居飛穴本来の強さ 第4回大和証券杯女流最強戦▲里見香奈vs△中井広恵

決勝は三連覇を目指す中井広恵プロに、もはや女流の域にはとどまらない里見香奈プロが挑戦、という図。

戦型は角道をふさいでからの石田流、後手に組ませるだけ組ませて戦う方針をとった。

48手目、△4一金で後手の形はほぼ最善に。先手は端歩を突いていないので、この一手を指させずに等価交換ですすめることが出来れば、堅さの違いで居飛車がよくなるというイメージ。

正直、この形で中井広恵プロを相手にして勝ちきるのであれば、里見香奈プロは女流で指すのを止めて、いわゆる正会員としての、男性プロと互角の四段を目指したほうがいいと思う。

というのが観戦時の私のつぶやき。

65手目、▲7八歩という手があったが、私はこういう手がすごく嫌いだ。振り飛車党の常套手段かもしれないが、居飛車党としては、この歩は叩く歩であって、自陣に打つ歩ではない、という意識がある。対抗形では叩く形にならないにしても垂らす手はある。

振り飛車としてはある手だということは理解できるが。


81手目の局面は見た目通りに居飛車が勝ちやすいと思う。玉の広さという主張点がなく、横からの攻め合いにも近い美濃囲い、種駒が2枚ある居飛車、飛車の横利きが守りに効いている居飛穴。普通に必勝パターンだ。そこから悪くなってからの粘り腰、よくなってからの受け潰しという二種類の技をもつ里見香奈プロが力を出す。端玉から2八の地点に銀を埋めて串かつ囲いに。

終盤の寄せ合いは、やはり「羽生の終盤術」に出てくるような手筋を解説の羽生善治名人が指摘する。こういう普通の手筋で難しそうな終盤を簡単に寄せてしまうのが羽生の終盤術だ。

それを逃し、重く迫る中井広恵プロ。109手目の▲3九飛が強すぎるからこその失着だろう。▲9九飛の局面が相当にいけていない気がする。

まだそこからも振り飛車がよいかもしれない、と羽生善治名人が語った場面はあったが、結局は居飛車穴熊の遠さが生きた。

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普通に勝ちやすい、というのを中井広恵プロの居飛穴は示している。これで三連覇。里見香奈プロはまだ相振りと対居飛穴に弱点を抱えている、というのが私の印象だ。



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大和証券杯女流最強戦 ▲里見香奈-△矢内理絵子

最近振り飛車を採用することが多くなり、対抗型においては居飛車・振り飛車問わず穴熊を見せるようになった矢内理絵子プロ。里見・甲斐という二人の若手振り飛車党に席巻されている状況をみての判断と思われる。

その成果が試される時が遂にやってきた。

先手中飛車に対して穴熊に組み上げる矢内理絵子プロ。対する里見香奈女流は鈴木大介プロが最初に示したように思うが、中飛車党としてはこの形の棋理としての良さをもって、勝ちきりたいと考える形に。(実戦的には穴熊のほうが勝ちやすいと思うが)。。

矢内穴熊は3二の金が浮くのが弱点というか特徴でそれは敢えてそうしており、本譜は強く4五歩と反撃したときに同銀と取れる含み、そして3一に引いて更に固める含みの両方を持っていてなかなか優秀かもしれない。

軽い小競り合いのようなものがはじまり、端攻めの緩和を図る△2四歩?△2三歩までは惚れ惚れする指し回し。むしろ、惚れた。

しかし57手目の▲8七角が良い手だった。厳密に良い手ではないかもしれないが、相手を惑わす手。ここから飛車角交換になったあたりでは居飛車が良く見えるのだが、そこで飛車を桂取りに打ち、竜を作ったところでは既に後手居飛車が忙しくなっていた!

玉の囲いは最新型だが、このあたりは振り飛車党の真髄が里見香奈には受け継がれていることを感じた指し回し。先手は桂馬を目標に攻めていけば姿焼きの完成となる。

78手目、80手目の歩成り、と金寄せ、の二手は緩手だったように思うがここでは既に後手が指す手が全てマイナスになる可能性が高い。実戦的な勝ちやすさでも先手良し。

その後、里見流のしれっとと金や成り駒をにじり寄らせていく、終盤が強いが故に焦らない確実な走法で終局となるのだが、感想戦にて解説の松本佳介プロの指摘として、飛車か竜をもらうことが出来る△6五銀が示された。

里見プロはその後の読み筋において自身の劣勢を認めたが、これは謙遜だろう。とはいえ、飛車をもつと途端に先手の陣形の足元の寒さが目立つようになる。穴熊であることを考えるとチャンスだったかもしれない。



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穴熊退治・大山流 第四回大和証券杯女流最強戦 ▲里見香奈vs△上田初美

また相穴熊だろうか、或いは里見香奈女流三冠が居飛車を持つ可能性もあるか?と思ったが、後手の上田初美プロが居飛車をもった。

確かに穴熊の使い手であり、相手の振り飛車が確定しており居飛穴前提であれば十分に有効な作戦だろう。

里見香奈女流三冠は風車というか右玉というか中飛車の広さで対応する作戦。元々クラシカルな中飛車を好んでいる里見香奈女流三冠としては、指し慣れたものなのだろう。

私も一頃風車はよく用いていたが、勝率は4割ぐらいでも勝ったときの快感が素晴らしく、愉しむ将棋においては推奨できる作戦だと思う。

特に慣れると穴熊を相手にしても焦らなくなり、相手の攻めを切らしての姿焼きが抜群の味だ。

そして本譜のまさしくそのようになるのだが、終盤の仕上げ方がもう往年の振り飛車の使い手の流れを確実に汲んでいる。師匠の森けい二プロも、受け潰すのが上手いが、山陰山陽の違いはあるがあっち方面ということで大山流も受け継いでいるかのような指し回し。
上田初美女流プロは、少し居飛穴の経験値が少なかったかもしれず、よくある形だったが序盤で時間を消費してしまい、よくある展開としての△5一角?端に出る筋を見せての端歩の付き合いから2筋に角を据えて桂馬を跳ねて…という、右玉の最弱点の桂頭と、玉以外の紐が付いていない金を狙う展開に持ち込めなかったのが痛かった。

あの角の位置と飛車で一歩拾う筋は四間飛車穴熊の時のイメージだったのだと思うがあまり良くなかった。糸谷流対振り飛車右玉戦法などではあの角筋は定位置で、かついじめられることがあまりないのだが…。

しかし終盤の▲4七金には恐れ入りました。飛車をイジメにいく構想はありつつ、あせらずにじっと▲4七金。この一手があったおかげで最終盤の最後の居飛車のラッシュを受け止めることができた。

こういう危なげのない、プロの殺し屋が念には念を入れるような手順というのは昨今の女流振り飛車では見たことがない。女流居飛車党を相手にする若手男性プロが魅せるような味わいがあった。

恐ろしいまでの終盤の切れ味と、相手が穴熊であればじっくり面倒をみるというこの2つの戦い方において、里見香奈女流三冠が女流棋士界のなかでトップクラスにあることを知った。いやー恐ろしい勝ち方だった。




私の父が切手収集が趣味なのでプレゼントしようと思います。


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第四回 大和証券杯女流最強戦 ▲室田伊緒-△中井広恵

1月23日の日曜日の夜のひとときを楽しませてくれたこの対局。室田伊緒女流が四間飛車に構え、後手の中井広恵女流が居飛穴を目指す、という普通の展開。中井広恵プロは女流棋士のなかでもっとも居飛穴を自然に着こなす。

本局も序盤の陣立てとしては違和感が全くない。対する室田伊緒プロは(そういえばとちぎ将棋まつりで、筆を持つ立ち居振る舞いの美しさに見とれたことを思い出す。字も素晴らしいものだった)、立石流とは少し異なるが、90年代に流行ったような記憶がある形に。軽く軽く軽く行きたい形だ。

しかし将棋は46手目に馬が出来たところで終わったかもしれない。実戦的なアヤはその後もあるはずだが、振り飛車としての主張点があまりない、粘り甲斐のない展開になった。

以下に左側の駒とはいえ、ぼろっと香車を取られてその後に蓋をする展開で、早く動ける何か、がないのであれば辛いと思う。よくも悪くも45手目は7七歩しかなかったかもしれない。

72手目の△3四馬で実戦的にも負けのない形に。この両者の対局は確か前回の大和証券杯でも見たように記憶している。その時は室田伊緒プロが序盤から終盤までリードして、中井広恵プロの悪力で捲られた…という展開。

そういう終盤力の違いがあるので、やはり序盤でのリードがほしい。すると里見・甲斐ラインのような最新型の振り飛車が必要なのだろう。特に中井広恵プロのような居飛穴使いを相手にする場合は。



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創元社シリーズは多分三〇年ぐらいはこの形を維持していますよね。中の担当者とかはどういう風になっているのか少し気になります。

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進化する矢内将棋 第四回大和証券杯女流最強戦 ▲矢内理絵子-△本田小百合

1月16日(日)の夜に行われた大和証券杯女流最強戦について。

対局が開始される前にツイッター上でまた何かやってくるのではないか?というのは囁かれていたのだが、まさか先手で中飛車にするとは思わなかった。

甲斐・里見という二人の棋士が矢内世代を文字通りごぼう抜きにして天下を二分している今、そして同世代がそれぞれに、特に千葉涼子は棋士との結婚、出産という女流棋士としての理想、という訳ではないが想定される定跡手順に則っているなかで、例のアエラの矢内特集を読む限りでは葛藤している自分。

また、その悩み・葛藤というのは失礼を承知で書けば、将棋一筋に打ち込んできたがゆえの、過去に処理しておくべき類のものだったように記憶している。

よくも悪くも、人間三十路を過ぎると色々と思うところは出てくるもので、それが女性であればまた男性とは異なる深刻さを含む場合がある。

とはいえ、この戦いの連鎖の中から逃げ出すつもりはこれっぽっちもないことを自身で確認し、そしてもう一歩踏み出すために新しい部分に挑戦している…というのが下世話な外野の勝手読みである。

先手中飛車。悪い戦法ではないし、むしろ振り飛車は矢内将棋の本質を考えるとそれほど向いていないという気はしない。ただし矢内将棋について回る、序盤戦術的なモッサリ感は、本局においても否めなかった。

25手目の角道を塞ぐ▲6六歩はちょっと珍しいというか損な手だと思う。角道を開いたままに攻められる、という主張点が失われてしまった。閉じて開いてとやるのであれば立石流や石田流を志向するのが現代的ではあるかもしれない。

最近居飛車穴熊も指し始めた矢内プロだが、その穴熊の組み方も少し旧式であり、3二の金が浮く形。これが意外に苦労がついてまわるものであり、それを前提とした松尾式の穴熊というのが現代将棋の穴熊の歴史。

後手の本田女流は松尾式の穴熊に組み上げるのだが、端を受けてしまう。ここは受けずに攻勢を取る、というのも考えられるところだった。

穴熊は堅い、というのが共通認識としてあると思うが、穴熊退治が好きな私に言わせるとうまい人の穴熊は堅いが、対穴熊用の特殊戦法に無策な穴熊は同じぐらいの棋力であればそれほど堅くない。

争点がないままに特殊戦法の攻撃が決まると、マウントポジションからのタコ殴り状態に成り得る。この端を受けた穴熊もそういう危険性を含んでいる。

細かい棋譜の解説は別のところに譲るとして、文字通りの二転三転だった。しかし最後は終盤力のある矢内理絵子プロが実力を示した。

穴熊の性能を活かす、という意味で言うとある程度の棋力の差か、絶対値としての高さが必要だと私は思っていて、競技プロとしては必修科目だし、私も展開次第では組まないこともないが、むしろ愉しむための将棋という意味で言うと、穴熊を固定化しないほうが、色々と楽しめるのではないか。

話を矢内将棋に戻すと。今後、控えているであろう、対甲斐・里見、そして対清水というところで最近の挑戦がどのように結実するのか?に大いに注目したい。


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(2010/12/23)
藤倉 勇樹

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将棋観戦中に書き始め、対局が終了すると思われるところから観戦記を完成させていることが多いです。文章内の形勢判断は個人的主観によるもので、観戦中の控え室のプロの意見を取り入れず、将棋ソフトの解析を行なっていないため、形勢判断が正しくない可能性があります。

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