将棋とミレニアム問題 「完全なる証明 著:マーシャ・ガッセン」

もし貴方が、小さいころ奨励会を志していたり、あるいは奨励会に入ったものの、志半ばで諦めた(しかしそれほど心の痛手にはなっていない)、もしくは単純に将棋指しという人間の在りかたに興味を持つのであれば、絶対に読んで面白い本は、数学界について書かれた、そして人間ドラマとしても優れているいくつかの著作だろう。

今回は、そういう意味で、将棋とは直接関係しないものの、先日(といっても相当前なのだが…)購入した「完全なる証明」という書籍について是非ご紹介させていただきたい。


完全なる証明完全なる証明
(2009/11/12)
マーシャ・ガッセン

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上記の書籍に記されている数学者を語る様々な表現のすべてについて、「これは将棋棋士の場合、どのような将棋の概念に当てはまるのだろうか?」と思いながら読むと、二倍楽しめることを保証する。

例えばこのようなくだりがある。

数学者には幾何学者と代数者の二通りある。前者はすべての問題を図形・イメージで考える。後者は全て数式で考える。

将棋指しには大きく分けて振り飛車党と居飛車党の二通りがある。前者は横の将棋であり、後者は縦の将棋である。

このようなこじ付けが、いたるところで出来るので面白いのだ(将棋脳と揶揄されそうだが・・・)。

また、小さな頃に選抜されて、選び抜かれたチャンピオン(国際数学オリンピックの優勝者)がそのまま数学者となっていく過程がやはり将棋と同じであり、かつ裾野、競技人口が遥かに多いことが面白さを増幅させているように感じる。また、才能のある子どもたちを見出し伸ばす大人たちの存在がアマチュア界の指導者を思い出させる。

そのような世界においても、女性の超有名な数学者というのが存在しないことと、女流将棋プロと男性プロの違いを考えると、性差とも言うべき、脳の構造の違いあるのではないか?という気がしなくもないのだがどうだろう?或いは将棋界と同様に、女性の絶対数が少ないこと、その数的優位にある男性側の無意識の作用によりそういう状態が出てくるのだろうか。それとも女性としての育てられ方が影響しているのだろうか。サイコパスの殆どが男性なのと裏表なのか?それは文化的なものに起因するのか生物学的な問題なのか?等など、このことだけでも一晩の酒のツマミになりそうなテーマだ。

この本で触れられているある天才、グリゴリー・ペレルマンを評して、自身を代数者と考えるA氏はこの天才を「彼は幾何学者であろう」と語った。また自身を幾何学者だと考えるB者は「彼は代数者であろう」と語っている。

しつこく将棋に置き換えるならば、ある天才を評して、自身を振り飛車党と考える久保氏は、「彼は居飛車党だろう」と語り、居飛車党の渡辺氏は「彼は振り飛車党だろう」と答えているようなものだろうか。


また、別の観点において将棋指しを二つに区分することが可能である。一つは盤面上で手を読み進めるタイプと、そらで手を読み進めるタイプ。虚空を見つめ細かい分岐を精読するプロ棋士の姿を知っている。

この本の主人公であるグリゴリー・ペレルマンミレニアム問題と呼ばれる幾つかの難問のうちの一つである「ポアンカレ予想」を証明した。その功績を評価されて与えられた「数学界のノーベル賞」と言われているフィールズ賞を拒否し、証明すると貰えることになっていた多額の賞金(100万ドル)を拒否するだろうといわれている。

グリゴリー・ペレルマンが問題を解くときの特徴的な動き、スタイルがあるのだが、その雰囲気がとても詰将棋を解く際のプロ棋士の姿として思い浮かべるととても馴染む。

…というように全てを将棋に置き換えても楽しめますし、単に読んで行っても普通に楽しめます。私はこの手の本を好んで読むのですが、この手の人間の振る舞いとしての面白さ、その能力の高さに対する尊敬の念、その実力(実績)の具体的な部分は分からないものの、紹介者(著者・観戦記者)の文章力により、その一端を垣間見ることにより感じる面白さ、などが将棋と似ているように思うのです。

定跡や将棋の終盤術の意味は理解できない(その証明の解法や証明の意味は分からない)が、その行い・功績が素晴らしいということは分かる、というように。

もしかすると、この著者マーシャ・ガッセンが、元々数学オリンピックの優勝者であり、その道を目指した人であることも関係しているような気がしています。丁度将棋界の観戦記者の方々も似たような、学生名人であったり元その道のプロを志した方であったり。

その道を極めんと、また、数学(将棋)を愛してやまない人間が、天才と私の間にある深くて幅の広い隔たりをつなぐための架け橋となってくれているようなイメージを私は持ちます。

以上、将棋的な楽しみ方が出来る、というアプローチでの「完全なる証明」の紹介でした。

関連するタグ グリゴリー・ペレルマン ミレニアム問題 将棋 数学

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基本的にはリアルタイムでの将棋観戦中に思ったことを書き溜めつつ、対局終了後の感想を付け加えて、将棋対局のあった翌日の朝7時頃にアップされるように将棋観戦記を予約投稿しています。「一日一観戦記」をモットーにしているので、同日にネット中継が重なった場合は、対局の重要度を個人的に評価して観戦記の投稿日を調整しています。

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