決戦のとき 第83期棋聖戦決勝T 渡辺明vs糸谷哲郎

携帯中継で行われた、棋聖戦決勝トーナメントの渡辺明vs糸谷哲郎を振り返ります。

振り駒で糸谷哲郎が後手、ということで一手損角替わりは確定。あとは、その作戦がどのぐらい新しいか?&成功するか?だが。

最近の一手損はそろそろその奥行きのなさが認知されつつあるように思う。盲人が触っている象はどうやらそれほど大きくなかったようだ。

棋譜について細かく触れずに戦型表現すると、一手損角換わりの先手早繰り銀に対して、後手が飛車先を突かずに相腰掛け銀早繰り銀に持ち込んだ。かつ先手の銀の進出に対して飛車を四間に振る、という最近糸谷がよく見せている作戦。

玉がまとめにくいのが弱点で、右も左もあるし、本譜のように居玉もある。手損を8筋の不突きと居玉でカバーしてしまおうという作戦。対する先手も囲いは省略し、ボナンザ囲いで戦ってしまう、まであるところ。このへんは前回の竜王戦、対丸山忠久戦で、渡辺明竜王が見せている。

糸谷哲郎プロの工夫は△6四角にあった。角筋受け難し、であり、早繰り銀によって開いた飛車のコビンを狙うという意味では理に適っている。ここからは後手の攻め、先手の受けという展開に。

渡辺明の将棋を見るときには、広瀬章人の将棋で角に注目すべきであるように、飛車先の突き捨てタイミングに注目してほしい。本譜は、三七手目ででるのだが、この手がちゃんと終盤に効いてくる。

後手はそもそも無理をしている。そこに無理を重ねて、駒損を承知で飛車を成り込む。果たしてこの攻めが成立しているのかどうか。パッと見はやや無理攻めのように思われる。

ただ、策士の渡辺明に対しては羽生善治をして後手番でこういう作戦を採ることがあるし、普通に組み合っては勝ち目がないというのが共通認識なのかもしれない。

47手目、駒損で飛車を成り込んだ後手の糸谷哲郎に対し、じっと金を引いた渡辺竜王の構想が見事だった。パッと見は、攻めの銀と角が捌けて歩が四枚手持ち、しかも先手は歩切れなので難しいところ。少なくとも手番を生かして何かやりたいところだろう。そこでじっと手渡し。

個人的には△2五銀などで、飛車を苛めたかったのだがいじめ切れないのだろうか?

竜が自陣に戻ったところからは、既に後手が粘っている雰囲気すらあるように思う。で、恐ろしいことに途中で先手玉が自ら後手の攻め駒を取り切ったところで、先手の勝ちになっていた。

前述の飛車先の突き捨てをしっかり活かしきった渡辺明竜王の鋭い寄せが炸裂して、先手圧勝。

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この将棋でわかるのは「駒損将棋というのは燃料を捨てながら、得られた軽量化で加速するようなもの」であるということだろうか。

駒損将棋でちょっと優勢になっても緩まず、逆に駒得で守勢に立たされても諦めずに指そうという気持ちになることができた。

イカガ?(´・ω・`)つ 将棋新理論 (最強将棋塾)


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一手損の勘所 第60回NHK杯二回戦第六局 村山慈明vs糸谷哲郎

例によって棋譜のみ確認。

若手実力者同士の対戦。定跡派と実戦派という印象があるかもしれないが、実は糸谷プロの将棋は深い研究と研究将棋の圧倒的な練習量に裏打ちされた故の早指しだ。(周知の事実ですか)。特に一手損と対中飛車の3七銀戦法は相当深く研究している印象がある。「直感は経験の集積から成る分析」とは如何にも哲学科の学生らしい言葉だが、まさにそれを体現した将棋だろう。

村山プロはここ数年悪くない成績だがイマイチ突き抜けない感があって、一ファンとしてはヤキモキするものがあるが、今年は好調。順位戦での当たりが悪くないこともあって、既に一敗はしているものの、昇級候補と見ている。

戦型は一手損になった。私も自分が指すときの後手番戦術のメインは一手損で、一手損では専ら後手番を持つ(序盤の手順の関係で先手番では一手損にならない)。

一手損の早繰り銀は先手番の対策としてプロアマ問わずに一番用いられていると思う。理由としては、相腰掛け銀では飛車先保留がシャク、棒銀だと簡単には良くなるイメージがないのに対し、早繰り銀だと後手番は居玉で受けることが多く、気分が良いのではないか。

後手番としても、一番嫌なのが早繰り銀だと思うがどうだろうか?後手の思想としては居飛車でやる場合は、銀交換をする寸前に5五角を打つか、銀交換を甘受してから反撃するかに対策がわかれる。

角をすぐ手放す順は瞬間的には歩で受けさせて気分が良いものの、その後の展開でそれほど面白くないという印象で、プロでは素直に銀交換することが多い。そして32手目に何を指すか、32手目以降にどういう構想を示すか、というのがポイント。

基本的にはどこで何をやっても本譜のように飛車のコビンを狙う将棋になる。早繰り銀はこの弱点が生じるのであまり良い戦法ではないと思うのだが、後手も玉を囲うところがなくお互い様ということになる。

私は糸谷流右玉と一手損を愛用しているので分かるのだが、どちらの戦型も飛車があまり活躍しない将棋で、角と居飛車党にとっては通常守り駒であるはずの左側の銀・桂馬をうまく使う必要がある。振り飛車の最先端が戸辺プロのグラウンド勝負に持ち込むようなものだとすると、相居飛車における最先端もまた、最強の駒である飛車を使わずに戦わなければ生き残れない。

詳しくない人や一手損をやらない人からみれば、後手陣はとても不安定に見えると思うのだが、飛車の横利きというのが如何に強力か、というのが右玉や一手損をやると分かる。
本譜の32手目、銀を出る手順は恐らく最新型。従来は桂馬を3三に跳ねたり、歩を3六に垂らしたり、6筋の歩を伸ばしたりしていた。本譜も結局は同じことをやるのだが、桂馬や歩は後戻り出来ないので、銀からのほうが柔軟性がある。

ちなみに本譜は▲7七銀と壁銀を直したが代わりに▲7九玉もあるところ。後手は8筋の歩を替えることが出来る状況でもやらないほうが良いことが多い。歩交換というのは1歩を得る代わりに1手を費やすということであり、一手損でぎりぎりの状況である後手としては、致命的な遅れになる懸念があるからだ。

本譜の37手目、▲5五銀は定跡なのだろうか?ちょっと味の良くない手ではある。△6五歩に対応した▲6四銀と打ち込む定跡もあるが、それよりもイケテない気がする。折角交換した攻めの銀をここに投入して具体的な戦果があげられるのかどうか。

この手に対する後手糸谷プロの応手が挑発的とも言える強気な手順で感心した。47手目の局面、一手損を指す人間でも生きた心地がしない状況となっている。この場面だけ見ると流石に先手の攻めのほうが速そうに見える。後手は居玉、先手は二枚矢倉があって8八の安全地帯がある。しかしここからの指し回しが如何にも一手損、というものだった。

53手目の局面、一目先手の攻めの方が速そうだったが、54手目△3五飛車が盤上唯一の好手。これしかシノギがない、という手。王手で金を取って、玉を逃がすが返す刀で角を取る。

61手目の局面。手番は後手、玉形は先手、駒割は▲銀△角桂で後手。棋理としては後手が良さそうだが、自陣に飛車がいるので先手玉に8八まで逃げられるとまず勝てない。

そんな局面で指された62手目の△6二玉が、この戦型を知り尽くした糸谷プロならではの手で勉強になった。6三に駒を置かれるとマズイというのは経験としても知っているし、理解出来るものの、この局面で玉を上がる、ということが出来るかどうかというと、プロは一目なのかもしれないが、私には出来ない。この戦型では居玉が基本で玉がこっち側に逃げて勝ち、とか6三の地点が鍵になる変化が必ず水面下に出てくるのでこの手はかなり参考になった。

66手目の△3六角が前述の6三の地点をケアしつつの攻防で、もしかすると勝利打点な手かもしれないが、その後の手順もすれすれのシノギだ。72手目のしれっと△1二香も凄い。銀を入手して、角とのコンビネーションで再度の腹銀が狙いだが先手に二枚飛車を許すのでかなり怖い。

76手目の△3二歩も凄い(さっきから凄いしか書いてないが…)。にわかには意味が分からなかったが、飛車を一路ずらすことにより、2四龍などの王手の筋を無くしているのだと思う。6二に逃げた玉が、3二歩を利かせてから今度は5三から入玉してくる構想というのは非凡以外の何者でもない。

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何度再生しなおしても先後の玉の安定度がパッと見ではどう考えても先手なのに対して、飛車もないのに先手玉を寄せ切ってしまう糸谷プロ。寄りそうなのに何故か寄らない後手玉を操る糸谷プロの指し回しに驚いてしまう。

後手一手損戦法は良い戦法かといえば、これぐらいの秘術を尽くしてようやく勝てる、というものであり、基本的には目くらましであり、そのうち解明されつくしてしまうのだろうな、という印象がある。

ただし、先手の早繰り銀がシンプルすぎて、後手に攻め駒と分かりやすい攻め筋を与えすぎている可能性もある。元々早繰り銀に対して玉を囲う手というのは戦場に近づいている意味があり、手損の代償が居玉というのは、実はプラスになっている可能性がある。相腰掛け銀における8五歩の留保と同じ意味だ。

そう考えると一手損が解明されたときに先手が用いる戦法は早繰り銀ではない可能性もあるのだろう。

前期は決勝で羽生名人に敗れた糸谷プロだが今期はどこまで突き抜けるのだろうか。それと今期は是非C1への昇級を決めて欲しいと思う。

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第60回NHK杯一回戦第十四局 日浦市郎八段vs松尾歩七段

第60回NHK杯一回戦第十四局 日浦市郎八段vs松尾歩七段

横歩取り模様に進んだが序盤で日浦プロが変化球を投げる。7手目の9六歩がそれ。後手中座飛車のスペシャリストである松尾プロに早指しで指す気がしなかったのだろう。また、用意していた作戦に限定するという意味もあったか。

その後の構想は一手損で先後を入れ替えての一手損だった。一手損の後手番自体、それほど勝率の良い戦法ではないので、そこまでしてやるべきかどうか?というのは、プロとしては恐らくYESという答えはない。

ただし、昨日のアマプロ一〇戦の感想でも書いたが、短い時間の将棋においてはどれだけ自分の土俵に持ち込めるか?だけでも勝負になるケースはある。羽生名人は「将棋世界 2010年 08月号 [雑誌]」において、相手の得意形を避けない理由について述べていたが、あの境地に誰もがとどまれるわけではない。

日浦プロも実力者だが、松尾プロの強さを認めた上で本気で勝ちに行ったが故の「猫だまし」だと思って愉しむのが良さそうだ。

一手損における端歩というのは本当に難しい。本局もその微妙な駆け引きについて、プロのこの戦型の専門家に解説してもらわないと分からないが、後手は居玉のほうが良いと思っていることだけは分かった。

後手「9六歩を咎める意味で、棒銀で端を破りますよ」
先手「では3七銀型で、将来の香車打ちの筋を受けます」
後手「それじゃあ仕方ないので早繰り銀に行きます」

という具合。

そこからの手順は一手損における早繰り銀vs腰掛け銀に似ているが、腰掛け銀側が一路ずれた形であり、なによりも先後逆、ということで通常の形との損得がよく分からない。先手の37手目の3七角は、腰掛け銀模様ではある思想に似ており、4筋の歩を突いていない分少し得だが、銀が角道に入っていて通常型よりも得な印象はない。

38手目に7三歩と受けたのもそういうところが関係していそうで、通常であれば勿体無い歩だが、先手の構想を無理じゃないですか?と聞いているような手に見えた。3七角に本局の命運を託した日浦プロだったが、松尾プロに正確に応じられ、5五に角を打たれたあたりでは後手が良さそうだ。

それにしても、最後の構想は素晴らしく、5筋の歩が無くなったことを活用して見事に寄せ切った。先手は成り駒を後手陣玉頭方面に生産することは出来たものの、後手の両方の金と飛車の横利きが強靭で、寄せる手段が見えない。

反対に先手玉は、成駒を作った代償に後手から歩で手にされてしまい、攻めの飛車もフーテンよろしく、さまよう展開に。後手勝ちだがこの一本しかない、という綱渡り芸だったが、本職のプロにとっては造作も無いこと、というようにノーミスで乗り切った。

将棋にはギリギリの差だが決して間違わないものと、離れているが一度転ぶと徐々にではあるが確実に差が詰まっていくような印象のものとがあるが、本局はプロレベルにおいては前者だったのかもしれない。

そもそも、通常の一手損において、何故早繰り銀対腰掛け銀なのか?といえば、手損した状態で、先手の早繰り銀や棒銀に対して、同じ速攻策を採るのは勝てないから、という話であり、本局はその具体例だったのかもしれない。

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基本的にはリアルタイムでの将棋観戦中に思ったことを書き溜めつつ、対局終了後の感想を付け加えて、将棋対局のあった翌日の朝7時頃にアップされるように将棋観戦記を予約投稿しています。「一日一観戦記」をモットーにしているので、同日にネット中継が重なった場合は、対局の重要度を個人的に評価して観戦記の投稿日を調整しています。

将棋観戦中に書き始め、対局が終了すると思われるところから観戦記を完成させていることが多いです。文章内の形勢判断は個人的主観によるもので、観戦中の控え室のプロの意見を取り入れず、将棋ソフトの解析を行なっていないため、形勢判断が正しくない可能性があります。

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