振り子の行方 第24期女流王位戦第5局▲里見香奈女流王位vs△甲斐智美挑戦者

2勝2敗で迎えた振り飛車党同士の最終局。振り駒勝負は大きい。そして先手を引いた里見女流王位が居飛車を選択。後手はゴキゲン中飛車に。序盤の展開は第三局と同じで、第三局は序盤でかなり差のついた将棋に思われたが終わってみればなかなかの熱戦だった。

本局はどちらかが新構想を用意しているところで、男性プロだと勝っているほうが手を変えることが多いような気がするが、本局は後手が待ち構えていた。

第24期女流王位戦第5局▲里見香奈女流王位vs△甲斐智美挑戦者

その後、激しい応酬があった。結論からいえば、第三局の敗戦を大きな糧とする形で甲斐挑戦者がタイトル奪取という実を得ることとなった。

これは、私レベル同士でこの局面を迎えたら8割後手が勝つだろう、という局面が出現した。どちらかといえば、里見女流王位の選んだ道筋だったがすでに甲斐の準備の前ではどのような手順をとってもすでに苦しかった可能性がある。

これは八割方、後手の勝ちだろうという局面は66手目△4九飛打ちのあたり。後手の飛車は振り飛車の飛車なので守りごま、あるいは切るための駒だ。それが一段目にいる。先手の成金は遠い。4五の桂馬は取れそうで取れない。

後手の玉は不安定とはいえ、美濃は無傷。後手の攻撃陣はさばけていて駒得で、先手の主張点がほぼない局面だ。

先手が無理にでも手を作りに行くしかない場面だが、甲斐さんというのはおっとりした序盤と対照的に安定的な中盤の駒の運用には定評がある。特に最近では男性棋士の上村プロを相穴熊で破った将棋が微差を保ったままゴールした素晴らしい将棋だった。

あの将棋が甲斐さんのエンジンに火をつけたようにさえ思う。上村と甲斐は奨励会同期らしい。激戦の三段リーグを勝ち抜いた上村に勝ったことは大きな自信になったはずだ。

甲斐女流は鋭く才能のある手を繰り出すというよりは60点から80点の間の手でじっくりと局面を進めていく。終盤力は折り紙つきなので、それでも十分にお釣りがくる。慌てるのは周りばかり。一番読んでいるのは対局者なのだ。

終盤、△6三金と上がった手は、男性プロ棋士には違和感があったようだ。代わりに横山プロにしめされていた△6二金という手は美濃・左美濃からの進展形として覚えておくべき形だと思う。(鈴木大介先生などが示していた手順は甲斐さんが指す手順ではない気はするが、勿論有力だろう)。

この手を危ないとみるのは職業将棋指しとしては本能的なものなのだろう。成算の立たないところでは極力安全策をとる。それはどの職業においても特にリスクコントロールが重要なポジションにおいては当然のところだろう。

おっとりしているように見えてしかし、そこに踏み込む精神の強さを持っているのが甲斐さんなのだ。単にそこの感度が鈍い・・・のではなく、こういう手順について、感度がいい意味で心に響かないタイプなのかもしれない。

怖さを克服して踏み込むことで勝ち得るという場合もあるし、あるいは生来持って生まれた「ビビらなさ」が功を奏することもある。甲斐さんは典型的な後者のタイプ。物腰の優雅さ、上品さに騙されてはいけない。相当肝の座った胆力のある方なのだろう。

終盤の玉捌きも素晴らしかった。如何にも甲斐さんらしい少し丁寧に受けに回って良くしていく、あるいは悪くし過ぎないという指し回し。最終盤はちょっと差が開いた形で里美さんの投了となった。

聞くところによると、里見香奈女流はこれまでタイトル挑戦/防衛に14度連続で成功しているらしい。初タイトル挑戦では矢内理絵子女流にセーラー服姿で負けたように記憶しているが、その後は負けなし。

そういう相手に、三番勝負ではなく五番勝負で勝ったというのは本当に大きい。(この話はツイッター上でフォローさせていただいている方の呟きで私も確かに…と思った話です)。

負けた里美さんも振り飛車だけではなく居飛車に芸風を広げつつあるところでタイトル戦。しかも奨励会との掛け持ち、五冠というハードスケジュール。色々なものが積み重なっているなかでのものなので仕方ないところもある。

甲斐さんが、第三局の負けをこのタイトル奪取につなげたように、この敗戦・失位を活かして更に大きなものを得ることができるはずだ。

甲斐智美新女流王位、奪取おめでとうございます~!


角交換四間飛車破り (マイナビ将棋BOOKS)角交換四間飛車破り (マイナビ将棋BOOKS)
(2013/06/26)
屋敷 伸之

商品詳細を見る
内容紹介
藤井猛九段が創案し、升田幸三賞も受賞した「角交換四間飛車」。駒組みが容易で攻め筋は明快。振り飛車党の愛用者が日に日に増えている中、この戦法に手を焼いている居飛車党の方も増えていると思います。

そこで、救世主となるのがこの一冊。
「本書は、悩める居飛車党のために書いた『角交換四間飛車破り』である」(まえがきより)

この本には屋敷九段お墨付きの角交換四間飛車対策がぎっしり詰まっています。
▲2四歩交換、▲3六歩型、▲4六歩型、▲5六歩型、穴熊。
どれを選ぶかはあなた次第。これだけの武器を授けてくれるのなら、もはや角交換四間飛車恐るるに足らず!

本書を読めばにわか仕込みの角交換四間飛車はすべてカモにできるはず。
すべての居飛車党必読の一冊です。

将棋観戦記のプロフィール

将棋観戦

Author:将棋観戦
「将棋観戦記」というブログで、プロ棋士の将棋を観戦して思ったことを記しています。棋力はありませんが、将棋観戦の楽しさを一人でも多くの人に知ってもらい、「観る将棋ファン」を増やすために貢献できればと思います。主に順位戦速報・タイトル戦等、ネット中継されている将棋を中心に将棋観戦記を書いています。棋譜・符号はなるべく用いずに、将棋のルールが分からない人でも、将棋の勝負の面白みが伝わるように努力します。

基本的にはリアルタイムでの将棋観戦中に思ったことを書き溜めつつ、対局終了後の感想を付け加えて、将棋対局のあった翌日の朝7時頃にアップされるように将棋観戦記を予約投稿しています。「一日一観戦記」をモットーにしているので、同日にネット中継が重なった場合は、対局の重要度を個人的に評価して観戦記の投稿日を調整しています。

将棋観戦中に書き始め、対局が終了すると思われるところから観戦記を完成させていることが多いです。文章内の形勢判断は個人的主観によるもので、観戦中の控え室のプロの意見を取り入れず、将棋ソフトの解析を行なっていないため、形勢判断が正しくない可能性があります。

また、あまり推敲することなく投稿しているので、観戦記内に誤字脱字、情報の誤りがある場合があります。お気づきの場合はコメント欄にてご指摘いただけると助かります。早急に訂正させていただきます。

将棋観戦記の記事検索

将棋観戦記のランキング

[ジャンルランキング]
ゲーム
198位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
ボードゲーム
6位
アクセスランキングを見る>>