咎められるべき手と控えめな好手 将棋世界2010年7月号の感想

毎月書いているので今月も「将棋世界 2010年 07月号 [雑誌]送料無料です」の感想を記す。


第68期名人戦七番勝負[第4局]大逆転の防衛劇 観戦記:大川慎太郎
大きな棋戦になればなるほど、ネット中継も充実しており、新聞や専門誌は難しくなる。悪い観戦記では勿論ないのだが…。個人的には44角打ちに対する選択肢、寄せに行かない場合の情報が欲しかった。43金と打てば32歩成の両王手に強く同玉と取ってどうか。…と思いましたが22に金打たれて再度32歩が詰めろですね。失礼しました。

序盤、私の疑問が解消される話が載っていてよかった。私の観戦中の疑問は「▲47銀に△23銀だとして、すぐに▲24歩という手はないのでしょうか?それを嫌だと△24歩では▲同飛で、桂馬のはねるところがないか。(△46歩に▲同角で空振り)。となるとしゃがみのままで行くしか無い?あと△25に歩を打って▲24に垂らされるような将棋が矢内さんのであったような。」。自己レスとしては「そうか。封じて▲47銀に対して、△23銀としても全然大丈夫なんですね。▲24歩ならかわしておいて、次の手が無いので24歩は無いでしょうと。そうすると少し組合うんですか?」。

しかし本譜の展開を思えば、激しく行くしかなかったようです。私は角交換するこの形は後手を持って面白くないと思うのですが、三浦プロの33桂馬からの角交換拒否は本譜の展開になるのであれば相当に有力ではないかと。したがってやはり先手は強く行く▲24歩の筋を掘り下げたいと思いますが、その手順に不安が残る場合、一手損の手順で5手目に▲78金が指せなくなるんですね。

もし9Pで示された手順が想定正着なのであれば、個人的には後手を持ちたい。プロならいざ知らずアマだと後手のほうが指し易い、方針が立てやすいと思う。

最近のプロ棋戦において、5手目78金が省略される形で一手損に進む理由としては、名人戦第四局が確実に関係していると私は思います。(あとは坂田流もあります)。そういう意味ではこの第四局というのは重要な将棋になっているのではないでしょうか。



【対談】久保利明二冠×谷川浩司九段 ツートップ、関西新時代を語る 司会:鈴木宏彦
これは観る指すどちらのファンにも面白い話ではないでしょうか。巻頭カラーはこういう、どちらのファンでも楽しめるインタビューがあるのは良いと思います。スポーツ雑誌を参考にすれば自ずと、という話ですね。スポーツ雑誌は技術論が載ることもありますが、どちらかと言えば観るファン重視のことが多いでしょうし。



第68期名人戦七番勝負 羽生善治名人×三浦弘行八段
 【第3局】 二転三転、極限の終盤戦 観戦記:伊藤能五段

速報性としての意義が以前よりも一層薄れていることを考えれば、この結論を先に持ってくるという書き方は今後より多く出てくるであろう。録画した野球中継を結論を知らずに楽しみたい時は別にして、本号のように防衛が決まってしまったことが知れ渡った後の観戦記であれば尚更。あとは鬼六組であるところの伊藤能プロならではの裏話もあり楽しめました。詳しくは団鬼六先生のブログの「名人戦」を御覧下さい。


 【第2局】 エッセイ 研究の功罪 文:梅田望夫  
今回はじめて気づいた気がするのですが、文:誰それ、という場合と観戦記:誰それ、となっている場合があるのですね。今回でいうと梅田さんと一瀬さんのがそうなっています。基準はなんなのだろうか?どちらも広くは観戦記だと思うのですが。本業が将棋観戦記者か将棋プロの場合は観戦記で、他の人は文ということなのでしょうか?たとえば昔の菊池寛や山口瞳が書いた場合も「文:」を用いるような感じだったのでしょうか?些細なことで特に他意はないのですが、純粋に素朴に気になりました。

梅田氏のこの記事の評価や補足については、別途「名人戦第二局の封じ手をめぐって」「男の黒ミントキャンデーが美味しい日」をご覧いただきたい。どれも素晴らしい考察だと思う。これらが示すのはスポーツライター等である手法、例えば、「江夏の21球(LDとVHSしか出てないのですか…)」のような手法だろうか。

指すファンであっても観るファン視点というのはあるわけで、その時にこういった一手の周辺事情を拡大していくという手法は有効だと思う。異業種からの参入がその世界を活性化させるということはよくある話なので、この試みが触媒となって、新たな動きが将棋専門誌(紙)に起こって欲しいと考えている。もっと過激なことをいえば、これらは疑問手である可能性もあるということだ。プロである方々はこれを上回る好手を指すことが求められている。


第21期女流王位戦五番勝負[第1局] 清水市代女流王位×甲斐智美女王 勢いと経験 文:一瀬浩司
一瀬氏が編集部に入った理由をいつぞやの将棋世界の「観戦記」で理解した(棋力が高い上に文章が上手い)のだが、本記事も良いと思う。個性とアクは裏表であり、特に編集部の人の場合、それがある人には好意的に捉えられ、ある人には不評となることがある。そういうリスクを感じさせない、誰が読んでも良質な観戦記だと思う。奇抜な面白みはないが、編集部の書く文章にそれは求められていないという意味において最善手だと思う。

この将棋は鈴木大介プロが解説だったということもあり、リアルタイムでは相当に面白い解説ぶりが聞こえていたのだが、そのエッセンスを上手く取り入れつつも上品に仕上げている(鈴木プロが下品という意味ではありません。。)



リレー自戦記 [第25回]甲斐智美女王 第3期マイナビ女子オープン五番勝負第3局 VS矢内理絵子「初タイトルを獲って」
失礼ながら、口元が緩んでしまった。なんと愛らしい文章だろうか。ですます体と解説部分の切り替わり具合というか、解説部分においても甲斐女王がどのような性格なのか、というのがよくわかる気にさせられる文章。若かりし頃、クラスにこういうタイプの女子がいたなあ、あの子は今どうしているだろうか、というような昔の記憶に思いを馳せることにもなった。


逆転の心得[鈴木大介八段編1]
この連載?はかなり私は好きです。このシリーズ、書籍化まであります。前回の深浦プロのも良かったですが、今回のは最良レベル。鈴木大介プロのエピソードで面白いものは沢山あるのだが、中でも私が好きな話の一つとして、子供の頃、自分の星取表を記して、勝率を計算していた、というようなものがある。そういうタイプの人は自分の必殺技とか奥義とか、ゲーム感覚(まあゲームな訳ですが)で自分の将棋観を言語化することを楽しんでいることが多いと思う。

鈴木大介プロの解説の面白さはそういう専門用語に偏らずに咀嚼消化された上での鈴木語録の面白さによるところが大きい。しかもためになる。面白くてためになるとあれば、鈴木プロの書籍があれだけ出ている理由も納得できるというもの。


突き抜ける!現代将棋 第10回 ゴキ中愛の声を聞け! 講師:勝又清和 構成:浅川浩
これは観る指すどちらのファンにも面白い回に仕上がっている。本号のMVP候補。講座の途中のコーヒーブレイク的な位置づけ。とはいえしっかりポイント図は記されており、その場面からの手順をなぞるだけでも勉強になります。


将棋世界企画 真剣勝負! 東西対抗フレッシュ勝ち抜き戦[最終戦]渡辺明竜王VS久保利明棋王・王将 東西の意地、ここに集結す  構成・観戦記:鈴木宏彦
遂に決着した東西戦。戦型がアマチュアとしては注目すべきものであり、渡辺竜王の対策がいかにもらしい。これをみて、対広瀬戦の構えとの共通項を思い出した。キーワードは後回し。現代将棋においては後回しが常にテーマとなっていることを実感させられる手順だった。終盤が対抗型ならではの、アマでも場面認識が出来てなおかつ面白いものなので一度は変化も含めてなぞっておきたい棋譜になっている。


感想戦後の感想 「第59回」野月浩貴七段 高橋呉郎
これもそろそろ書籍化してくれませんでしょうか。どこかで。いつも毎回楽しく読んでいます。


関西棋界みてある記 東和男
ふと気づくと、このタイプの河口さん風?の観戦記はここだけになってしまった。確かに変化は必要だし、老人風のいかがなものか論調のものが重要な位置を占めているのは宜しく無い。その点、東プロの、関西特有の?軽妙さがあるので毎回美味しく楽しく読むことが出来ている。

別冊付録:第16回升田賞 飯島流引き角戦法 飯島栄治六段
そういえばこれはまだ読んでいない。どこに置いたか…と探して発見。良かった。



金井・長岡の順位戦大予想
恒例のこの予想、口は災いの元コンビから誠実堅実なコンビにと変更になった。来期は関西若手でどうでしょうか?

柔らかすぎて面白みに欠ける、という意見もあるかもしれないが私はこのぐらいが丁度良いと思う。一番面白かったのはやはり橋本プロに対する声援?だろう。特に長岡プロは前期の橋本プロによる評を覚えている人にとっては味わい深い大人の一着だと思う。嫌味なのかどうなのかが分からないぐらいのスレスレのニュアンスで書かれるべきコーナーだと思う。(蛇足だが長岡プロに嫌味の意図は全くないだろう)。

これを読んでも目立つのが金井プロの性格の良さ。親御さんの躾が良かったのだろう…と書くと前年・前々年のコンビの親族の方々に怒られそうだが、この前向きなポジティブな性格というのが、こういう勝負事の世界では重要だと思う。努力しつづける、直向さを維持しつづけるのも一つの才能だからだ。


名局セレクション
これは佐々木慎プロの選局がナイスですね。まだ並べてませんが、必ず並べたいと思います。例の小泉三段の初手58玉です。


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「将棋観戦記」というブログで、プロ棋士の将棋を観戦して思ったことを記しています。棋力はありませんが、将棋観戦の楽しさを一人でも多くの人に知ってもらい、「観る将棋ファン」を増やすために貢献できればと思います。主に順位戦速報・タイトル戦等、ネット中継されている将棋を中心に将棋観戦記を書いています。棋譜・符号はなるべく用いずに、将棋のルールが分からない人でも、将棋の勝負の面白みが伝わるように努力します。

基本的にはリアルタイムでの将棋観戦中に思ったことを書き溜めつつ、対局終了後の感想を付け加えて、将棋対局のあった翌日の朝7時頃にアップされるように将棋観戦記を予約投稿しています。「一日一観戦記」をモットーにしているので、同日にネット中継が重なった場合は、対局の重要度を個人的に評価して観戦記の投稿日を調整しています。

将棋観戦中に書き始め、対局が終了すると思われるところから観戦記を完成させていることが多いです。文章内の形勢判断は個人的主観によるもので、観戦中の控え室のプロの意見を取り入れず、将棋ソフトの解析を行なっていないため、形勢判断が正しくない可能性があります。

また、あまり推敲することなく投稿しているので、観戦記内に誤字脱字、情報の誤りがある場合があります。お気づきの場合はコメント欄にてご指摘いただけると助かります。早急に訂正させていただきます。

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