中飛車と右玉。大和証券杯▲上田初美vs△石橋幸緒

昨日はなんだか右玉めいた日だった。(そんな言葉ないけど。

ニコ生の勝ったら100万円で唯一の勝者となったのが細川大一郎さん。右玉の大家で私も彼の書いたとっておきの右玉 (マイコミ将棋BOOKS)は持っている。

終盤力だけで奨励会の級上位まで行ったことを思えばその強さがわかるというものだ。

で、笑ったのが大和証券杯の解説がニコ生に続いて大平武洋プロだったこと。まるでバイトを掛け持ちする人のような土日で、そして相変わらず途切れることのない解説で素晴らしかった。

何も考えずに頭に浮かんできた言葉を延々と話してる自動書記状態なんでしょうかね。


先手の自然な駒組みに対して後手の手順をみていて、おそらく右玉だろうな、というのが分かった。先手が三間飛車であれば、右四間だったと思う。どちらも石橋幸緒プロの得意とされている形だ。

右玉にしたのはいいのだが、上田初美プロの対策?が良く、角道を塞がない分、後手の陣形整備が立ち遅れた。

そこからの手順は一方的に振り飛車側が攻める展開となり、私もよく対振り飛車右玉を指すが、いかにも負けパターンだなと思った。

これが将棋ウォーズだと、途中の先手の攻めがやや重い感じになったところから入玉を見せて焦らせて(実際は絶対入玉できないが、手数は稼げる)、切れ勝ち、という将棋の本質がずれるような戦略をとれるのだが、流石に秒読み将棋では辛かった。

大平武洋プロによる解説で、中盤というか先攻されてからの受けの手順の示唆がとても右玉側としては参考になった。

ほぼ後手からの攻め筋がないままに一方的に先手の上田初美女王の勝ちとなった。決勝は中井さんと上田さんとなる。

ムック本の第二弾が評判良すぎて、こちらにも波及してるらしいです。ほぼ売り切れらしいので急ぎましょう!

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Tag : 対振り飛車右玉 中飛車 石橋幸緒 上田初美 大平武洋 谷川浩司 屋敷伸之

片銀冠の性能 JT杯決勝▲羽生vs△久保

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(2012/02/03)
橋本 長道

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さて、遅ればせながら「第33回JT杯決勝 久保利明vs羽生善治」の感想を。

その前に簡単に夕食メモ。ビールからスタートして、生牡蠣2個、コチ刺身、白子ポン酢、日本酒二杯、だし巻き卵。

JT杯といえば、タバコ。タバコといえば、やはり未成年から吸わないと正直習慣化しないものである。言い切ってしまってどうかとも思うが、私も含めほぼ全ての喫煙者・元喫煙者はそうだろう。私の場合は、両親が喫煙者だったために、思春期にすんなり影響を受けて喫煙・飲酒が始まった。

将棋指しでいえば、先崎学、田村康介あたりがそういうクチではなかろうか。小博打も中学生ぐらいからやっていて、クラス中で競馬新聞を広げている金曜日や土曜日、という風情。

そういう啓蒙活動が将来のタバコ購買量にかかっているということを心底理解しているJTはそういうわけで、子供大会にチカラを入れているわけです。

このへんが将棋連盟の痛し痒しであることはみんな知っているが、内部の人、および周辺の人は慮って書かないので外部の私の見解を述べたい。

喫煙者に最も手厳しいのは元喫煙者であり、非喫煙者は実はそれほどうるさく言わない印象がある。私は元喫煙者なので、そういう視点であることを先に記しておく。

一番驚くのが、対局室内で、いまだにタバコが吸えるということ。この分煙化の時代においては相当に珍しいように思う。このへんもスポンサーに慮ってのことだろう。

将棋は学校教育・子供の情操教育にも良い、という展開とこのJT杯は難しい関係にあるが、このへんは上手くJTの別事業の将来的な展開を絡めて欲しいところである。


このへんの配慮、苦慮というのが、以下のJT杯の紹介に現れている。


本シリーズは日本将棋連盟と各地区新聞社主催のもと、全国の主要都市で開催している国内最大規模の将棋イベントです。

(中略)

『将棋日本シリーズ』は、将棋を通じて日本各地に上質な感動や伝統文化の奥深さと、こどもたちの健やかな心を成長する機会を提供することで、地域社会の活性化と青少年の健全育成に貢献したいとの想いで開催しています。



というわけで、サイト自体はJTのサイトではあるものの、事務局運営であり、将棋連盟と新聞社主催ということである。

子どもたちもJTがなんの略かは分からずに、将来的にはJTブランドのドリンクやお菓子?等を買う可能性はあるので、そういう展開になることを希望しておこう。

さて、ものすごく逸れたが、将棋の感想を以下にて。

戦型は先手中飛車に後手から角交換する形に。個人的には中飛車に5筋を突き合う、そして角交換する形は中飛車側に攻め筋が多すぎて、素人同士だと中飛車が楽しみが多いので選ぶべきではないと思うが、二手目を△8四歩だと石田流にされるので、仕方ないところか。

53手目の局面、角を打ち合って局面がスローダウンして、銀を投入した後手が自分から銀桂交換の駒損になってしまったのは、どうだろうか。8一の桂馬が使えない展開での駒損なのでこの時点で、後手が思わしくない可能性があると私は考えた。

しかし駒の損得ではなく駒の効率、ということで後手から5筋に再び転戦し、先手振り飛車の左翼を遊ばせる方針だった。遊んでる駒自体は先手に左金がある分、不満でしょう、というところか。

87手目の局面、派手な応酬があって、駒割りは先手が飛車銀を手にして、後手はその代償に角を得ているので二枚替えだ。ただし先手の金銀が7筋で遊んでいるので効率は後手のほうがいい、という主張なのだが、左の桂馬は捌けているのと、手持ちの桂馬が2五の地点、銀冠の屋根を支えに打てそうだったり、矢倉風の後手の囲いの心もとなさはある。

93手目の銀が後手陣の二枚金に働きかけたところではその弱点が露呈している。後手のと金もそっぽにされてしまっているし、先手の攻めが一足早いように見える。

97手目の攻防の角が気持ちのよい一手。将棋は一度に一手しかさせないとしたものだが、両方に狙いのある手がさせると両方一辺に防ぐことができないので、確実にポイントを稼いでいる。

107手目の桂馬を捨ててからの、遊んでいた銀を活用して投了図、というのは美しい手順だった。

先手の左金が遊んでいる分、中飛車は…と言われたのも今は昔、片銀冠の性能の良さで遊ばせたままでもどうにかなる、という如何にも現代らしい将棋だったように思う。


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Tag : 久保利明 羽生善治 中飛車

振り飛車党であること 第70期順位戦A級1回戦 ▲久保利明二冠-△高橋道雄九段


先手中飛車に対して後手はあまり工夫の無さそうな形。先手は木村美濃。古い将棋を見ているかのような錯覚に陥る。

後手の工夫は飛車先不突きであること。囲いはシンプルで手数を掛けず、後手番だが先攻の権利を得たのが主張点だろう。

7筋8筋を飛車が行き来しているだけで後手が良くなったように感じる。他の部分に争点がないために、ここでの形勢が全体の戦局に影響した。

70手目の△6三歩はプロには評判が悪かったようだが、アマ的にはこうやって勝つものか、と感心・納得した手。美しくは無いが実戦的な味わいがある。

最後は木村美濃の弱点である一筋から攻撃されて先手玉は一溜まりもないなかった。

何気ない将棋のように眺めていたが、本局の作戦は高橋道雄プロが恐らく先手中飛車に対して温めていた研究なのだと思う。クラシカルに見えて、その中に含まれる思想と8筋の不突きにその最新さが現れていた一局。



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Tag : 中飛車 久保利明 高橋道雄 羽生善治

第22期女流王位戦 第2局 ▲甲斐智美女流王位vs△清水市代女流六段

最近の女流タイトル戦では石田流を見ない。居飛車党が二手目に△8四歩と指すから、というのがその理由なのだが、もしかするとタイトル戦に出ている居飛車党って清水市代だけだったか?

これは私もそうなのだが、振り飛車党は必ずと言ってもいいほど石田流を先手で志向するのがプロアマ問わず現状なので、敢えて相手の得意にハマる必要はないでしょう、ということでアマには特にオススメ。石田流を違う意味で絶滅させよう。

しかしこの清水市代流の指し回し、序盤の細かい手順、特に22手目の違和感は物凄い。逆にそのことが清水市代が強い将棋棋士であることの証明でもある。並の人間では指しこなせないし、想像出来ない本人ならではのこだわりがある。

良し悪しは別にして、先手の構え、33手目の処では居飛車党でも先手を持っても構わないと思う人が多いのではないか?私としても、何事も無くこの形まで進むのであれば振り飛車党ではないが、どっちを持っても指せると思う。

34手目の△6三金も強い人の手。ここで指しこなし易さという意味で先手が勝るようにも思うが、この手が予定なので序盤に△6四歩を突いているということだ。

七筋で桂馬交換後に始まった戦いだが、少し後手の攻めに強引さを感じる。桂馬が捌けた先手に全く不満はない。

50手目台のやりとりは、正直驚いた。この類の筋が割と中飛車のこういう形ではハメ手として皆もっていると思うのだが、シンプルにその筋に進んだからだ。恐らく、読んでいたというよりは知っていた、という類の手だと思う。

一段飛車と手持ちの駒の角と後手陣の打ち込みの隙を狙う戦略なので、居飛車に動いてもらうとありがたいと感じるのがこの戦型の振り飛車の感覚だと思う。居飛車としては、木村美濃の相手に対し、相対的に固くしていって攻めさせるほうがアマとしては実戦的ではないか。

実戦は先手良しで、ただし玉の固さの違いによる実戦的な勝ちやすさ、勝率のボラティリティーとしては高い状態で進む。99手目の局面など寄っていてもおかしくないぐらいだ。
このへんの細かい水面下の話は、棋譜データ(http://live.shogi.or.jp/joryu-oui/kifu/jo_oui110518.html)の手数の横に#が付いているものを確認して欲しい。特に、115手目は必見だろう。

最後の最後までどちらが勝ってもおかしくない勝負だったが、最後は甲斐智美が勝利し2-0と防衛にリーチを掛けた。

清水市代としては、相手が本調子ではないと思われるだけに、是非とも勝ちたかったところだが、こういう終盤戦になると漸くムクリと目を覚ましてくる冬眠明けの熊、状態の甲斐智美女流王位が完全に目を覚ましたかどうか?に次の第三局は注目したい。

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Tag : 清水市代 甲斐智美 中飛車

21世紀最強振り飛車 第36期棋王戦五番勝負第3局 ▲久保利明-△渡辺明

21世紀が終るまでにはまだだいぶあるが、断言してしまおう。21世紀最強振り飛車の称号は久保利明が勝ち得るだろう。22世紀まで生き残ってそれを見届けることが出来ないのが大変残念だが、この将棋はカッコ良すぎる。

21世紀最強振り飛車 第36期棋王戦五番勝負第3局 ▲久保利明-△渡辺明

先手中飛車に後手銀冠。先手は1筋の位を取り、その上で穴熊、そして片銀冠穴熊とも言えそうな二枚の貧相な穴熊。正直、居飛車党としてこの穴熊を見たときに、絶対負けたくないなあと思った。左金の立ち遅れ、図々しい端歩の突き越し、貧相な二枚穴熊

その後の展開に更に驚く。

43手目、午前中でいきなり「穴熊のパンツ脱ぎ」が飛び出た。これで先手が勝てるとはとてもではないが、思えない。正直、自暴自棄な香りすら漂っているのではないか。

ゴキゲン中飛車といえば近藤プロだが、近藤プロもたまに激しすぎる、過激な順を見せて華々しく散ることがあるが、それを思い出してしまった。しかし、違った。

もしかすると、この端の位と二枚穴熊と桂馬の跳ね出しは、久保-菅井研究による下地があるのかもしれない。この奔放さは久保二冠というよりも菅井プロの雰囲気がある。

後手はしっかり穴熊に囲って、先手の左金はそっぽに行き、玉は露出している。これで先手が勝つとは思えず、居飛車党としては絶対に勝ちたいところ。しかしGPS先生は延々と先手持ちの数値を示していた…。

私レベルの棋力で様子がおかしいことに気づいたのは91手目。ここで後手に手がない。これで先手が良いということはかなり前に遡って先手が良かったことになるのではないか。例えば渡辺竜王が指摘するように銀交換後に後手だけ再投入しているようでは面白く無いか。

後手は穴熊らしく固めて待つが95手目の▲4六角も良い手。意味は無駄駒の桂香を拾うことではなく、のちに含みとして出てくる▲5五角だった。

100手目の△5七歩もキャンセル待ち、までは行かないが先手にやってもらってこの垂れ歩がと金になって活躍する日がくれば勝負になる、という穴熊らしい手。それ以外に思わしい手がないということでもある。

110手目、穴熊に齧りつく小駒を除去するために△3一歩の底歩が投入され、パッと見、これで後手が受けきれるのではないか?と思ったが、しかしすぐに見える将来の▲5五角。こんな愉しい手があるとすれば、先手が良いに違いなかろう。

128手目、後手玉が引っ張りだされたが、同時に先手の種駒というか、攻めの拠点だった成り銀に当たっており、先手も忙しい。ここでは先手の攻めが細く見え、後手受けきれるのではないかと考えたのだが…。

131手目の▲6七金が遊び駒を活用する良い手だった。私は飛車を一段目に引かせて、のちの7筋からの飛車の侵入があるので利かせ得かどうか分からないと見ていたが、違った。それどころか、この7七にいた遊び駒的だった金が捌けるのだから、久保将棋恐るべし…。

サッパリ精算してから147手目の▲7五歩も素晴らしい。この局面では攻め駒が二枚持ち駒の銀しかないことに注目したい。ここから終盤に掛けて攻め駒がどんどん増え、あっという間に筋に入るのだから、本当に「普段なにしてたらこんな勝ち方できるんやろ…」だ。

153手目、遂にあの左金がさばけた。尋常な応手では飛車角に活が入るのでひねった勝負手で切り返す後手の渡辺竜王だが、153手目を境に先手の駒が活き活きとし始める。ベンチウォーマーが代打でヒット、ワンポイントリリーフがファインプレー、そんな印象のある金の捌きだった。

その後、手の流れでいえば一気に行くであろうところを前後不断で一転渋く▲3九歩と打つあたりも、羽生善治名人なども見せる目移りさせる緩急のつけ方だ。

165手目からが終盤の仕上げ。自玉がゼ、そしてあっという間に後手玉を仕留めてしまった。総手数177手目だったが、間延びしたところのない、序盤から終局まで全て楽しめる素晴らしい将棋だった。

久保利明二冠の防衛戦が始まる前は、失礼ながらに無冠まであると見ていたが、羽生善治佐藤康光という二人から奪った二冠のじつりきは並大抵のものではなかった。当たり前ながらに強い。あと90年ほど21世紀は続くが、21世紀最強の振り飛車党として歴史に名を残すことを私は確信した。

居飛車・振り飛車関わらず、これほど序盤で穴熊の守りの桂馬を跳ね出し、そしてそのまま勝ちきるという将棋のつくりを見たことが私はない。この将棋は21世紀的な感覚のある、今後の振り飛車の可能性を感じさせるものだった。

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