矢内・甲斐・中井、女流対男性棋士との戦い 第4回朝日杯一次予選

7月半ばに行われた将棋の感想です。NHK将棋中継が早く終了したとき用の番組、みたいな感じでネタ切れ用、不在時用の書き溜め分です…。

第4回朝日杯一次予選 

△大野八一雄七段-▲矢内理絵子女流四段 
先手矢内女流で、まさかの一手損角換わりに。この戦型はかなり意外な気がしたが、女流で一手損をやる人が少ないのであまり見ないような気がするだけで、矢内さんの得意戦法なのかもしれない。そういえば大和証券杯か何かで対中井女流との対戦で、一手損の腰掛け銀をやっていたような気がするし、NHK杯の本戦勝ち抜けの将棋でも、やっていたように思う。

本局を見て、男性プロと女流プロの力の差が歴然としていることを知った。得意形になれば、矢内さんも力を出せるのだと思うが、総合的にどのような戦型であっても一定以上の力を出せるのが男性プロ。その点が女流とは大きく違う。

よく、プロがネットでは居飛車しか指さないんです、とか今日はお好み対局でサービスの振り飛車とか、裏芸で中飛車が上手なんです、というのは良くある話だが、そういうことを思い出させるような将棋だった。

正直序盤の構想から開戦からその後に至るまで、残念ながら勝ち目どころか互角の局面すらなかったように思う。一手損との対局における定跡というのが一応はあるわけで、外すなら外すで、その趣向の注目点があればまだしも、というものなのだが…。ただし芸域を広げようとする意欲を感じさせる最近の矢内プロには今の苦難を乗り切って更に大きく活躍して欲しいと思う。

一手損は以下の二冊に基本が網羅されている。

新・東大将棋ブックス 定跡道場 一手損角換わりVS腰掛け銀
新・東大将棋ブックス 定跡道場 一手損角換わりVS早繰り銀



▲植山悦行七段-甲斐智美女王・女流王位 
それに対して、やはり振り飛車は序盤が楽だ。経験値が蓄積された戦型になれば、甲斐さんには終盤力があるし持ち時間が短い将棋では脅威だろう。特にベテランプロが若い頃には無かった将棋である、ゴキゲンなどはかなり有力なのかもしれない。

植山プロの作戦は決まると破壊力満点の二枚銀。序盤の応接で先手の銀をバックさせられたところや、陣形の良さで後手が少しポイントを稼いだかと思ったが、金桂交換の駒得を先手に実現されて、後手が相当悪そうに見えた。

幾つもの決定的な手があったが、対女流ゆえか、安全策を取り過ぎて少しずつ縺れてゆく。61手目の局面では先手必勝レベル、それが78手目ではもう分からない。その間わずか17手。自分の指し手だけでいえば10手も指していないのに、プロをして逆転してしまうという恐ろしさ。終わってみれば、甲斐女流の、52手目△3一歩をはじめとした、相手に決めてを与えない頑張りと対女流というプレッシャーが幸いしたか。

青葉記者の呟きで、08年の対矢内戦も結構な逆転だったということを知った。丁度将棋から離れていた時期なので私は知らないのだが。

女脳 ひらめきと勝負強さの秘密



▲甲斐智美女王・女流王位-△森下卓九段 
午前の部を逆転で勝った甲斐女流が、元A級の実力者森下プロと対戦。正直、森下プロが負ける姿が全くイメージできなかった。それぐらいの実力と実績を兼ね備えた将棋棋士だ。

先手の甲斐プロの作戦は指しなれた中飛車。序盤でリード出来れば、面白みも出てくるだろうと思っていたが、最初から最後まで、ほぼ完敗に近かったと思う。

まず21手目の▲8八銀が一目、振り飛車党として指さないような手だと思う。元居飛車党だからか、頑張る意味で指したのかもしれないが、この手を指して勝てるのは佐藤康光だけだと思うぐらいに勝ちにくくした手。

次に中盤の五筋突き捨てからの▲5四歩の垂れ歩?▲6五桂という攻め筋はさすがに無理だった。あとは森下プロの素晴らしい指し回しを見るばかりとなった。…と思っていたのだが、今44手目のコメントをみて驚いた。確かにそういう手順はあったかもしれない。


なんでも中飛車 (将棋必勝シリーズ)

このなんでもシリーズは買ってないですが立ち読みしたことはあります…。この日の甲斐さん、そして対森下戦ということで何となく思い出しました。

将棋というのは強い人でも弱い人でも交互に一手ずつ指すわけで、そして再現するのは誰にでも出来るために、何故これほどまでにポッキリと折れてしまうのだろう、などと偉そうな口を叩けるのだが、並のオッサンであれば片手でひねる若き女武者たちでも、さすがに歴戦の強者には敵わなくて当然だろう。

とりあえず、午後の部を見せてくれた甲斐女流には感謝したい。



▲中井広恵?△木下浩一

中井女流先手で、相矢倉に進む。序盤戦術において、ある種女流ならではの世界があるように見えてしまうが、その中では比較的普通の男性プロでも用いそうな将棋を指す印象のある中井女流だが、本局も、藤井プロのような早囲いの作戦を見せた。

通常、棒銀模様の攻めに対して当たりが強い意味があるが、後手からの攻めに7八に来るべき金が間に合いそうなので、これは相当だろうと見ていたのだが・・・。

先に崩壊したのは先手陣だった。崩壊してから見せた、もたれるような指し方、銀の投入は少し勿体無かったか。とはいえ、このあたりでは、どう指しても後手が良くなっている可能性はある。

しかしそこからの追い込み方は、並みの女流ではなかった。混沌としてからが強いのが中井女流の将棋。清水女流も粘るのだが、悪くなってから粘るときの上手さというか、勝負勘は中井女流のほうが上のような気がする。ちなみに林葉元女流は尤もケレンミがある感じ。

午後からの観戦も行ないたい私は今日も7%増しで中井さんを応援。こういう玉形になれば中井さんペース!と届かぬ声援を送るが、さすがに木下プロは鋭かった。声援を送った局面からわずか数手で先手投了となってしまった。

これで、朝日杯はアマプロはプロ全勝、プロ女流も女流の勝ち残りなしということで、今年の夏は、終わった。…と思ったら、月曜日に清水市代女流の対局が残っていた!

交流戦は、内容の良し悪しは別として兎に角盛り上がるので、月に一回ぐらいはアマプロ、アマCOM、アマ女流、プロ女流、ぐらいは見たいものだ。

鏡花水月―女流棋士中井広恵/その戦いの日々と生活の詩


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