球種は一つ、ごきげん中飛車 第60回NHK杯二回戦第七局 ▲近藤正和六段vs△勝又清和六段

先手が近藤プロということで堂々の先手中飛車に。近藤プロには中飛車だけで食っている、という矜持がある。往年の野茂投手が「球種がストレートとフォークの二つだけだから打者は迷うんだ」と言っていたが、球種が1つの場合はどうなのだろうか。その答えの一つがこの将棋。

第60回NHK杯二回戦第七局 ▲近藤正和六段vs△勝又清和六段

先手中飛車に対して、最近の流行は後手が居飛車党であろうと三間飛車にするという作戦。めったに振り飛車を見せない渡辺竜王や行方プロなどが惚れ惚れする指し回しを見せている。

アマの居飛車党の場合、相振りを観るのも指すのも好まない人が多いように思う。私もその一人で、そういう場合に対先手中飛車に対してどうすればいいのか?というのが悩みの種だろう。慣れない相振りにしても、相手はそれがあることを承知で先手中飛車にしているわけで経験値の違いでどうにかされてしまう。

本局は、プロフェッサー勝又の、先手ゴキゲン一本に絞った作戦が炸裂した。野球で喩えれば球種は一つ、のナックルボーラーのナックルボールが変化せずにバックスクリーンに突き刺さるホームラン、という印象の、居飛車党にとっては並べるだけでウハウハな手が連続する気持ちのよい戦い将棋だった。

序盤の見所は後手が飛車先不突なことだろう。それ以外は普通のゴキゲン対抗形。先手が5筋を交換してきたら、手に乗って盛り上がろうという後手の構想にも思える。延々交換してくれないので、やおら飛車のコビンを開けて3七銀ならぬ7三銀超速風に銀をあがる勝又プロ。

33手目の局面、先手が五段目の銀を支える手を指すしかないようでは既に居飛車が良さそうだ。好形といわれるが私は好まない7三桂-7四飛車の形が示現した38手目では、先手の主張点がないにもかかわらずなので、相当に気持ちがよい。

垂れ歩で攻めてくださいとする近藤プロに対して、一瞬千日手か?と思わせる手順から先手が打開した。…が、最善は千日手だったような気もする。(NHK杯で千日手というのは大昔はとても駄目だったように思うが、今はそんなに駄目ではないような気もするのだが、やっぱりその辺の事情もあったのだろうか?)

打開後の手順を見る限りでは打開しないほうが良かったのでは??というぐらいに居飛車側に気持ちのよい手が続く。久しぶりに書くが「これだけでご飯三杯」な手の連続だ。千日手打開後は、武術の師範同士の模範演技を見ているかのような、居飛車側にとって気持ちよすぎる手順だった。

居飛車党で先手中飛車にやられている方は是非、日ごろの鬱憤を晴らす意味でも鑑賞する価値のある棋譜になっている。

先手中飛車を明示してくれた場合、相振りが出来ない居飛車党は本局の手順が参考になるように思う。5筋を謝って面白くないように見えても、がっちり守ってしまえば袖飛車からの攻めのほうが分かりやすい。本譜の▲7九角という手が玉を広くして5筋を守る一石二鳥の手なので覚えておきたいところ。

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ゴキゲン老舗の味 第60回NHK杯一回戦第九局 ▲及川拓馬四段vs△近藤正和六段

2010年05月30日第60回NHK杯一回戦第九局 ▲及川拓馬四段vs△近藤正和六段

ゴキゲン中飛車の老舗、近藤プロと、新鋭の及川四段の対戦。及川プロの棋風は正統派の居飛車、という印象があるが、それほど過去の将棋を細かく覚えるほどには知らない。

先手の作戦に注目したが、後手からの5筋の突っ掛けに乗って盛り上がるというものだった。ただし私はこの先手の指し方で勝つ気は全くしない。何が具体的に悪いかというと特に悪いところは無いと思うのだが、こういう模様をはる将棋で捌く振り飛車との戦いに臨むのは苦労が絶えないといえばいいだろうか。

これであれば棋理では損だとしても実戦的には穴熊のほうが未だマシ、という感じ。ただし、具体的に居飛車が悪くなる手順があるわけではなく、一定水準以上の棋力を持った人であれば指しこなせるという意味でプロらしい。

近藤プロに関する私の印象は、細かく丁寧に勝つ時と、恐らくは仕方無しなのだろうが、割と暴発気味にいく将棋の二つがある、というもの。本局はどちらの顔が出るか?に注目して鑑賞した。

47手目の端角97角の意味は何だろうか。63に無条件で金がこられると面白くないので角の睨み(成り込み)を見せて牽制したということだろうか。私は対振り飛車右玉を用いるのでこの端角はよく用いるのだが、自分の玉が78にいるときにやるのは非常手段というか、あまり好まない。加藤一二三九段がたまに使っていたように記憶するが・・・。

しかも振り飛車が1歩持っていると右玉の時でも成立しない(部分的には成り駒をつくられてしまう)ことがあるぐらいなので、すでに作戦負けを自覚しての端角だったかもしれない。

先手は角を切ってからの猛攻を仕掛ける。65手目の局面では後手の金銀と先手の角桂が交換になっている。このやりとりの損得勘定は難しいが、端の取り込みと、手番が後手であることから後手がやりやすいのではないか。

手番を得た後手近藤の淀みのない攻めで79手目の局面では後手の銀が角に変わっているので、後手の駒得。しかも手番はまたもや後手にある。82手目の局面で飛車の成り込みが確定した時点では後手優勢。

ここから必死に先手は攻めるが、良さを自覚している後手近藤プロの、年季の入った受けが素晴らしかった。私も受けは好きな方だが、駄目な順が常に水面下にあるようなインチキな受けであり、本局の近藤六段の指し回しはこれぞプロの振り飛車党、ゴキゲン老舗の味、というもの。

振り飛車党,特にゴキゲン党なのであれば、正座して毎朝三回並べるべきというぐらいに美しい指し回しだったと思う。投了図は見るも無残な、という居飛車側の姿と相成った。及川プロは特に勝率が低い棋士ではなく、この放送用の対局の後と思われる、5月18日(どっちが先だったのだろう?)の対局であの広瀬プロのゴキゲンを破っているわけで、この日用いた戦法が悪かったのではないか?と私は思ってしまう。



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