個人的に評価して観戦記の投稿日を調整しています。

将棋観戦中に書き始め、対局が終了すると思われるところから観戦記を完成させていることが多いです。文章内の形勢判断は個人的主観によるもので、観戦中の控え室のプロの意見を取り入れず、将棋ソフトの解析を行なっていないため、形勢判断が正しくない可能性があります。

また、あまり推敲することなく投稿しているので、観戦記内に誤字脱字、情報の誤りがある場合があります。お気づきの場合はコメント欄にてご指摘いただけると助かります。早急に訂正させていただきます。

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