美濃でも凄いんです 第51期王位戦第5局(指し直し局) ▲深浦康市-△広瀬章人

第5局は千日手。先手の広瀬プロが良さそうだったが、恐らく図々しく「▲6一と」とと金で後手深浦王位の金を取った手が悪かった。そこで後手が盛り返し、逆転に成功していたように思われる。

ただし寄せに行ったところでは穴熊特有の強靭な粘りがあり、あの序盤の無理のある作戦で追い込んだとして満足した深浦王位もそれに応じ千日手となった。

指し直し局は広瀬プロが後手番。どんな作戦で臨むのだろうか。

第51期王位戦第5局(指し直し局) ▲深浦康市-△広瀬章人

後手は四間飛車穴熊模様の出だし。時間も短いし、他にやる戦法ないし、ということなのだと思うが、正直食傷気味。

先手の深浦プロはもう一度続きをやりましょうとばかりに千日手局と似たような手順を踏む。序盤から激しくなりそうな手順が続き、穴熊にする暇のない先手の深浦王位は端玉、米長玉、串カツ囲いなどと言われる香車の上に玉を置く指し方を見せる。

それを見た後手の広瀬プロは本タイトル戦で初めて振り飛車の美濃に構えた。

玉頭銀戦法といえば昔からあるが、先手は舟囲いではなく串カツ。単純に飛車を玉頭方面に転回してハイおしまい、という将棋にはならない。

先手が不安定な状態で30手目、広瀬プロが仕掛ける。先手玉は堅そうで堅くない。金が58金の後、寄せるところが無いのがひとつ、せっかく横に堅くしても縦から来られると香車の上にいることが祟るのがひとつ。

串カツで緩和したのか、玉頭銀の攻めを端と絡めることを誘ったのかよく分からない状況にあり、流石にこれは後手が良いだろうと思って眺める局面は、意外に難しい。

冷静に考えれば銀単騎の攻めなので、幾ら脅かしてみても相手ががっちりしっかりまとまっていれば、すぐにどうということはない。

先手からの攻め方は飛車先突破なので簡単なのだが、角がすぐには使えないことと、7八の金と5八の金の両方がブラブラ紐なしというのが懸念材料だ。

後手は先手の分かりやすい攻めが来る前に、端と単騎の銀を絡める攻めにしたい。そしてあわよくば69銀の割打ちが(含みとして)出るような展開を目指したい。

これ以上固くなりようがない先手は、3筋を絡めて2筋から反撃を行う。しかし△2四同歩と思われた局面で後手の広瀬プロは同角。局面をゆっくりさせて、具体的な成果はあくまで玉頭方面で挙げたいとした後手の構想に対して、47手目、深浦王位は▲2二歩と桂馬取りに打った。

この歩はプロでなくとも振り飛車党にとっては喜んで!という手だ。先手はと金を作って後手の攻めを催促して焦らせるつもりだが、広瀬王位の返し技が如何にも振り飛車らしい捌きで抜群の味だった。

56手目の歩頭への桂馬のジャンプ!
100825_hukaura.jpg

これが勝てば勝利打点、という味の良い一手。もし先手が角を取りきれば後手は5筋でガジガジ出来る。同歩とすれば本譜のように角を33に引いて先手の分かりやすいはずだったシンプルな2筋の攻めが途端に重くなる。2筋にと金を作った手とあわせて全部無駄手にする意味があり、駒の損得よりも効率を重視する、左側の桂馬香車を取らせてナンボという振り飛車らしい手順だった。

ただし冷静にみれば左側の駒とはいえ実際には先手の桂香得。この駒損を補って余りある戦果を挙げられるかどうか?に勝負の趨勢は掛かっている。

そして広瀬プロが見せた攻めは、如何にも穴熊党のラッシュという味があったが、解説の澤田プロ曰く▲銀桂香△銀の三枚換えで流石に先手が良いでしょう、という局面を含むものだったのだが、駒損かつ戦力不足と思われる状態でギリギリの攻めが続いた。

78手目の局面。
100825_hukaura2.jpg

この手で攻めがつながった。劣勢を自認する先手の反撃を経た86手目の局面で形勢判断をしてみる。手番:先手。玉の堅さ:後手。駒の損得▲銀香△金桂だが、駒の効率において後手が良い。先手は飛車先が糞詰まりで攻めの銀が4八で遊んでいる。よって後手が良さそうだ。

そこから先の手順は、香車がいない穴熊を攻める要領であり、広瀬プロの穴熊経験値が生きる展開だった。多少形勢は悪くともしっかり追走する深浦王位を最後まで追いつかせることはなく、危なげのない寄せを見せてようやく先手番だった第5局を広瀬プロが勝ち切った。

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ちなみに、タイトル戦で千日手になった場合の指し直し局は1局と数えるのか、第6局はどちらが先手なのか?という疑問をもたれる方のために一応書いておくと、第6局は深浦王位が先手となる。

先後の決定から引用すると

千日手や持将棋になると先後を入れ替えて即日指し直しとなる。タイトル戦での千日手・持将棋は後日指し直しとなることもある。
番勝負において、千日手・持将棋となり即日指し直しで勝負がついた場合の次局の先後については、千日手・持将棋となった緒局から先後を入れ替える。つまり、指し直し局を手番上一局と見ず、千日手・持将棋による先後の入れ替えは後続局に持ち越されない(一局完結方式)。
かつては指し直し局(勝負のついた局)から先後を入れ替える制度となっていた。しかし、先手番の勝率が若干高いプロ棋戦においてこの制度は不合理であるとする森内俊之の問題提起により、2004年度から王座戦が、2005年度からその他の全ての棋戦が現行の方式に変更された。



ということだ。

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この勝利はこの王位戦のタイトルの行方に大きな影響を及ぼすと思う。番勝負的には先手番側の広瀬プロが勝ったわけだが、一旦は追いつかれて後手番になっての指し直し局、後手番で勝ったからだ。しかも穴熊ではなく通常の美濃。

次に後手番を迎える広瀬プロにとっては穴熊以外で後手番で勝てたのは精神的に大きい。(もっともそういうプレッシャーとは無縁な男のような気もするが…)。

番勝負における作戦巧者である深浦王位にとっては、次局の広瀬プロの戦い方が少し的を絞りにくくなったのではないか。次も四間飛車穴熊を採用する可能性は一番高いのかもしれないが、ゴキゲン中飛車やその他の戦法が登場する可能性も出てきたと思う。

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