不調?経験値?相横歩取り 第84期棋聖戦第2局▲渡辺明vs△羽生善治棋聖

羽生さんが相横歩取りで勝った第84期棋聖戦第2局▲渡辺明vs△羽生善治棋聖について。

初戦は横歩取りで後手の渡辺明三冠がわりとあっさり負けた印象。前夜祭でも粘り強く行きたいと抱負を語っていた模様。

それにしても相横歩取りは驚きましたね。マイコミで北島忠雄先生が出されてる相横歩取りの本は割りと最新版で、ハメ手も網羅されてていいですよ。(マイコミ将棋BOOKS 乱戦!相横歩取り)。

私は電子版を20%オフセール、みたいな時に買いました。

プロの間では相横歩取りは最善を尽くせば先手が勝ちやすいだろう、とみている戦型だと思います。ただ本局はなんというか、渡辺明三冠が不調なのか、あるいは経験値の差なのか、もしくは土曜日といえば競馬の日なのでそれが気になって棋聖戦とはウマが合わないのか…。競馬だけにウマが合わないの・・・馬券かってほし~の(騎手の奥さんのなんとか風に。

相横歩取り。ポイントは四時間の短めの将棋、マイルよりちょっと短い将棋で、渡辺明の先手の準備にハマるのが嫌だ…という可能性はあります。

渡辺明号は基本的には先手ではやや逃げから先行するタイプの馬なので相手の研究にハマるよりは、ということだったのかもしれません。

というのも、渡辺明三冠が先手でこの形をやるときは▲7七桂とするだろうことは割りとタイプ的にも予想できるところなので、この先になんらか準備が羽生善治棋聖のほうにあるんじゃないか?と思っていたのですがなかったように感じました。

ポイントがあるとすれば、33手目の▲9六歩でしょうか。端の位をあえて後手が取らせる…というのが構想だったのかも?

あるいは、単に先手の端歩の突き越しが早かったか。割りと渡辺明三冠はこういう突き越しのチャンスがあると突き越すタイプのように思います。中住まいの端歩というのはどっちが玉側というわけではないので成果が難しいところですが、細い攻めの上手い渡辺明竜王としては、この7七桂馬との関連性でイケると見たのかもしれません。

後手の羽生善治プロは研究の生きにくい、力戦調の相横歩取りであくまでも曲線的に指します。激しい展開に先手が持ち込まないことを良い事?に、スピードの出る展開を避けてスローペースに持ち込みます。やや外側を回ってしまってロスした感じのある、9筋の突き越しでした。

角を打ち合って決戦の予感がするところが49手目の先手渡辺明三冠が飛車を8九に引いたところ。この時点では先手の端の突き越しが最早活きない展開になっています。

しかも、後手の3三金型が活きる展開。7-9筋で攻められても、玉が1-4筋方面に逃げられる…ということで序盤の望洋とした局面でおそらくこうなればいいな、と描いていた展開の一つに先手がはまりつつあった瞬間かもしれません。

本局のクライマックスは激しく攻め合ったなかで二度成らなかった先手の銀が69手目で▲6三銀と成ったところでしょうか。この成りで飛車回りを許してしまって…というところですが、しかし感想戦コメントの渡辺明三冠のコメントをみると、勝負どころはもっと手前にあったように思えます。

九筋の二手で足をロスした先手に対して急にスパートを掛けた後手が抜けだした…というのが真相でしょう。九筋を取りながら▲6五銀がちょっと欲張り過ぎた、という控え室コメントもありました。

個人的には64手目の△8六桂に▲7九歩では全く勝つ気がしません。竜王はこの桂馬で駄目だ、と思ったようですがそれでも逃げておいたほうが良かった…ということはないのでしょうか。感想戦コメントでも逃げても手数が伸びないと書いていたのでその通りなんでしょうけれども。

本譜は水面下の選択肢も、出現したものも、総て後手の3三金型という、活かしにくい形が活きる展開だった、ということで人間の構想力の勝利、経験値の勝利、ということなのでしょう。

羽生世代は相横歩取りどころか、ヘタするともっと古い横歩取りの変化をプロの実戦として経験しているわけで、まだまだそういう経験値の戦いにたまに持ち込まれると、若手はそれに対応しきれない…ということがあるということでしょうか。

昔もそういうベテランと若手の対戦における経験値勝負、というのはあったような気がします。羽生世代が定跡の整備によってそういうものを撲滅させたという印象が私にはありますが、その第一人者によって更に古い定跡を掘り起こす作業が始まっているのかと思うと面白いなと。

私は相横歩取りといえば、北浜新手を懐かしく覚えています。羽生の頭脳に挑戦したあの勝負ですね。

果たして本局は不調によるものなのか、あるいは経験値の差だったのか。

見るファンとしては、あの3三金が終盤までこのようにして活躍する将棋なのか!とよく出来たプロットのように味わうことができると思いました。





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(2011/02/16)
北島 忠雄

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