位取りという地下水脈 第23期竜王戦決勝T ▲三浦弘行-△阿久津主税

第23期竜王戦決勝T ▲三浦弘行-△阿久津主税


二人の対戦成績は三浦プロのほうが2?1と勝ち越しているとのこと。本局は阿久津プロ後手番で、久しぶりにみる戦型となった。この形は一方的に後手の陣形がくずされて、玉の囲い方が難しいからか、最近見かけない気がする。

昼食休憩の局面は、後手陣が悪形で一歩損。主張点は端ぐらいで、手持ちの角と金で攻めることができればよいが、そういう雰囲気でもない。先手の▲4六銀が午後からの三浦プロの速攻を思わせるものがあるのだがどうなるか。この形であれば、喜んで先手を持ちたいと思う。(ここまで昼食休憩)。

休憩後、直ぐに先手の三浦が仕掛ける。玉形の違いが大きく、盤上にある金駒のうち2枚が玉から離れたところにある状態、しかも3三の角が使いにくい。41手目のあたりではパッと見で先手が勝ちやすそうに思われたが、7筋に持ち駒の金を単騎で投入する後手の構想が勝負手だった。

そこからの陣形整備では、やはり形は先手のほうが良いが、振り飛車との対抗形で居飛車にとって気持ちが悪い玉頭銀ならぬ玉頭金の状況なのが先手にとっての懸案点。三浦プロが角で脅かしても、阿久津プロはすんなり引いてくれず、6五の地点で頑張られ、挙句先手陣を乱すだけ乱してから銀と刺し違えた。後手にとっては厳密には多少の駒損だが、金単騎の攻めとしては十分な戦果だろう。

66手目、△5五歩の局面では後手陣が伸び伸びとして見える。先ほどまでは対抗形の居飛車らしい舟囲いだったはずの先手陣はいびつに歪んでおり、堅さという得を失うと、大模様を張った後手のほうが面白そうに見える。ただしどこまでいっても玉が薄いのはついて回るので細心の注意が必要なのはここまでと一緒。

早見えの天才阿久津プロだが、持ち時間の消費は三浦プロよりも1.5時間長く、終盤でこれがどう響いてくるか。18時8分現在、場面は82手目。後手が好調に陣形を広げるための進軍を続けているように見える。一歩持って、二筋の位まで奪回してしまえば、先手は成す術がなくなるかもしれないが、それを実現する手順があるかどうか。

それにしても大きなストライドで鋭く踏み込む将棋が特徴の阿久津プロだと思っていたが、こういうものも上手だというのは意外だった。こういう将棋は戦い自体は地味で、形勢判断も難しいが、見た目を愉しむという意味では、とても面白い。(ここまで夕食休憩)。

今は7月10日の朝。昨晩の時点で対局の結果は知っていたのだが、阿久津プロの中押し勝ちとなった。日中は細かく手を読まずにその盤面の姿だけを楽しんでいたため、突然の投了に三浦プロの心が折れてしまったのか?などと考えた。

例の名人戦四連敗以降、少なくとも調子が上がっているようにはみえない状態であり、そういう中での戦いが始まる前の投了だったので、周辺事情から勘ぐり過ぎた,といえばよいだろうか。

感想戦コメントにある手順を見れば、確かに先手に手が無かった。本局のような将棋は、再現性において通常の定跡系よりは難しいものがあるので、この後手番の戦法が流行るか?といえばそういうわけではないだろうが、たまにはこういう将棋も面白い。

願わくば、相手の棋士が絶好調であり、突然の投了で私を含む観る将棋ファンが心配するような状況にならずに、大きく盛り上がるような展開が望ましいが、それは欲張り過ぎだろうか。昨晩もツイッター上では大きく盛り上がったが、どちらかと言えば三浦プロを心配するような様子のコメントが多かったし、私もまだどこかでワンチャンスあれば勝てるのに、心が折れたのだろう、などと知った口を利いてしまった。

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ここからは私の想像の世界だが。

谷川浩司という天才が終盤の定型化により、それまでの肉弾戦から近代的兵器を用いた戦いへと進化させた。その後受けの手筋や定跡が発展し、幾つかの先手番で攻勢をとる将棋の勝率が下がった。木村一基プロのように受け・責めで勝つ棋士も現れた。そして最近は石田流などの振り飛車において、捌きの技術を発揮する棋士が久保二冠、菅井四段など現れ始めた。

かいつまんで言えば、攻めの時代、守りの台頭、捌きの出現、という展開だ。谷川以前には、大模様を張るような、位取りの将棋が流行った時代があったのだが、近年のトップ棋士たちがあまり積極的に用いないということもあり、主力戦法になることはなかった。

今後、仮に後手番が通常の戦い方では難しい、或いは居飛車党にとっての後手番というのは戦いにくい、ということが徐々に判明していけば、この本局のように序盤から形を崩してでもクリンチのように模様をとっていくような将棋が、一定の地位を確保する可能性があるのではないか。

今まで傍流だった位取り、模様を張る将棋だが、その理由の一つに「位取りに対抗するための穴熊」というのがあった。しかし、本局のような角交換系の将棋であればどうだろうか?角交換での穴熊というのはバランスに苦労するので棋理としては良くはないはずで、もし穴熊がなければ、位取りというのは戦術的に無くはないだろう。

本局のように意図的に陣形を崩しながらも広く金銀を配置し、手持ちの角と金で先手の陣形駒組みに制約を与えていれば、少なくとも穴熊にされることはなさそうだ。

既存の後手番戦略を粗方掘りつくして枯渇した時に、それまで地下深くで蓄えられていた「位取り」という水脈にはどのようなミネラルが含まれているのだろうか。そしてそれを掘り当てる棋士が今後出てくるのであろうか。

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