「何分多く貰えたら後手番でいいですか?」問題 第69期C級1組4回戦

申し訳ないが興味のある将棋だけ取り上げることとする。本日は中飛車が多いのが目立った。さながら中飛車祭り、という風情。穴熊の将棋が二つあったが、順位戦の穴熊を夏場に見る気はしないので割愛する。

第69期C級1組4回戦

▲金井 恒太五段?△平藤 眞吾六段
後手2手目△3二飛戦法からの升田式石田流となった。序盤、先手が1筋の端歩に二手掛けたところでは形勢はともあれ振り飛車持ち。こうなるならば毎日3二飛車戦法を指したいと思う。

ただしそこからお互いに難しくなり千日手となった。ツイッター上で観戦記者の諏訪景子さんに伺った情報だが、平藤プロがC1に上がった期はなんと「10局中4局(5回)千日手」だったとのこと!(その期の順位表はこちら

後手番で右玉を多用することから、納得できる話で、これは右玉党としてはその期の棋譜を調べる一手だろう。

指し直し局は後手の金井プロがゴキゲン、先手が左美濃からの穴熊に。何度も書いているが、相手に穴熊がなく手詰まり模様で穴熊に組み替えるというのは私は良い作戦だと思っている。後手番が時間も勝っていて千日手に持ち込んで先手番で勝ちきるのが有力であるのと似たような意味がある。

そういう意味で、本譜は勝負師としての実戦的なところを平藤プロが見せつけた。攻めの良形と言われる先手の銀飛車桂馬の形にしても、相対的に後手に良い形を得られては意味が無いが、本譜のような展開であれば、私もそうしたいところ。

もう一回千日手にしても良いですよというぐらいの心の余裕から平藤プロが先攻したところでは穴熊の強みが活きる状況で後手に為す術はなかった。寄せ始めると突如鋭い平藤流が炸裂し、平藤プロの3勝目となった。

脇プロと平藤プロは私が手本にしたい二人のプロ。一方は短期決戦型、もう一方は千日手を厭わない息の長い将棋と、それぞれに正反対な棋風だが、寄せは敬服せざるを得ない鋭さを持っている。


▲中田 功七段?△西川 慶二七段     
先手5筋位取り中飛車vs後手急戦から、なにやら恐ろしい進展をしたのがこの将棋。後手の構えは消極的で私は好きではない。先日のA級、郷田-藤井戦のような雰囲気もあったが、後手の西川プロが銀取りを放置して激しくなった。パッと見、振り飛車が捌けた印象で横の寄せ合いには美濃が強そうに見える。よって先手持ちだ。

そこからの寄せは先崎プロをして掛け算の寄せと言わしめた中田プロの切れ味の鋭さが出て圧勝。西川パパに誤算があったか?

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▲田村 康介六段?△高崎 一生五段
超速▲3七銀型vsゴキゲン中飛車に。後手の5筋交換の手に乗って銀を盛り上がる戦い方を田村プロが採用した。

アマ的には指しこなせないように思うが、そこからの指し回しは何となく対振り飛車右玉の味わいで私には馴染み深いものとなった。形勢も当然先手持ち。63手目の角よりも歩を可愛がる手が田村プロらしい強気の一着で形勢に差をもたらした。

丁寧な玉頭戦が持ち味の高崎プロだが、流石に自玉の周りに金駒がなければやりようがない。馬を引きつけて粘ろうとする手にも飛車取りを放置して寄せのあみを絞る。

プロらしい寄せでリードを保ち全勝をキープした。元々は能力上位の男。後はやる気の問題で全勝のうちは大丈夫だろう。


▲広瀬 章人王位?△近藤 正和六段
こちらも超速▲3七銀型vsゴキゲン中飛車に。その中でも先手が最も軽くて早そうな仕掛けを見せた。近藤プロもこういう軽快な展開は好きそうで両者力を出しそうな展開。どちらが良いかは分からない。

熊って良し、急戦も鋭い広瀬プロだが、本譜も素晴らしかった。中盤までに香得を生かしつつ、手番を握り続ける。・・・はずが途中でおかしくなった。62手目あたり。狙いの桂馬を打ったがそっぽに成るしかないようではおかしい。

しかしその後近藤プロに寄せ間違いが出て再度逆転、広瀬王位が全勝をキープした。近藤プロの将棋を見ていると、丁寧な絶品な指し回しの時と、ちょっと激しすぎるように思われる順を見せる時とあるが、本譜は後者の味が飛車交換の場面以外それほど無かった。

広瀬プロの終盤の寄せの早さの前に屈した格好か。


▲北島 忠雄六段?△脇 謙二八段
北島先生が、対振り飛車右玉に!これは必見。序盤の手順については色々思うところはある。対中飛車には私は5八金とするし、8筋の伸ばしは若干損だと思う。

後手の反撃は常套手段であり、先手の構想が問われる展開となっ。…のだが、私が右玉をやったときに負けるパターンそのもの、という感じで見ているのが辛かった。

広いはずの右玉が狭く、後手玉が広い状態から、終盤の寄せが強すぎる脇プロらしい見切りが出て勝負アリ。右玉側のどこが具体的に悪かったか?というのは私なりに感じるものがあったが、右玉党の企業秘密ということで割愛したい。


▲福崎 文吾九段?△真田 圭一七段
序盤から王手飛車がかかりまくる先手向かい飛車の乱戦に。後手が誘ったようだが、アマでも一部のマニアが好みそうな形で、金が懸かっているプロとしては何かしらの成算がなければ指さないだろう。

しかしお互いに竜を作りあった後は、後手のほうが窮屈に思われ、それほど作戦が炸裂した印象は受けないが力将棋で強いほうが勝つ展開か。…と思ったら千日手に。恐ろしいことに23時49分の成立だった。

指し直し局は後手番だった真田が先手となり、持ち時間も16分多いという理想的な形。指し直し局も熱戦だったが終始先手持ちな形勢が続いた。

この手の角交換振り飛車でどちらも持つ私としては、そして対振り飛車に右玉を使う私としては、早めの左桂の捌きというのは比較的多用する手段であり、この日の田村プロ同様に「桂損上手の定跡なり」とばかりに良い手だったと思う。

福崎プロは頑張ったが4連敗。



▲内藤 國雄九段?△加藤 一二三九段  横歩取り△3三角型
古豪同士の対戦は若々しい横歩取りに。やらしい話、私は横歩は指さないので見るのに気持ちが入らないが面白い戦いになっている。それよりも内藤先生の痩せっぷりに驚いた。

お互いに奇手を放ち合う熱戦で形勢がどうだったのかは駒がごちゃついていてよく分からなかったが内藤先生が勝った。老いてますます健在とはこのふたりのことを言うのだろう。


▲小林 裕士六段?△富岡 英作八段   後手1手損角換わり
私の愛する棋士の一人、小林裕プロが得意とする一手損、ただし本日は先手番。後手の富岡プロの序盤の△9四歩が意味深。意味深すぎて良く分からないが後でじっくりかんがえてみたい。

棒銀を金矢倉で迎え撃ち、突き違いの歩から銀立ち矢倉に構える先手。後手も雁木の発展系のような不思議な囲いでじりじりとした駒組み合戦が続く。この展開は両者不満なしも小林プロが得意としているところだと思う。

…と思ったのだが先手の小林プロの負け。早速の取りこぼしになった。ざっとみた感じでは、五筋で銀を後退させられて相手の銀が5五の地点を制圧し、八筋の継ぎ歩が入ったあたりでは△5九角の狙いがあってツラい気がする。

そこから暴れてみたが、大した成果は得られず、反対に後手からは桂跳ね以降攻めが続くので気持ち的に指し継げなくなったのだろう。


▲森 けい二九段?△片上 大輔六段
森九段の相掛かり。ヒネリ飛車か?と思ったらまさかの早繰り銀。これは私が大好きな中原流だ。後手が正しく応じると苦しいということで廃れたが、それでも先手は奔放な指し回しが続くことになるので、往年の魔術をみせてくれるかどうか?に期待したい。

と金がどんどん生まれる展開になり、しかも後手玉は手付かずとなって片上プロ勝勢。ひと暴れみれるかと思ったが、冷静にみると序盤で隙無く組み上げたあたりからは後手が良かったように思う。

相掛かり中原流は私の好きな戦法だっただけに少し寂しいが、プロレベルで登場しなくなった理由も分かった一局だった。


▲長沼 洋七段?△塚田 泰明九段
序盤の駆け引きがまずは第1の鑑賞ポイント。振りませんか?どうしようかな?でも振りません、ということで相居飛車。そこからもベテランらしい老獪な序盤で、力将棋に。後手は銀矢倉というか雁木というか。先手は1筋の一手分遅れているが先攻した。後手銀矢倉側からの早い反撃は無さそうなので、先手がペースをつかんだように思うがどうか。

この将棋も二転三転した印象。相居飛車で角筋受け難しというのと、桂馬を取り切る手順というのは良くなったようでなかなか難しい、という典型だったようにも思う。

結果は長沼プロの勝ち。常にC1でトップ争いをしていた塚田プロだが今期は当たりが強すぎるし、紙一重の勝負で毎回せり負けているように思われ、本調子ではないのかもしれない。


▲勝又 清和六段?△宮田 敦史六段
がっぷり四つの相矢倉か?と思いきや後手の宮田プロがなんと右玉に。角交換をしない右玉はどうだろうか、と思う時期が私にもあったが、例の大石だったか島本vs清水の清水右玉を見てから気を変えてなんでも右玉にしている。結構勝率も悪くないです。

本譜も後手は清水流に近い。ただし先手の構想はなるほど流石の飛車浮きと、四枚での堅城構築。まだ勝負は先だがどちらの主張も通った展開となっているように思う。・・・と思ったら千日手に!これもひとつの広瀬旋風だろう。

持ち時間は先手を得た宮田プロのほうが1時間も多い。これも後手番で千日手にする大きなメリットだろう。作戦勝ちして、無理に勝ちに行かず、時間を使わせて有利な状況で先手番を得る。

指し直し局は後手一手損、先手早繰り銀vs後手四間飛車となった。駒組みの後、後手が先攻することとなり、その後も先手からの反撃が難しいので、攻めさえ続けば後手勝ち、という風に思われたが飛車まで守りに投入している先手陣がなかなか崩れない。

決め手は銀を一枚捨てて王手銀取りで後手の攻め駒を除去する手順。やがて勝又プロは打ち疲れて投了となった。具体的な決め手は分からないが、宮田プロがその詰将棋解析能力を受けに全投入した印象のある一局だった。


▲村山 慈明五段?△高野 秀行五段
オレのジメイが高野プロの飛車先突き越し中飛車と対戦。佐藤康光プロの変態向飛車と合わせて私のレパートリーの戦型だが、それほど幸せになった覚えは無い。

力戦で組みやすしとなめられている可能性はあるのでしっかり勝ち切りたいところ。ただし先手は角が使えておらず、通常の矢倉急戦、矢倉中飛車を食らった形に近く、しかも先手陣の条件が悪いので先手辛いかもしれない。

後は後手陣が薄いのでどれぐらい反撃がきついか、後手が攻めあぐねるか?に懸かっているようにも思う。ジメイ、ピンチ。

しかし後手がその後攻めあぐねる前に更に反撃がキツい形となり、先手から飛車交換を強要することが可能となった。壁銀もあり、あとは程なく高野プロの投了となった。

慈明プロにはまだ昇級のチャンスがある。


▲豊島 将之五段?△田中 魁秀九段
本日のベストバウト。ナマクラ流で若手や実力者をなで斬りにする魁秀プロだが本日も駒落ち上手風味の指し回しを見せている。この将棋だけで今月の500円の元は取った。ここをメインに今晩は観戦したいと思う。

ツイッター上でつぶやくと、野月プロ曰く、C1で昇級したときに唯一付けられた黒星が田中魁秀プロにやられたものとのこと。その期から調べると出るわ出るわ、若手、中堅実力者を屠る田中魁秀プロの名局の数々。

田中魁秀プロの将棋を見ていると、力が豪腕という風にあるわけではないのだが、駒の効率と筋の良さで最小限の力で柔よく剛を制す、とばかりに倒していく面白さがある。

本局も如何にも駒落ち上手風の装いから一気に強襲し、豊島プロを投了寸前まで追い込んでいたところをみて床に就いたのが21時半頃。

先程起きると将棋は終わっていた。

結果は…豊島プロの勝ち。嬉しいような、残念なような気分だ。

どこでどうなったのかといえば、ぎりぎりの寄せを見せた田中魁秀プロが間違った…というよりもそれより早い手を豊島プロが見出したということだろう。渋く▲5八歩と受けた場面で、後手が△6七歩と垂らせば後手有望だったとのことだが本当なのかどうか?については専門誌(紙)を待ちたいところ。

ちなみに田中魁秀先生が野月プロをふっ飛ばした棋譜はこちら、片上プロを49手!でふっ飛ばしたのはこちらです(笑)

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この結果、全勝は広瀬王位、田村六段の二人となった。一敗で続くのは9名。戦前の予想で小林・田村という豪腕タイプは取りこぼしが多いので1敗勢で順位が上のプロにはチャンスがあると書いたが早速小林プロがこけていた。

田村プロはその早見え早さしからも分かるとおり、才能はあるが早さし故の安定感の無さが課題。鈴木大介プロがA級にあがったのは持ち時間をしっかり使うようになったのが一因だろう。

田村プロも全勝のうちは程々に時間を使うだろうから、勝ち続けている間は安定しているのではないかと思われ、広瀬・田村の全勝ゴールまであるかもしれない。ただし田村プロは順位が12位と悪いので、1つ負けると頭ハネになる。上位の片上プロをはじめとする一敗陣は依然有力な昇級候補だろう。

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本日は千日手が三つあった。広瀬王位が誕生して最初の順位戦一斉対局だった。私の妄想の域をでない話だが、先日書いたように、後手の最善が千日手となると将棋の性質が変わる可能性がある。

田丸プロの最近のブログで、昔の将棋は打開できない局面が多く序盤で千日手になることが多かった、という風に書かれていたが、今後千日手が増えるとしても過去のそれとは意味合いが違うはずだ。

後手が作戦勝ちして、時間も多く余っている。ただし勝ちきるとなると別問題で、先手からの打開が難しいことだけはハッキリしている。そういう時の千日手が勝負将棋であればあるほどに増えるのではないか。

持ち時間の差はハンデになりうる。何分の持ち時間の差があれば後手を持ってもいいですか?という楽しみのための問いが過去なされた記憶があるが、今後プロは実戦の中でそれを問われることになる。

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後手番の最善は千日手/ 55年組再び? 第51期王位戦第6局(指し直し局) ▲広瀬章人?△深浦康市

広瀬新王位が誕生した。千日手を厭わない広瀬プロに対してやり直して勝つ気がしなかったのか、王位としての矜持か、タイトル戦を運営する方々への配慮か、或いは勝機を見たのか、その真意は測りかねたが三度目の千日手に持ち込むことを深浦プロは拒絶して打開し、そして敗れた。

後に感想コメントで判明したのは▲5三角をウッカリしたとのことだがこれしかないというような、ギリギリの寄せが決まった瞬間だった。先手には金駒が無く、泳いだ玉を捕まえるのに不向きな駒しかない。しかし詰め将棋解析に秀でる広瀬がその能力を存分に発揮して初挑戦でタイトル奪取となった。

棋譜コメントを読み解けば具体的にどこがどうだったのかは判明すると思うが、酔いに任せて解説もほどほどにただ手の進み行く様を愉しんだその感触の余韻を残しつつ、詳細は専門誌(紙)を待ちたいと思う。

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今私が気になるのは大袈裟にいえば、現代(プロ)将棋の行く末である。現代将棋がどのような道を辿り、その中で広瀬将棋というものがどのような影響を与えていくか?ということだ。

広瀬新王位が、このタイトルを獲得した原動力となった四間飛車穴熊だが、サッパリ流行る気配がない。ここに私は注目したい。

良いと思われるものが実は伸び悩み、誰もそれはないだろうと思ったものが伸びるというのは世の常である。新手・新戦法というところを例えばビジネスの世界におきかえると、ベンチャービジネスがそれに該当すると思うが、ベンチャービジネスにおいて、誰もが当たると思ったものよりも、むしろ誰もが駄目だと思ったところにチャンスがあったケースは少なくない。

誰も真似しない、それは即ち、他のプロから四間飛車穴熊の優秀性が理解されていないということだ。「広瀬穴熊の本当の意味」が理解されていない可能性があるのではないか。

近い将来、例えば後手番戦術が粗方掘り尽され、金脈が尽きたとする。後手番の不利が確定したとする。そうなるとどうなるか?後手番の最善は引き分け、千日手に持ち込むことになるということになる。とたんにゲームの性質が変わる。

その時に広瀬穴熊の優秀性がクローズアップされるかもしれない。今回の王位戦において、広瀬は二度千日手に持ちこんだ。先の変化が良いものであれば勝負し、駄目になったらクリンチで千日手に持ち込む。この技術は穴熊党特有のものだろう。「後手番でドローに持ち込む技術」というものが近い将来トッププロになるための一要素になる可能性がある。

将棋よりも解析が進んでいるチェスの世界では明らかに先手番が有利であり、後手番はドローに持ち込むことが出来ればOKという状況だ。後手番でドローに持ち込む技術が高いプレイヤーの実力を評価する(らしい)。

参考:チェスでの先手勝率

ここによると、トッププロでは

「20世紀前期、中期、後期でのドロー率は50%、55%、64%と上昇しており、[先手勝/後手勝]はほぼ2である。どうやら戦術戦略の進歩によるドロー率の上昇があったのではないかとも推察できる。」


とある。

恐ろしいことにチェスにおけるトッププロ同士の戦いというのは、半分以上がドローで、先手の勝ちと後手の勝ちが2:1だということだ。これを千日手は引き分けというルールにして将棋に当てはめてみると。7番勝負でいえば、2勝1敗4引き分けにて○○プロの勝ちです、という具合。

後手番が不利だとすれば最善策は引き分け狙い、すなわち千日手狙いとなる。もし結論がそこにあるのであれば、後手番での四間飛車穴熊というのは立派な、かなり有力な作戦といえる。

もし将棋の進化の行く先に「後手番の最善は千日手である」という結論があったとき、この広瀬新王位(のみ)が四間飛車穴熊に知悉しているというのは大いなる脅威となるだろう。ちょうど、昨今の先手石田流、後手ゴキゲンローテの猛威や、一昔前の藤井システム猛威のように時代の波に乗るかもしれない。

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繰り返すが、広瀬にとって大きいのは四間飛車穴熊は未だにその優秀性をプロに認められていないということ。

或いは。大山振り飛車が驚異だったのは工夫がないことだった。工夫がなく、相手を漫然と居飛穴に組ませて、根気よく指して、必勝になっているという将棋だったが、それと同じような味が広瀬四間飛車穴熊にはあるのかもしれない。

一見誰でも指せそうな振り穴。しかし他の人間が指すと負けて、広瀬が指すと最悪千日手、或いは穴熊の穴熊らしさを生かしたギリギリの勝ち方を示す。

本譜の展開についていえば、序盤は深浦王位が積極的だった。今タイトル戦で初めて見せた銀冠からの積極策。しかし傍目にはこういう展開は振り穴の遠さが活きるように思われ、相手の手に対して応じていればよいのでひとまず気が楽だと私は感じた。

そしてそのようにして将棋は進んだ。すなわち先手の広瀬プロが指しやすそうな、後手が繰り出し続ける必要のある将棋だ。

終盤、後手の深浦プロが「銀冠の小部屋」と呼ばれる地点に逃げ込み、「桂先の玉寄せにくし」と言われる状況になった。最悪でも千日手の権利を後手が有し、後手に勝ちのある局面のように思えた。ツイッター上で読み筋と形勢判断をつぶやき続けるGPSは延々と先手良しと断言していたが入玉模様で形勢判断が怪しくなるコンピュータの弱点が出ていたかもしれず、この点も王位戦とは逸れるが面白いところだった。

深浦王位は千日手模様に粘る余地のある手を指さずに決めに出る。そしてそのままに負けた。千日手に持ち込む権利を有していた(ように見えた)が決めに出て負けてしまったわけだ。ちなみに指し直し局の深浦プロは後手番だった。

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それにしても。久しぶりの20代のタイトル奪取だ。そして十代の頃からその才能を認められていた広瀬の実力が公認された瞬間だった。才能としては屋敷以上と、新井田基信に言わしめたその実力。陳腐な表現になるが、天国からその様子を見守っていただろう。

そして私が思うのは他の若手、まだ諦めていない、広瀬に劣らぬ才能と称された者たちの発奮である。羽生世代に少々長すぎる天下を満喫させることとなったが、そしてそこに反旗を翻すのは渡辺竜王しかいなかったわけだが、これで20代のタイトル保持者が2人になった。

身近な人間の成功で自身の成功イメージが具現化・具体化するというのはよくある話。広瀬の奪取を足がかりとしてもう一伸びする若手は少なくないだろう。今後眼の色を変えて上の世代に襲いかかることは間違い無い。

そしてその結果、何かしらのブレイクスルーが起こるのか、或いは渡辺・広瀬という突出した才能だけがなし得ることとなるのか、というのがこれから試されることとなる。

歴史が繰り返されるのであれば、谷川の後に他の者たちが続いたように、渡辺の後を渡辺世代・広瀬世代が後を追うことになるのではないかと思う。

渡辺が谷川だとして。渡辺が竜王を獲り(谷川が名人を獲り)、後に続いたのは広瀬の王位奪取(高橋の王位奪取)。そこから数年の間に計8名のタイトル獲得者が55年組と呼ばれる世代から現れた。

今の若手の層の厚さ、40代を迎え棋士人生の折り返し地点を越えた羽生世代、などを考えると同じようなことが起こるような気がしている。タイトルを取る候補としては、山崎、阿久津、戸辺、豊島、糸谷あたりが第1候補だろうか。その他にも獲っておかしくない若手は数多といる。


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「将棋観戦記」というブログで、プロ棋士の将棋を観戦して思ったことを記しています。棋力はありませんが、将棋観戦の楽しさを一人でも多くの人に知ってもらい、「観る将棋ファン」を増やすために貢献できればと思います。主に順位戦速報・タイトル戦等、ネット中継されている将棋を中心に将棋観戦記を書いています。棋譜・符号はなるべく用いずに、将棋のルールが分からない人でも、将棋の勝負の面白みが伝わるように努力します。

基本的にはリアルタイムでの将棋観戦中に思ったことを書き溜めつつ、対局終了後の感想を付け加えて、将棋対局のあった翌日の朝7時頃にアップされるように将棋観戦記を予約投稿しています。「一日一観戦記」をモットーにしているので、同日にネット中継が重なった場合は、対局の重要度を個人的に評価して観戦記の投稿日を調整しています。

将棋観戦中に書き始め、対局が終了すると思われるところから観戦記を完成させていることが多いです。文章内の形勢判断は個人的主観によるもので、観戦中の控え室のプロの意見を取り入れず、将棋ソフトの解析を行なっていないため、形勢判断が正しくない可能性があります。

また、あまり推敲することなく投稿しているので、観戦記内に誤字脱字、情報の誤りがある場合があります。お気づきの場合はコメント欄にてご指摘いただけると助かります。早急に訂正させていただきます。

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