世代交代の兆しか? 2009年10月30日(金)B級1組 8回戦

昨日のB1をみていて思ったのだが、遂に世代交代が始まったのではないだろうか?

ゆっくりとだが確実に世代交代が始まっていることを先日の竜王戦、そして昨日のB1をみて思った。
羽生世代は老いとの戦いというか、成長した若手との戦いが激化するだろう。

羽生世代がかつて大山が見せた二枚越しのような数回の全盛期を経るのか、或いは中原・谷川のように一定の存在感は示しつつも緩やかにタイトルへの登場回数を減らしていくのかには注目したい。恐らくは後者と思うが、羽生だけは前者のような気もする。

さてB1の昨日の結果。

最も早く終わったのは△鈴木(5-2)?▲畠山鎮(2-4)だった。

戦型は後手鈴木のゴキゲンに対して、畠山の▲3七銀急戦。畠山の鋭い攻めの棋風と、力将棋での強さを考えると確かに向いている戦型かもしれない。

囲いが仕上がる前に戦いが始まり、お互いに馬を作りあう乱戦模様だったが、後手の馬が出来る1手前、先手の歩損解消時点では先手が指しやすいのではないか。

そこからの後手鈴木の指し手は辛抱の連続。右に囲った玉を左に囲いなおそうとし、飛車を端から8筋に展開し、兎に角相手の攻めが来るのを待つ。厳密には悪いだろうが、この程度であれば逆転可能であると考え、必死に機会を伺ういつもの展開だ。

この棋風だとA級では通用しないがB1までは意外に有効で、今期も怪しく怪しく迫った阿部隆戦がそれにあたる。

しかし畠山は妖しい展開にも騙されずに局面をシンプルにシンプルに決めていき、最後も分かりやすい場面で鈴木の投了となった。これで鈴木3敗目。強敵との対局をあとに控えているので昇級は苦しくなった。畠山はいかにもB1クラスらしい力強さで大きな3勝目を挙げた。


△行方(3-3)?▲堀口一(2-5)
羽生世代とそれより一回り下の世代に挟まれた割を食う世代同士の戦い。行方の中座飛車に研究家の堀口は超早指しでテーマ局面まで進める。いつものことながら、個性が出ていて面白い。

ただ、専門誌での谷川の発言(あともう一人羽生世代の誰かの発言)で、「定跡通りの何気ない局面でも少しづつ時間を使ってくるタイプが怖い」というような話もあったが、その裏側にいる棋士は堀口のような極端なタイプではなく中庸な時間の使い方をする棋士のことなのか、それとも堀口を含むのか?というのは気になったのを思い出した。

テーマ局面での消費時間は堀口が18分、行方が3時間6分という大差。しかしそこから堀口の長考が始まり1手で時間逆転するのだから本当に面白い棋士だと思う。そのポリシーに殉ずる姿は美しくもある。

そして長考の末に指した手のコメント欄に感想戦の言葉として「別の手がまさった」というのだからずっこけてしまったわけだが、将棋の難しさを示しているともいえよう。

その後、一直線の手順を堀口が選択し、手数も短く行方の完勝となった。感想戦の言葉として、行方が長考して指した手がよく、困ったという堀口。長考の理由は指定局面ではなく、想定外の局面だったからということらしい。

飛車の横利きを通して攻め味のある6八玉型における中座対策の有力な形の一つだったはずだが、行方の研究が一歩先を行っていたようだ。中座飛車は未だに研究将棋発表会的な部分が大きく、プロ将棋では必然的に残っていくのだろうことを理解させられた一局だった。行方は4?3と勝ち越し、堀口は2?6と苦しくなった。


△深浦(4-2)?▲屋敷(2-5)
昇級候補の深浦は同年代の屋敷と対局。対戦成績は圧倒的に屋敷が良いが、直近の対局は深浦ブレイク前の2004年ということで深浦が勝つと見ていたファンも多かったと思うが・・・。

矢倉の最新定跡形から屋敷が先攻する。面白いのは屋敷のB面攻撃を先に入れたところだろう。B面攻撃と思わせて突っかけた後に王様方面への波状攻撃。この構想が上手かったようだ。

相手の攻め駒を責めるわけではなく、後の燃料(歩)補給の味をつけて、後手の攻め駒の性能を落とし、飛車の横利きも消えて守りも弱くなったところで、一気に攻め立てるという構想だ。

先日の渡辺-森内の竜王戦第二局の7五歩から一転して端を攻め立てた思想と似ており、ただし本局の攻めは飛車角銀桂香の全軍躍動した攻めだったので、流石に粘りの深浦も粘る隙すら無かった。

久しぶりに先手矢倉の完勝譜をみたような気がする。本局の展開を考えると矢倉は先手が面白く、後手番はまたもや矢倉以外の戦型へ持ち込むことを考えなければいけなくなるだろう。今後のタイトル戦での出現に注目したい戦型となった。

深浦、痛い3敗目。屋敷は残留に向けて3?5となり、まずは指しわけを目指したいところ。深浦相手にこれだけ圧勝できるのだから、地力はあるだろうし1度はA級に上がって欲しい棋士である。



阿部隆(1-6)?▲豊川(1-5)
アマチュア的には正直あまり見る気のしない対局だ。昇級戦線に絡まない、居飛車党同士の対局で、戦型は恐らく矢倉か相掛かりか・・・と思っていたら、阿部が時折見せるゴキゲンとなった。対する豊川が対振り飛車右玉だったので、俄然盛り上がってきた。

私は糸谷が好きなのだが、その理由も対振り飛車右玉にある。あの右玉講座は大変文章も面白く、いかにも哲学を学びそうな青年だなあと今振り返っても思う。

マイコミに出版が移ったわけで、私ならば企画をすぐに書籍化すると思うのだが、これをみた棋界関係者の方は是非企画を持ち込んでください。完全な定跡はないでしょうから、簡単な手順・組上げ方などを大介本のようにあっさり紹介しつつ、プロの右玉棋譜の解説ぐらいでも相当売れると思う。

少なくとも細川アマの右玉本よりは魅力があります(あれも勿論面白かったが)。

さて、話はそれたが、右玉。時折山なども指すが、プロが指す対振り飛車右玉は大変面白い。個人的には対振り飛車には右玉を用いることが多いので勉強になる。本局もこの戦型における双方の思想のあり方を学ばせていただいた。

最終終盤は、手に汗握るものがあった。この棋譜はどこかで見る機会があれば是非見て欲しい。対振り飛車右玉によくある、攻められまくり、丸裸になる玉が意外に寄らない。そして、待望の反撃のターンが右玉側にやってくる。持ち駒は豊富だ。だが寄るのだろうか?控え室でも詰み筋は見えていないという。

しかし「対局者が一番読んでいる」の格言?通り、豊川は寄せの順に飛び込み、見事長手数の詰みに討ち取った。本譜は豊川にとって今期順位戦で1番の快勝譜だと個人的には思った。豊川は残留にむけて大きな2勝目。

阿部は1勝と奮わないが、完ぺき主義と思われ、鈴木戦での負けぐらいから精神的に何か尾を引いている気がしなくもない。感想戦も大人しくせずに従来どおり振舞って欲しいのだが・・・。



▲松尾(5-1)?△杉本(2-4)
初参加で二番手につける松尾。堅実な性格と深い研究、精密な読みによる丁寧な指し口と乱れない終盤・・・ということで、いつタイトル戦に出てもおかしくないし、A級でも活躍が期待される。素人目には将棋のバランスがとてもよいと思う。

対する杉本は重く鈍いが相手を叩き潰すような勝ち方をする振り飛車党の新御三家の一人。藤井が転向した今、振り飛車御三家は東京の鈴木、名古屋の杉本、大阪の久保になったので、勝手に新御三家と呼ばせてもらおう。

この対局も両者のらしさがにじみ出た戦いとなった。後手の杉本はゴキゲン。先手の松尾が穴熊にするか?に注目したが、残念ながら二枚銀だった。研究家としても知られ、対振り飛車のイビアナにおいては、松尾流を編み出した松尾が二枚銀だったということは何かを示していると私は考える。

二枚銀というのは、アマチュアには指しこなせないが、終盤が強く、研究が深いプロで順位戦のように持ち時間が長い将棋であれば、十分に有効な戦型なのだろう。

本譜は押さえ込みを受ける前に杉本が勢い良く局面を打開し、戦いが始まる。いかにも危なそうな・生きて帰ることのなさそうな端角と銀桂交換だが、かれこれの玉の堅さと先手が歩切れということをみて杉本は踏み切ったのだろう。

それに対する松尾の手がこれぞプロ、これぞ松尾流というものだった。ここでは詳細は書かないが、珍形なのに一目良さそうという、是非専門誌で取り上げていただきたい手だった。本局はここからまだ長く続くのだが、この将棋におけるMVPは?と聞かれればこの手を私は推薦したい。

この銀打ちを境に、後手が必死に捌こうとするが、先手の応手が精確を極め、徐々に形勢が先手に傾き始める。そして素人目には、先手勝ちだろうと思われた局面から杉本が持ち前の怪力を発揮し始める。

松尾は正確に攻めを続けるが、歩を加えて漸く四枚という攻め。後手陣は丸裸一歩手前まで追い込まれるが、その豊富な持ち駒で崩壊した城を杉本は再構築していく。

このやりとりをみて、私はハウルの動く城を思い出してしまった。火の悪魔カルシファーが壊れたハウルの城を小さくいびつながらも再構築する姿・・・。

そして遂に、杉本城の再構築が完了する。松尾の攻めの手は止まってしまった。ここからどうするのだろう?まだ持ち駒は変わらず歩をいれれば四枚、3.5枚の攻めだ。攻めは続く・・・と思った瞬間、画面に現れたのは意表の一手だった。

杉本の攻め駒を責め、飛車交換を強要し、攻め駒の強化を図ったのだ。攻守交替、今度は杉本の攻めのターンだ。杉本は攻めるならこれしかない、という手順に飛び込む。控え室はそれでも松尾が残していると評じた局面が出現するが、それが意外にも先手玉が危ない状況へと続いていた。

先手玉は、後手玉が丸裸にされたのとは違い、城は残っていたが、王様のいる裏手から杉本の攻めが来たために、王様が裸単騎で戦場へと逃げ出す。

しかし遂に、そこで杉本の攻撃隊は攻撃力を失ってしまう。仕方なしに香車を取った手に最後の毒饅頭が仕込まれていたが、松尾はそれを食わずに最後の望みも絶つように1歩を補充し、漸く趨勢が決した。

もし松尾が一歩取らずに、もう大丈夫とばかりに攻めに転じていれば、歩切れのために杉本が死んだフリして拾った香車への受けが難しく、逆転まであったはず。それをしっかり見抜いた松尾の堅実性が光った。

松尾の精確性と、杉本の鈍重な粘り腰。本局はB級1組 8回戦におけるベストマッチだったと思う。松尾は1敗を守り二番手をキープ。杉本は2?5と苦しい星勘定になった。



**********************************

本日の結果は以下の通り。(名前左=先手、☆=大阪)

畠山 鎮七段(3勝4敗)○?●鈴木 大介八段(5勝3敗)…22時8分☆
堀口 一史座七段(2勝6敗)●?○行方 尚史八段(4勝3敗)…22時59分
屋敷 伸之九段(3勝5敗)○?●深浦 康市王位(4勝3敗)…23時28分
松尾 歩七段(6勝1敗)○?●杉本 昌隆七段(2勝5敗)…0時34分
豊川 孝弘七段(2勝5敗)○?●阿部 隆八段(1勝7敗)…1時0分☆

※山崎隆之七段(4勝3敗)は抜け番。
※△久保利明棋王(6勝0敗)?▲渡辺明竜王(5勝2敗)戦は渡辺竜王が竜王戦第2局のため、11月5日(木)に延期。

[B級1組成績一覧] ( )内は順位

【6勝0敗】久保(5)
【6勝1敗】松尾(12)
【5勝2敗】渡辺(4)
【5勝3敗】鈴木(1)
【4勝3敗】深浦(2)、行方(6)、山崎(10)
【3勝4敗】畠山鎮(8)
【3勝5敗】屋敷(11)
【2勝5敗】杉本(3)、豊川(13)
【2勝6敗】堀口一(9)
【1勝7敗】阿部隆(7)

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基本的にはリアルタイムでの将棋観戦中に思ったことを書き溜めつつ、対局終了後の感想を付け加えて、将棋対局のあった翌日の朝7時頃にアップされるように将棋観戦記を予約投稿しています。「一日一観戦記」をモットーにしているので、同日にネット中継が重なった場合は、対局の重要度を個人的に評価して観戦記の投稿日を調整しています。

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