好きなら道なら楽しく歩け 第60回NHK杯一回戦第十六局 里見香奈vs小林裕士




第60回NHK杯一回戦第十六局 里見香奈vs小林裕士

先手の里見女流は言わずと知れた有名人。今期は殆どの対局が対男性棋士とあって、もはや普通の女流プロとは言いがたい。対する小林裕士プロは、早見え早指しの才気あふれる将棋。力将棋を得意としており、後手番での一手損角換わりの指し回しが絶品。

とっておきの右玉 (マイコミ将棋BOOKS)において、著者が奨励会で勝ちまくっているということで同期入会の小林裕士の名前を挙げている。

風貌は金剛力士像のような風貌で、見た感じ酒とギャンブルが好きそうな雰囲気があるが、実際のところはしらない。また、もう一絞りしたほうが良さそうな雰囲気もあるが私も人の事はいえないのでやめておく。

順位戦でもあまり時間を使わず、力将棋なのだが、そういう展開にもっていく序盤の細かさもある。私のお気に入り棋士の一人でもある。里見香奈女流も攻め将棋だが、攻め将棋同士のぶつかり合いで、どうなるか。

先手番の里見女流が石田流に構える。序盤の駒組みは両者普通だろうか。後手の小林プロが様子を見ているようでもある。慎重に、というわけではないが無理せずにひとまず囲い合いましょう、ということ。この人の将棋は大体こんな感じで、序盤からセコセコしく慌しく攻める将棋ではない。

本局の参考になるのは「第68期C1組第7回戦戸辺誠vs小林裕士」であり、出だしが一緒だ。NHK杯放映中に戸辺誠プロが「NHK杯、里見ー小林。興味津々の展開。」というのも無理はない。

通常、この形は先手が手詰まりになる可能性があり、関西では恐らく研究テーマになっている戦型。当然、里見も上記の戦いやその前の久保-阿部戦など頭に入っている。普通に3七に銀を持ってくるような指し方もあったと思うが、この持ち時間の短い将棋で研究手をぶつけてきたということだろう。

ただ一目、形としてイモ臭い。これで良いとするには、相当掘り下げていなければできない手だと思う。後手は普通に応じて△4三角の一発でしびれた。この角は角交換型の石田流では常套手段であり、「手詰まりにさせる」「飛車をいじめる」という対石田流の基本中の基本。最近のB2の順位戦でも現れているが、昔からある手だ。

いきなり悪くなった先手だが止まれば終わり、ということでこれしかないという筋で進めて交換した銀で飛車角両取りを掛けられた。▲7五歩に普通に逃げられたところではかなり辛い。▲8五銀という手も泣きたくなるような手だ。ようは角を打った時点で専門的には終わっているということなのだろう。

殆ど敗着という手は61手目の▲4六銀。△4五歩とされて戻るようでは純粋な一手パスとなって勝負は決した。悪くても▲5八歩だったろうが、それでも先手が良いわけではない。

後手が△5七飛車成と龍を作った局面。
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仮にここで▲5八歩と受けても、△5五龍ぐらいで後手の優勢は維持される。…と思ったが、そこから▲4六銀、△3五龍、▲3七歩で収まっている…ように見えて、やはり後の△4五歩とのコンビネーションがあるので先手に攻めの手番が回ってくることは無さそうだ。

先手としては▲7六銀から飛車先を通して飛車を成り込みたいのだが、間に合わない(し、そもそも左翼の金銀桂馬が辛すぎる)。

昨日の女流将棋のアマプロを見ていても思ったが、序盤戦術において折角限定しているにも関わらず、その研究範囲が狭いか行き届いていないというのは、終盤の強さがあるだけに勿体無いと思う。ただし本局は研究手をぶつけたということであれば、その穴が実戦で埋められたということで良しとするべきなのかもしれないが。


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第60回NHK杯一回戦第十三局 ▲山崎隆之vs△飯塚祐紀

例によってNHK杯の棋譜ページのみの閲覧。先週と繰り返しのお知らせになるが、12時5分ぐらいには当日の棋譜がアップされているので、ご確認・復習にお役立て頂きたい。


戦型は先手山崎隆之プロということで相掛かり。相掛かりは定跡が整備されているようでされていない手将棋の世界。腕力で誤魔化す将棋で七割勝つ山崎隆之プロにぴったりの戦型だろう。

以下は後手が4一の地点に玉を寄った26手目の場面。「最新の相掛かり戦法 (プロ最前線シリーズ)」でいうと92ページ目からの解説が該当する形。次の先手の一手をお考えいただきたい。
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通常であれば、▲3三角成、▲6六角ぐらいだろうか。(前述の定跡本ではそのように解説されている)。また、▲6六歩から矢倉を目指す手もある。(こちらの変化は120ページ以降で紹介されている)。山崎隆之プロの選択は▲6六歩からの矢倉だった。

この将棋、後手がやや作戦勝ちしているように思われたのだが、その理由はこの矢倉に囲い合う手順のうち、後手が角を3三の地点に置いたまま、攻めの銀を5三に上がったあたりにあるように思う。先手は3六にいる銀を有効活用する意味で4五に位を取りたいのだが、53銀と33銀で逆襲されそうな雰囲気があり、位を取らずに駒組みが進むこととなった。

先手は代わりに6五の位を取る。相掛かり戦における浮き飛車は角の流れ弾に当たりやすく、何かの時の6六角を用意している。手損になるが後手の飯塚祐紀プロはそれを事前に回避して8二に引き直す。先手の速攻棒銀を封じるための手だったのでそれほど不満はない。

先手は二歩持って攻め始めるが、後手が専守防衛に徹しているところなので、容易ではない雰囲気。1?3筋への「味付け」は如何にも「おまじない」的というか、攻めが切れそうになった時の保険、という手。ドラゴンクエストでいうところの「ガンガンいこうぜ」という作戦。…かと思った時に指された▲5七銀という手が何ともカッコいいプロの手。次の▲4六銀から、突き捨てを活かした攻めが見えるところだ。

後手の反撃手に応じて角交換が行われ、玉頭に歩を垂らしあう展開。お互いに一段玉で垂れ歩があるが、少しずつ違う状態で、どちらがキツいのかよく分からない。90手目に飯塚祐紀プロが指した△4七角が2五の歩を守りつつ、▲5八歩成の詰めろを見せて後手好調なのかと思われたのだが。

続く先手の▲7七金が当然とはいえ良い手。もし後手が歩を成れば、飛車ではなく垂れ歩を払うことで玉の逃げ道を確保するという意味か。この局面で両者の残り時間は分からないが、後手としては攻める権利と義務が生じており、これはこれで辛いものがある(もし私が後手だったら、とても嫌だ)。

先手はこれしかない、という受けなのでしょうがない、しょうがないと受ける気楽さがある。▲7七金も▲6八玉もこの一手、というやつだ。対する後手は自分で攻めを考えてひねり出さねばならない。98手目、アマなら一目で飛車角交換してから飛車を逃げそうなものだが、強い人によくある、取れる駒を取らずに飛車を単に逃げた手がどうだったか。

後手の攻めが一段落して先手のターン。良く分からないうちに後手玉があっと言う間に詰んでしまった。先に飛車を取っておけばこの詰め筋はなかったが、別の詰め筋が生じていたのかもしれない。恐らく、後手の飯塚祐紀プロが飛車を8五に引いたのは、いきなり詰ましに来られるとは思っていなかったからだろう。あとは深く引くとどうせ8三で叩かれたりするので、どうせなら8六で叩いてもらってから引きたいという意味。

後手玉への寄せの手順として、2三に単に歩を成る手が詰将棋っぽい軽手。ここでも局面の選択は飯塚プロの権利と義務になっており、山崎プロは応手に対して詰ましに行くだけの展開。2三を取ると後の5三飛車成りがあって如何にも詰みそうだ(読んでないので分からないが)。というわけで逃げた玉に対してと金を押し売りする手順も詰将棋的。

このあたりでは先手勝ちだとすれば、そして飛車を取る手では後手に勝ち目が無かったとすれば、飯塚プロが攻めさせられたところでは既に先手がよかったという可能性がある。特に4七に角を打った手以降は、ほぼ双方に変化の余地がない手順の応酬だからだ。

或いは単に、素人的な手ではあるものの、後手が飛車を逃げたところで単に飛車を取って、57に金を打ってバラして△6五桂…という手順でどうだったか。ただし、飯塚プロというのはこういう鋭い攻めに持ち味のある棒銀ist(bouginist)なので、寄るとみれば踏み込んだと思う。恐らくは△6五桂に▲6六玉と逃げられて寄らないと読んでの△8五飛だったのではないか。私レベルのアマだと、プロの応酬を正として推測するしかないのだが、多分そういうことなのだ。

そしてそういう意味において本局のMOM(Move of the match)は▲5七銀を挙げたい。この溜めた一手の次に控える破壊力をみて、後手は攻め合いに転じざるを得なかった。あの場面での先手の攻め駒は飛車・角・銀・銀の四枚であるのに対して、後手は飛車と角しかいないという状態だったわけで、その戦力の違いが本局の勝敗を決したのだとすれば、▲5七銀は素晴らしい手だった。若き力戦の雄、西の王子の豪腕は殴り合いになってこそ、活きる。

後手の鋭い攻めが決まっているように見えたが、実は攻めさせられていたために少しパンチが届かずに先手の強烈なカウンターパンチが決まったということだろう。どのような解説、どのような観戦記になるのか今から楽しみである。

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こちらの号に掲載されている後藤元気氏の観戦記と、私の好きな上地さんの観戦記は是非お読みいただきたいと思います。


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定説への挑戦 第60回NHK杯一回戦第十二局 勝又清和六段vs西尾明五段

定説への挑戦 第60回NHK杯一回戦第十二局 勝又清和六段vs西尾明五段

どちらもツイッターにアカウントを持っている棋士同士の対決。先日のC1の順位戦に引き続いてのツイッタラー対決となった。例によってNHK杯の棋譜再現サイトでの棋譜確認のみです。(ちなみに、このサイトは放映当日の12時5分ぐらいまでには棋譜が上がっているので終了後に見返すのに最適だと思います。)

後手の西尾プロは居飛車党だと思っていたのだが違うのだろうか。四手目でいきなり見せてくれました、後手石田流。これは「佐藤康光の石田流破り」などでも後手良くないと言われており、プロでは殆ど見ない…といいたいが一作日のB2では違う形ではあるものの、石田流が出ていたので何かしら理由があるのかもしれない。

先手の対策は二つあって▲5六歩か、▲2五歩。(▲6八玉もある)。「佐藤康光の石田流破り」では▲2五歩の変化が推奨されている。本譜は、これもある、という▲6八玉だった。

そして九手目の局面、部分的には久保流と呼ばれる、急戦の形に似ているが、違うところは先手なのに居飛車の飛車先が伸びていないこと(その代わり玉が上がっている)、振り飛車が後手なので居玉であることがあるだろうか。居飛車党のアマとしては、是非先手に圧勝してもらいたい将棋だ。でなければ後手番の石田流が蔓延することとなる。

10手目の9四歩はかなり挑発的な一着。馬を作られも怖くないですよ?作りに来ないのですか?という手だ。「語りはロジカル、指し手はラジカル」なプロフェッサー勝又。この挑発に見事に乗って乱戦となった。普通に考えれば先手が馬を作って良いはず。しかし単なる挑発だと思われた後手の端歩突きには意味があった。それは、筋違いに打った角筋を活かしての香車を取る筋。筋違いでは常に狙いになる手ではある。

香車の交換が行われた局面では、素人としての見立てでは相当。序盤で趣向を凝らしたい人間としては後手の意思の通し方に感激した。得た香車を狙いをつけた三筋に据えて、しつこくしつこく迫る。将棋倶楽部24でこういう対戦者がいると萎えるかアツくなることは間違い無い。

49手目の局面は、手番が後手、玉の堅さは難しいが銀冠風味の先手だろうか、駒の損得は後手の香車と歩が先手の金と交換になっていて、ただし先手は馬を作っているのでどちらが良いか難しいところ。後手の要望で、馬角交換を求めたあたり、馬が消えれば後手相当だろうと思ったのだが、交換後に移った手番で指した先手の手は普通だったが厳しかった。

普通に見える手で攻めて先手先手になるというのは相当に指し易いということ。71手目、歩の裏に香車を打ったあたりからは先手が良さそう。居玉の悪さを咎められている。アマとして学ぶべきはプロフェッサー勝又の75手目と77手目だろう。こういう局面では簡単に精算せずに足していく、重く重く重ねて行く、ということだ。先日の女流王位の清水甲斐戦の終盤でもこういう足す手が推奨されていた。

そこからは、居玉のために粘りが利かず、NHK杯ゆえに手数は続いたものの、後手に勝ち目は無かった。今49手目の局面を眺めている。ここで後手に有効な手がなかったかどうか。もし無かったのであれば、意欲的な後手の作戦は無理だったということになる。そしてビール二本で酔った私の頭では、次の▲5五香車が見えるのみで、五〇手目に指すべき後手のては見えなかった。

そして、西尾プロのツイッターでの呟き「最近学んだこと。玉が固いほうが勝ちやすい&後手から積極的に動くのは無理筋になりやすい。今さら何言ってるんだと突っ込まれそうですが(笑)身にしみて感じてる次第です。」というのは恐らく本局のことを言っているのではないか、と勝手に推測した次第。(違っていたらスミマセン)。

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穴熊らしい勝利と事前勝敗予想 第60回NHK杯一回戦第十一局 伊藤真吾四段vs阿部隆八段

第60回NHK杯一回戦第十一局 伊藤真吾四段vs阿部隆八段

例によってNHK杯のサイトの棋譜のみの鑑賞。

先手のイトシンこと伊藤真吾プロは中飛車や三間飛車を操る最新の振り飛車党一派。次点二回でのフリクラ入りなので、こういう持ち時間の短い将棋については予選、本戦と勝ち星を稼いでC2への昇級を果たしたいところ。

後手の阿部隆プロといえば本手本筋の将棋。前期の順位戦ではB1から落ちてしまったが、対畠山鎮プロとの一戦、角換わりの将棋ではその持ち味を存分に発揮しており、実力的な衰えを感じさせない。

事前の戦型予想としては二択なので特に検討しなかったが、よくある位取り中飛車の相穴熊となった。目に留った点としては、後手が飛車先の歩を突き捨てるのがちょっと早めに感じられたことと、22に角を置いたままで33に銀を上がったことだろうか。後手の桂馬は使えそうも無いので実質的な攻め駒は飛車しかない。

これらは先手に打開の権利と義務と責任があるので、攻めてもらってそこから反撃したいということだと思われた。

小競り合いが続く中盤、5五の地点を狙いに来た銀に対して軽く飛車を三筋に転回したのがこれらの戦型を用いる振り飛車党らしい軽い手。続く数手は22角型を咎めており、後手がそのケアを行う間に四枚穴熊が完成して引き続き先手好調か。

先手は角が働いていないが、後手の飛車も見合いになっているため、文字通りおあいこ、というところで1筋?4筋の見栄えだけで言えば先手が相当に気分が良い。

攻撃の権利を得てからじっくりとと金を作りに行った手が何とも憎らしく、相手に手が無いときはこちらから無理に成算しないほうが良いというアマが参考になる手順だった。

指す手がない後手は穴熊のパンツ脱ぎと呼ばれる手で催促を行う。私が好きな棋書に「羽生善治の終盤術」というものがあるが、その1巻の最初のほうに「当たりを受けてから動きたい」という趣旨の設問がある。62手目の局面をみてそれを思い出した。

先手の伊藤真吾プロは、それでは、とばかりに飛車角交換に出て、次に銀取りになっている手をどうするのか?と見ているとなんと1六の地点に逃げた。この手には大変驚かされたが、将来の桂馬香車を持たれてからの2七の地点を攻める手段を封じており、引き続き先手順調か。

銀を逃げて、後手に攻撃のターンが移ったが、前述の通り、桂馬香車を拾う飛車打ちは有効ではない。ということでと金作りを封じる手を後手の阿部隆プロは指すのだが、これは流石に辛い。

先手が角を二枚重ねた手が本局におけるMVPかもしれない。ここからの手順は何飛車党であっても気持ちが良すぎる。特に三筋に歩が利くことを最大限に活かした手順はこの戦型において三筋が最重要であることを再認識させられた。

ちなみに私は居飛車側の歩が3三の地点に無事打つことが出来れば居飛車としては満足であろう、という単純な指標を持っているが、それを考えると後手の3・4筋があまりにもよろしくない状況、穴熊にしては中途半端に伸びすぎていることが分かるのではないか。
79手目の43金はトドメの一撃。横に逃げても軽く31歩成ぐらいで先手が勝ちそうだ。なにしろ先手玉が固すぎる。そこからの阿部隆プロの頑張りは恐らく放映時間を気にしたのではないかと思う。

少し話がそれるが、NHK杯のサイトの棋譜再生では1筋の歩が二歩状態になっているのが本当の手の推測は出来るものの、先週の戸辺プロの名前の誤りに続いて少し気になった。
イトシンプロは完勝で第二回戦に進んだ。

そういえば先週だっただろうか、ツイッター上にイトシンプロのアカウントがあることに気づいた。そしてNHK杯の放映があることを知った。私ならずとも勝敗結果については自ずと予想がついたであろう。個人的には勝敗予想に拘る方ではないので興がそがれる、ということは無かったが、アカウント作成のタイミングはなかなか難しいものだと感じた。


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99手目。正解は一つ。 第60回NHK杯一回戦第十局 西川和宏vs戸辺誠

2010年06月06日第60回NHK杯一回戦第十局 西川和宏四段vs戸辺誠六段

西川ジュニアvs戸辺プロ。

将棋には伝統芸能的な側面もあるので、世襲というのはある意味正しい。そして3段リーグというものがあるので、その難関をくぐり抜けるかどうか、後を継ぐに相応しい技能があるか?という検証が客観的に行なわれる。その苦難に打ち勝った西川ジュニアだが、どうも「行けども行けども苦難の道のり」という印象がある。

将棋世界のおこのみ対局?で、鈴木大介プロに角落ちで負け、順位戦では4勝なのに降級点、という状況。ただし、私はこの困難を切り抜けていくのではないかと考えている。神が与えたもうた試練、というわけではないが、この才能はどこかで大きく伸びる可能性がある。見た目は伝統的な振り飛車の使い手。では相当に受けが強いのか?というとそういうわけではない。最近ではノーマル振り飛車というと永瀬プロの受けが有名だが、それとは異なる、何とも不思議な将棋であり、本局を思うと、大山流を受け継ぐのは西川ジュニアではないかとさえ思えてくるものがある。

「え、あの人こんな顔してそんな凄い一面があるの?」というような将棋といえばいいだろうか。大物食いといえば、佐藤慎一プロなど勝負根性の鋭さでどの相手とも互角以上の勝負をする人はいる。西川ジュニアはそういうタイプでもないのだが、大物を結果的に、喰らう。対戦した経験のある村山慈明プロ曰く、異感覚の将棋らしい。

昨年の順位戦においても、横山プロ、佐藤天プロという二人の実力者を屠っている。私がみた、西川ジュニアの棋風はずばり「スッポン流」だろうか。藤井プロのガジガジ流ほどの大口ではないのだが、振り飛車らしい耐久力のある玉と、一度手がかりを得るとそこからがしつこい。三段リーグの必修科目である相穴熊における経験値が高いので、そして相穴熊はロシアンルーレット的なところがあるので、ある程度のレベルまでは好勝負になる、ということだろうか。

対する戸辺プロ。いつもニコニコ、ポジティブで周囲の声援を自身の力に振り替える元気玉で大躍進している。展開がハマった(得意戦法が生き残った)ということはあるものの、あの当時、そこに目をつけられるということは生き残るうえでのブルーオーシャン戦略が身についている。それはひとえに、ご両親親御さんのおかげだと私は考えている。このエコロジーブーム?が来る前から有機農法に着眼して日本で一番キロ単価の高い米を作るというご両親と、藤井システム死滅後の力戦振り飛車の繁栄前から指していた戸辺プロの姿は重なる。

そういう意味で、この対局は「子は親の背中を見て育つ」決戦であるといえよう。

戦型は相振り飛車。後手の戸辺プロは「戸辺流相振りなんでも三間飛車 (マイコミ将棋BOOKS)」とばかりに穴熊に。これは実戦的には有力な手段らしいが、本譜の序盤?中盤を思うとどうなのだろうか?穴熊のシンプルな良さというのは、「組みあがった後に互角の駒交換程度であれば指し易い」という脳天気さにあると考えている。しかし本譜は先手が飛車を85に引いたことにより強いられた24歩により二度の銀交換を拒否している。そういう意味では、あまり面白くない展開のように思う。

後手は玉は堅いものの、すぐに桂馬の交換をすると歩切れになる。しかし23の傷があるので銀交換は出来ない。ということで手待ち的に玉を更に固める。お互いに固めあった後、打開の権利と責任は先手にある,という義務感だけで西川ジュニアが仕掛ける。仕掛けの調子としてはポンポンと突き捨てて気持ちが良い、私が得意とする「だろう攻め」。ただしプロレベルで成立しているのかは微妙。たとえば、私の場合、対振り飛車で右玉を用いるのだが、その場合は角香交換ぐらいでも他に争点がなければ勝負になる。果たしてこの戦型でこの軽そうな攻めが成立するのかどうか。

78手目の局面の先手は、驚きの歩切れの1歩損。ただし手番を握っているので六筋に飛車を振り直す先手。お付き合いする後手。しかしこれで懸案の23の地点が緩和されているのでここでは後手が得をした。続く86角に交換した桂馬でがっちり受ける後手。将棋的にはこれでオワ、だろう。通常一般でいえばこれで終わっている。この局面を見せられて次の一手をあてろと言われて投了と答える島朗がいても私は驚かない。

対振り飛車右玉で、この端のやりとり?8筋の香車打ちは常に含みとしてはある。しかしここまで条件が悪いやりとりは私は行ったことがない。大抵は相手から来るか、或いはコチラから行く場合は、角香交換でもやれる理由がある。本譜は角香交換しかない筋でそれではやりきれないとして、角を逃げた局面はなんと先手は何の得もしておらず、後手が香車を一枚得しているだけ、という状況だった。

94手目の局面も後手必勝。私であれば、冷たく94歩と指すだろう。これで本当にオワだ。桂馬が成ると飛車が無料なので、指す手がない。25の桂馬を取ってもダメそうだし、目をつぶって72桂成りとしても普通に65飛車で後手勝ちそう。多分このあたり、戸辺プロの感覚はおかしくされている。というわけで54歩が悪手だと思う。・・・と思ったのだが、△94歩には▲85歩がありそうだ。

とすれば、感想戦であった通り、明快な勝ち筋は100手目の△55歩しかなかったようだ。その他の筋もあれこれ突っつき回してみたものの、後手からの速い攻めがない関係でなんだかんだと攻めが続く。

99手目の三つの駒が当たっている局面、正解はひとつだけ、という状況が西川ジュニアの異感覚の将棋の特徴を表しているかもしれない、と思った。


最終手がわかりにくいですが72に桂馬が成った局面。先手の飛車・角・成桂が当たっている。先手が良さそうだが、正解は一つしかなかった。この局面は西川ジュニアの異感覚が最も機能した瞬間かもしれない。
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大内先生といえば、端攻め、なのですねえ。今でも。引退されましたがこのシリーズは凄く気になっています。だれかご感想を教えてください…。

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Author:将棋観戦
「将棋観戦記」というブログで、プロ棋士の将棋を観戦して思ったことを記しています。棋力はありませんが、将棋観戦の楽しさを一人でも多くの人に知ってもらい、「観る将棋ファン」を増やすために貢献できればと思います。主に順位戦速報・タイトル戦等、ネット中継されている将棋を中心に将棋観戦記を書いています。棋譜・符号はなるべく用いずに、将棋のルールが分からない人でも、将棋の勝負の面白みが伝わるように努力します。

基本的にはリアルタイムでの将棋観戦中に思ったことを書き溜めつつ、対局終了後の感想を付け加えて、将棋対局のあった翌日の朝7時頃にアップされるように将棋観戦記を予約投稿しています。「一日一観戦記」をモットーにしているので、同日にネット中継が重なった場合は、対局の重要度を個人的に評価して観戦記の投稿日を調整しています。

将棋観戦中に書き始め、対局が終了すると思われるところから観戦記を完成させていることが多いです。文章内の形勢判断は個人的主観によるもので、観戦中の控え室のプロの意見を取り入れず、将棋ソフトの解析を行なっていないため、形勢判断が正しくない可能性があります。

また、あまり推敲することなく投稿しているので、観戦記内に誤字脱字、情報の誤りがある場合があります。お気づきの場合はコメント欄にてご指摘いただけると助かります。早急に訂正させていただきます。

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