分水嶺 第81期 棋聖戦 第1局 ▲羽生善治棋聖?△深浦康市王位

第81期 棋聖戦 第1局 ▲羽生善治棋聖?△深浦康市王位

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遂に始まった棋聖戦。番勝負巧者と評判の深浦だが、一日制のタイトルは初体験。

戦型予想だが、後手番が深浦プロということで中座飛車・一手損或いは矢倉と思っていたが、投入された作戦はなんとノーマル角替りだった。それにしても、角替りや四間飛車に「ノーマル」という言葉をつける日が来るとは、そしてその上にさらに枕詞「なんと」をつけることになるとは思いもしなかった。

ノーマル角替りといえば、プロ同士では腰掛銀に進むのが多く、恐らくは同型だろう。ただし渡辺竜王のような、後手番を一手に受け持ち、角替りハンターとして名を馳せた勇者ですら躊躇するような状況が最近のプロ棋界においては続いている・・・というのは将棋世界、勝又教授のコーナーの最後に載っている戦型別のランキング表にて知っていた。

深浦プロはどんな作戦を用意しているのだろうか?と誰もが注目する中、伝統芸能のような定跡の踏襲が続く。その間に控え室・観戦記を記す梅田氏のところから、中田宏樹プロの指したという「中田新手」なるものが伝えられた。どういう手順で後手が勝ったのかは分からないが、与えられた情報だけを元に感想を述べるとすれば、中田プロの指した手はふっと抜いたような手だと思う。

中田新手を喩えるならば。先手がかさにかかって攻め立ててきた手に対して、左翼の城をうち棄てて、右翼の城とも思えぬ54銀・63金のほうへ玉がにじり出たような手だ。落城した城から這い出る殿様、という風情。ただし飛車の横利きもあり、先手の飛車を奪っていること、先手が歩切れであることを考えると、渡辺竜王が開発した「歩を沢山もっていることを生かした反撃」が愉しみとなる。

その中田新手以降の順を掘り下げていると思われた後手の深浦プロだが22歩の局面でなかなか指さずに昼食休憩を迎えた。その時の私のリアルタイムな感想としては「33銀の打ち込みまでを当然として、その先の展開を考えているのではないか?」というものだったが、半分正解で半分外れだった。

確かに深浦プロは、先を想定していた。中田新手のその先なのだとばかり思っていたが、しかし深浦プロは違う手を読んでいたのだった。即ち、△33同桂がそれ。意味としては、その後の手順を見る限りでは、中田新手よりも更に得をしたい、ということだろう。どのみち崩壊する城のなかから、どうせ取られるであろう桂馬を用いて相手の銀を奪って、それを攻めに・守りに活用させよう、という意味ではないかと思う。

先手は歩切れのまま。そして桂馬を一枚与えたデメリットよりも銀を得たことが自玉を緩和しており、敵のと金に金を取らせる手が玉を逃げるのに役立つと見ているのだ。「へうげもの」という戦国時代を描いた漫画があるのだが、主人公たちが逃げる際に、城に残る財宝を目くらましに裸単騎で逃げる、というようなエピソードがあるのだが、それを思い出させるような手順だった。

後手の反撃の飛車打ちに対し、解説のプロは▲88玉を予想したが、羽生棋聖は深浦王位の趣向により生じた桂を69の地点に投入した。あとから振り返った私の感想だが、この勿体無いように見えた、あまり堅くないようにみえた自陣への桂馬の投入が、本局におけるMVPだったかもしれない。

仮にだが、この桂馬で先手が良しなのであれば、深浦新手は破綻している。何よりも深浦プロが得をしにいった△33同桂がなければ、似たような手順で進んだ場合に先手玉は88に入城するしかないからだ。そしてその88の地点に居ることにより、渡辺竜王開発の7・8筋の歩攻撃がキツくなる。

私の予想だが、深浦プロは飛車の打ち込みに対して▲88玉しかないと見ていたのではないだろうか。もし銀を持った状態で先手玉が88に入城してくれれば、上下挟撃の状況となり、後手が優勢になっていたものと思われる。

69に桂馬を打った後、後手は得た歩を元に反撃を試みるが、しかし79の玉が遠く、具体的な戦果を得ることが出来なかった。結局最後まで先手玉は79の地点に留まり、左翼の金銀は残り、勿体無いと思われた69の桂馬も立派に働き通した。その一方で後手は、桂馬を渡した代償に得た銀を上手く活用する手段がなかった。

対局前に私が思ったのは、深浦プロの後手番角替りの趣向といえば、いつぞやの対森内戦を思い出すが、その将棋も上手く咎められて勝ち目がなかった。深浦プロの気合と趣向は、完全に噛み合うと周知の通り物凄い力を発揮するが、A級などでみせた趣向の空回り、のような場面を見せることもある。

そういう意味では本局の趣向はみているファンとしては楽しめたが、若干空回り感、凝らしすぎ感があったことは否めない。ここから先の羽生名人との焦眉において、上手く歯車が噛み合った戦いを繰り広げて、対羽生戦における互角の成績を維持継続するのか、或いは過去の羽生のライバルたちがそうだったように引き離されていくのか、このタイトル戦が一つの分水嶺になるような気がしている。


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