絶品!森内振り飛車 第60回NHK杯三回戦第二局▲三浦弘行-△森内俊之

例によって棋譜のみを閲覧した。12月12日のNHK杯だが、予約投稿は12月20日と1週間遅れになったのは、他の観戦感想が立て込んでいるためである。

第60回NHK杯三回戦第二局▲三浦弘行-△森内俊之

後手が早々に角道を塞ぎ、振り飛車か無理やり矢倉が予想される。矢倉は許せないので飛車先は決めるしかない。決めると今後は後手としては向かい飛車にするのがベストと思われる。この辺が相手の指し手によって有機的にその後の展開が変化していく、将棋の面白さ、棋は対話なり、の醍醐味だろう。

ざっくり言うと、現代将棋における対向かい飛車というのは、「居飛穴に囲えるかどうか?」に尽きる。囲えれば勝ち。というのは言い過ぎだとしても、それを争点として戦いが進んでいくのが対向かい飛車の将棋だ。

私が普通に居飛車を指していた頃は向かい飛車には左美濃で対抗、というのが主流だったような気がするのだが、時代が進み、居飛穴の駒組も改良され、囲えるようになった。

藤井猛三浦弘行という西村門下の居飛車・振り飛車を代表する研究家の二人はこの向かい飛車の変化を相当に研究していると思われ、藤井猛プロにおいては将棋世界誌上で細かな違いでその後の有利不利が出る、というのを細かくつつき回す連載をしていた。

三浦弘行将棋で面白いのは、ある戦型においては相当に深いのだが、ある種の戦法においてはそうでもないように見える点。特に対石田流の陣立ての普通さにはいつも驚いてしまう。

本局の対向かい飛車は前述のとおり、相当に深い。居飛穴にどうやって組むか?をかなり掘り下げているはずだ。

従来の、左美濃での対抗の場合、両者似たような形(銀冠)になって、先手居飛車が打開する義務があり、苦労する、という展開が多かった。

本局は逆に居飛穴に組むまでは慎重を期し、後手からの攻めがある場合に強く応戦することを想定しつつ、最終型としては松尾流穴熊を目指すというもの。

後手が飛車先交換してから再度△2三歩と受ける辺りは研究だとすると恐ろしい。パッと見は損しているように思う。そこからは局面の打開に至る明快な順は見えず、駒組が続く。

森内俊之プロの振り飛車といえば、前期の竜王戦挑決三番勝負での、対深浦戦、ノーマル四間飛車で居飛穴を粉砕した将棋を思い出す。

先手の松尾流、後手の角銀冠プラス金上ずり型?という陣形から先手が仕掛ける。互角に捌ければ居飛穴が良いはず、というところで、桂馬が交換され、2筋の突破が確実になる。後手は玉頭方面に飛車を転回し、5?9筋での優位を築こうとする。

先手はと金を2枚つくるものの、役に立つ可能性は低く、むしろ飛車の行先を邪魔する存在となっている。とはいえ、現実問題としての玉の堅さの違いは大きく、攻めさえ続けば先手が勝つのだろうと見ていた。

104手目までの応酬は互角。先手の飛車が攻防どちらにも利いておらず、対する後手の4六の角が攻防で質にも鳴っていない。通常は銀冠の銀が取られて同金となった形ではもたないとしたものだが、先手からの早い攻めがないために、そして△7二香と打った形が傷をけしている。

114手目、飛車でと金を払って1一にいる馬に当てた局面では後手に形勢が傾きつつある雰囲気がある。馬を2二に逃げられて今後は飛車が取られそうなのだが、取らせているうちに穴熊を崩してしまおうという構想であり、この飛車を先手は取ることが出来ない。

128手目、先手の穴熊が崩壊寸前で、後手が一応詰めろとなる繋ぎの銀を打ったところ。だいぶ追い込んだものの、如何せん、後手は戦力不足になっていた。とするとだいぶ雰囲気は出ていたものの、やはり飛車を見捨てての攻撃は無理だったということだろう。

森内俊之プロの振り飛車の指し回しは絶品だったと思う。一般的に振り飛車の使い手の指し回しというのは美しいモノが多く、勝てばその素晴しさが前面にでるために、その才能を讃えられる振り飛車党の棋士というのは本当に多い。例えば世紀末四間飛車の櫛田陽一プロ、例えば下町流振り飛車の小倉久史プロ、コーヤン流の中田功プロ、あたりがその代表だろうか。

ただし、居飛穴、最新の居飛穴がとても厄介な敵であり、芸術的な指し回しであっても実戦的にはなかなか結果に結びつかない。たとえ棋理としては良いと思われる局面に持ち込んだとしても、実戦的にはひとつ間違えば逆転するような類のものであり、現代将棋における居飛穴の進化というのは正統派振り飛車党の選手寿命を縮め続けているのだった。



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疲労するコンピュータ 第69期順位戦A級5回戦 ▲木村一基八段?△丸山忠久九段

後手の作戦に注目したが、振り穴だった。丸山忠久プロは新王位誕生あたりからこの戦法を試しているふしがあり、銀河戦において羽生名人を破る戦果を挙げている。

どうやら本割の順位戦でも後手番戦術の主軸として投入し始めたようだ。

第69期順位戦A級5回戦 ▲木村一基八段?△丸山忠久九段

先手の木村一基プロは銀冠。相穴熊が多いのが最近の風潮だが、失礼ながら木村一基プロは穴熊との相性が良くないという印象があり、銀冠のほうが合っているように思う。

本譜は長い中盤戦の後、後手が駒損承知の攻めを決行することで開戦された。

先手が角二枚、後手が飛車二枚を手にして、二枚ともが成り駒、1筋2筋の桂馬と香車は双方手持ち。ただし先手だけと金を作っているので、その分やや先手が良いだろうか。

96手目の△8四歩が、自陣の目の前にある位への逆襲で、彼我の陣形の違い、持ち駒の香車を活用する良い手だった。

その手を境に後手に形勢が傾いた。最悪千日手、という状態だったとのこと。

そこからの攻防はまさにこの戦型の面白さそのもの、という具合。どちらが良いのか良く分からないが穴熊流の強手が飛び出たのが130手目。こういう手があるから穴熊は止められない、という穴熊党の気持ちがわかる一手だ。

その手をきっかけに後手に形勢が傾くのだが、138手目、痛恨の手順前後で後手の負けとなった。普通に指すと本譜の手順なのだが、見えない手でもない。純粋に二択問題でその正解は3手先5手先、というものだった。

これが深夜まで続く順位戦ならではのドラマだろう。こういうのをみるとコンピュータ将棋の長所が疲れないことである、とした先崎学プロの発言はその通りだと思う。

もし人間プロ棋士との勝負を本気でやる場合は、その時間設定には十分留意したほうが良いだろう。コンピュータがプロ並み、という表現が最近は目立つようになっているが、むしろ「そのぐらい凄いコンピュータと同じぐらいの解析能力をもつ人間がプロ棋士なのだ」という考え方もある。プロ棋士は疲労するコンピュータなのだと。

木村プロが居飛車党同士の先手番を勝ち切り、両者2?3となった。

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玉頭突き越し向かい飛車への反撃 第18期銀河戦本戦T Dブロック11回戦 佐藤康光九段 vs 山崎隆之七段

第18期銀河戦本戦T Dブロック11回戦 佐藤康光九段 vs 山崎隆之七段

最近知った銀河戦の棋譜についての感想。棋譜はこのあたりで。

二人の対戦成績は分からないが、直近では何かのタイトル戦の挑戦者決定戦で佐藤プロが勝っていたように思う。棋王戦だったか。

本局は山崎隆之が後手番ということで一手損角換わりの後手早繰り銀vsに進む…がしかしそこは佐藤康光。並の将棋にはならない。実は大和証券杯ではじめて佐藤プロがみせたこの趣向だが、2筋から反撃してくる構想は初めてのような気がする。逆襲されて詰まらないようだが、後手の銀の位置が上ずったものになるのと、正すと手数が掛かるので案外やれる、というのが愛用者である私の実感。

先手はもはや玉を囲う将棋ではないのだが、双方にとって玉頭ということを思えば、後手玉のほうが当たりが強い。気分としては対振り飛車の右玉(における振り飛車が玉側から反撃してきた将棋)の逆バージョン、という感じ。最近の角交換系の将棋にありがちな、お互いの飛車が働かず、クリーンヒットしないパンチの応酬、という戦い。

56手目、△3四玉の局面。
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ここでの形勢はどうだろうか?手番は先手。駒割は「▲銀桂△角歩歩」で歩を評価すると2:3の交換トレードだが、歩を評価しない場合は先手の駒得となる。玉形は難しいが先手のほうが良いだろう、丁度高田流左玉のような感じになっている。(参考:高田流新感覚振り飛車破り左玉。アマでは愛用者が割と多い。)

後手は二枚の金が守りに機能していないのが痛い。二筋・三筋の制圧が役に立っていないということは序盤の二筋からの逆襲はやはり先手にとってありがたかったということだろう。

57手目の▲5五銀が厳しい。次に桂馬の狙いで玉の逃げ方によっては4四の歩を食べながら玉に迫れる。7七の桂馬まで攻めに使えた局面では先手が良さそうに見える。

後手の角が先手玉を間接的に睨んでいるので、その利きを活かして反撃したい後手は64手目にあえて両取りを掛けさせる鬼手を繰り出すが、普通に応じられて3三に合駒するしかないようではやはり辛そうだ。

その後も差は縮まることなく、佐藤康光プロが勝ち切った。

この二筋位取り向かい飛車二対する後手の対策は持久戦で矢倉模様、穴熊、本譜のような反撃、などがあるのだが、持久戦模様には2筋の位を活かして相居飛車感覚の中終盤に持ち込めるのが面白い点。また、反撃された場合はその手に乗ってゲリラ戦を展開すると少なくとも、相手の研究を外せる。

ただしプロの将棋で、先手が好んで用いる将棋なのか、後手が研究家ではない山崎隆之プロですが?という疑問はなくはないのだが、天才の考えることは常人には常に謎なのだった。


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気になって二人の対戦成績を調べてみて驚いた。なんと八戦して佐藤プロの7?1という成績。生涯成績で力戦将棋で7割勝つ山崎隆之プロだが、羽生世代との相性が兎に角悪い。森内プロとは3?3と互角だが、羽生名人とはなんと、2?12。(ちなみに渡辺竜王とは3?7、深浦プロとは2?3、久保二冠とは4?2)。

生涯成績で7割近く勝っており、今期も12?2と絶好調な山崎プロなのだが、タイトル戦常連のうち、羽生・佐藤・渡辺に分が悪いのがタイトル戦まで届かない理由だろうか。

今期は他のところでの取りこぼしがなくなったので、苦手三兄弟に勝てるようになれば、タイトル戦への再挑戦もすぐやってくると思うのだが。


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