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藤井聡太、最年少タイトル獲得記録更新。(第91期棋聖戦)



ちょっと強すぎますね、やはり。

時の第一人者を相手に正々堂々と戦い、力負けせずにねじりあいに打ち勝ち、そのまま勝利した、そういう将棋でした。勝ち方が強い。

既に色々報道されているので、簡単に振り返ります。
先手は渡辺明棋聖。とりあえず好きな作戦を選択できます。戦前の戦型予想は角換わりが多かったように思います。私もそうでした。

しかし、渡辺明棋聖が選択したのは矢倉。しかも急戦矢倉、第二局で出現した局面の修正案を提示しました。具体的には端歩の交換と三筋の突き捨てを入れる、というものでした。

挑戦者の藤井聡太さんは時間の使い方を見る限り、そこまで研究していたようにも見えず、時間の消費としても渡辺明棋聖よりも多く、前局の展開を思わせるような序盤から中盤でした。ひとまず先手の言い分が通ったように見えたのですが、双方使える駒が少なく、難しい手が続きます。

本局の鑑賞ポイントは「桂馬の働き」だと思います。決めに行く桂馬ではなく、しかし着実にポイントを稼ぐために桂馬を使う手が多く出現しました。

個人的にびっくりしたのは59手目。やってこいと催促した手です。

これは普通、怖くてさせない類の手にみえます。他に有効手があったかもしれない局面と結果論的には言えるかもしれません。金取りだったはずがその金に逃げられただけでなく、先手の攻めの土台だったはずの桂馬をタダ取りされたからです。打った歩を進めて取らせつつ、逃げた金で相手の攻めごまを責めてからの左右挟撃の攻め。

羽生さんの将棋もそうですが、盤面を広く見た、左右に目を散らす見事な手順でした。

先手玉は見た目以上に狭く、先手の飛車取りに構わず後手も飛車取りに銀を打ちます。取り合えば一手詰めになる先手は飛車を逃げるしかないですが、後手からの詰めろ・一手スキが外れなくなっていました。



本局の進行を第一感で当てられる人はほとんど居ないと思います。筋の良いプロ棋士でもこの手順が一目、という人はほぼいないというか、筋がよければよいほど浮かばない手順ばかりが続きました。

先手に桂馬交換から桂馬を打たれた局面は普通に先手が指しやすくみえるのですが、そこからの後手の手が全て独特で、歩と桂馬しか使わずに省エネな指し手が52手目から62手目まで続きます。ようやく違う手を指した64手目もとられそうな金を逃げただけ。そこからその金を運用してからまた歩と桂馬だけ。

先手の攻めが伸びきった瞬間に飛車の取り合いをせまる銀打ち、先手がそれを拒否してから後手も飛車を逃げ、そのあともやはり桂馬と歩しか動かしていません。この将棋、後手の左側の金銀角が全く働かない将棋で、そういう場合は普通は先手が良いはずなのですが、本来は守りの駒であるはずの右金が敵前線に繰り出しプレッシャーをかけ、そのほかの手段は全て桂馬と歩で繰り出されています。

この辺が藤井聡太将棋の本質ともいえるところで、恐ろしく小駒の活用がうまいです。このうまさはおそらく詰将棋解答能力というよりも、詰将棋創作能力に由来するもののように思われます。

他の人たちよりも、歩・桂馬・角の使い方が上手い、言い方を変えるとこれらの駒の性能が他の棋士よりも良い、という印象を受けます。

将棋AI、ソフトの発展により、従来の常識が少しずつ変わりつつありますが、個人的な印象としては、歩の価値が以前よりも少しだけ、ほんの少しだけ上がっていて、逆に桂馬の価値がすこーし下がっている(両者の価値が近づいている)ように思います。また、角と飛車では飛車のほうが価値が高いままだとは思うのですが、角の価値が少し上がっている。穴熊全盛時代では角と金の交換は場合によっては金のほうが価値が高い…というのが、ボナンザなどのソフトが隆盛を誇っていた時代にはありましたが、穴熊の優秀性が否定されつつある現時点では、そこはまた少し変わり、「角筋受けにくし」の有効性が多く示される作戦・局面が増えている印象です。

全部アマの私の印象論なのですがそんな感じです。

今一度、この将棋を並べなおしてもらうと、後手が動かしている駒の少なさに驚くと思います。私は藤井聡太新棋聖の棋風を「ボラティリティを抑える棋風」と呼んでいるんですが、まさにそれを思わせる指し回しだったと思います。

相手の攻めをググっと受け止め、相手の銃撃に手のひらをかざすだけでその勢いをなくしてしまい、藤井聡太の手のひらの手前で銃弾がパラパラと地面に落ちてしまう…そういうイメージの将棋です。

この最年少タイトル獲得の記録はもう破られることはないと思います。そしておそらくは二冠王、年内には三冠王になっているような気がします。

谷川浩司九段が20代の棋士の奮起を促したようですが、ちょっとどうにもならないレベルで強いと思います。何度も書きますが、人類が藤井聡太新棋聖に番勝負で勝つのは無理だと思います。。

Tag : 藤井聡太 渡辺明

渡辺明三冠、王者の風格で勝利(第91期棋聖戦第3局)

いやーすごかったですね。

徳俵って知ってますか?相撲の土俵でちょっとだけ外側に出っ張ってる部分があるんですけど、いいことあるといいな、みたいな意味で得じゃなくて徳俵と呼びます。

強い力士はそもそも押されて押し出されそうにならないのでこの徳俵を使うことはないんですが、ごくまれにここに足指をひっかけたギリギリの状態で勝ち切る、そういう相撲があります。ごくまれにですが。

渡辺明三冠って子供のころからずっと天才といわれてたわけで、本人も頭がいいし気が回りすぎるからその視線や勝手な期待や純粋な好奇心とか、色々面倒くさいなーと思いながらもうまくそれらをかわして、しかし結局はそれを上回る・期待通りの実績を残してきたんですよね。


お昼休み時点で、これは先手が受け止めきれるのでは?と私は思っていたわけですが、全然違いましたね。感想戦前のインタビュー聞いてたまげましたが、渡辺明三冠は「まあ、さすがに昼食休憩ぐらいまでは想定してて」みたいな感じ(具体的には飛車を打つところぐらいまでは考えたことがあった)だったのに対して、藤井聡太七段はその手が想定してなかった模様。

渡辺明三冠は珍しく深夜にすぐ更新したブログで「研究が当たっただけ」と謙遜?してましたが、それは偽らざる気持ちとは思いますが、それにしてもカド番の後手番で相手の大得意の角換わり腰掛け銀を受けるとは思ってましたがこんな恐ろしい展開の作戦を用意しますかね…。おそるべき胆力、さすが3連敗4連勝を実現した男、さすがは三冠王、という感じでした。

すごく古い話になりますが王貞治という大打者の得意のコースがインコース高めで、そこらへんに投げると大体ホームランになっちゃうんだけど、王さんの弱点はそのちょっとだけ上にあってそこに投げないと打ち取れないんだ、みたいな話を思い出しました。どの投手が言ってたのか忘れましたけど。そういう印象を与える作戦選択だったと思います。

ここ最近の藤井聡太七段の勝ち方はちょっと神がかっているというか中盤の長考で全てを読み切ったような雰囲気すらありましたが、本譜の長考は難しさを感じたがゆえのものだったみたいですね。



研究していた想定局面に誘い込み、相手の時間が削られていて渡辺明三冠は2時間残してて藤井聡太七段は20分以下、みたいな時は流石にこれは渡辺明三冠が勝ったかな?と思ったんですがそこからも慎重に慎重に渡辺明三冠が進めていき、結局終局時の持ち時間は13分?とかだったのでこれをみても単なる若者挑戦者とはわけが違うんだろうな、と思いました。

今まで渡辺明三冠は年下にタイトル戦で負けたことはなく、追い込まれたケースも将棋の内容まで含めていえばなかったように思います。しかもこれだけタイトル戦に登場していながらストレート負けの経験がないという。羽生さんですらあるのに。

本局の勝敗予想をツイッターで聞いてみたところ、願望もありつつとは思いますが8割近くの人が挑戦者ノリでした。確かに先手番の角換わり腰掛け銀の勝率が高すぎるし、ここまでの将棋の内容からそう思われても仕方なかったと思いますが、本局の渡辺明三冠は滅茶苦茶強かったですね。

雰囲気的には羽生さん相手に3連敗4連勝した時の雰囲気がちょっと出てきた気すらします。次は渡辺明三冠の先手番。ふつうに振り駒勝負までありそうな。

「勝った時の渡辺明三冠のブログ更新は遅い」定跡があるんですが(あるんかい)、昨日の更新が早かったのはホッとしたところがあったのか、日程が詰まってるから早めにこなしておこうと思ったのか、果たしてちょっと一杯飲んだのか…は気になる所ですw

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Tag : 藤井聡太 渡辺明

藤井聡太、タイトル獲得なるか?戦型は角換わり腰掛け銀に(第91期棋聖戦第3局

戦前、以下のようにつぶやきました。


渡辺明三冠の作戦は角換わり腰掛け銀を受けて立つ方針。さすが王者ですね。そして想定局面もすごい作戦をもってきました。

前例が十数局あり、ほぼ互角という後手の待機策で、先手が駒損で激しく攻める展開になります。直近の前例は竜王戦の佐々木勇気vs松尾戦で、先手が攻めたものの終盤で千日手になっています。

藤井聡太七段も当然研究範囲だったようで、激しい手順にも関わらず終盤までスラスラと進みました。

昼食休憩時点では後手に攻めのターンが回ってますが、先手をもって余せる可能性が高く見えます。後手の持ち駒が角しかなく、根本の桂馬もとられる寸前で、拾えるはずの金も逃げられるリスクがあるからです。

こういうちょっと無理そうな攻め、の面倒をみるのは藤井聡太七段の得意パターンと思うので奪取の可能性が少しあがったように思います。あとは時間差ですね。時間がなくなった状態で難しい局面が保持されていれば後手のほうがわかりやすくなるかもしれません。

本局の作戦については、以下の角換わりの本にも載っているようです。



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藤井聡太七段、強すぎ問題(第91期 棋聖戦第二局▲渡辺明三冠vs)

例によって個人的な感想です。異論反論はご自身のSNS等で是非よろしくお願いしますw

藤井聡太七段、強すぎて震える…というか畏怖、本当にその言葉以外見つからない感じです。。



上記のアンケートちゃんと表示されてるのかな?プレビュー画面ではちゃんとみれてないんですが、400票以上の投票で95%の人が今期末までにタイトルを獲得している、と予想していますね。私も同意見です。

というか、番勝負になったときに、この藤井聡太七段相手に勝ち越せる人がいるんだろうか?と素朴に思ってしまうぐらいに強い。後手番ですべて84歩と2手目に指しているのにこの勝ちっぷり。ふつうは先手番の得を生かして後手はかなり苦戦するものなのですが…。


対局後の渡辺明三冠の感想はこちらから。


いつものようにかなり正直に感想をかかれている印象です。

本局は渡辺明三冠が先手番ということでそれなりに気合が入っていたのではないでしょうか。作戦は急戦矢倉。途中まで同一局面があったということで、お互い研究範囲だったようです。

しかし42手目の金を四段目に出る手が藤井聡太七段の研究手。最近の対局では相手より中盤まで時間を使っていることが多い藤井聡太七段ですが、本局はここまで相手より時間を残して戦っていました。

この手はプロ棋士の第一感の手ではないはずです。一目で見える類の手ではないので、おそらくソフトを活用した研究手なのではないでしょうか。

少し話は逸れますが、羽生さんには藤井システムのような羽生流と呼ばれる独自の作戦があまりないと言われています。常に自然に指す、新しく出てきた作戦を本人以上に使いこなす、それで恐ろしいまでに高勝率を維持してきたのがいままでの羽生さんです。

藤井聡太七段の最近の指し回しをみていて思うのは、若手にありがちな勢いのある、多少無理気味な攻めというのが一切ないということです。流行の課題局面についてはそれぞれに自分自身の結論を用意し、少し良いくらいでもそれを一気に拡大するのではなく、じりじりと良くしていく。

ソフトの活用は間違いなくあると思いますが、各種の作戦、初見では食らうこともあるかもしれませんが、前例のある形では少なくとも互角以上の用意があるように見えます。圧倒的な詰将棋の力、特に長手数の詰みを読み切る力があるからこそ、焦って殴り合いになるリスクを冒す必要がないということでしょうか。

よくプロ棋士が「ソフトの示す最善手というのは、ソフトだから勝ち切れる危ない順を含むものなので人間にとって、自分にとって勝ちやすい手ではない場合がある」ということを言っています。

これはその通りで、精密機械であれば、幅30センチの木の板の上を絶対に間違うことなく進むことが出来るかもしれませんが、人間の場合、それが地面だと可能なのに地上100mの高さだと無理、みたいな心理面の影響もありますし、車なら時速60㎞で100㎞でも走ることが出来るわけですが、人間の能力的にそれは無理…というような、スペック的な難しさもあります。

藤井聡太七段の本局の指し回しでいうと、42手目の四段目の金上がりは玉が薄くなりすぎますし、次の44手目飛車回りは玉飛接近形で一目危ない。流れ弾に当たりやすくなっているものの、この局面をソフトに解析させれば後手に評価値がわずかに振れているようです。

ただこの形を選択するということは、人間がこれまでの歴史で蓄積してきた「一目こういう手」という羅針盤みたいなものがほぼ使えない状態で勝ち切る必要があるということです。

上記の渡辺明三冠のブログでも触れられてますが、46手目に50分、48手目に58分、50手目に29分と時間を使っているのはその辺が影響しているのかもしれません。藤井聡太七段の大局観はもちろん素晴らしいわけですが、方位磁石が使えない磁場が狂った状況での指し手を圧倒的な読みの力で乗り切った感じです。

アベマトーナメントで藤井聡太七段が広瀬さんに二連敗したことからわかる通り、第一感の手だけで指す場合はトッププロ同士であればそれなりに対戦成績は五分に近いものになっておかしくないなかで、藤井聡太七段はどの序盤であっても網羅的に互角程度以上の指し手を用意し、そこから先は持ち時間と相談でその場でひたすら考えて形勢を損ねないように指していく。

ある程度形勢に差がついても相手に余裕を与えず選択肢を狭めていくのがすごいですね。相手の攻め駒、強い駒を無力化しつつ、相手が使いにくい歩・桂馬や角を軸に攻めを継続する…。

表現が正しいかわかりませんが、人間がソフトと対局するとこういう風になるのではないか?という気がします。ソフトに割と軽い攻めを仕掛けると形にとらわれず、完璧に受け止められる…という印象があるのですが、藤井聡太七段の中盤が急ぎすぎないのはその辺を研究の中で知っているからかもしれません。

準備した局面の評価値は自分に多少プラス、中盤で一気に決めに行く手は超ハイレベルの将棋には存在しない、という二点を念頭に置きつつ、中盤は見える候補手全てひたすら先まで読み、一番激しくならず自分の評価値を下げない展開を選んでいる、そういう風に見えます(と書くのは簡単ですが実行することは容易ではないんですが。。

藤井聡太七段の指し手って、中盤の入り口ぐらいまではプロの第一感の手が出るんですが中盤以降、プロの予想が全然当たらない手が頻出する印象です。ひたすら読んでいる、第一感の手、見た目で良い手から掘り下げてない印象があります。

昔、谷川浩司九段の光速の寄せが棋界を席捲していたころは、終盤の体系化と高速化が図られたわけですが、藤井聡太七段が今示しているのは「中盤探索を深化」させる必要性なのかもしれません。

たとえば現局面が+100点であれば、そこから評価値を100点以上下げない局面をひたすらに読みまくる…というような。ふつうの人よりも候補手で2,3手多目に、深さでもやはり2,3手深めに読めている感じがします。。。

以前の藤井聡太七段であれば、時間の使い方として、困った時に長考している印象がありましたが、コロナによる非常事態宣言解除後の指し回しをみていると序盤の分かれがそこそこ以上で、それを維持拡大するために時間を惜しみなく投入し、しかし最終盤のためには10分程度は残す、というタイムマネジメント力の向上が見られます。

実戦将棋で藤井聡太に5分以上考えさせてもわからない詰将棋というのはおそらく出現しないでしょうから、その詰将棋解答能力ゆえのタイムマネジメント。これも普通の人では真似ができません。中盤までは相手よりも大きく時間を使っているのに、その差が徐々に縮まり、対局終了時点では逆転しているか、ほぼ同じ状態、しかも藤井聡太七段の持ち時間はまだ数分余っている…というのがここ最近の定番となっています。

後手84歩で相手の作戦を真っ向から受けるタイプにこれだけ勝たれるとどういう作戦を用意すればいいのか?が本当にわからない感じですよね。。。個人的には、例の飯島流の飛車を引く横歩取りを一度みてみたいです。藤井聡太七段のあれへの対策がどの程度充実しているのか?をみてみたい。

次は渡辺明三冠の後手番です。非常に戦型選択が難しくなりました。ボールカウントがいい状態であれば雁木なども投入出来たと思いますが…。角換わり腰掛け銀の後手番の秘策は名人戦にキープしておきたい気もします。。かといって、横歩取りは対策がばっちりのときに狙い撃ちされるリスクもあります。

ここまでは藤井聡太七段の良い所が目立っていますが、常に下馬評を覆し、子供のころから高い期待をうまくやり過ごしながら実績を残してきた渡辺明三冠のここからの反撃をみてみたい気がします。渡辺明三冠が藤井聡太七段を追い込むだけ追い込んだ時に成長した藤井聡太七段の本当の姿が見れるのではないでしょうか。

Tag : 渡辺明 藤井聡太

ボラティリティを抑える棋風?藤井聡太七段、まず一勝(第91期棋聖戦)

いやーすごい戦いでした。現時点で一番の実績と実力を兼ね備えた渡辺明三冠とのタイトル戦、初戦で見事に勝利しました。

以下、例によって個人的な感想です。苦情議論は受け付けませんw

渡辺明三冠にとっては少し可哀想というか、挑戦者のほうがプレッシャーを感じにくい環境だったことは否めません(それを言い訳にする人ではないものの、客観的にみて藤井聡太七段にとってはあまりにいつも通りで一方の三冠はこれからの日程含め、第一人者としての立ち居振る舞いも意識しつつ、和服で部屋は暑そう…ということで大変だったと思います)。それらがどの程度勝敗に関係していたか?はわかりませんが。。

振り駒の結果、先手は藤井聡太七段に。渡辺明三冠としては相手の成長度合いも見れるし、どっちでも良かったのではないでしょうか。目先の一勝に一喜一憂するというよりはタイトル戦をトータルで考える合理主義者なので。

角換わりかな・?と思ったら、意表の矢倉。脇システムになりました。デビュー戦の加藤一二三九段との対戦でも矢倉の大家に…というコメントを残してましたので、似たような意味合いもあったのかもしれません。

若い棋士は普通は初戦は得意のエース戦法を投入するものですが、このコロナ自粛期間中の勉強で矢倉についても十分エース級に育て上げた可能性はありますね。

渡辺明三冠は典型的な先行逃げ切り型のタイプなので後手番では絶対に勝とうというよりは無理せず相手の手に乗ってチャンスを伺うスタイル。脇システムから本局の馬を作る展開はそういう意味があったと思います。

67手目の局面で先手5歩得。後手は馬があって玉が堅くて手番なのでいい勝負ですが歩切れの歩損というのはバランスが一旦崩れるとあっという間…という印象もあります。

中盤では渋い手順が続きます。先手の藤井聡太七段がすぐに端から開戦するのではなく、後手の将来の攻めにしっかり備えた結果、後手が守りの金を繰り出してきます。後手の馬の利き+金が出てきて先手の攻め駒を責められて怖く見えますが、銀取りに金が伸びきった瞬間、ようやく先手が攻撃を仕掛けます。

このあたりの手順、先手の銀が取られそうで取られない手順は相当スリリングで面白いので是非並べてみてほしいです。馬の紐を断つために馬を責める手順で跳ねた桂馬が最終盤の詰み筋を消す…というドラマティックな伏線もあります。

98手目、二択とおもいますが、より強気な手を後手は選択、しかしそこで軽妙な垂れ歩がありました。この後の手順も、渡辺明三冠としてはじり貧になりそうな手順ではなく、ひとまず後手番だしワンチャンスあれば…という感じのリスクはあるけど刺されば勝ち、という手を選択していった印象があります。

対する藤井聡太七段は、攻めの足掛かりはつくりつつ、相手がやや細く仕掛けてきた時はぐっと受け止め、殴り合いの展開に極力持ち込まないように水面下の流れを穏やかに穏やかにしていくのが最近の将棋を見ていて感じます。この辺は研究パートナーの永瀬二冠にも共通している気がします。

ものすごい詰将棋解答能力を白兵戦的な攻め合い・殴りあいの中で発揮するのではなく、局面を収めることに用いつつ、自身の終盤力は大陸間弾道ミサイルのようにロングレンジで発揮するのが最も安定的に勝てると考えているのではないでしょうか。

本局も挑戦を決める準決勝、佐藤天彦九段戦の時のように相手の馬(と飛車)が働かない展開となりました。

最終盤のクライマックス、藤井聡太七段の様子を見ていると雰囲気的にわりと早い段階で詰まないことを読み切っていたように見えます。感想戦では「97玉で…」といってましたが、あれは絶対に詰まないことを確信したのが97玉の局面、ということで詰めろを掛けて下駄を預けた局面では既に「見えてない筋がない限りは、詰まない」と思っていたのではないでしょうか。

あれだけ慎重な藤井聡太七段が残り時間3分とはいえ1分も持ち時間を投入せずに王手ラッシュ前の手を指したので。

まずは一勝。対局後の渡辺明三冠の様子からすると、普段の若手相手のタイトル戦にはない雰囲気を感じました。ただ次は先手番。かつ暫く先になります。名人戦の星勘定をまずは最優先に、月末にかけて先手番の作戦を練るのでしょう。

渡辺明三冠が本気で練ってきた作戦での先手番にどう対峙するか?でこのタイトルの行方がみえてきそうです。

テーマ : 将棋 - ジャンル : ゲーム

Tag : 渡辺明 藤井聡太