スナイプ 第69期順位戦A級7回戦 ▲丸山忠久九段-△三浦弘行八段


梅田望夫氏の「どうして羽生さんだけが、そんなに強いんですか?―現代将棋と進化の物語」において、三浦弘行プロの棋風の特徴を盟友である行方尚史プロが実に上手く表現している。曰く「狭いところで力を発揮する棋風である」と。

正確には。

三浦くんの場合には、大局観云々の茫洋とした局面には持って行きたくないんです。終盤の、玉が詰む詰まないという局面にとにかく早く持って行きたい。

(中略)本質的には三浦くんは、局地戦になると異常に力を発揮する人です。狭い、狭い、狭い局面に将棋を持って行きたい。できるだけ狭いところに持って行って、自分の力を出やすくしたい。

狭いところでの三浦くんの計算力は凄いですよ。三浦君ほど狭く狭く…とやっている人も、あんまり居ません。三浦君の局地戦戦略にハマってしまうともう出口はない。



本局は結果的に三浦弘行プロが、その特性を活かしきって居飛車党同士の後手番の不利を覆したといえる。

選択したのは振り飛車。丸山忠久プロは振り飛車には居飛穴とほぼ決まっている。それを狙い撃ちするような矢倉流中飛車

中盤のワカレは不明だが、42手目の△5一金左のヒラメ完成がこの戦法の基本方針。軽く軽く捌いて凌いで勝つ、というのが香落ち定跡などであるヒラメの心。

本局の飛車・角・銀の交換が生じる手順は脇システムのようであり、如何にも三浦弘行プロらしい。この将棋における準備がどの位あって、どこまで実現したのかは不明だが、いわゆる何かしらの準備に「ハマった」展開である可能性は高い。

同型、ではないが攻め味は似たような条件で玉形だけが穴熊とヒラメ美濃。普通に取り合うとどうなるのだろうか?と見ていたところで繰り出された六〇手目の自陣飛車が覚悟の一着だった。

そこからの手順もよく分からないのだが、ぱっと見では穴熊が遠く、またヒラメ美濃に銀を投入してダブル美濃にした後の二枚替えの味が悪く、また、△3五歩と遮断する手の味が良く、なんとなく先手がやれるのではないか?と思ったのだが、それは穴熊の信用か丸山の信用か。

小駒だけの攻めというのが如何にも穴熊。攻めは薄いがぎりぎり寄っているか?というところで指された最終手△6二金が末おそろしい一着だった。

なんとこの犠打で後手玉は寄らない。一段目に金を誘う底歩?で金を無力化する筋にも似た味わいだが、それが美濃囲いにおいて、横方向で出た、という印象。

超長距離からスコープ越しに相手を観る三浦弘行プロのスナイプが決まった瞬間だった。序盤から終局まで、全ての局面において、ミッションを遂行するために、自身が定義したコントロールされた条件を保ち続けたところに三浦弘行プロの持ち味が出ていた。

丸山忠久プロは最後まで得意パターンだったはずだ。苦しさを感じつつも、勝ちを意識した瞬間に繰り出された△6二金。瞬間、撃たれたことに気づく。この展開が、飛車打ちの局面で既に作られたものだったことに気づいたのだった。

これで両者3?4となった。やはりA級の戦いは一味ちがう。


どうして羽生さんだけが、そんなに強いんですか?―現代将棋と進化の物語どうして羽生さんだけが、そんなに強いんですか?―現代将棋と進化の物語
(2010/11/25)
梅田望夫

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三浦弘行プロの特徴はこの本に詳しい。行方尚史プロの嬉々とした語りが上手く再現されている。

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対穴熊戦における典型例の一つ 第60回NHK杯二回戦第九局 久保利明二冠vs西川和宏四段

ノーマル振り飛車の受け将棋といえば東の永瀬プロ、そして西の西川ジュニア。私は個人的に西川和宏四段が将来化けるのではないかと期待しているのだが、なんとも形容し難い不思議な味がある。

永瀬プロよりももっと昔からある正統派の角道を止める振り飛車。中田功プロのような切れ味系ではなく、小倉プロのようなじっくりコトコト良くしていく棋風。永瀬プロが受け潰しにこだわりを見せるのと比べるともう少しバランスの取れた感じはする。

今期の順位戦初戦の対中座戦などはその良さが現れている。

対する久保プロは後輩振り飛車党相手には居飛車、主に居飛車穴熊を用いる。本局はそのようにして、ノーマル振り飛車vs居飛穴という対戦となった。

第60回NHK杯二回戦第九局 久保利明二冠vs西川和宏四段

角道を塞いでの中飛車、昔ならばツノ銀からの風車という具合だが最近有力な指し方として本譜の「矢倉流中飛車」がある。これは関西の矢倉プロが好んで指す形で、当然久保プロも使い手の一人。酸いも甘いも噛み分けている。

四筋に飛車を振り直した手に対し、先手の方針としては浮き飛車か、守勢でも4八飛車と受ける方法とあるはず。本譜は前者で二筋の応酬の結果、後手が桂得を果たした。

同じ筋で大駒が向い合って勢力争いする将棋はそこで戦果を上げたほうが勝ちやすいとしたもので、54手目の局面では後手が悪いはずはない。

68手目時点では駒の損得はなく、飛車角交換となり、手番が先手、玉の堅さは先手ということでもしかするとここでは差が縮まっただけではなく、実戦的には先手が勝ちやすくなっている可能性まである。

その69手目の▲8八金がなんとも二冠の貫禄、という手。それに動揺したわけではないだろうが、70手目の△3八飛が、次の▲2九歩を見落とした疑問手だった気がする。飛車を取られては面白くないので、△1九竜。

△3八飛以降、先手の手が常に先のような雰囲気であり、109手目の馬を切ったところでは先手の穴熊が堅く無傷であり、先手がよくなっている。終わってみれば先手玉に王手も掛からない久保二冠の圧勝だった。

それにしても久保二冠の将棋というのは居飛車であっても逆側の桂香を捌くのだなあと感心した次第。


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