左?右?変幻自在の佐藤康光玉 第4回朝日杯二次予選 ▲佐藤康光?△田中悠一

この日は午前二局、午後一局あり、どれも面白かった。元?振り飛車党の鈴木大介プロが田中悠一プロの石田流を受ける展開というのも、対抗形好きにはたまらないものがあるし、先崎学プロがケレン味たっぷりの、そして佐藤康光流を模倣したような序盤戦術に対して、本家?の佐藤康光プロが速攻で破る将棋も凄かった。

しかし右玉党としては、やはりこの将棋を取り上げたい。

第4回朝日杯二次予選 ▲佐藤康光?△田中悠一

先手の佐藤康光プロが後手田中悠一プロのゴキゲン中飛車に対して、佐藤流の自ら角交換をして端歩をつく作戦を採った。

この手順をみてマニアな将棋ファンはもしや?!と思ったはず。そう、将棋世界 2010年 12月号 [雑誌]のお好み対局、里見香奈戦で見せた、あの変態戦法が出るのではないか?という。

そして、佐藤康光プロが期待を裏切らずにその戦法がお目見えした。

盤面画像を用いずにその戦型の姿を説明すると。金銀の位置関係でいうと「清野流岐阜戦法」に似てなくも無い…と書いて分かる人には説明が不要だろう…。

金銀の連携はとても良い。銀二枚が6七と4七、金が5八と3八にある。丁度二枚の銀を一段下げて、一路右にずらした位置に金がある感じ。そして一段飛車が銀の割り打ちなどを防ぎ、桂馬が二枚とも跳ねている。

問題は玉の位置。玉が金二枚の間、4八に居ればこれは戦型としての良し悪しは別にして右玉と呼ばれる作戦になる。

しかしこの作戦における佐藤玉は6八の地点に居る。対ゴキゲン中飛車、佐藤康光流角交換型左玉戦法と呼べばよいだろうか。

この戦い方における先手の主張点は何だろうか。一つは後手の△2五桂ポンが無いことだろう。対ゴキゲン中飛車における佐藤新手の▲9六歩が最近指されなくなった理由は片銀冠+4四銀+3三桂馬の形からの後手のシンプルな攻めが五月蝿いということにあった。
とりあえず本譜の手順で玉を囲い、▲3八金と備えられれば前述の攻めは無い。ただとりあえずの目的としてはそれしかないようにも見える。ここからどうするのか?と見ていると、飛車を八筋に転回しての玉頭攻撃を行ったのだった。

こうなってみるといわゆる高田流などの左玉と同じであり、かつ通常の?左玉よりも右翼方面での関係において得をしている。

これらの得、高田流よりも得、従来の▲9六歩以降の形よりも得というのは局所的にみれば確かに得なのだが、広く対ゴキゲン中飛車として眺めるとこの「佐藤康光流角交換型左玉戦法」よりも分かりやすい戦法は沢山あるように思う。

よって恐らくはこの戦法は、一手損における「佐藤康光流▲2五歩位取り向かい飛車」同様にあまり流行らないだろう。

流行らないとは思うが、「佐藤康光流▲2五歩位取り向かい飛車」もしばらく愛用していた私としては、この作戦も試したいとも思う。

この独創性、一目変態的であってもちゃんと理路整然としている、人の目を気にせず独自の狭いところの棋理を追求していて、凄く得ではないにしろ成立している、という戦型を掘り下げる佐藤康光プロの姿勢を尊敬する。

藤井猛プロや佐藤康光プロのこういう姿勢が将棋を豊かなものにしてくれているのではないか。…というとカッコつけすぎで、単に私が用いる序盤戦術からの派生が容易であり、相手の得意形ではないことが明確だからである。そういう意味で、アマ向きだと思う。

後手がじっくりした関係で、先手の指し手が難しくなったのが58手目の局面。右玉系の将棋にいえるのは、両方の桂馬が攻め駒であり、出来るだけこの二枚の桂馬に働いてもらうのが重要ということ。

場合によっては(例えば相手が歩切れであれば)歩との交換や、単に取られること(例えば3七の桂馬を取らせている隙に寄せる)すら好手であることがある。

ということで桂馬交換の戦果に満足してヤドカリよろしく▲5七玉、▲4八玉とお引越しするのだった。ようやく先手玉の終の棲家を見つけた佐藤康光プロは63手目、▲2四歩から攻撃を開始する。

そこからのいちゃもんのつけ方は、角交換将棋ではありがちな展開。ちょっと気分が良いがこれで直ぐに良くするのはなかなか難しい。

本譜は桂馬を全部手にしてからの手順が流石だった。私的右玉の心得としては。兎に角桂馬を全部捌く。桂馬を沢山手にしたらまず使い切ることを考える。というものがあるのだが、本譜の佐藤プロの指し方をみて、その考えが正しかったことが分かった。

飛車角成り込んで桂馬を三枚後手に押し付けたところでは先手勝勢。そこからの寄せも淀みなく佐藤康光プロの完勝だった。

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振り飛車党側の気持ちにたって考えると。こういうマイナー戦法のために有限な研究時間を割くことは馬鹿らしいだろうから、それほど深掘りしないだろう。そもそも深掘りしがいのない(力戦調なので直ぐ逸れる)ので、初見で対応するだろう。

そうなると、こっち(右玉やら左玉やらをやる側)としては、逆に研究する価値はある。ゴキゲンが確定して局面を限定しやすいという意味ではアマでこそ流行りそうな戦法のような気がする。今でもアマでは相居飛車・対抗形かかわらず右玉が多いので。


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(2010/11/02)
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現時点で、佐藤康光プロによる対ゴキゲン中飛車、角交換型左玉戦法についての細かい解説がされている棋譜が存在するのは上記の将棋世界しかない。

対振り飛車の糸谷流右玉の講座が載っている将棋世界が未だに重要であるように、上記の将棋世界も重要になる可能性があるので気になっている方は購入検討の余地があると思う。

関連するタグ ゴキゲン中飛車 左玉 右玉 佐藤康光 田中悠一 里見香奈 藤井猛

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玉頭突き越し向かい飛車への反撃 第18期銀河戦本戦T Dブロック11回戦 佐藤康光九段 vs 山崎隆之七段

第18期銀河戦本戦T Dブロック11回戦 佐藤康光九段 vs 山崎隆之七段

最近知った銀河戦の棋譜についての感想。棋譜はこのあたりで。

二人の対戦成績は分からないが、直近では何かのタイトル戦の挑戦者決定戦で佐藤プロが勝っていたように思う。棋王戦だったか。

本局は山崎隆之が後手番ということで一手損角換わりの後手早繰り銀vsに進む…がしかしそこは佐藤康光。並の将棋にはならない。実は大和証券杯ではじめて佐藤プロがみせたこの趣向だが、2筋から反撃してくる構想は初めてのような気がする。逆襲されて詰まらないようだが、後手の銀の位置が上ずったものになるのと、正すと手数が掛かるので案外やれる、というのが愛用者である私の実感。

先手はもはや玉を囲う将棋ではないのだが、双方にとって玉頭ということを思えば、後手玉のほうが当たりが強い。気分としては対振り飛車の右玉(における振り飛車が玉側から反撃してきた将棋)の逆バージョン、という感じ。最近の角交換系の将棋にありがちな、お互いの飛車が働かず、クリーンヒットしないパンチの応酬、という戦い。

56手目、△3四玉の局面。
100720_56.jpg

ここでの形勢はどうだろうか?手番は先手。駒割は「▲銀桂△角歩歩」で歩を評価すると2:3の交換トレードだが、歩を評価しない場合は先手の駒得となる。玉形は難しいが先手のほうが良いだろう、丁度高田流左玉のような感じになっている。(参考:高田流新感覚振り飛車破り左玉。アマでは愛用者が割と多い。)

後手は二枚の金が守りに機能していないのが痛い。二筋・三筋の制圧が役に立っていないということは序盤の二筋からの逆襲はやはり先手にとってありがたかったということだろう。

57手目の▲5五銀が厳しい。次に桂馬の狙いで玉の逃げ方によっては4四の歩を食べながら玉に迫れる。7七の桂馬まで攻めに使えた局面では先手が良さそうに見える。

後手の角が先手玉を間接的に睨んでいるので、その利きを活かして反撃したい後手は64手目にあえて両取りを掛けさせる鬼手を繰り出すが、普通に応じられて3三に合駒するしかないようではやはり辛そうだ。

その後も差は縮まることなく、佐藤康光プロが勝ち切った。

この二筋位取り向かい飛車二対する後手の対策は持久戦で矢倉模様、穴熊、本譜のような反撃、などがあるのだが、持久戦模様には2筋の位を活かして相居飛車感覚の中終盤に持ち込めるのが面白い点。また、反撃された場合はその手に乗ってゲリラ戦を展開すると少なくとも、相手の研究を外せる。

ただしプロの将棋で、先手が好んで用いる将棋なのか、後手が研究家ではない山崎隆之プロですが?という疑問はなくはないのだが、天才の考えることは常人には常に謎なのだった。


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気になって二人の対戦成績を調べてみて驚いた。なんと八戦して佐藤プロの7?1という成績。生涯成績で力戦将棋で7割勝つ山崎隆之プロだが、羽生世代との相性が兎に角悪い。森内プロとは3?3と互角だが、羽生名人とはなんと、2?12。(ちなみに渡辺竜王とは3?7、深浦プロとは2?3、久保二冠とは4?2)。

生涯成績で7割近く勝っており、今期も12?2と絶好調な山崎プロなのだが、タイトル戦常連のうち、羽生・佐藤・渡辺に分が悪いのがタイトル戦まで届かない理由だろうか。

今期は他のところでの取りこぼしがなくなったので、苦手三兄弟に勝てるようになれば、タイトル戦への再挑戦もすぐやってくると思うのだが。


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