桂馬鉄道スリーナイン・「最強が最善ではない」 第21期女流王位戦第3局 ▲甲斐智美女王?△清水市代女流王位

第21期女流王位戦第3局 ▲甲斐智美女王?△清水市代女流王位

挑戦者甲斐女王の2連勝、そして先手番で迎えた本局。戦前の私の戦型予想は中飛車。恐らく殆どの人がそうだったと思う。そして清水女流王位の作戦も予想通り。しかしこの53銀と上がる手は42玉とワンセットであり、53銀を急ぎながら32玉とする手順、64歩の意味、私レベルには分からない。ただしMY定跡を持つ身としては、こだわりの手順についての理解はあるつもりで、当然何も考えずにこれを毎回指しているわけではない。

対する甲斐女王も当然対策を講じている。本譜の手順で居飛車党としては全く不満はない。歩を交換して飛車なり角を手得っぽく戻る手順というのはどんなときでも・どこでも、指したい。なので先日の清水女流王位の同じところ、しかも31の空気穴を塞ぐような戻り方には心底驚いたものだった。

本局の序盤は先手に気分の良い手順が続いた。56銀の良形と66角・77角のセット。手持ちの一歩。先手の甲斐女王が気分の良さを模様の良さに、模様の良さを形勢の良さに拡大できるか?に注目した。39手目の先手の構えは、滅多に出現しないと思うが、中飛車の一つの理想形だと思う。対する清水女流の応手に注目したが、悠々人生の22玉。私はこれで生涯勝率7割超えてるんです、という堂々っぷりに誰もが驚いた。

対抗形における、級位者でも知っている格言として「離れ駒に仕掛けあり」というものがあるが、この局面は絶好の、次の一手コーナーへ投稿できそうな場面に見えた。二歩手持ちで、後手の飛車は不安定、玉の囲いも一手分未完成。元居飛車党である甲斐女王としてはこの局面での読みは楽しいひとときだったはず。

決断の一着は▲82歩。最強の手だった。玉を囲う一手が必然なので「ここでスピードアップすれば一手先攻出来るだろう」というのは理論ではなく感覚として持つのが居飛車党。尤も、だろう攻めの「だろう」精度は棋力によりばらつきはあるのだが…。清水女流の大胆な誘いの隙に乗じる形で、先手は攻め立てる。このあたりは先手好調を思わせた。

55手目、遂に先手にと金が出来た。このと金が使えれば先手がよくなるであろう、というのは厳密な形勢判断が出来ないアマであっても感じ取ることは出来る。58手目の42銀引きと利かせるだけ利かせた局面は先手の気分が良い。この手で「気分が良い」から「模様が良い」に変わったような印象を受けた。続く59手目「64ときん」が何ともどっしりゆったりした手で、何度か観戦記などで片上プロが表現している、甲斐さんの「(良い意味での)鈍感力」が現れていると思う。

このままと金で金駒を剥がされると辛い後手は、一気に飛車角総替えの荒捌きに出る。63手目の局面は、後手歩切れのものの、手番を握っている。その手番を活かして△69飛車と打てば39角があるので、先手は受ける一方。51に底歩を打たれると、99飛車成りは89歩と底歩を打たれるので、じっと我慢の66飛車成りでまだやれる!と思ったのだが、よく見れば82に歩があるので99飛車成りが利くのだった。飛車打ちが先手、香車を取った手が5筋への香車打ちの先手となれば、この場面では既に後手が逆転しているだろう。

そう思って眺めていると先手の甲斐女王は59に飛車を打った。前述の通り、82の歩を忘れていた私としては、ここが歩でも66の歩を取って歩切れ解消でまだまだ、と思っていたぐらいなので、飛車を売ってくれば喜んで66になるところ。しかし清水女流王位はもっと得をしようと飛車を交換してから再度打ちつけ、はたから見ると損というような手順で竜を作った。歩切れのまま手番が先手に移り、待望のと金の活用がはかられ、盤上を制圧するような55角が打たれた場面では今度は先手がやたらと良く見えるのだった。

今みた感想コメントでは、ぱっとみ苦しそうな局面を清水女流は良いと想定して迎えていたようだ。ここの折衝でも大きく駒交換が行われ、82手目△65馬の局面ではどちらが良いのだろうか。別作業をやりながらのパッと見では形勢判断ができないような状況になっていた。今改めて詳しく見てみると、先手の角銀が、後手の飛車金と交換されているのと歩の数が圧倒的に違うので、先手のようが駒得。玉の堅さは金銀の枚数+馬を評価して後手。手番は先手。というわけで先手が良さそうだが、8筋の飛車と金が遊んでいるので寧ろ後手が良いのかもしれない。評判の悪かった清水女流王位の飛車の打ち直しだったが、この局面に至っては価値が出ている。

87手目の場面を前にして、私がツイッターの将棋TL(http://twitter.com/#/list/shogiwatch/shogi)で将棋の感想を言い合っていたところ、以下のようなコメントを頂いた。

つい端攻めしたくなる私は居飛車党ですRT @shogiwatch: 形勢がぐるんぐるんしてるのでチラ見ではもう分かりません。後手の34の地点、先手の36、どちらも桂馬に弱い格好なのでそのあたりに注目したいと思います。玉に紐付いてる後手ですが34の地点のほうがより弱いところとか。
http://twitter.com/nabbychan/status/15236921961



これがズバリで、清水女流王位が端攻めを決行するのだった。その他、銀杏記者や青葉記者も一目で端攻めを見ていたようだ。この端攻めで幸せになるのか?とも思ったが、それ以外に早い手はなく、じっくりすると先手に利するところばかりなので、目をつぶってエイヤッと攻め立てた。タイトルを失う瀬戸際にいるとは思えない、震えの無い手だと今みて感じている。

端の折衝で金銀を投入しあってからの93手目、甲斐女王が指したのは▲52歩。59の香車がいるとはいえ、一目鈍行の攻めでこちらも別の意味で震えが無い、肝の座った手だ。このあたり、私は盤面をたまにチラチラみるだけでよく分かっていなかったのだが、ぱっと見た感想としては、仮に手抜きで成られても、41、31と来ても王手ではないので相当遅い攻めではないか?というものだった。相手にしてられない清水女流王位は、1・2筋だけで手にするべく角を45に打ち据える。

102手目の局面、これまたチラ見時間で長くは観ていなかったのだが、どうも昨日の羽生戸辺戦が脳裏に残っていたようだった。私の脳内に一目映ったのは、ここから19と39に桂馬を投入する絵だった。19・29・39と三つ並ぶ桂馬。999。桂馬鉄道999。つぶやかなければ良かったと思うのと同時に投稿ボタンを押していたのだった。私が考えた19桂馬の代わりに甲斐女王は冷静に36桂を打ち、35桂馬の継ぎ足しには39桂馬と逃げ道を自ら閉鎖するようで怖いが投入するのではないかと思われた時に、突如攻め合いの▲51歩成りを選択した。

この手は早くて2手スキ、というのが私の上記前述の思考にある。ゆっくりした展開になってと金が活躍すれば勝つだろうが、この攻め合いは流石に後手が活だろう、と思われた。△47馬という明らかな一手すきに、じっと41にと金を寄せる甲斐女王。これは29の桂馬を取れば簡単に勝ちだろうと私が判断した時に、またもやツイッター上に情報が。マイコミの将棋本のアカウントの中の人曰く、「41と」は詰めろであるとのこと。

これには驚いた。中の人は何処の稲妻だ?と思ったが、どうやらコンピュータのご信託だった模様。哲郎がメーテルと一緒に機械の体を求める理由がこの年にして漸く理解できた次第である。詰むとなれば21金からしか無いが、パッと見詰まない。マイコミの飛ばしか?と思われた時に続報が入る。曰く14桂馬からの詰みとのこと。最後まで解いていないが、14に香車を釣り上げることによって、玉が13に来たときに王手で香車を取る手がある、ということだろう。(多分10?15分位もらえれば私も確認までできると思うのだが、正直終盤を迎えたときに5分と残っていない将棋しか指さない私には27手詰めというのは全く遠い世界の話だ。私の指す将棋には結果としての27手詰めはあっても、読みきっての27手詰めというのはないのだ。)

清水プロはその詰み筋まで看破したのか、或いは上から押して行くのがわかりやすいと見たのか、25銀と指した。この手が勝着であとは難しいところはなかった。

投了図には優勢を決める一着だったはずの▲82歩が残ったままだった。この対局中、この歩が目に入る度に「最強の手が最善ではない」という羽生名人の言葉が頭の中で繰り返された。

最後にオマケ。如何にも升田先生と大山先生がいいそうな言葉で笑ってしまったので紹介させていただきます。

最強とは俺の事かと升田言い最善とは俺のことだと大山が哄う。・・・とか妄想 RT @shogiwatch: ここにきて82歩が祟るとか痺れますね。良くしにいった強い手が悪手になるという。羽生さんの言葉を思い出しますね。「最強が最善ではない」でしたっけ?
http://twitter.com/Zeirams/status/15235334888


なかなかにいい線ついた言葉だと思う。



将棋・ひと目の端攻め (マイコミ将棋文庫SP)

端攻めというと大内先生のを思い出しますが上記もCP高めだと思います。

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Tag : 甲斐智美 清水市代 女流王位 中飛車