ファンサービスor単なる変態? 第4回大和証券杯最強戦 ▲佐藤康光?△渡辺明

佐藤プロが先手だったので、渡辺竜王の後手番戦術に期待したのだが、なんと佐藤プロが先手番で振り飛車だった。佐藤プロの作戦はダイレクト向かい飛車と呼ばれるものだと思う。…と思ったら違った。序盤見逃していたので、ご指摘を受けるまで序盤を見返していなかったのだが、角交換を直接同飛車ととる形ではなく、向かい飛車にしてから角交換が行われていた。

この手順だと居飛車に穴熊以外の陣形を強いる戦い方であり、穴熊上手の渡辺竜王相手には有効な作戦かもしれない。

そこから双方の玉の囲い方、駆け引きが序盤の見所。正直、佐藤プロの作戦が成功しているとは思えず、そしてそうは言っても後手の渡辺竜王の陣形も良い形には思えず、どちらも持ちたくない将棋だ。プロで最近この類の振り飛車が蔓延しているのは、後手が具体的な良さを追求することが出来ず、手待ちすることも打開されてジリ貧であり、それであれば、ゲリラ的な戦いに持ち込もう…という後手の思想や、振り飛車党の仕方なさから来るものだという私の認識だが、本局の佐藤康光プロは、居飛車党で先手、ということがとても不可解ではある。

まるで後手番のような手待ちの先手に対する後手番の渡辺竜王の攻撃で戦いが始まった。序盤の開戦手前の手順は私でも見えるところだったが

55手目、先手が銀を逃げずに桂馬を取りに▲7四歩と置いたあたりでは
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先手のほうが模様が良い。飛車の位置関係、当たりの強さの違いが出ている。


61手目の▲5一角が緩い手だったようで、確かに▲4九飛と転回していれば、かねてから私が気になっていた7一角の筋もあり、うるさかった。

先手も馬をつくり、懸案の歩切れを解消したので(そして私は後手が良いのではないかと思っていたので)、ここでは先手もやれるだろうと思っていたのだが、実際は先手が良かったのに、このもたれるような指し方により、少し縮まっていたということのようだ。両取りの角打ちに対して、得している桂馬を自陣に手放すようであれば確かに先手良しとは言い難い。ただし、82手目の△6八馬という手のお陰で、自陣の一段目に打った桂馬が三段跳びで活用出来たあたりでは、また先手が持ち直した。

形勢の良し悪しは私レベルには分からないのだが、手番は後手の渡辺竜王にあり、1筋も急所。沢山持っている歩も活用したいところであり、解説の森下プロでなくとも、流石竜王と思わせる手順だったのだが。私レベルの将棋では、この端玉に対する端攻めというのが決まっているようで決まってなかった、というのは多々有り、しかも先手陣は一段目に飛車が利いているのが何となく厄介な感じ。116手目の局面を観たとき、誰でも考えるのが2八角。これで金を取って寄ってるんじゃない?ということ。

そういう心理状態の時に、▲3五銀と打たれると、取りに行こうとしている金が取れなくなったような錯覚が起こる。少なくとも私はこの銀を観たときに、これで2八に打てなくなったので良い手だなあと感じたのだった。そこからの手順で渡辺竜王の手から勝ちが零れたが、実際にはなんと△2八角を打てば渡辺竜王の勝ちだったようなのだった。しかもその手を感想戦で指摘したのが▲3五銀をしれっと打った佐藤康光プロ、当の本人だったのが面白い。

一頃はハイペースで勝っていた渡辺竜王だが、挑戦者決定戦前後で敗れたことが影響しているのか、少しペースダウンしている。能力は上位なので、後は目先の勝ちを取るために中座飛車などの研究将棋に戻るのか、或いは自身の今後ののびしろを含めた戦型選択とするのか、贅沢な悩みのような気もするが大いに悩んで、次なる飛躍に備えて欲しい。

一方の佐藤康光プロだが、勝ったことよりも、先手番でこういう(千日手模様というか手待ちのような)戦い方をするような棋士では以前はなかった。最後は幸いしたが、後手番であればまだしもだが、先手番では本来の居飛車党らしい姿を見せて欲しいように思ったのは私だけだろうか。或いは、ファンサービスの意味合いもあって、早指しであるし、対抗型を見せてくれたという可能性も(前回の木村戦とあわせて考えると)無くはない気もするが。そのあたりは優勝コメントとして語られる類の話かもしれない。

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(2010/01/26)
佐藤 康光

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恐らくこの本とかだしてますし、佐藤康光プロは自分は現代の升田幸三である、対抗型が好きなファンの期待に答えなくては、という気概で力戦振り飛車を先手番でも指していると思うのですがどうでしょう?私としては緻密流と呼ばれた頃の(正確にはあの頃から緻密流というのは正確な表現ではないと先崎プロなどは評していたわけですが)、先手番での矢倉、角換わりというような将棋が観たいのですが、どのみち受ける人が少ないのであれば自分から奔放に行ったほうがファンも(自分も)楽しめる、ということなのかもしれませんね。

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棋風と戦法 第四回大和証券杯最強戦 佐藤康光vs木村一基

#shogi

佐藤vs木村というと何故か木村が大量に負け越しているような印象があったのだが、6?9ぐらいでそれほどでもなかった。ではなぜ、そのような印象があるか?というと、佐藤が勝つ時の圧倒的な勝ちっぷりの印象が強く残っているからだと思う。例えば第20期竜王戦の挑戦者決定戦の時の矢倉のように。

本局はかなり期待していた。佐藤は短い将棋では独創的な指し回しを見せることが多いし、木村は木村で他人が真似することの出来ない、本人曰く「受けで食ってる」将棋なので、水面下の含みよりも見た目の面白さを追求したい観る将棋ファンにはうってつけの対戦だと思う。

思えば佐藤康光プロが、あの棒銀と見せかけての振り飛車をお披露目したのもネット棋戦での対村山プロ戦だった。(第二回最強位戦の佐藤vs村山戦。http://www3.shogidojo.jp/shogi01/kifu.htmから検索して是非見てください。面白い将棋です。)

戦前の戦型予想としては、佐藤先手であれば、矢倉か一手損、或いは上記の棒銀振り飛車。後手が佐藤であれば、ゴキゲンなどの力戦振り飛車の確率が高いとみていた。

始まってみるとやはり序盤で独創性を見せた佐藤。76歩、33歩に77角とする。これは…先手窪田先生ですか?という手。というか、窪田先生でもやらないだろう。既に先手の得がこの一手で無くなっている印象だ。こういう挑発手に対して、大抵アツくなって乗るのが木村一基流なのだが、それで幸せになった試しはあまり、ない。

どうするのかと思えば挑発に乗らず、普通の駒組み。挑発に乗らずに普通の駒組みになれば先手の得はますます無くなっているとしたものだろう。しかし、感想戦で木村一基プロ曰く「興奮しすぎました」とのことで、やはり序盤の挑発に対して、何かしら具体的に良くしに行きたいという気持ちがあったものと推察される。

序盤に挑発されて、普通の進展であれば穴熊に…という雰囲気が出てきたので、急戦模様を見せた、というのが後手の序盤の指し手の意味。それをみて、先手は無難に美濃に囲い、変な形の急戦であれば先手番であることも生きるし、十分に対応可能とした。

今度は後手はその美濃をみて、それであればこちらは穴熊に囲います、と持久戦にしようとするが、解説の先崎プロ曰く、「少し後手は欲張りすぎ」ということだった。確かに右翼の攻撃陣に先に手をかけて、そこから手数の掛かる穴熊に後手番なのに組み上げようというのは、シンプルに組みあがった先手を相手にして多少どころか相当に怖いところがある。

しかも飛車の左右移動で二手損。端をつかせた分と金を左側に上ずらせたことで、そのどちらも将来効いてこないのであれば未だしもだが、少なくとも端歩は有効だろうし、後手に無理があるように思えた序盤だった。

驚いたのは48飛車。たまにこういうところから逆襲を狙う筋はあることはあるのだが、玉飛接近であること、左金との位置が、金を上ずらせてからの銀の割り打ち?の筋があるので反撃が怖いところ。対振り飛車右玉だとかなりありがたい手に類するものだが、問題は居飛穴、しかも未完成、手損で出遅れており、熊ちゃんは巣篭もり未完了となれば、難しい。

この48飛車は相手の伸びきった歩を逆襲するという、豪腕佐藤の意思を感じさせる如何にも、な手ではある。そこから解説の先崎プロ推奨の55歩からの激しい展開にはならなかった。理由としてはやはり36の地点が弱すぎることがあるのではないか。解説者は気楽であり、特に手が見えて口の回る先崎プロとなればあのぐらいはいいそうなものだが、実戦心理としてはやはり穴熊相手にあの玉囲いでガンガン行くと反撃がキツそうだ。36に桂馬飛ばれる筋一発で終了しそうな印象。

というわけで、片銀冠に組み上げる先手の佐藤プロ。それにしても山崎プロだったか、この片銀冠の優秀さはこういう攻め口にも出てくる。もし木村美濃だったら飛車の行き道がないが、シンプルに・コンパクトに堅い。

先手の攻めの前の態勢立て直しをみて、後手は44歩。既に手損の後手。主張点はないのでとりあえず固く囲って作戦負けを甘んじて認め、あとは実戦的に勝負に持ち込みましょう、という手だ。というわけでここでは先手指し易い。あとは具体的にどういう風に優勢につなげていくか。

最近では戸辺プロあたりが最もその良さを見せる局面かもしれない。佐藤“豪腕”康光プロはどう指すのか?と注目していた。囲いきってから4筋から開戦。とても普通な手だ。しかし他に攻めるところも無いので仕方ないか。このあたり、強情に進めた結果、攻め筋に含みがない状態になっているのが、序盤に意思を通しすぎる将棋の弱点のような気もする。少なくとも、その攻め威力が居飛車ほどではない振り飛車向きではない将棋のつくりではないか。

木村プロは三手角風味に角を展開して65歩?86歩。特にこの86歩は居飛車党であれば必ず覚えておきたい手だ。どのような対振り飛車においても必ず出てくる手であり、どのタイミングでこの突き捨てを入れるか?ということだけを念頭において攻めを組み立てるぐらいでもいいような気がする。(対振り飛車右玉は別だが…)。

例えば、朝日杯の決勝の将棋でも、羽生がこの突き捨てを入れることにより、久保振り飛車は実質角落ちのような状態になった。(同角と取りにくい局面だった)。本譜は、この突き捨てで飛車が一気にさばける見込みがたち、そして私が48飛車を見たときに気になっていた57の地点が弱点として浮き彫りになりつつあることが見て取れた。

後手は飛車が捌けて、先手は金が上ずり、88に単に謝る。即ち居飛車のターンだ。ただし双方歩が二枚と角しか持ち駒はなく、攻めは細そうだ。どちらかと言えば受けに持ち味を出す木村がどう攻めるか?私はどちらかと言えば、インチキ受け将棋なので、とはいえ居飛車党なので攻めることは攻めるが、細い攻めはツライ気持ちで行っていることが多い。木村先生はどうだったのだろうか。

△47歩、▲同金という手順は物凄く気持ちいい。しかしそれに続く手がなければ意味がない。結論から言うと先崎プロ推奨の△84角から△73桂馬とするしかなく、本譜の68歩はほぼ無意味な手で、ここであっけなく後手木村プロの攻めは切れてしまった。

この局面になるかどうかは別として、この局面をコンピュータが先手を持って迎えた場合、コンピュータもゼロ秒で77角と打ちそうな気がする。そしてそうなったとき、誰が後手番を持ったとしても、そこから挽回できるかどうか…。

あとはどう仕上げるか?だが、佐藤プロが振り飛車を持つことは珍しく無くなったが、しかしそれでも攻める振り飛車であって長くなっても受けて切らして勝つ、という将棋ではない。大山先生ならば何も考えずに66歩としそうな71手目に受けずに別の手を指したところで多少また居飛車にも面白みが出てきたか?と思われたが、後手が85ではなく飛車を下まで引いて両者協力のもと、先手優勢が確定した。79手目の一段金が何とも味が良い一手だ。これは角交換振り飛車の居飛車をよく持っていた佐藤プロならではの手だと思う。

先崎プロ推奨の45角は対穴熊で34の歩が無料取り出来そうな時は常に狙いたい。例えばこの歩を取って相手が歩切れ、などという場合は、どの局面においても大抵振り飛車が良いと思う。(23の地点に角などがストレートに利くことがとても大きい。)

本譜は龍を作ったあたりが最後のチャンスだったが、龍が閉じ込められて勝負アリ。それまでは先手優勢と思われつつも形勢の針が先後に振れていたが、89手目の66歩の局面でいきなり完全に先手佐藤康光プロの振り飛車側が俄然良く見えた。私はここでtwitterにて、「これもう後手全然駄目ですね、普通に。」と呟いた。何となく揺れ動いていた将棋だったのに、この歩でいきなり後手に指し手が無くなった。

それを示すのが80手目の42金右だ。指す手がないので固めて待ちましょうと。最後木村プロは形作りに行くが粘っても勝ち目がないこと、それよりも長引いて観戦者の方々の就寝時間などを気にしたという勝負師らしからぬ、木村一基プロらしい優しさによるものだろう。もっと勝負師はわがままでいいと思うのだが、修業時代が長かったからか、或いは生来のものなのか、兎に角優しすぎる木村一基プロらしいなと思った。

本局を通じて言えるのは、棋風にあった戦型と指し手というのがやはりプロにおいてもあるのではないか?ということ。個人的には木村先生の居飛穴はそれほど上手くないというと失礼だが、それほど勝っている印象がない。それは言い過ぎだとすれば、現代居飛穴らしい勝ち方をしているようには思えない。

現代穴熊らしい勝ち方というと、渡辺竜王か?というとそうでもなく、やはり私は羽生善治プロの居飛穴の絶品さを推したい。渡辺竜王の最近の居飛穴はみてないが、C1では結構負けていた。対コバケンプロ、対千葉プロなど。もし羽生プロの居飛穴の絶品な指し回しをバーチャル羽生となって体験したい人には「羽生善治の終盤術(1) 攻めをつなぐ本 (最強将棋21)」「羽生善治の終盤術〈2〉基本だけでここまで出来る (最強将棋21)」「羽生善治の終盤術〈3〉堅さをくずす本 (最強将棋21)」をお勧めします。(どの巻にも居飛穴をもっての攻めが出てきます。一番簡単そうに見えるのは3巻。面白いように攻めがつながるので。しかし一番勉強になるのは1・2巻かもしれません。)

話を本局に戻すと、個人的には、この棋戦で面白い将棋を指してくれることが期待できる佐藤プロが勝ち上がったのは嬉しい。オール特異(得意)将棋にて是非優勝まで面白い戦いを魅せて欲しいと思う。

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「将棋観戦記」というブログで、プロ棋士の将棋を観戦して思ったことを記しています。棋力はありませんが、将棋観戦の楽しさを一人でも多くの人に知ってもらい、「観る将棋ファン」を増やすために貢献できればと思います。主に順位戦速報・タイトル戦等、ネット中継されている将棋を中心に将棋観戦記を書いています。棋譜・符号はなるべく用いずに、将棋のルールが分からない人でも、将棋の勝負の面白みが伝わるように努力します。

基本的にはリアルタイムでの将棋観戦中に思ったことを書き溜めつつ、対局終了後の感想を付け加えて、将棋対局のあった翌日の朝7時頃にアップされるように将棋観戦記を予約投稿しています。「一日一観戦記」をモットーにしているので、同日にネット中継が重なった場合は、対局の重要度を個人的に評価して観戦記の投稿日を調整しています。

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