ペース配分 第1期リコー杯女流王座戦第1局 ▲清水市代-△加藤桃子

この棋戦のトーナメント表(http://www.shogi.or.jp/kisen/jo-ouza/1/honsen.html)を見て欲しい。

右側の山の違和感がわかるだろうか?とりあえずはアマがいないことはわかる。全員段級位が付いているからだ。

しかし、よく見ると二人の奨励会2級がいることがわかる。しかも挑戦者決定戦がその二人同士で戦っている。では、女流棋士が弱いのだろうか?というとそういうわけではない。

右の山の敗退者の多くが男性棋士に勝ったことがある棋士が多く含まれている。単純にこの奨励会参加中の二人の棋士は強い。そういうことだ。

勝負事において、誰が弱いとか、なぜ勝ったのか、とか敗因は?などというのは基本的には関係ない。強いから勝つ、それだけの話しだ。

そういうわけで勝ち上がってきた加藤桃子奨励会1級は強いからこの大舞台に立っている。勝ち上がりの途中で奨励会の昇格も実現したようで、競馬で言えば夏の上がり馬、という感じだろうか。


第1期リコー杯女流王座戦決勝五番勝負第1局 ▲清水市代-△加藤桃子

対する、左の山を登ってきたのは常勝女王、清水市代清水市代にとって得るものの少ない戦いとなった。もしかすると外野の声としても判官贔屓の日本人らしく加藤桃子を応援するものが多いかもしれない。

とはいえ、今期の成績が示すとおり女流棋士NO1として、その存在を賭けた戦いを一身に背負うこととなった。対あから戦といい、清水市代だけが耐えうる試練として将棋の神様が与えた…という物語を外野は思うが、当人たちは勝負に没頭するだけなのだろう。

戦型は清水市代先手ということで相掛かり中原流となった。この将棋は最近復活しており、私はとても嬉しい。自分で指すことはもはやないが、最も好きな戦型のひとつだ。

先手は目一杯に盤面を使い、ギリギリのシノギを後手がみせる…という戦いになる。

プロを目指すものとして、事前の準備は重要だ。加藤桃子はおそらく先手番ならこう、後手番ならばこれという作戦を用意していたはずだ。

そしてこの先手の作戦は予想されていたこともあり、かなり先の局面までは予め講じていたのではないか。

54手目の△3三銀打ち、までは前例を踏襲しているが、要はそういうことだ。

そこから、最強手の応酬で将棋は進む。ちょうど昔から男性棋士の将棋は手を殺しあう、女流棋士の将棋は主張を通し合うというような趣旨の話があるが、その通りとなった。

本局は60手目あたりまで両者の指し手が早い。これまた競馬で恐縮だが、大舞台、初のG1に出場した若駒が、若干かかり気味に前に出ていき、全体がそれに釣られてラップが上がっている状態だろうか。

このペースではこの距離はもたない。持ち時間3時間というのは、距離でいえば1800~2200メートルのイメージだろうか。マイラーとステイヤーの両方が戦える距離だ。

ちょうど清水市代という棋士はその真摯な取り組み姿勢とあわせて、時間があればあるほど実力を発揮するタイプだ。実力のブレを丹念な読みで整えていく。その凛とした立ち居振る舞いは、どんなに長時間の対局でも決して乱れることはない。

ある種のものが繰り返しの抽出を経て生まれるようにして、清水市代の名局は紡ぎだされる。

対する加藤桃子はまだ修行中の身だ。途中で私も気づいた(http://twitter.com/#!/shogiwatch/status/127640955527495680)のだが、修行で染み付いた時間感覚が決して抜けることはない。

ある種の職業につく人々の体には決して抜けることのない香りがまとわりつくものだが、そのようにして指し手を進めていく。修行においては、逡巡が命取りとなりうる。その研鑽の道をくぐり抜けることができたものだけに、清水市代のような洗練の過程が許される。

結果的には、その両者のペース配分が将棋の命運を分けることとなったのだが、そのペースを落とすべきタイミングはほんの1・2手のはなしだったのだから将棋というのは恐ろしいものだ。

先に息が上がったわけではない。若駒の頼もしい走りに呼応するようにして最強の手を繰り出した61手目に勝負のアヤがあった。

すこしペースを緩めていれば、もう少しだけ選択の幅があったかもしれないが、この61手目の選択により、清水市代の勝ちは一本道となっていた。

ニコニコ動画の、真田圭一プロの解説が素晴らしかった。声がすっきりしていて滑舌が良く、喋りが続く。一人での解説というのはなかなかに大変だと思うが、合いの手としての画面上のコメントがあるので、ニコニコ動画としては1名体制のほうが良いのだろう。

攻防手、攻めの手が続く中での受け一方の手により、先手は奈落に落ちた。ここでペースを緩めることにより、後手の単騎逃げが実現してしまった。

▲8六歩という手は、清水市代ほどの実力者であればこれでは届かないという感触は絶対にあったはずで、序盤の手の流れから言っても▲7一銀は打ちたかった。どこで打つか?というタイミングだけの話で、その時期をはかるためだけの考慮時間であり、手の組み合わせだったように思う。

▲7一銀を打たないのであれば、▲7三歩という手の意味がなくなってしまうので、負けてもどこかで打って欲しかった気はする。(http://twitter.com/#!/shogiwatch/status/127609041932394496)


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奈落、と書いたが戦型の特性上負けるときはそうなることもあるので仕方ない。得意形で負けのワカレではなかったので、そこまでのダメージは無いだろう。それよりも加藤桃子のペースに惑わせられなければ大丈夫という手応えまで感じていてもおかしくはない。

次の後手番での清水市代の戦型選択に注目したいが、相居飛車の矢倉系の将棋か、加藤桃子が戦略家なのであれば清水市代の右玉を誘うかもしれない…。

加藤桃子は時間の使い方としては今のままでいいと思う。プロ野球選手を目指す高校生が木製バットで戦うような考え方もあるが、まずは勝ち抜かなければその高みに到達することはできないのだから。



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野月 浩貴

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