清水システムに始まり清水ワールドに終わる 第21期女流王位戦五番勝負第1局 甲斐智美vs清水市代

第21期女流王位戦五番勝負第1局 甲斐智美vs清水市代

振り駒の結果、先手は甲斐女流。三間飛車もあるかと思っていたが、清水の二手目が84歩だったので希望しても叶わなかったか。とはいえ元々先手中飛車が多い。戦前の私の予想としては「序盤は甲斐がリード、そこから清水がどう追い上げるか?また、清水の序盤戦術に注目」とtwitterにて呟いた。

予想を裏切らない清水女流の54歩-64歩が披露された。この形の味の悪さ、居心地の悪さはアマでも感じるところだ。しかし五筋位取りなど、中庸の戦法を好む清水女流には向いているのかもしれない。力で勝負!という手か。

「清水システム」に対して、甲斐は普通に組んでいく。個人的には木村美濃はあまり好きではない。プロとしても薄くても先手であることを考えると木村美濃に仕上げる前に仕掛けたいところだったようだ。

角交換せずに持久戦になると、振り飛車側の角のほうが負担になりがちだ。玉との距離が影響しているのだろう。特に先手の形は攻め駒の「クリティカルパス」が77の地点であり、この角が動かない限りは攻めにならない。

先手に暴れられることなく囲いあった50手目の局面、どっちを持ちたいか?だが、私は後手を持ちたい。実戦的には圧倒的に先手のような形を(但し角交換型で)持つことが多いのだが、意外にこの63金型、銀矢倉というのはやられるとそれなりに大変なのだった。特に銀矢倉=木村美濃+銀なのでそれだけでも元気が出てきそうだ。後手のような形を、私はやったことはないのだが、隣の芝生的に青く見える局面だった。

その後、甲斐女流に若干の緩手があり、清水女流に先攻のチャンスが訪れた。ちょうど週間将棋5/12号のインタビューに書かれていたように、「受け将棋ではないのだが、まだ大丈夫と思っているときに攻められてしまうことも多い」という展開。

戦前の私の予想は大きく外れ、序盤で後手清水女流の気合が通り、甲斐さんに慎重さがあったために、満足な駒組みと先攻の機会を清水女流が得た。このあたりを見ていて思ったのは、甲斐さんは女王位を獲得し、二冠目トライというところで少し硬くなっているのではないか?ということだった。

居飛車党であれば、嬉しくも辛い、苦しくも楽しい、対抗系の急戦調の将棋にありがちな、ぎりぎりの攻めが始まるのではないかと期待していたのだが、清水女流も自重した。しかし31に引いた意図は私には分からなかった。居飛車党であれば、角で飛車先の歩の交換が終われば手得模様に別の位置に引きたいところだと思うのだが。

甲斐女流は一息つけたので、飛車先を歩で押さえる。向かい飛車で良く出てくるようなやり取りだ。清水の応手は55歩。角を引く前にも考えていたが、読んだわけではなくなんとなく角が怖いので引いた、という印象。引いてから成立するなら確かにリスクは少ない分得だが、交互に指す将棋というゲームの性質上、角を引けた代わりに飛車先を押さえられた一手が大きく容易ではない。

折角得た優位だったが、この辺りではもはや混戦。ただし個人的な経験では、序盤に模様が良かった将棋が一旦混戦になって、そこからまた有利になって勝つということは多い気がするので、序盤で優位に立つのは重要なのだと思う。

本譜は紆余曲折あった末に、なんともサッパリした開戦が待っていた。下品な言い回しになるが、ファーストデートでモジモジしてたと思ったらイキナリ、ベッドイン!という具合だったので驚いた。

観戦しながらこの文章を書いていて、ここでようやく現状局面、お互いに飛車を打ち合ったところに追いついた。現状の形成判断は先手良しではないか。飛車交換した時点では後手が攻めの手番を握ったかと思われたが、先手の桂得で、しかも85の桂馬は相当取られることがない(遊び駒風だが)。飛車を先着しても響きが薄いとみた清水女流が歩をたらしたので、手番が先手に移ったことも大きい。

あとは振り飛車らしく指せば二冠への第一歩となるだろうと思っていたのだが、まさかの26桂馬。嘘でも一旦はと金作りを防ぎそうなものだった。26桂馬で先手が悪くなっただろう。如何に31角型とはいえ、端一本では寄せられないし、遊ぶ桂馬か守りの金かといえば圧倒的に後者だ。

ここからの逆転はないと思う。しかしこの展開には驚いた。甲斐女流になんらかのプレッシャーが掛かっているとしか思えないような全体的なちぐはぐさだったと思う。


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ここまではリアルタイムで観戦しながら書いて26桂で追いついた。今これを書いているのは同日の22時。三日間の禁酒を解禁してのワインを飲みながらの、既にほろ酔い状態での入力である。

twitterでは大げさに断言的に、別業務を滞らせながら、後手良しと書いていたが、この良しは、所謂急戦などであるような緩まなければ良しというものだったのかもしれない。

勿論ゆっくり行っても悪くないが、超特急の寄せを目指す清水に落とし穴が待っていた。先手の48の角が要の駒。これを取りきれば、31の角の出動まである。そう思っていたのは私だけではなく、清水もそう思っていたようだ。

金の打ち場所は二つ。解説の男性プロが勧める手よりは私も清水が指した方を選んでいた。ただし次の57歩が重かった。そして続く先手の狙い筋を実現させる66龍が敗着だろうか。

渡してはならない斜め駒を渡し、攻めるだけ攻めて受けたところでは確実に居飛車負けだ。普通の男性プロであれば、その前後で投了していてもおかしくない。ただしここからの一粘りが清水なのだった。

序盤の不思議な思想、終盤でも尽きない闘志。背負うもの、そして志・思想の高さ。生涯勝率が未だに7割を超えているのは技術だけではなく、精神力、背負うもの、見ている地点の違いにあるのだなということを改めて感じさせられた一局だった。

甲斐智美女流は、最近私が見ていた将棋の中では珍しく不出来な将棋の部類に入ると思ったが、それでも最後は振り飛車らしいうっちゃりを見せた。もしかすると2冠を目前にして固くなっていたのか?と思ったが、それでも拾ったこの一勝はとてつもなく大きいと思う。

二戦目も恐らくはゴキゲンだと思うが、先手番での清水の序盤戦術に引き続き注目したい。

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基本的にはリアルタイムでの将棋観戦中に思ったことを書き溜めつつ、対局終了後の感想を付け加えて、将棋対局のあった翌日の朝7時頃にアップされるように将棋観戦記を予約投稿しています。「一日一観戦記」をモットーにしているので、同日にネット中継が重なった場合は、対局の重要度を個人的に評価して観戦記の投稿日を調整しています。

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