普通の四間飛車穴熊 第4回大和証券杯最強戦 ▲森内俊之-△広瀬章人

第4回大和証券杯最強戦 ▲森内俊之-△広瀬章人

兄弟弟子対決。森内プロは言わずもがなの実績だが、昔NHK杯か早指し戦で神吉プロに相穴熊で負けた印象が強すぎて、実は相穴熊は苦手なんじゃないか?という偏見が拭いきれ無いのだが、本局で払拭されたかもしれない。元々相穴熊が不得意な棋士ではないはずなので良かったと思う。

本局は、序盤に一つの見どころがあった。森内プロの作戦は銀冠からの穴熊だったのだが、まず片銀冠に囲い、二枚のまま、端も突かずに二枚穴熊を優先させたということ。片銀冠二枚穴熊の姿はとても不思議な感じがした。

広瀬プロの穴熊というのは、序盤で攻勢を取りやすい形を相手に強要し、そこから技を掛けに行くものだと思っているが、本局においては如何にも普通の穴熊。若い頃、四間飛車穴熊のスペシャリストだった鈴木大介プロ(鈴木流四間穴熊 (振り飛車新世紀)という著作もある)だが、この銀冠穴熊が優秀で、7二飛車の袖飛車から反撃する筋ぐらいしかないがあまり利いていないので、穴熊を諦めた、という解説も説得力がある。

私も一頃は穴熊を指しまくっていたが、この7筋からの反撃というのは、景気が良さそうに見えて大した事無い、というのは確かにある。対急戦で突き捨ててから飛車を転回する、歩を垂らす、という将棋はそこそこおもしろいのだが…。

森内プロの41手目が機敏だった。
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普通に7筋の歩を交換して、さてどうしましょう?という局面で指された▲2四歩。ツイッター上での強い方のコメントでは「島ノート 振り飛車編」に出ている変化だという。その中のものとして提示された手順は確かに先手が勝ちそうなものだった。

どうするのか?と見ていると広瀬プロの応手はごく普通。先手から要求した工夫の手順であり、後手が変化する余地が少なかった。このあたりは序盤で二枚銀冠穴熊を作ったところの成果が現れているように思った。

変化できそうな局面としては44手目がありえるが、鈴木大介プロが推奨する△4五飛車という手は、なんというか岡目八目的な、お気楽な手だと思う。パッと見▲7二歩から飛車切って△6一角とか、7筋を切った手を逆用されるのが悔しいし、2四歩を同角と取ったのも、裏目に出ているような含みが多すぎ、色々ありそうで好んで選ぶ手ではなく、プロであれば、研究していて指せるかどうかを判断したいところだろう。

というわけで普通に飛車を引いた広瀬章人プロ。先手の角のぶつけに対しても、△3三桂からのカウンターパンチの準備は、4三の銀が取り残されそうで指せないということで、仕方なく△3五歩。

このあたりを見ていて「あー普通の四間飛車穴熊(の苦労)だなあ」と思っていた。

相手が四枚穴熊、ビッグ4の堅陣に組み上げることが明らかでも△6五歩と突くしか(手が)ない。後手が仕方なく攻めて来た△4五桂馬の単騎跳ねに対する▲4六歩からの森内俊之プロの構想が見事だった。桂馬クーポンを集めて、兎に角8三の地点を圧倒してしまおうというものだった。

4五の歩が利いている地点に跳ばれると放置したくなるところだが、5三の地点に成る手があるので取らざるを得ない。そして悠々一歩入手する森内プロ。速度計算において先手が速く、堅さも先手、手番ぐらいは差し上げましょう、という余裕の一手だ。

66手目の△6六歩が広瀬プロらしいギリギリの手裏剣だったが、ここからの森内プロの手順がそれを上回っており、広瀬プロに粘る余地すら与えなかった。「相手の手に乗って捌く」という言葉があるが、本譜の手順がまさにそんな感じで、後手の指し手が全てお手伝いになるような素晴らしさ。6八にいたはずの先手の銀が何時の間にやら、攻めの急所である8三の地点を狙う7五の地点に進出していた。

そして74手目、金取りを放置して突いた▲8四歩が本局におけるMOM(Move of the match)だった。金を剥がされても後手からの早い攻めはなく、桂馬を入手することのメリットのほうが大きいという判断で、確かにそのとおりだった。後手が端歩を突いていないことも裏目に出ている。(もっとも突いていたら端攻めがあっただろう)。

このあたり、将棋の作りとして全てが先手に都合の良い状況になっており、序盤から延々と苦労が絶えないあたりは、本当に普通の四間飛車穴熊だった。84手目の△6八金はなんというか、キャンセル待ちのような手に見えた。その後は事務手続きのような手順で先手の森内俊之プロ、兄者の貫禄を見せつけた。

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本局においては、広瀬章人プロの穴熊の怖さ、みたいなものは全く感じなかった。手順的に普通の四間飛車穴熊の苦労が延々とつきまとうような将棋で、文字通り先手が先手先手と策を講じていたように思う。

実は「将棋世界 2009年 08月号 [雑誌]」の126ページにおいて、夏の定跡講座というタイトルで、振り穴王子こと広瀬章人プロによる対銀冠講座が開かれていた。

その枕で広瀬プロは以下のように語っている。

さて、私は公式戦を今まで指してきた中で圧倒的に多いのが、四間飛車穴熊である。それに対し、相手も穴熊に組んでくるのもこれまた多いわけだが、その次に多いのが銀冠である。

銀冠の特徴としては堅さと広さを兼ね備えていることが挙げられ、振り飛車穴熊側から見ればかなり厄介な戦法だ。

実のところを言うと、私は対銀冠が苦手である。いや、厳密には自分では苦手意識は全く無いのだが、毎回苦戦するのは免れないイメージだ。これはただ単に私の序盤力に問題があると言ってしまえばそれまでだが…。

穴熊で銀冠を相手にするときは、とにかく銀冠の圧力に押されないように序盤から気をつけて駒組みをする必要があるので注意していただきたい。(オマエモナー)



当然最後のオマエモナーは私の悪ふざけである、スミマセン。。

本局の結果と上記の内容を踏まえて考えると、王位戦第二局で深浦プロが採るべき戦法は決まったようなものだ。もし穴熊が来れば銀冠(穴熊)にするのが良さそうだ。

計算の世界に突入するとその能力を最大限に発揮する広瀬将棋だが、元々序盤が上手くないという話で終盤型だったはずで、森内プロのように序盤で相当工夫されるとその本来の力を発揮出来ない可能性がある。王位戦第二局でいきなりこれを食らうよりは、兄弟子に稽古をつけてもらって、予習の時間が出来たのは大きい。

なんらか具体的な修正案をもって第二局に臨むだろうし、なければゴキゲン中飛車など他の戦型を指すのではないかと思う。



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ファンサービスor単なる変態? 第4回大和証券杯最強戦 ▲佐藤康光?△渡辺明

佐藤プロが先手だったので、渡辺竜王の後手番戦術に期待したのだが、なんと佐藤プロが先手番で振り飛車だった。佐藤プロの作戦はダイレクト向かい飛車と呼ばれるものだと思う。…と思ったら違った。序盤見逃していたので、ご指摘を受けるまで序盤を見返していなかったのだが、角交換を直接同飛車ととる形ではなく、向かい飛車にしてから角交換が行われていた。

この手順だと居飛車に穴熊以外の陣形を強いる戦い方であり、穴熊上手の渡辺竜王相手には有効な作戦かもしれない。

そこから双方の玉の囲い方、駆け引きが序盤の見所。正直、佐藤プロの作戦が成功しているとは思えず、そしてそうは言っても後手の渡辺竜王の陣形も良い形には思えず、どちらも持ちたくない将棋だ。プロで最近この類の振り飛車が蔓延しているのは、後手が具体的な良さを追求することが出来ず、手待ちすることも打開されてジリ貧であり、それであれば、ゲリラ的な戦いに持ち込もう…という後手の思想や、振り飛車党の仕方なさから来るものだという私の認識だが、本局の佐藤康光プロは、居飛車党で先手、ということがとても不可解ではある。

まるで後手番のような手待ちの先手に対する後手番の渡辺竜王の攻撃で戦いが始まった。序盤の開戦手前の手順は私でも見えるところだったが

55手目、先手が銀を逃げずに桂馬を取りに▲7四歩と置いたあたりでは
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先手のほうが模様が良い。飛車の位置関係、当たりの強さの違いが出ている。


61手目の▲5一角が緩い手だったようで、確かに▲4九飛と転回していれば、かねてから私が気になっていた7一角の筋もあり、うるさかった。

先手も馬をつくり、懸案の歩切れを解消したので(そして私は後手が良いのではないかと思っていたので)、ここでは先手もやれるだろうと思っていたのだが、実際は先手が良かったのに、このもたれるような指し方により、少し縮まっていたということのようだ。両取りの角打ちに対して、得している桂馬を自陣に手放すようであれば確かに先手良しとは言い難い。ただし、82手目の△6八馬という手のお陰で、自陣の一段目に打った桂馬が三段跳びで活用出来たあたりでは、また先手が持ち直した。

形勢の良し悪しは私レベルには分からないのだが、手番は後手の渡辺竜王にあり、1筋も急所。沢山持っている歩も活用したいところであり、解説の森下プロでなくとも、流石竜王と思わせる手順だったのだが。私レベルの将棋では、この端玉に対する端攻めというのが決まっているようで決まってなかった、というのは多々有り、しかも先手陣は一段目に飛車が利いているのが何となく厄介な感じ。116手目の局面を観たとき、誰でも考えるのが2八角。これで金を取って寄ってるんじゃない?ということ。

そういう心理状態の時に、▲3五銀と打たれると、取りに行こうとしている金が取れなくなったような錯覚が起こる。少なくとも私はこの銀を観たときに、これで2八に打てなくなったので良い手だなあと感じたのだった。そこからの手順で渡辺竜王の手から勝ちが零れたが、実際にはなんと△2八角を打てば渡辺竜王の勝ちだったようなのだった。しかもその手を感想戦で指摘したのが▲3五銀をしれっと打った佐藤康光プロ、当の本人だったのが面白い。

一頃はハイペースで勝っていた渡辺竜王だが、挑戦者決定戦前後で敗れたことが影響しているのか、少しペースダウンしている。能力は上位なので、後は目先の勝ちを取るために中座飛車などの研究将棋に戻るのか、或いは自身の今後ののびしろを含めた戦型選択とするのか、贅沢な悩みのような気もするが大いに悩んで、次なる飛躍に備えて欲しい。

一方の佐藤康光プロだが、勝ったことよりも、先手番でこういう(千日手模様というか手待ちのような)戦い方をするような棋士では以前はなかった。最後は幸いしたが、後手番であればまだしもだが、先手番では本来の居飛車党らしい姿を見せて欲しいように思ったのは私だけだろうか。或いは、ファンサービスの意味合いもあって、早指しであるし、対抗型を見せてくれたという可能性も(前回の木村戦とあわせて考えると)無くはない気もするが。そのあたりは優勝コメントとして語られる類の話かもしれない。

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恐らくこの本とかだしてますし、佐藤康光プロは自分は現代の升田幸三である、対抗型が好きなファンの期待に答えなくては、という気概で力戦振り飛車を先手番でも指していると思うのですがどうでしょう?私としては緻密流と呼ばれた頃の(正確にはあの頃から緻密流というのは正確な表現ではないと先崎プロなどは評していたわけですが)、先手番での矢倉、角換わりというような将棋が観たいのですが、どのみち受ける人が少ないのであれば自分から奔放に行ったほうがファンも(自分も)楽しめる、ということなのかもしれませんね。

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「羽生名人は何故『佐藤康光の石田流破り』を用いないのか」問題 第4回大和証券杯 ▲久保vs△羽生

第4回大和証券杯久保利明-△羽生善治

先手久保二冠での石田流、羽生名人の対策に期待していたのだが、結果から言えば久保二冠の完勝だった。序盤の研究にハマっていたというか、駒組み段階で私であれば不貞寝しているレベル。基本的に対抗型の後手で9五歩の位を取って幸せな気分になれるのは、加藤一二三プロだけであり、勝てる人は殆どいないような気がする。

羽生名人の角交換の狙いは、昔からよくある交換した角を5四のラインに打って飛車をいじめる、というものだと思う。私もよくこの将棋は指すが居飛車も結構やれる。最近ではB2の中川vs神谷戦が先後逆だが思想としては似たような将棋で、居飛車をもって指したときに押さえ込みの将棋にありがちな、苦労感が少ないのは角が飛車をいじめてくれるからだろう。

久保二冠の▲5五角という手は初めてみたのだが、所謂オドカシで、意味としては前述の筋違いの角を無くしたもの。お互いに角を手放しては、特に先手番ということを考えれば不満もあるが、双方の角の価値としてみたときに、そして潜在的脅威としての5四角が無くなっただけで満足、という実戦的な考え方だ。

そこから駒組みが進むのだが、4二銀から囲い合うのは将来完成形の性能が先手の銀冠のほうが高い。しかもコビンに銀が入る形までみえているので圧倒的に居飛車が勝ちにくいことがみえている。羽生名人は変な囲いと構築し、玉頭方面からチョッカイをかけたが、55手目の▲5五歩が既に捌き開始の合図。

ここから先のやりとりは、素人目にはハッとする場面もあったが、終始久保二冠が優勢を維持していたようだ。それにしてもよくなってからの勝ち方にその好調さと切れ味の鋭さを示しており、久保振り飛車が円熟の極みに達していることを感じた。

そしてまた、石田流が勝つことにより、しかも5五角のような方針の分かりやすい手が通ったことにより、将棋倶楽部24では石田流が横行するようになるのだろう。居飛車党の皆様、くれぐれもご用心ください!

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それにしても、久保プロの石田流に対して、佐藤康光プロは大事なところでことごとく勝ちきっており、反対に対ゴキゲンではことごとく負けている。対する羽生名人はその逆。直線的な将棋と評されることの多い佐藤康光プロと曲線的と称される羽生名人。

両者の棋風の違いが対久保振り飛車において現れているのは面白いところだ。特にこれといった作戦がないのであれば、羽生名人も「佐藤康光の石田流破り」でも買って、佐藤流を用いれば良いと、素人考えでは思ってしまう(勿論冗談です)のだが、天才の考えは誰にも分からない。

個人的には佐藤プロのあの金銀を左右分断させて延々と防衛ラインを死守するような戦い方はアマチュアにはマネができないと思っていますが、羽生名人であれば容易に指しこなせるような気がしているのですが…。

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キャプテン翼vs日向小次郎 第四回大和証券杯最強戦 ▲藤井猛-△山崎隆之

第四回大和証券杯最強戦 ▲藤井猛-△山崎隆之

この週末は山崎隆之プロのファンにとってはたまらないものだったのではないだろうか。JT杯、NHK杯、そして大和証券杯とみっつ立て続けに対局があったようだ。厳密にはNHK杯は放映日と対局日が異なるが、観る側としては3つ連続ということになる。

最強戦は先手後手が自動振り駒なので、藤井プロが先手で居飛車を指すようであれば、藤井目線で、もし振り飛車にするようであれば居飛車視点でみようと考えていたが、先手藤井プロとなり、最近多投している矢倉となった。

藤井矢倉は今期の大和杯で、先手番矢倉にて若き天才(というキャッチフレーズもそろそろ使えなくなりそうなのでより一層の、具体的な活躍が欲しいところだ)阿久津プロをふっ飛ばしている。あの四間飛車でみせた藤井システムを先手矢倉で再構築か?と思うのは藤井ファン5級(私のことです・・・)。

周りのそのような声に対して、藤井プロ本人がやんわりとではあるが、しっかりと否定している記事をご紹介しておく。




藤井「プロの将棋は勝たないといけないのでねぇ。四間飛車は研究が進みすぎて今は勝ちにくい。矢倉を指すのは、やっぱり本格的な将棋を指さないとダメになるから。角交換振り飛車とか、変化球も勝つためには投げるけど、そればっかり投げていたら肩が壊れてしまいます。やはり、矢倉や四間飛車のような将棋を指さないと、B1やA級では通用しないんですよ。」

藤井「プロは勝たないといけないので。そこが苦しいんですよ。藤井システムが成功したのは、当時は誰も打てないストレートだったからなんです。目が慣れてきて打たれるようになった。これからは矢倉で頑張ります。」

shu-ji「矢倉で新型藤井システムですか。」

藤井「それは考えていませんけど(笑)でも僕が四間飛車を指さないから、四間飛車をやめちゃうファンの人もいるんですよね。それが悲しいです。」

http://seta-express.blogspot.com/2009/10/2_14.html




私はアマチュアなので小手先の、明らかに良くない局面を山ほど抱えた手順や戦法を趣味の将棋として指しているが、プロの存在意義は勝つことなので、そうはいかないと。そして変化球だけではなく、速球でも勝負しなくてはいけないので、本格的な将棋を指す、という意味で四間飛車が駄目なのであれば矢倉を指すしかない、ということなのだろう。

確かに棋界で「大物食い」といえる棋士というのはみな、矢倉を得意としている印象がある。例えば大平プロ、佐藤慎プロあたりが私の頭にぱっと浮かぶ大物食いの棋士だが、どちらも本格的な矢倉での強さが際立つ。

藤井プロは当然矢倉を先手で指す上で、研究はしているだろうが、既にある程度体系化されたなかで、四間飛車における藤井システムのように急戦から持久戦まで全てを網羅したようなシステム化は流石に難しい。しかしシステムとは言えないまでも如何にも藤井流の序盤、という出だしを先手番矢倉においてみせてくれている。

通常のプロの居飛車党同士の相矢倉において、先手が飛車先を意図的に毎回突く、というのは藤井プロだけではないか。この手を見ると、私レベルであっても、後手は飛車先を不突きにして、別の有効な手を指すことによって、可能であれば先攻したいと考える。

先日の阿久津プロはその前提に則って対左美濃に対する田中寅彦プロが開発した思想を投入したが、シンプルに堅い左美濃で藤井プロが勝ちきっていた。本局の山崎プロは、阿久津流急戦矢倉もどきというか古くからある、5筋急戦、米長流や中原流や郷田流など色々な呼ばれ方をする5筋からの急戦策があるが、それらの思想を用いた。

感想戦で分かったことだが、どうやら先手の藤井プロのほうが作戦的に上手くいっていなかったようだ。ただし、後手の山崎プロも形勢を悲観していた。(とはいえ山崎プロは悲観派でいつもぼやいている印象があるが。)5筋から強く反発した先手に対して、するりと銀バサミの筋に銀を飛び込ませた後手の構想が良かった。

振り飛車の玉頭銀の筋で、こういう死にそうで死なない銀、というのはたまにみる気がするが、先手の藤井プロは守りの桂馬でこの銀を取りに行った。歩がなく、どこでも入手できないとなれば仕方ないところだが、攻めの銀と守りの桂馬の交換はどちらが得したのかは分からない。交換後にすぐ桂馬を打った後手の構想が面白く、ここに投入するようでは、と私は思ったが、先手の藤井プロは良い手だと感じていたようだ。

後手は先に馬を作り、先手が攻めさせられる展開となった。私が感心したのはふわっとした△4四歩と、玉をしれっと入城した△2二玉という手。戦いが始まっている最中で、こういう守りの手を指すというのは如何にもプロらしい。

本局のクライマックスは香車を打ち合った場面だろう。先手の5九香車に対して飛車を切って返す刀で5一に香車を打った手順が、先手の歩切れを突いて素晴しかった。以下の呟きがツイッターであったが、なんと的確な表現だろうかと感心したので紹介しておく。


その喩えうますぎですww @ametsugu_naoe 5筋の下段香が3度。翼君のドライブシュートを日向君がタイガーショットで打ち返したのを翼君が再度ドライブシュートで打ち返したのを思い出した。



本局のMOMはこのあたりまでのやりとりの中にあったと思うが、寄せの手順としてアマでも指せる、参考になる手は76手目の△6六歩だろう。金銀四枚+飛車という一見堅そうな先手陣がこの一手でほぼ崩壊した。取られる寸前の7三の桂馬とあわせて、プロは一目の筋だったようだが、アマだと馬を切って決めに行く手を怖がるケースもありそうなだけに、この手の味は覚えておきたい。

最後の竜をしかりつけた手に対する先手の▲4四竜もはっとする手だが、冷静に山崎プロはまとめた。先手番の左美濃に対する5筋からの急戦策というのは有効なのではないかと思われた。藤井プロによる本局の〆の挨拶は絶品なので、まだ棋譜中継をご覧になっていない方は棋譜速報にて、感想戦の様子をご確認いただきたい。


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本当に怖い△3二飛車戦法 第四回大和証券杯 ▲丸山忠久?△久保利明

第四回大和証券杯丸山忠久?△久保利明

事前に戦型予想をしてから将棋観戦に臨むのだが、この日は当てたかった。ネット棋戦、早指しとなれば久保プロのこの戦型は予想できたはずだ。△3二飛車戦法は、今泉さんが開発して升田賞を受賞している戦法。ただし対策が進んだようで最近は見られていなかった。私は初手に26歩をつく将棋なので、後手の面倒くさい変化を回避できている(その分、損をしている変化を沢山抱えている)のだが、居飛車党で三大ゲンナリは「4手目角交換からの筋違い」、「後手なのに無理やり石田流」、そして三つ目がこの「△3二飛車戦法」ではないかと思う。

そういう意味で、この日曜日(6/20)は居飛車党にとって脅威の一日だった。まず、日曜のお昼のひとときを昼寝へと誘うNHK杯では西尾プロが、後手無理やり石田流で、アマであればどう転んだかわからないような乱戦に持ち込み、「日曜日の夜のドルチェ(誰も呼んでいない)」こと大和杯では久保二冠が△3二飛車を投入。もしこれで久保二冠が勝つようなことがあれば、たちまち24では後手石田流と2手目3二飛車の出現率がぐっと上がるだろうと。

そういう意味では、先手の丸山プロは全国の居飛車党の期待を一身にうけての勝負だったのだが・・・。

序盤早々に先手の丸山プロは9筋の位を取る。後手としては受けることが出来ないらしい。具体的には飛車を91の地点に打ち込む筋があるためだ。この辺り、NHK杯の筋違い角の筋とセットでみると、同じ三間飛車で9筋の攻防であってもかたや振り飛車側が端を狙う筋、かたや居飛車が、ということで面白い。

振り飛車が端を受けた場合に具体的に咎める手順としては「第49期王位戦 第2局」が詳しく、羽生プロの受けた手を先手の深浦プロが粉砕している。(情報ありがとうございました!spciaさん)

後手は端歩を受けられないので、美濃には囲いにくい。逆に言えば、先手はこの端歩をついて後手の穴熊を強要している意味があるので、具体的な手順・構想はわからないが、この穴熊は何が何でも咎めたいところだ。

現代将棋における穴熊戦というのは本当に繊細な手順を要求されるというのはこの将棋をみても感じた。左金よりも1筋の歩や攻めの銀の運用を優先させたところは先手後手の堅さの相対性をみたものなのだろう。△14歩という手は終局まで殆ど意味が無かったように思うのだが、水面下での角の捌きを見せる意味で必要な税金ということか。

先手の端角から、角交換となり本格的な戦いに突入した。後手はもう囲うつもりがなく、互角に捌ければよいと思っている。33銀というのはつまりはそういう手であり、先手の97角は飛車先を押さえようという意味があったように理解したのだが、強く31角とぶつけたのだった。通常の将棋ではあまりみない手順だが、振り飛車の左金の顔もたっており、互角の捌きでよいという方針に則った手ではある。

交換した角を打ち合った後、先手が飛車を寄った手が良さそうであり、先手が馬を作ったあたりでは先手がリードしたのではないかと思う。ただし玉の堅さが大差であり、特に先手玉は通常の囲いではないので、危険度の計測に非常に気を使う展開。54手目、△23歩に対して先手の丸山プロはずばっと馬を切った。

折角の馬を切って攻めるということは相当良いということなのだろうか?と思っていたが、後で振り返ってみると、ここで踏み込むしか勝負どころがなくなるとみたのかもしれない。互角の捌きあいで良し、とみている久保プロにとっては望むところ。73手目の局面は、先手の金銀が、後手の飛車桂馬と交換になっており先手は竜を作っている。手番は後手。堅さも後手。ということで後手が良さそうだ。特に金銀を沢山もっている穴熊の耐久度というのは恐ろしいものがあり、手駒が桂馬と香車と角だけの2枚穴熊ならばまだしも、というところか。

しかし観戦中の私としては、冒頭に書いたように常に居飛車を応援しており、馬を切った時点からこの局面に至ってもまだ居飛車やれるとみていた。ここからまったり受け切れるのではないかと。死ぬまで受けて勝とうと。

74手目で久保プロの放った△5五歩が良い手だった。▲同竜に△8八角。見ているときはあまり意味が分からなかったが、この手順が本局におけるMOM(Move of the match)だろう。感想戦でも触れられなかったので私の想像に過ぎないが、例えば先手が入玉(できるかどうかはわからないが)を目指して31飛車から33竜と33の金を取るような手順を考えた場合、76手目の△8八角の局面から先手は飛車を打って金を取る。対する後手は角を99に成って香車を取り、次に89の桂馬を取る。

この時に前述の74手目の△5五歩の効果が現れる。この△89馬と桂馬を取った手が6七の金に当るのだった。3三の金が上部を押さえる駒になるのであれば、先手玉が逃げ切ることは出来ない。(そもそも1?5筋は先手の歩が残っているので逃げ切れないという話もあるが)。この後丸山プロは5五の竜を用いて攻め合いに転ずるが、勝負を賭けたというよりは首を差し出したに近く、5五の竜がいなくなってからはあっという間に先手玉が寄ってしまった。

投了図は後手圧勝の姿。本譜を振り返ると、後手の穴熊を先手が強要しておきながら、後手からの3筋強襲があり、先手玉が固くないままに戦いが始まり、堅さを生かした互角の捌きで後手が良し、となるのであれば振り飛車党でなくても後手番で3二飛車戦法を指したくなるというものだ。

居飛車党の皆様におかれましては、これから暫くの間、△3二飛車の嵐が治まるまでの間、初手は▲7六歩を控えたほうが良いかもしれない・・・というのは冗談だが、そのうち冗談ではなくなるかもしれない。それくらい△3二飛車戦法というのは、アマの持ち時間の短い将棋にとっては脅威である。


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「将棋観戦記」というブログで、プロ棋士の将棋を観戦して思ったことを記しています。棋力はありませんが、将棋観戦の楽しさを一人でも多くの人に知ってもらい、「観る将棋ファン」を増やすために貢献できればと思います。主に順位戦速報・タイトル戦等、ネット中継されている将棋を中心に将棋観戦記を書いています。棋譜・符号はなるべく用いずに、将棋のルールが分からない人でも、将棋の勝負の面白みが伝わるように努力します。

基本的にはリアルタイムでの将棋観戦中に思ったことを書き溜めつつ、対局終了後の感想を付け加えて、将棋対局のあった翌日の朝7時頃にアップされるように将棋観戦記を予約投稿しています。「一日一観戦記」をモットーにしているので、同日にネット中継が重なった場合は、対局の重要度を個人的に評価して観戦記の投稿日を調整しています。

将棋観戦中に書き始め、対局が終了すると思われるところから観戦記を完成させていることが多いです。文章内の形勢判断は個人的主観によるもので、観戦中の控え室のプロの意見を取り入れず、将棋ソフトの解析を行なっていないため、形勢判断が正しくない可能性があります。

また、あまり推敲することなく投稿しているので、観戦記内に誤字脱字、情報の誤りがある場合があります。お気づきの場合はコメント欄にてご指摘いただけると助かります。早急に訂正させていただきます。

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