真似っ子将棋 第60回NHK杯二回戦第一局 ▲三浦弘行八段vs▲高橋道雄九段

例によってNHK杯の棋譜参照ページにて確認した。

後手高橋道雄プロといえば中座飛車と相場が決まっているのだが、本譜は三浦プロがそれを拒否して力戦系の相居飛車となった。序盤の指し手が所謂「真似っ子将棋」であり、アマの世界では小学生から道場のタバコ臭いオッサンまで、幅広くいろいろな戦型において指されている思想だ。(尤も高橋プロには高尚な狙いが隠されているかもしれない)。

先手の21手目の8六歩は取ると7五角なので取れない。…のだろうか。6四に角を合わせると飛車が取れない(王手になる)ので▲同角、△同歩。再度の▲7五角はそこで△7六飛車と取られて▲6四角で△5二金とかだろうか。この進み方だと先手の角が負担になりそうな気がするので、しれっと△同飛車(8六飛車)としたかったような気もする。

ただしそれは三浦プロの研究の中に当然含まれている変化であり、それを信用しての本譜ということなのだろう。…と思ったが角合わせられた後、6三の空間に角を打たれると先手だけ馬が出来るから無理ですか。

そこからなんと54手目までが真似っ子将棋。手を変えたのは先手の三浦プロ。ここまで万全に組めて開戦出来たということは先手ペースなのだろう。後手としてはもとより打開する気はなく、緩めば反撃しますよ、という具合。

55手目からの先手の攻めは何とも素朴だが、と金が出来た所では作戦成功だろう。その間わずか7手。7手でお手軽にと金が出来、そのと金がそこから6手後には二段目に引けて働きが増していた。

将棋はと金を作るゲーム」と言ったのは神谷プロだったか。まさにそれを思い出させるような中盤までの三浦プロの指し回しだった。恐らく飛車を得て竜を作った辺りでは先手が良くなっていてもおかしくはない。とはいえ攻め駒は桂馬とと金と竜、そして2八にいる飛車を入れればギリギリ四枚の攻めだが、後手陣が薄いわけでもなく、また先手は歩切れなので一気に攻めきれる雰囲気でもない。

というわけで7筋で生み出したと金をヒタヒタと3筋まで持って行く三浦プロ。その間、後手の高橋プロは得た二枚の角で攻めの手がかりを築こうとしている。

79手目の攻防の7二竜(7六の地点への保険のような受けも含めて)。
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この手の味が良いと思う。角二枚を敵陣に投入している後手だが、どちらかが先手の守り駒と交換になるはずで、その時先手からの必殺の3一角打ちがある。3三銀と固めた成果で一気に詰むことはないかもしれないが、3一角が入ればほぼ寄り形、というイメージを持って進めたい局面だと思う。

81手目の▲1五歩は勉強になる手で▲3一角の破壊力を増すための味付け。その後の先手の指し手も全て3一角を実現するためのものでいじめられていたはずの飛車が後手の角をいじめて気持ちが良い。

95手目の▲1二歩が勝利打点、という感触の一手。△同玉は▲1四香と先手の槍が1一の香車と交換出来そうで攻めが続くし、△同銀は相当に感触が悪く3二の金を竜で取られる筋で致命傷を負いそう。というわけで仕方なく△同香だったがこれで一段玉の逃げ場が1つ失われた。

そして悠然と5三に角が成った場面では次の▲3五桂が分かっていても受けにくい。最後は高橋プロが首を差し出す形で将棋は終わった。

角交換型の相居飛車戦では7筋に歩を垂らしてと金を作る筋というのは常にあるわけだが、その一発でそのまま押し切る格好になるというのは珍しく、どこまで三浦プロの研究だったのかは分からないが、7筋のと金が4筋まで攻めに使える(ぐらいに後手からの早い攻めがない)という三浦プロの構想が流石だった。



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第68期名人戦七番勝負フォトダイジェスト
前夜祭 羽生3連覇か、三浦初奪取か
第1局 どちらが優勢なのか
第2局 双方強気の激戦
第3局 横歩取りへの執念
第4局 三浦、力戦及ばず羽生、堂々の3連覇
観戦後記(三浦、敗戦の弁を語る
羽生の連覇続く)
羽生名人が振り返る4局 きわどい終盤、競り勝つ


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普通の四間飛車穴熊 第4回大和証券杯最強戦 ▲森内俊之-△広瀬章人

第4回大和証券杯最強戦 ▲森内俊之-△広瀬章人

兄弟弟子対決。森内プロは言わずもがなの実績だが、昔NHK杯か早指し戦で神吉プロに相穴熊で負けた印象が強すぎて、実は相穴熊は苦手なんじゃないか?という偏見が拭いきれ無いのだが、本局で払拭されたかもしれない。元々相穴熊が不得意な棋士ではないはずなので良かったと思う。

本局は、序盤に一つの見どころがあった。森内プロの作戦は銀冠からの穴熊だったのだが、まず片銀冠に囲い、二枚のまま、端も突かずに二枚穴熊を優先させたということ。片銀冠二枚穴熊の姿はとても不思議な感じがした。

広瀬プロの穴熊というのは、序盤で攻勢を取りやすい形を相手に強要し、そこから技を掛けに行くものだと思っているが、本局においては如何にも普通の穴熊。若い頃、四間飛車穴熊のスペシャリストだった鈴木大介プロ(鈴木流四間穴熊 (振り飛車新世紀)という著作もある)だが、この銀冠穴熊が優秀で、7二飛車の袖飛車から反撃する筋ぐらいしかないがあまり利いていないので、穴熊を諦めた、という解説も説得力がある。

私も一頃は穴熊を指しまくっていたが、この7筋からの反撃というのは、景気が良さそうに見えて大した事無い、というのは確かにある。対急戦で突き捨ててから飛車を転回する、歩を垂らす、という将棋はそこそこおもしろいのだが…。

森内プロの41手目が機敏だった。
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普通に7筋の歩を交換して、さてどうしましょう?という局面で指された▲2四歩。ツイッター上での強い方のコメントでは「島ノート 振り飛車編」に出ている変化だという。その中のものとして提示された手順は確かに先手が勝ちそうなものだった。

どうするのか?と見ていると広瀬プロの応手はごく普通。先手から要求した工夫の手順であり、後手が変化する余地が少なかった。このあたりは序盤で二枚銀冠穴熊を作ったところの成果が現れているように思った。

変化できそうな局面としては44手目がありえるが、鈴木大介プロが推奨する△4五飛車という手は、なんというか岡目八目的な、お気楽な手だと思う。パッと見▲7二歩から飛車切って△6一角とか、7筋を切った手を逆用されるのが悔しいし、2四歩を同角と取ったのも、裏目に出ているような含みが多すぎ、色々ありそうで好んで選ぶ手ではなく、プロであれば、研究していて指せるかどうかを判断したいところだろう。

というわけで普通に飛車を引いた広瀬章人プロ。先手の角のぶつけに対しても、△3三桂からのカウンターパンチの準備は、4三の銀が取り残されそうで指せないということで、仕方なく△3五歩。

このあたりを見ていて「あー普通の四間飛車穴熊(の苦労)だなあ」と思っていた。

相手が四枚穴熊、ビッグ4の堅陣に組み上げることが明らかでも△6五歩と突くしか(手が)ない。後手が仕方なく攻めて来た△4五桂馬の単騎跳ねに対する▲4六歩からの森内俊之プロの構想が見事だった。桂馬クーポンを集めて、兎に角8三の地点を圧倒してしまおうというものだった。

4五の歩が利いている地点に跳ばれると放置したくなるところだが、5三の地点に成る手があるので取らざるを得ない。そして悠々一歩入手する森内プロ。速度計算において先手が速く、堅さも先手、手番ぐらいは差し上げましょう、という余裕の一手だ。

66手目の△6六歩が広瀬プロらしいギリギリの手裏剣だったが、ここからの森内プロの手順がそれを上回っており、広瀬プロに粘る余地すら与えなかった。「相手の手に乗って捌く」という言葉があるが、本譜の手順がまさにそんな感じで、後手の指し手が全てお手伝いになるような素晴らしさ。6八にいたはずの先手の銀が何時の間にやら、攻めの急所である8三の地点を狙う7五の地点に進出していた。

そして74手目、金取りを放置して突いた▲8四歩が本局におけるMOM(Move of the match)だった。金を剥がされても後手からの早い攻めはなく、桂馬を入手することのメリットのほうが大きいという判断で、確かにそのとおりだった。後手が端歩を突いていないことも裏目に出ている。(もっとも突いていたら端攻めがあっただろう)。

このあたり、将棋の作りとして全てが先手に都合の良い状況になっており、序盤から延々と苦労が絶えないあたりは、本当に普通の四間飛車穴熊だった。84手目の△6八金はなんというか、キャンセル待ちのような手に見えた。その後は事務手続きのような手順で先手の森内俊之プロ、兄者の貫禄を見せつけた。

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本局においては、広瀬章人プロの穴熊の怖さ、みたいなものは全く感じなかった。手順的に普通の四間飛車穴熊の苦労が延々とつきまとうような将棋で、文字通り先手が先手先手と策を講じていたように思う。

実は「将棋世界 2009年 08月号 [雑誌]」の126ページにおいて、夏の定跡講座というタイトルで、振り穴王子こと広瀬章人プロによる対銀冠講座が開かれていた。

その枕で広瀬プロは以下のように語っている。

さて、私は公式戦を今まで指してきた中で圧倒的に多いのが、四間飛車穴熊である。それに対し、相手も穴熊に組んでくるのもこれまた多いわけだが、その次に多いのが銀冠である。

銀冠の特徴としては堅さと広さを兼ね備えていることが挙げられ、振り飛車穴熊側から見ればかなり厄介な戦法だ。

実のところを言うと、私は対銀冠が苦手である。いや、厳密には自分では苦手意識は全く無いのだが、毎回苦戦するのは免れないイメージだ。これはただ単に私の序盤力に問題があると言ってしまえばそれまでだが…。

穴熊で銀冠を相手にするときは、とにかく銀冠の圧力に押されないように序盤から気をつけて駒組みをする必要があるので注意していただきたい。(オマエモナー)



当然最後のオマエモナーは私の悪ふざけである、スミマセン。。

本局の結果と上記の内容を踏まえて考えると、王位戦第二局で深浦プロが採るべき戦法は決まったようなものだ。もし穴熊が来れば銀冠(穴熊)にするのが良さそうだ。

計算の世界に突入するとその能力を最大限に発揮する広瀬将棋だが、元々序盤が上手くないという話で終盤型だったはずで、森内プロのように序盤で相当工夫されるとその本来の力を発揮出来ない可能性がある。王位戦第二局でいきなりこれを食らうよりは、兄弟子に稽古をつけてもらって、予習の時間が出来たのは大きい。

なんらか具体的な修正案をもって第二局に臨むだろうし、なければゴキゲン中飛車など他の戦型を指すのではないかと思う。



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基本的にはリアルタイムでの将棋観戦中に思ったことを書き溜めつつ、対局終了後の感想を付け加えて、将棋対局のあった翌日の朝7時頃にアップされるように将棋観戦記を予約投稿しています。「一日一観戦記」をモットーにしているので、同日にネット中継が重なった場合は、対局の重要度を個人的に評価して観戦記の投稿日を調整しています。

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