将棋における「高速道路理論」と「無双・図巧は棋力向上に役立つのか?」問題

羽生善治が語り、梅田望夫が広めた言葉として「高速道路理論」というものがある。

「将棋が強くなるための高速道路が一気に敷かれたということだと思います。でも、その高速道路を走り切ったところで大渋滞が起きています」
http://japan.cnet.com/blog/umeda/2004/12/06/entry_post_203/



上記URLの記事は大変興味深いので未読の方は是非御覧下さい。梅田望夫氏の著作「ウェブ時代をゆく ─いかに働き、いかに学ぶか (ちくま新書)」にも里見香奈を例にとった話が書かれています。

羽生善治曰く、奨励会二段ぐらいまでは猛スピードで上がることが出来るが、前世代の並のプロぐらいまでは到達できるが、そこから一段上のレベルに到達するためにはまた別の要素が必要なのです、とのこと。

少し古い世代にとって、プロ棋士になるためには?という話で出てくるのは「無双・図巧を解けば必ず四段になれる」という米長邦雄の言葉だろう。米長邦雄という棋士はこの他にも棋界の品位を高める上で貢献している言葉を幾つか残しており、有名なところでは、相手にとって重要な勝負には全力で勝ちに行くという「米長理論」がある。

そこでネット上で、無双・図巧についてのプロの話を探してみたところ、mtmt氏観戦記者の青葉氏が運営する将棋掲示板にて以下のタイトルの記事があったので、ご紹介したい。また、一部プロ棋士に関する部分のみ抜き書きさせていただいた。(問題があるようでしたら削除しますのでご指摘下さい>関係各位)

その前に無双・図巧について多少触れておきたい。

将棋図巧(しょうぎずこう)は、江戸時代の棋士伊藤看寿により、宝暦五年(1755年)3月に江戸幕府に献上された詰将棋の作品集である。原書名は「象棋百番奇巧図式」という。兄の伊藤宗看が著した「将棋無双(象戯作物)」と並んで、江戸時代における詰将棋の最高峰といわれている。
9手詰(第50番)から611手詰(第100番)までの全100問からなり、特に超難解と言われる第8問や、その美しさから神局と言われる、裸玉、煙詰、寿として知られる最後の3問は有名である。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B0%86%E6%A3%8B%E5%9B%B3%E5%B7%A7



プロスポーツなどでも、全世代最強選手は誰か?というような与太話はよくあるが、将棋界において、詰将棋と指し将棋は別物とはいえ、このような作品集を作れた人間が弱いはずはない、定跡の進歩による違いはあるが、例えば水になれれば相当勝つような才能の持ち主が江戸時代から存在したことを示す例が上記だろう。

現代においても「無双と図巧」を上回る詰将棋集は出ていないと言ってもよく、「無双と図巧」を解くということは、その時代の天才と時を隔てた勝負を行うという意味合いがあるのかもしれない。


**********************


以下のURLにて「無双と図巧」に関するプロのコメントが運営者のmtmt氏により紹介されています。
無双・図巧は棋力向上に役立つのか?


以下、上記URLからのプロの部分だけを抜き書きしたもの。(一部書籍紹介にはアフィリエイトリンクを用いています)。

『将棋世界』誌96年8月号、羽生棋聖に挑戦する三浦六段に対するインタビュー
記事より。将棋の勉強方法で詰将棋のことに触れられた後、

――図巧とか無双は解かれました?

三浦「無双は難しかった記憶があります。図巧はあまり意味がないんですよね。
どうせ不成だろうとか、手筋がだいたいわかっちゃうので。無双は結構時間が
かかりましたね。不詰とかあるんで。解くのはたいへんでした」



『将棋世界』誌96年9月号、羽生王位に挑戦する深浦五段へのインタビュー
記事より。

――「図巧」と「無双」は解かれましたか?

深浦「ええ、当時奨励会員はみんなやってましたね。この二つを全部(200問)
詰ませれば必ず四段になれる、という米長九段の言葉は当たっていると思います。
根気強くなるんですよね」






(羽生)
 以前、米長先生の本で、『詰むや詰まざるや』の200題を全部解けば四段に
なれるという話がありましたね。ちょうど自分が奨励会に入会した頃です。
みんなやっていて、私もやったんです。
 あれをすべて自力で解ければ、いろいろ理論的なことが身につくということ
もあるんですけれども、もっと大切なことが隠されていますね。実は、それ
以外のことを試されるというか、試験されるようなものなんです。
 私の場合、最初12歳ぐらいから始めて、200題解くまでに6、7年かかって
いるんですよ。途中で中断したりしているんで……。それで終わってみて
気づきました。技術が身に付くんじゃなくて、この難解な詰将棋200題を何年
もかけて解く情熱とか熱意とかがあるから、つまり、そういう将棋への思い
があるから、プロになれるんだなと。

…止めたくなりますよ。あれをずっとやっていると。1週間とか10日も解け
ないのがざらにあるんですから。毎日毎日、同じ詰将棋を考えつづけて、
解けないと、途中でもう嫌だと思って止めてしまう時期があるんです、
本当に。だから、私も中断してしまって、6、7年もかかった。それを乗り
越えて将棋に取り組む気があるのかどうなのか、将棋への思いが持続するか
どうか、そういうことを言われたのだな、ということが理解できたんです。

(米長)
あれは解けなくなっちゃうんです。今の僕も解けない。仮に100題詰ます実力
があったとしても、解けないですね。なぜかというと、150手ぐらいの詰将棋
を考えるよりは、最新の実戦棋譜を並べたほうがいいんじゃないかと思い始め
てしまう。今ならそういう頭になるからね。…

米長邦雄羽生善治『人生、惚れてこそ人生、惚れてこそ―知的競争力の秘密』より





20: 名前:mtmt投稿日:2000/11/05(日) 22:25
今週の『週刊将棋』の都成竜馬6級の紹介記事から

>専門誌の『詰将棋パラダイス』を購読し、伊藤宗看の「詰むや詰まざるや」
>(江戸時代の超難解な作品集)にも取り組んでいる。
>「最近、45手くらいのを解きました」

45手ぐらいというと・・・無双2番(47手詰)かな。
まだまだ先は長いかな(^-^;)




将棋世界今月号の森けい二九段の付録より。

>中、終盤に強くなるには、詰将棋と、次の一手の問題をたくさん解くことだと
>思います。
>私も、奨励会の三段の頃に、難しい古典の問題を何百題も解きました。
>時には、何日も解けない問題がありましたが、最後まであきらめないことが大切で、
>その時の経験が、今でも役に立っています。



「将棋マガジン」1986年4月号「谷川浩司の365日」より

>最近綺麗に寄せ切った将棋が殆どないので、「無双・図巧」に取り組む。
>ただ、解くより前に既に知っている作品が多いので、あまり解いたという気がしない。






大崎善生『聖の青春聖の青春 (講談社文庫)』より

 ・・・伸一が住友病院に見舞いにいったとき、村山は詰将棋の本と図面用紙を取り
出して問題をここに書き写してくれと頼んだ。伸一は言われた通りに一題一題を
慎重に書き写す。それをベッドの上で村山はジーッと考えていた。
 しばらく考えて解けると、図面用紙の裏に解答を書きはじめる。そして、本に
書いてある答えとあっているかを伸一が確認する。
 詰将棋の本は伊藤看寿の『将棋図巧』。江戸時代に作られた詰将棋の名著で
100手を超える問題が約100題並んでいる。その長編を一題ずつ頭の中で解いて
いくのである。
 さすがに1時間以上も考えつづけることもある。病院のベッドの上で、パジャマ
姿の村山は恐ろしいまでの集中力で難問中の難問といわれる詰将棋集にそうやって
取り組んだのであった。
 昭和59年4月の末、村山は約4ヶ月にわたる長期入院を終え森のアパートに戻った。
 中学校と将棋会館とそして「更科食堂」の日々が戻ってきた。・・・





米長邦雄のスーパーアドバイス米長のスーパーアドバイス―さわやか流若手棋士見聞録』より

米長 そこにいろいろ本が並んでいるけど一通り読んだのかね?将棋の本。
富岡 いや、見てない本の方が多いです。
米長 ああ。いろいろあるね。古い本も。こうやって、ちゃんと勉強している
といいわな。『詰むや詰まざるや』もあるけど、それはちゃんと詰ましたの?
富岡 はい。詰ましました。
米長 大体、上がっていく人、タイトルを取るような人は、これを一通りやって
るんだよな。
富岡 僕も米長先生の本を読みまして?『詰むや詰まざるや』を全部解けば必ず
A級八段になれる?という風に書いてあったんでね、それなら素直に信じてやって
みよう、ということで始めたんです。
米長 なるほど、それは非常にいいね。それだけでも、俺の存在価値があったわけだ。
やっぱり、これね、詰ましたからいい、ってわけじゃなくてね、詰まそうとするその
熱意がそうさせるんだよ。これ200題詰ますには大変な時間がかかるからね。一題解く
のに何日もかかる、というのも出てくるんだよ。
富岡 ええ。何日考えてもわからないので。あきらめたのもありました。
米長 そうだろ。大変な事なんだよな。これをやってね、強くならなかった
ものはいないんじゃないかと思うよ。奨励会なんかを見ていても。これを全部やった
んだけど四段になれずにやめた、という人はいないんじゃないかな。一つのバロメー
ターとでも言うのかね。それに比べると、棋譜を並べるなんていうのはくだらん事
なんだよな。くだらん、て事はないけど、これを詰ます熱意と比べたらね。棋譜を
並べたけど、四段にはなれなかったという人はいくらでもいるんだから。・・・





米長邦雄のスーパーアドバイス米長のスーパーアドバイス―さわやか流若手棋士見聞録』より

小野修一 それから、棋士になってから先生の言われた『詰むや詰まざるや』
――図巧、無双を全部・・・・・。
米長 ウーン。やっぱり、俺の言ってる事をやった人はタイトルを取ろう
かという所まで必ず行くのね。それじゃあ、俺に感謝しなくちゃいけねえじゃないか。
小野 ええ(笑)、いつも感謝してます。




「将棋世界」今月号(2003年11月号)に屋敷伸之八段のインタビュー
記事が掲載されています。「詰むや詰まざるや」は中学生のときに
全部解いた、とのことです。





私が注目するのは、高速道路を抜けてきたものと、けもの道で進んできたものでどういう違いがその選手人生、選手寿命に影響を与えるのか?という点。

例えば野球で言えば、村田兆治という名投手がいたが、60歳になっても140キロの球を投げていた。その後の選手、バブル時期ぐらいは比較的選手寿命が短かった印象だが、最近はまた伸びてきたような気もする。昔の選手の寿命が長かったのは、単に頑丈な人間が多かった、という気がするし、最近は科学的アプローチによるもの、という気がする。

そういう意味では将棋へのアプローチ手法は違えども、それぞれに何かしらのブレイクスルーがあり、前世代と同等かそれ以上の棋士を輩出しつづけていくのだろう。ただしそのために一定数以上の競技人口が必要になるかとは思う。

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「将棋観戦記」というブログで、プロ棋士の将棋を観戦して思ったことを記しています。棋力はありませんが、将棋観戦の楽しさを一人でも多くの人に知ってもらい、「観る将棋ファン」を増やすために貢献できればと思います。主に順位戦速報・タイトル戦等、ネット中継されている将棋を中心に将棋観戦記を書いています。棋譜・符号はなるべく用いずに、将棋のルールが分からない人でも、将棋の勝負の面白みが伝わるように努力します。

基本的にはリアルタイムでの将棋観戦中に思ったことを書き溜めつつ、対局終了後の感想を付け加えて、将棋対局のあった翌日の朝7時頃にアップされるように将棋観戦記を予約投稿しています。「一日一観戦記」をモットーにしているので、同日にネット中継が重なった場合は、対局の重要度を個人的に評価して観戦記の投稿日を調整しています。

将棋観戦中に書き始め、対局が終了すると思われるところから観戦記を完成させていることが多いです。文章内の形勢判断は個人的主観によるもので、観戦中の控え室のプロの意見を取り入れず、将棋ソフトの解析を行なっていないため、形勢判断が正しくない可能性があります。

また、あまり推敲することなく投稿しているので、観戦記内に誤字脱字、情報の誤りがある場合があります。お気づきの場合はコメント欄にてご指摘いただけると助かります。早急に訂正させていただきます。

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