スポーツ好きかつ読む将棋ファンにお勧めの「歩を「と金」に変える人材活用術―盤上の組織論」

先日池袋のブックオフで何冊か新書と、将棋本を買った。迷って結局買ったこの本がナカナカ面白かったので紹介する。


歩を「と金」に変える人材活用術―盤上の組織論

歩を「と金」に変える人材活用術―盤上の組織論歩を「と金」に変える人材活用術―盤上の組織論
(2007/10)
羽生 善治二宮 清純

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正直、ちょっと強引すぎる気がしなくもない部分も多いのだが、スポーツの喩えを執拗に持ち込む二宮清純、延々と知ってるウンチクを語りだす二宮清純、実はあんまり将棋を知らないんじゃないか二宮清純、そういうのが鼻につかなければ、楽しめると思う。(というか、誤解されないように念のために書くと私は二宮清純氏のスポーツに関する文章が大好きです。ただ個性がある方なので好き嫌いがありそうで、そういう場合でも楽しめると思います…ぐらいのニュアンスでした)。

将棋ファン、羽生善治ファンとしては殆どが知っている話なのだが、スポーツでは…という話と絡めることで別の側面が見えてくる典型例だろうか。

以下、印象に残った部分を抜き書き。

p.19

それでいうと「と金」って安心なんですよ。相手に取られたとしても、向こうは歩としてしか使えない。表と裏のギャップが大きだけに、駒の価値としては金の三倍ぐらいある感じがします。そういう意味では「と金」は最強の駒なんです。プロの対局で一番考えるのは「いかにして『と金』をつくるか」ということなんです。



これはプロの先生は皆さん仰る話ですが、と金が一番。しかしこの3倍理論は初めて聞いた気がします。3倍。今後の形勢判断で少し意識したいと思いました。正確に三倍ではないにしても、羽生名人が三倍って言ってたなあと。


p.27

将棋を覚えたての人が、飛車角桂香に金銀まで落としてもらっても勝てないのは、スペースの問題だと思いますね。落としたほうは、駒が少ない分スペースが広い。王様もあちこち逃げ回れるから、追いかけてもナカナカ詰まない。非常に遊牧民的な発送なんですが、スペースがまもりの軸なのです。

守りで一番有名な形は「穴熊」ですよね。あれはスペースの守りじゃない。王様を隅っこに置いて、周りを金銀や歩で固める。凄く固い守りの形です。でも、ああいう形だけじゃなくて、スペースで守るという形もあるということ。

それに対して「中住まい」というまもりの形は、穴熊に比べるとスカスカした印象ですが、実はしっかりした囲いなんです。王様を守るというよりは、スペースを守っているイメージ。ゾーンディフェンスなんですよ。



こういう相手の領域を意識した例えができるから、誰とでも対談が成立する。将棋を単に日本語へ翻訳するだけではなく、相手の知っている領域の日本語に変換するから分かりやすい。

p.32

大山康晴先生の棋譜を見ていると、駒の損得なんて全く気にしていないんですね。ただ、「効率よく、バランスよく」という点にだけは万全の注意を払っているので、遊び駒なんか絶対に作らない。駒の連携をトップ・プライオリティにしていえる。効率のためだったら、駒なんてさっさと捨てちゃってるんです。

(そういうのって当時は画期的だったのでしょうか?という二宮清純氏の問いに)

いや。そういうのって地味だから、あまり画期的とかいわれないんですよ(笑)。金を一個引くとかいう地味な作業ですから。でも、ものすごく理にかなっている。



p.42

私もタイトルがひとつになってしまった時期がある。本人的には「まあ、ずっとやってれば、こういうときもあるかな」ぐらいに淡々としていたんですよ。ところが、ファンのかたから励ましの手紙がいっぱい来る。「心配で夜も眠れません」とか。本人は平気でぐっすり眠っているのに(笑)。



p.64

将棋のルールは400年間変わっていないんですよ。それなのに競技の質が変化して、ゴールまでの距離が短くなっている感じがします。水泳のバサロスタートみたいにスタートからかなりの地点までは潜水のまま進み、水面に出ると同時に激しく競り合ってあっという間に勝負が決まってしまうような展開。



p.75

将棋が強くなりたければ、「この形は絶対に指したくない」という感覚を大事にする方がいい。制約があればあるほど、本筋の手を突き詰めて考えるように成りますから。そういう習慣が大事だと思う。



p.80

創造って、手間も時間も労力もものすごくかかるから、簡単に真似されると報われません。私も対局で新しい試みをやるんですが、ほとんどはうまく行かない。仮にうまく行っても、周囲の対応力が上がってるので厳しいものがある。効率だけで考えたら創造なんてやってられない。

でも逆に考えると、創造性以外のものは簡単に手に入る時代ともいえるでしょう。だから、何かを創りだすのは無駄な作業に見えるけど、一番大事なことなんじゃないかなと。それ以外のことで差をつけようがないので。最後は創造力の勝負になるんじゃないかと考えています。



この辺ってやはり、最近の活躍している人達の顔を思い浮かべると納得しますね。

p.83

将棋も勝負の世界でしょう。やっぱり勝ちやすい手ばかり人気が出て、勝ちにくい手は軽視されたりする。ビジネスに例えると、利益の上がらない非採算事業は、もう何十年もほっぽらかしにされている状態です。もしかすると、そういうもののなかに画期的な手が埋もれてるかもしれない。

あとデータが蓄積されることで、新しい評価が生まれてくる可能性もある。ある戦術の評価が180度、逆転したり。その手が作戦として機能していても、勝てないと今は全く評価されませんからね。見捨てられた定跡や戦法は野ざらしのままなんです。



これは、コンピュータ将棋の進化とリンクしている話のように思う。私の妄想の域をでない話ではあるが、将棋が学術学問的な側面を持つとして。例えば角換わり腰掛け銀など、特定の戦法について結論を出すというのがひとつの目標となる。

その場合に、実際のプロが長い年月掛けて結論をだしていくやり方をフィールドワーク的な手法だとすれば、コンピュータに課題局面を一つ一つモンテカルロシミュレーションで解析させる方法もあるのではないか。

コンピュータは形勢判断に数値を用いるので、例えばその数値が幾つになったら結論が出たと仮定して、それこそ虱潰しにやってみる、というような。

引用は上記までに留めるが、その他に外国人棋士がでれば戦法の流行や棋風に新しいものが現れるかもしれない、という話があったが、コンピュータの進化で定跡に足跡を残す日がそろそろ近づいているのは、ゴキゲン中飛車の超急戦における例の手順(久保二冠曰く関西では研究済みだったようだが)などを見ても分かると思う。


ビジネスマン向けに書かれた本なので組織論・人材活用術のような話も多いがそこを含めて、面白い対談になっていると思う。また意外にも?羽生善治名人がスポーツにもよく知悉されていることがわかった。



歩を「と金」に変える人材活用術―盤上の組織論


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基本的にはリアルタイムでの将棋観戦中に思ったことを書き溜めつつ、対局終了後の感想を付け加えて、将棋対局のあった翌日の朝7時頃にアップされるように将棋観戦記を予約投稿しています。「一日一観戦記」をモットーにしているので、同日にネット中継が重なった場合は、対局の重要度を個人的に評価して観戦記の投稿日を調整しています。

将棋観戦中に書き始め、対局が終了すると思われるところから観戦記を完成させていることが多いです。文章内の形勢判断は個人的主観によるもので、観戦中の控え室のプロの意見を取り入れず、将棋ソフトの解析を行なっていないため、形勢判断が正しくない可能性があります。

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