糸谷哲郎による新著「ダニーの大航海」▲深浦康市vs△糸谷哲郎 第84期棋聖戦決勝トーナメント

いやー久しぶりに糸谷哲郎プロのらしさ全開の将棋でした。先手番は王道で勝ち、後手番はこういう自分らしさ全開の将棋を指してくれる…というのは、ファンにとっては一番楽しいですね。藤井猛プロのファンの気持ちが少しわかった気がします。

この将棋は本当にすごかったです。作戦自体は私もよく使う「変態陽動振り飛車」みたいな作戦。飛車先を2つ突いてから中飛車にするという。これはまだホームページ時代に私がネットをうろついているときにこれに似た作戦を用いてる人が居たことがきっかけで、自分なりにアレンジして使っています。

私の感想としては、組み上げるまでに凄く神経を使う作戦で、組み上がっても模様の良さがあって気分はいいものの、勝負としてはそこから互角。角交換右玉よりはマシ、ぐらいの印象です。何よりも本局のように、組み上がる前に攻撃されることが多く、私の中終盤の実力ではそのままずるずるとやられてしまう。

ちょうど喩えに出して恐縮ですが、この前の大和証券杯の石橋さんの対振り飛車右玉(糸谷流)がボコられた時のような展開ですね。

本局も飛車先突いて中飛車にしたのをみて、深浦康市プロが7七の銀を繰り出して持ち角も5六の地点に投入して攻め立てました。深浦康市プロはこういう時には必ず機敏に攻め立てる印象があります。売られた喧嘩は常に買う、というタイプですね。

昔でいうと藤井猛プロの藤井システムに真っ向から居飛車穴熊に組みに行って屠られる…のを一番体現した方だった、という印象があります。そんな居玉でありえねえだろ!絶対組めるから!居飛車穴熊に組んじゃうよ?と指して返り討ちにあう、という。玉が一路遠いのに香車上がっちゃったりとか謎の作戦も取られてた気がします。

そういうわけで、糸谷哲郎プロの意欲的な作戦を挑発と解釈して、颯爽と受けて立つ。


ただ、結果論ですがこの展開を取るのであれば、私は角交換型でも対振り飛車右玉のような指し方をしたほうが良かったように思います。実際私はこの先手の指し方も行うので分かるのですが本譜の展開だと右辺の金銀が全然使えないんですよね。

右辺の金銀を使うには玉は右に囲うしかないと思います。特に7七に桂馬を跳ねてしまうと桂馬を7六に打たれる筋がキツい。もっというと、本譜の攻めであれば、普通に組ませても一局だったと思いますが、そこは深浦康市プロの信条面にも絡むところでしょうか。

とはいえ先手が玉を6八で停めたまま、左辺から先攻したところでは流石に先手が有利に見えました。普通の対振り飛車右玉と比べると振り飛車側が全然整ってないからです。特に振り飛車側の飛車が8一の地点にいるのであれば、反撃の筋がなさ過ぎます。

48手目の局面で、後手玉は9四の地点にいます。振り飛車では9三の地点に玉が上がってそれで勝ち、という展開は勿論ありますし、終盤であれば9四の地点に玉が来ることもあると思いますが、この早い局面で玉が9四に来たことって今までにあるのでしょうか?

そしてこの玉が95に中盤で行き、その後終盤では最遠で3二の地点まで行くんです。…グレートジャーニーか!w

糸谷哲郎のグレートジャーニーです。控え室ではダニーの大航海と呼ばれていたらしいw金太の大冒険みたいなw

それにしても中盤から終盤の手順は本当に素晴らしかったです。やや不利な状況での受け方はとても参考になりました。深浦康市プロはやや駒損ながらも相手の玉が薄いのと馬が作れるので攻めを決行しましたが、駒損の攻めというのは案外受かるものなのだなと。

これをみて逆に細い攻めをつなげるのが上手い渡辺明二冠の凄さを改めて思いました。

受ける側の手順としては私も最近は心がけているんですが、相手の目線を変えるというか盤面を広く交互に使うというか、100手目あたりからの手順は参考になります。駒がぶつかり合っていると、そのあたりだけで勝負してしまうことが多いですが、そこから違うところに手を伸ばす。でその後にまた局地戦に手を戻す。

そういうイメージです。106手目の銀捨てとか、122手目の△2六角打ちからの角を見捨てての成銀取るとかは私も読み筋で、右玉とか逆転風味の将棋を良く指していると発想が似てくるのかな?と思いました。或いはファン過ぎて糸谷哲郎プロの思考を真似ることができるようになった?・・・のであればそれは感激なのですがw

糸谷哲郎プロの将棋の特徴として、こういう局面を混沌とさせていくことで選択肢を沢山増やして、面白い手を指していく…というのがあると思います。不利な場合は局面を複雑化させる、といいますが羽生善治プロの場合はまさに複雑化、という印象なのですが、糸谷哲郎プロの場合は、米長邦雄の泥沼流じゃないですが、混沌という言葉がまさにピッタリきます。

136手目の局面。そこまで物凄いスピードで進んだ将棋がぐぐっとブレーキを踏みます。こういうところでは、私は基本的には駒得のほうが優勢になっていることが多いと思います。駒損の攻めが頓挫した場合に起こることが多いというか。すなわち、桂香得の後手のほうが良いのではないか、という。とはいえ儲かってる香車は隅っこで無価値な成金になってますし、先手はと金もあり、手番が先手なのでここで良い攻めがあれば後手玉を仕留めることができるかもしれない。

ひと目で見える▲5三桂。これで先手の攻めが続くのかどうか?が本局のクライマックス。そこまで高速指しを続けていた糸谷哲郎プロが長考に入ります。プロでなくともここが勝負どころであり、勝ちがありそうな局面であることはわかります。控え室の稲葉陽プロもまだ後手が良さそうで何か手があるんじゃないか?とのこと。

10数分の考慮ののち、同銀と応じてそこからまた高速で手が進み、指された144手目の△4五飛。これが詰めろ逃れの詰めろで、勝利の一着。

おそらく最後の長考はこの後の詰み筋を確認していたものと思われ、138手目の△同銀から投了図の160手目まで22手の進行を読みきったのだろう。最後はピッタリ駒を使い切った、しかも9九の地点で無価値化していたはずの成り香まで活用したという、ほぼ攻めゴマの全てが寄せに活用された美しい勝ち方だった。

深浦康市プロとしては、関西くんだりまできて、ひどい目にあったという感じではないだろうかw


糸谷哲郎プロが好調なときは、こういう後手番での混沌とした戦い方で最後に一気に加速する勝ち方が出るように思う。今期も好調な成績だったが、今年4月以降の来期もかなり期待できそうだとこの将棋をみて確信した。


糸谷哲郎プロの最新作。ファンでなくても1人10冊はノルマです。この将棋をみたら一手損を絶対にやりたくなりますよ。だってこんなにおもしろいんですから。

現代将棋の思想 ~一手損角換わり編~ (マイナビ将棋BOOKS)現代将棋の思想 ~一手損角換わり編~ (マイナビ将棋BOOKS)
(2013/01/23)
糸谷 哲郎

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「本書は一手損角換わりがどのようなことを目指しているのかということを、近年の将棋界における研究の変転から見ていきたいと思う」(まえがきより)

本書は大学院の哲学科所属という異色の経歴を持つ糸谷哲郎六段が書き下ろした将棋戦術書であり、真の将棋理論書。現代将棋の寵児「一手損角換わり戦法」を題材に、最新の戦法に底流する思想を根底から捉えることを目論む、全く新しいタイプの将棋書籍といえます。

これまでの将棋書籍を読む感覚で本書を手に取った方は、まず間違いなく度肝を抜かれることでしょう。一手損角換わりをテーマにするといっておきながら、第一章で語られるのは矢倉、ゴキゲン中飛車、横歩取り8五飛、角交換振り飛車なのです。
つまり、ここで語られることは現代将棋における後手番戦法の比較検討であり、一手損角換わりの特徴(置かれている状況と目指している方向)を示すものなのです。一手損角換わりの手順は第二章~第六章までで本格的に語られ、最終的には最新形の攻防を解説します。

本書を読まれた方は一手損角換わり戦法について理解するだけでなく、この戦法を鏡として、現代将棋がどのような思想の元に構築されているか、その全体像を捉えることができるはずです。

糸谷六段が編んだ現代将棋の地図。
ぜひ手にとって、読んでみてください。



関連するタグ 糸谷哲郎 深浦康市 対振り飛車右玉 米長邦雄 羽生善治 渡辺明 藤井猛

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中飛車と右玉。大和証券杯▲上田初美vs△石橋幸緒

昨日はなんだか右玉めいた日だった。(そんな言葉ないけど。

ニコ生の勝ったら100万円で唯一の勝者となったのが細川大一郎さん。右玉の大家で私も彼の書いたとっておきの右玉 (マイコミ将棋BOOKS)は持っている。

終盤力だけで奨励会の級上位まで行ったことを思えばその強さがわかるというものだ。

で、笑ったのが大和証券杯の解説がニコ生に続いて大平武洋プロだったこと。まるでバイトを掛け持ちする人のような土日で、そして相変わらず途切れることのない解説で素晴らしかった。

何も考えずに頭に浮かんできた言葉を延々と話してる自動書記状態なんでしょうかね。


先手の自然な駒組みに対して後手の手順をみていて、おそらく右玉だろうな、というのが分かった。先手が三間飛車であれば、右四間だったと思う。どちらも石橋幸緒プロの得意とされている形だ。

右玉にしたのはいいのだが、上田初美プロの対策?が良く、角道を塞がない分、後手の陣形整備が立ち遅れた。

そこからの手順は一方的に振り飛車側が攻める展開となり、私もよく対振り飛車右玉を指すが、いかにも負けパターンだなと思った。

これが将棋ウォーズだと、途中の先手の攻めがやや重い感じになったところから入玉を見せて焦らせて(実際は絶対入玉できないが、手数は稼げる)、切れ勝ち、という将棋の本質がずれるような戦略をとれるのだが、流石に秒読み将棋では辛かった。

大平武洋プロによる解説で、中盤というか先攻されてからの受けの手順の示唆がとても右玉側としては参考になった。

ほぼ後手からの攻め筋がないままに一方的に先手の上田初美女王の勝ちとなった。決勝は中井さんと上田さんとなる。

ムック本の第二弾が評判良すぎて、こちらにも波及してるらしいです。ほぼ売り切れらしいので急ぎましょう!

将棋世界Special「谷川浩司」 ~光速と呼ばれた男~ (マイナビムック)将棋世界Special「谷川浩司」 ~光速と呼ばれた男~ (マイナビムック)
(2012/07/30)
将棋世界編集部ほか

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Author:将棋観戦
「将棋観戦記」というブログで、プロ棋士の将棋を観戦して思ったことを記しています。棋力はありませんが、将棋観戦の楽しさを一人でも多くの人に知ってもらい、「観る将棋ファン」を増やすために貢献できればと思います。主に順位戦速報・タイトル戦等、ネット中継されている将棋を中心に将棋観戦記を書いています。棋譜・符号はなるべく用いずに、将棋のルールが分からない人でも、将棋の勝負の面白みが伝わるように努力します。

基本的にはリアルタイムでの将棋観戦中に思ったことを書き溜めつつ、対局終了後の感想を付け加えて、将棋対局のあった翌日の朝7時頃にアップされるように将棋観戦記を予約投稿しています。「一日一観戦記」をモットーにしているので、同日にネット中継が重なった場合は、対局の重要度を個人的に評価して観戦記の投稿日を調整しています。

将棋観戦中に書き始め、対局が終了すると思われるところから観戦記を完成させていることが多いです。文章内の形勢判断は個人的主観によるもので、観戦中の控え室のプロの意見を取り入れず、将棋ソフトの解析を行なっていないため、形勢判断が正しくない可能性があります。

また、あまり推敲することなく投稿しているので、観戦記内に誤字脱字、情報の誤りがある場合があります。お気づきの場合はコメント欄にてご指摘いただけると助かります。早急に訂正させていただきます。

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