電王戦の裏で人間らしさ 第40期棋王戦予選 加來博洋vs窪田義行

電王戦第二局と同じ日にこの対局があった。密かに?Twitter上では対局開始前からこの組み合わせに騒然として、もしかすると電王戦の第二局よりも面白いかもしれない…と言われていた。

観る将棋ファンであれば必ず抑えておきたいのがこの二人。窪田義行プロは花村門下の棋士でその言動の面白さと将棋の作りの面白さの両方で有名。才能的には小学生名人になっているぐらいなので相当なはずだが、その棋風は全く自由奔放。プロ棋士やファンからは窪田ワールドと呼ばれている。

振り飛車党で序盤の多少の不利は苦とせずに自陣がゆがめば歪むほどに力を発揮するタイプ。昔気質の振り飛車のDNAがかなり残ったタイプで、未だに先手番の藤井システムを用いることがあるのはこの人とあと一人二人ぐらいしかプロ棋界には残っていない。他の棋士たちは居飛車穴熊に駆逐されてしまった。そういう棋士です。

そして対する加來博洋さんはアマチュアトップクラスの棋士で、元奨励会員。三段リーグでの成績も悪くなく実力はプロ平均値以上あると考えて良いと思われる。こちらも得意戦法は右玉であり徳俵で踏みとどまる棋風というか、普通にみると必敗と思われるような将棋をいくつもひっくり返すことで有名。

大逆転につぐ大逆転で新人王戦の決勝まで進み、しかもその決勝でも大逆転をみせてアマチュア初の新人王まであと一歩という活躍を見せた。

そんな二人の対戦なので、面白くないはずがない、というわけです。

戦型は加來博洋さんが先手で相振り飛車…だったはずが27手目に玉が何故か6八に上がる。角が77、飛車が88にいて、玉が68。この時点で頭がクラクラしますが、右玉党が対振り飛車で左玉をやろうとするとこうなるものなのだろうか。

その後すぐに、何事もなかったかのように6七の地点に玉があがる。29手目で玉が三段目にあがる将棋というのは恐らく最速ではなかろうか…。

その後、後手玉がアナグマになった時点で先手が勝ちにくいと思ったのだが、まんまと相手の術中にはまっていたのは後手のほうだった。玉の堅さは上回るものの、後手の攻めが細く、むしろ先手にとって有望な局面が出現していたというのだから驚くしかない。

最後は綺麗に必至をかけて、先手玉に詰みがなく加來博洋さんの勝ちとなった。これでプロ編入試験まであと一勝とした。


プロ編入試験とは「公式戦で10勝以上かつ勝率6割5分以上の成績を挙げれば受験できる。四段の棋士5人と対戦して3勝すれば合格し、フリークラス棋士となれる」というもの。

これはかなりアツいです・・・。もちろん私は加來博洋さんにプロになってもらいたいです!

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第65回全日本アマチュア名人戦、今泉健司さん(広島)初優勝

全日本アマチュア名人戦が9月25日放映され、優勝は今泉健司(広島)、準優勝は加來博洋(東京)となった。

実際の対局は9月12日に行われ、すでに結果が、発表されていた。

将棋の第65回全日本アマチュア名人戦全国大会最終日は12日、東京都港区のチサンホテル浜松町で行われ、今泉健司さん(広島)が初優勝した。

 今泉さんは決勝で実績十分の加来博洋さん(東京)と対戦。元奨励会三段同士の対決となり、相振り飛車の力戦から今泉さんの鋭い攻めが決まった。準決勝で今泉さんは前回アマ名人の井上徹也さん(長野)を、加来さんは初出場の水谷創さん(愛知)をそれぞれ破った。

 アマ名人に輝いた今泉さんは38歳の会社員。2006年のアマ竜王戦など全国大会で優勝した実績を持つ。アマ名人戦では、3度目の出場を実らせた。

将棋、広島の今泉さんが初優勝 アマ名人戦



上記のリンクに出ている今泉健司さんは、以前の写真よりも髪型がさっぱりしており、社会人らしい姿に見える。昔よりもずっとプロ棋士っぽい。少し痩せられたのだろうか、精悍な顔つきに見える。

お二人とも元奨励会三段であり、その時点、当時のプロの底辺よりも当然に強い実力を有していただろう。実績としても加来博洋さんの赤旗新人王戦決勝戦へ進出している(決勝では2-1で阿部健治郎プロに敗れた)。今泉健司さんは、あの恐ろしい合格ルールである三段リーグ参入試験を通って再チャレンジを果たしている。(加来博洋さんもチャレンジしているが不合格)。

どちらもプロレベルの実力を持ちつつもやや力戦に強みをもつ共通点があり、加来博洋さんは独特な右玉調の受け将棋と強い終盤力を有し、今泉健司さんは升田賞を受賞した「△3二飛戦法」の開発者であり、振り飛車を得意とする。

この二人の対戦ということで相振り飛車になったようだが、棋譜は見ていないが、独特な定跡型ではない相振り飛車の可能性も高いのではないか。力戦調のMY定跡好きとしては是非後ほど拝見したいと考えている。

元奨の真実、などで拝見した内容から今後の行く末を他人事ながらに気にしてしまったりもしたが、将棋愛を失わずに、よりパリッとしたご様子の写真が出ており、勝手に安心した。

今泉健司さん、本当におめでとうございます!

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プロ棋士というもの 第41期新人王戦決勝三番勝負第3局 ▲阿部健治郎?△加來博洋

遂に迎えた三局目。プロデビュー後八割勝ってる新鋭が負けることになれば、プロ将棋とは何ぞや、という話にもなりかねない。丁度相場、株でもFXでもいいのだが、相場においてはプロもアマもなく、システムも人間もなく、同じ土俵で戦っている。

ファンが望むのは見て楽しい将棋である。勿論全てのファンが異種格闘技戦的な流れを希望しないことは理解しているが、プロ並に強いアマとフリークラスの領域を融合させるのは十分にありだと思うし、そこにコンピュータ枠があっても楽しいだろうなあと無責任に思う。

本局において、アマが勝てばそういったもののブレイクスルーになる可能性があるという意味でも加來博洋氏を応援したいし、単に右玉力戦調という将棋が私と同じなので応援したいという意味もある。日本人特有?の判官びいき的なものもあるかもしれない。

秩序と混沌では後者を愛するものとして、とはいえ将棋連盟が混乱や凋落していくことを愉しむというわけではなく、混沌としていくなかでも、生き残って面白さを保持しつづけることを期待しているという意味ではなにかが起こってほしい気もしており、その何かのうちの一つが加來博洋氏の勝利なのかもしれない。

ただ、冷めてみれば元奨励会三段ということで、藩士と浪人の戦いという感じがしないわけでもなく、いやいや、しかし、そういう構図からも乱世の徴候を嗅ぎ取ろうとする、意味の無いところに意味を求める人間の性…と延々と私の戯言は続くわけである。異種格闘技、時代を超えた最強者の選出、などにはそういう楽しさがある。

勝手に妄想を愉しんでいるうちに将棋は始まり、想像を超える現実としての、後手の阪田流が飛びだしていた。


第41期新人王戦決勝三番勝負第3局 ▲阿部健治郎?△加來博洋

先手は対振り飛車の基本思想としての居飛穴、後手は右玉っぽい駒組み。初期阪田流、江戸時代からの指し口に似た味わいがある。ツイッター上で加來博洋に関する発言で興味深いものがあったので紹介させていただく。

先日「定跡伝道師」こと所司先生に加來さんのお話を少しお聞きすることができました。子どものころから何番も指していること、定跡のこともおそらくかなり詳しく知っていること、しかし昔からああいう指し回しであること。終盤のとんでもない大逆転も「昔からああでしたよ」とのこと。



いかがだろうか?

右玉を使うものとしては、百も承知で居飛穴前提で戦うわけだが、それにしてもこの角も手放しての阪田流では心もとない。右玉使いの私としては角を手持ちにしての相手居飛穴、ということであれば打ち込みの隙で何とか、と思うのだがこの形、飛車先のもっさり感も含めて後手を持ちたい人は殆ど居ないのではないか。

後手番で端歩を突き越し、先手が穴を掘った瞬間に三筋から仕掛ける加來博洋アマ。この仕掛けは如何にも軽い。仕掛けたというよりも仕掛けさせられたという意味まである。先手は潜らなくても堅い。

先手に囲われては十分なので仕掛けた、機敏だ、という考え方もできるが組まれると不味いので動いた、とも言える。しかしそこからのやりとりは、後手が角による玉のこびんを狙う一点勝負がなかなかに煩かった。

アベケンプロが才能を示したのは55手目の▲7七金寄りだろう。研究家ではあるが力戦を厭わない力強さを感じさせる。後手の攻めは基本的には8五の桂馬と4四の角によるコビン攻めなのでサッパリさせてしまおう、という考え。具体的な手順を考えずに怖がり過ぎるとこじらせることになる。

その後、後手の強襲で飛車銀交換になったのが、60手目。手番を得た先手としてはすぐに反撃したいところだが5筋にと金を作らせるわけにはいかないので、▲5六同歩としたのが61手目。

そこから後手の加來博洋アマの猛攻が始まるのだが、なんとなく直感的にはさっぱり行き過ぎているようには思われた。私の予想なのだが、怖がることのできないコンピュータ将棋にこの将棋を解析させた場合、ずっと駒組み段階から62手目以降の後手の攻めについて、ずっと先手良しを示すのではないだろうか。(7七の地点での金桂交換を読む含みでは駒得を重視して後手にポイントをあげるかもしれないが)。

76手目の局面。
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ここでの▲7三銀が気づきにくい強手にして勝利打点の味わい。後手陣の金銀左右分断型、右玉の最弱点を直撃している。

そこから加來博洋さんが端に玉を逃げこむ展開となったが、あっという間に受け無しとなった。投了図では、守りの要であるはずの後手の金銀が王様から離れて四枚残っていた。無残な姿ともいえるが、投了図にも加來さんの個性が示されていたようにも思う。

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新人王戦総括と現代将棋における加來将棋

三局を振り返ってみると、サッカーでいうところのボール支配率、パス成功率、シュート本数、その全てが阿部プロに軍配が上がるところのように思われる。ただし、身体能力で上回る相手にクレバーさ、泥臭さで追いついていこうとするサッカーで第二局の勝利が加來さんのものとなった。

小池重明の将棋で熱くなったり頭がおかしくなって魅入られたようにして負けてしまうプロ…という棋譜が幾つかあるが、そういうものに似た雰囲気を感じさせるのが加來将棋なのかもしれない。

ただし、1局目か2局目の感想で書いたがそういう将棋、独特さをもった将棋というのがトーナメントプロから消えつつあるのは事実だ。受け将棋で活躍しているプロがいないわけではないが、美濃囲いや穴熊の特性、振り飛車の特性を活かしつつのものであり、加來さんのような玉形では苦労が絶えないところだろう。

厳密には受け将棋というわけではないと思うのだが、陣立ての弱さのせいで受けの力を必要とする局面がどこかで現れるし、右玉を主戦法として用いるとほぼ必ず先攻されるし、本譜のように先攻したとしても腰が入っていない感じにはなってしまうのではないか。

大変に面白い将棋で私は今後も得られる限り加來さんの指す将棋の棋譜を並べてみたいと思うが、現代将棋におけるトーナメントプロとしてやっていくには辛いものがあるかもしれない。とはいえ冒頭に書いたように、やはりプロアマ混成のオープンクラスというところがもう少し拡大されても良いのかなという気がしている。公益法人改革でその方向への道筋はつきつつあるようにも予想する。

あと一つ思ったのが、加來さんの活躍を貶めるものではないが、こういう将棋で決勝の舞台まで登り詰めることが出来た理由の一つとして持ち時間があるかもしれない。以前の新人王戦は予選4時間、決勝5時間というものであり、歴代の優勝者をみると時間の長いところで活躍しそうなタイプが連なっている。

そして新人王戦が名人戦などのタイトルの登龍門である理由も、若手が長時間適正を試されているという意味もあったように私は考える。前回の新人王である広瀬プロが王位をすぐに奪取していることから今後も登龍門であることは間違いないと思うが、その相関が薄れる可能性もあるかもしれない。(ただし今回優勝したアベケンプロも持ち時間が長いところで実力を発揮しているので期待できそうだが)。


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UST中継による解説会について

本局、最近西尾プロや野月プロにて試みられているUST中継による解説があった。(http://www.ustream.tv/channel/%E6%96%B0%E4%BA%BA%E7%8E%8B%E6%88%A6%E7%AC%AC-%E5%B1%80-%E9%98%BF%E9%83%A8-%E5%BB%BA-%E5%8A%A0%E4%BE%86%E6%88%A6)今回は大盤ではなく、棋泉という管理ソフト(将棋プロ・業界で棋譜共有を行っている仕組みのベースとなっている)で駒を動かしての解説だった。このほうが大盤よりも見やすく手の進め方も分かりやすく良かった。

登場したのは西尾プロ、田中寅彦プロ、木村一基プロ、そして阿部健治郎プロ。

将棋に関わらず、その道の専門家としてテレビ慣れしている人というのは、テレビカメラの前ではそれ用のモードになって、腹から声を出す感じ、滑舌の良い感じになるものだが、田中寅彦プロのちょっと抜いたような喋りが、一昔前でいうところの、テレビとラジオの違い、のような具合で大変良かった。

また、梅田望夫氏もツイッター上で書いていたが、棋泉の使い方について、四人のプロの違いがあり、特にアベケンプロがごく日常のものとして普通に動かしていたのが印象的だった。

田中プロ、木村プロが「プロアマどちらを応援しているのですか?」という質問に対して大変クールな回答をされていたのが、如何にも一国一城の主であるところの将棋プロらしくて不思議な感動を覚えた。プロ棋士というのはこういうものなのだ、というのを感じさせる一幕だった。

素人目線では、これだけ勝っているプロが負ければ面目が立たないと見るが、将棋指し同士では、その屈辱?というのは当人のみに帰属するということだろう。

田中寅彦プロの、UST中継自体に対する感想も面白かった。マネタイズに関するコメントの妥当性は別にしてもそういうところに話が行くのも運営に携わっている人間らしい。大盤解説に金を払う人間が居る以上、USTに払う人間がいてもおかしくはない。PAYPAL連動で出来るようになっているのかは分からないが、そのうち実現するのではないか。(ただし、テレビのような視聴者数で広く薄くとって実は大金になりました、というラインはほぼ無いと思う)。

UST中継の音声はもっともっと大きくてもいいと思う。大きくしすぎると音割れするということなのだと思うが、私のバイオでもアイマックでも少し小さかった(のでイヤホンで聞いた)。途中で大きくした時にはある程度聞こえるようになってスピーカーで聞いたが。

とはいえ、無償でチャット解説との掛け持ちでこのようなことを試みてくれた西尾プロには深く感謝したいと思う。

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後方待機策 第41期新人王戦決勝三番勝負第2局 ▲加來博洋?△阿部健治郎

後手番でのMY定跡と思われる手順から右玉を見せた加來博洋アマがまた魅せてくれた。

プロの将棋、公式戦で先手番の雁木、しかも序盤の駆け引きの末ではなく最初から志向したものは久しぶりにみたというか殆どみたことがない。そして、右玉雁木右玉を先手番でやるということの得がどこにあるのか分からないが、盤上に示す個性としては十分なものがある。

ただし、プロの将棋でこの戦法で7割勝つかといえばそういう気はしない。ではプロのラインナップとしてこういう個性のプロがいては駄目なのか?といえばそうは思わないが、そういう個性のある棋士がトーナメントプロから引退しつつあるのは事実である。(名前を挙げると差し支えがありそうなので挙げないが…)。

一般的にMY定跡系は初見で見切るのは難しいにしても、その奥にある選択肢としては、広がりや深みがないのが殆どである。逆に言えば当初異端と思われていた戦法でもその先にある選択肢に広がりがあるものは、一般化していった。(中座飛車や一手損など)。

雁木についての私の印象は、平手将棋における駒落ち的な位置づけ、だろうか。基本的には守勢になるので、先攻の権利が相手方にあり、相手が正しく攻め続ければ対雁木側が勝つ、というもの。

私レベルであれば、相手の戦型が何であれ、経験値の差でどうにかなる(或いはどうにかされてしまう)ものだが、プロとアマを隔てるものとして、棋理では勝ちやすいと思われる戦型で勝ち切ることが挙げられるように思う。

そういう意味においては、本局もまたアベケン四段が負けられない将棋になったと思う。

第41期新人王戦決勝三番勝負第2局 先手:加來博洋?後手:阿部健治郎

戦型は前述の通り雁木右玉。しかも1筋突き越し型。それに対する後手はカニ囲いの棒銀に出た。蟹囲い、しかも完成している右玉への棒銀。右玉愛好家の私としては嬉しくなる展開だ。とはいえ、先手から攻める手も見えないので、攻めが続けば後手アベケン勝利、ということなのだろう。

後手の速攻に先手も端歩を突き越した代償を求められる。それが3八飛車の袖飛車。飛車先を伸ばしている暇がないのでそうするしか無かった。右玉で飛車の横、3八の地点に収まるのは私もよく経験しているところだが、この右玉プラス袖飛車という構想?は初めて見るような気がする。

袖飛車を咎めるべく、後手アベケンプロの後手番とは思えない積極策が出た。5段目で飛車を二筋に転回したのがそれ。玉飛接近の悪形の後手玉を、雁木で(先手からみた)左側が厚いのをいじらずに、ということだろう。ただし歩越し飛車なので簡単に決まるかどうか?飛車を渡すとカニ囲いは薄いということもある。

51手目の局面。割り打ちの銀を見せた垂れ歩に対して、玉を4八から4九に引いて受けたところ。
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これぞ加來博洋、という手なのだろう。このあたりから徐々に加來博洋アマの世界に阿部健治郎プロが引きずり込まれているかもしれない。(或いはカニ囲いの急戦で、というあたりで術中にはまっている…というのは大げさでも、やはり望む展開になっていたかもしれない)。

三筋を攻め立てる構想の後手が迎えた正念場は63手目の局面だろう。観戦していたマッハ田村プロ曰く、ここで緩まずに一直線に攻め合って後手勝ち、という話だった。終局後に追加されたコメントによると、それで自信のない変化が見えたので自重したとのこと。

後手番で攻勢をとり、思ったような戦果が挙げられずに銀を後退した後の阿部プロは、そこからは千日手に持ち込めるのであれば持ち込む方針だったようで、千日手の局面が訪れるが、加來博洋アマが打開した。打開した後の101手目の局面は。手番は後手。玉の堅さも後手。駒割はなんと歩以外は損得なしという状態で、強いて言えば歩の数と持ち駒の数でやや先手だろうか。要するに101手目の局面でも優劣不明。

ただしこういう状況にならないと勝ち目がない将棋の加來博洋アマにとってはようやく望む展開になったと言えよう。序盤を思えば、雁木の金銀が全部捌けたと見ることもできるし、また終盤型の力戦将棋にありがちな、仕方ない仕方ないで指していると相手が間違って勝ちになる、という後方待機作戦が功を奏する可能性が出てきた。

敗着は128手目の△3八歩だったとのこと。同飛と取った手が、間接的に後手玉を睨む格好となった。変えて△7六角であれば後手が優勢を保っていたらしい。序盤から最後までなんとも右玉らしい展開で、加來博洋アマが自ら掴みとった勝利というよりも、重馬場に脚を取られた優駿が、持ち前の鋭さを活かせずに最後の1ハロンで地方馬がかわした、という競馬だったと思う。

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こういう将棋で三段リーグで5割5分以上の成績を挙げていたのは驚くべきことだし、恐るべき終盤力を有することの証明でもあるのだろう。しかし逆に、勝ち抜けなかった理由もやはりこのスタイルにあるのだろうと思わずにいられなかった。

10月12日からアイフォンでも棋譜中継が見れるようになったので、早速噂の大逆転、西川和宏vs加來博洋を見てみた。これもかなりの大逆転だが、右玉党だとよく理解できるのではないか。

混戦の末に、消耗しきった相手と、もとよりこういう将棋であることを覚悟している右玉。遅いが確実な、分かりやすい攻めが見えている右玉と、やや勝っているはずだが、緩むと一遍にひっくり返される状況。私レベルの話で恐縮だが、もうダメだ、こう指されると負けだ、こっちはn手詰めであっちは未だ詰まないけどキャンセル待ちしておくか、というようなことで拾える将棋が右玉おいては少なくない。

強い人でもやはり、そういう状況には変りはないのだなと、複雑な気持ちになった。

これで1?1となった。加來博洋アマにとっては、負けて元々、トーナメントの途中で何度も死んだ身であるし、そもそも三段リーグでのプレッシャーと比べれば、何も失うものはない。しかも、後方待機の、間違ったら許しませんよ、という将棋だ。かなりの精神的な有利さを確保しているように思う。

対する阿部健治郎プロは四段昇段後、ここ最近の若手では珍しく?勝ちまくっているが、ここで負けてはプロ全体の威厳に関わるだろう。プレッシャーは相当なものだろうが、これを勝ってこその新人王、若手の登竜門の頂点に相応しい。

右玉党としては、このまま加來博洋アマが持ち味を発揮して終盤まで競り合う将棋になって欲しいし、プロの将棋を愉しむものとしては、やはりプロの将棋においてはこういう右玉で天下を取らせないで欲しい、最善手を続けて勝ちきって欲しいという気もする。

いやー、それにしても強い人の雁木、しかも右玉、しかも先手番!というのは久しぶりに見た気がするし、そもそもそれで勝った将棋というのはいつ時代まで遡る話なのだろうか…。本当に驚いた。

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最強が最善 第41期新人王戦決勝三番勝負第1局 先手:阿部健治郎?後手:加來博洋

デビュー後8割超の勝率を誇る阿部健プロ。渡辺竜王の六連覇、3連敗からの4連勝の原動力となったのが渡辺新手として記されることとなった後手番の急戦矢倉だったわけだが、元々研究会の将棋で指したのが、三段時代の阿部健プロだったのは有名な話。

また、昇段の際の渡辺明竜王の評として「以前は序盤巧者で中終盤にひ弱さがあったが、それがなくなって四段になった」というようなことを言っていた記憶があり、てっきり序盤型の作戦家なのかと思っていた。指している将棋をみると力戦形での力強さも目立ち、どちらも得意とは凄い棋士だなと感心していたのだが、実はどちらかと言えば独自研究での力戦形、ということらしい。

対する加來博洋アマは三段リーグの勝率が5割5分ぐらいあり、上がってもおかしくなかった人。得意戦法は右玉模様のようであり、棋譜は見ていないが新人王戦の勝ち上がりでも多投していたようで、かなりの大逆転を2つ含む逆転勝ちの連続でここまで来た。

前期新人王が広瀬新王位であり、過去の新人王も殆どの棋士がタイトル挑戦以上を実現しており、小学生名人とともに、同世代でのトップであることを知らしめる格好の機会である。また、加來博洋アマにとっては、ここで勝てば、瀬川コースをもう一度、という嘆願まであるだろうから負けるわけにはいかない。

右玉を好んで指す私としては、どちらかと言えば加來博洋アマを応援したいし、8割勝っている若手が対右玉にどのような戦い方を見せるのかにも注目したいところだった。

第41期新人王戦決勝三番勝負第1局 先手:阿部健治郎?後手:加來博洋

後手は△3三角戦法。少し意外に思ったが、そこからの手順が面白かった。この組み方で右玉に出来るのであれば、手の損得だけでいえばかなり得だと思う。

38手目の△2九飛車で後手は準備完了。先手はまだ有効な手がある状態。形勢でいえば後手が良いわけではなく、玉の薄さはどこまで行っても気になるところだが、とりあえず組み上げたいと思われた理想型は築けたのだろう。

開戦は43手目。先手の▲5五歩から。この歩交換で普通に収めては後手が作戦負けになりそうだというのは、解説チャットの佐藤和プロ。渋いいい声をしている見た目が福山雅治風の好男子だ。

しかし右玉ということを考えると収めてどうだったか。本譜は先手の攻めが炸裂してしまった。というか、「最強の手が最善ではないby羽生善治」という言葉を思い出しながら見ていたのだが、本局については、最強が最善だった。

後手の56手目△4三金右が危険だったようだが、55手目の▲3四飛に持ち駒を投入して粘るならば、△4五歩と突っ張る手自体が駄目だったのかもしれない。

そこからは右玉党だと見慣れた風景。最善で粘っても自玉だけ終盤になっては勝てないとしたもの。結局先手玉には一度も王手が掛からずに終局となってしまった。

先手アベケンプロの圧勝劇だったが、右玉で負けるときというのはこういうものが必ずあるので仕方ない。加來博洋が次局先手番でどのような戦法を用いるのかが今から気になるところである。

右玉戦法関連書籍

上記は、糸谷流右玉の講座が載っていた将棋世界を含む、右玉に関する書籍リストです。

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基本的にはリアルタイムでの将棋観戦中に思ったことを書き溜めつつ、対局終了後の感想を付け加えて、将棋対局のあった翌日の朝7時頃にアップされるように将棋観戦記を予約投稿しています。「一日一観戦記」をモットーにしているので、同日にネット中継が重なった場合は、対局の重要度を個人的に評価して観戦記の投稿日を調整しています。

将棋観戦中に書き始め、対局が終了すると思われるところから観戦記を完成させていることが多いです。文章内の形勢判断は個人的主観によるもので、観戦中の控え室のプロの意見を取り入れず、将棋ソフトの解析を行なっていないため、形勢判断が正しくない可能性があります。

また、あまり推敲することなく投稿しているので、観戦記内に誤字脱字、情報の誤りがある場合があります。お気づきの場合はコメント欄にてご指摘いただけると助かります。早急に訂正させていただきます。

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