奇襲攻撃 第60回NHK杯二回戦第十三局 ▲郷田真隆vs△阿久津主税

先手郷田真隆プロは正統派の居飛車党。後手の阿久津主税プロは後手番で振り飛車を指すことも多い若手に多くなったオールマイティ型の棋士。

本局は後手の九筋位取りから振り飛車の出だしと思われた。

第60回NHK杯二回戦第十三局 ▲郷田真隆vs△阿久津主税

しかし14手目の△9二飛で後手の作戦がはっきりした。アマ将棋界では比較的みる戦法で正式名称は知らないが穴熊にするケースがどちらかといえば多い。私も相手を見て使うことがあるが正直良い戦法ではないと思う。

こういう奇襲にありがちな「奥行きの無さ」を指すほどに感じる戦法だ。居飛穴も振り穴も自由自在だが、組み上がったときには姿焼きの序章、そこから勝つことがあってもそれは相手のミス、というような将棋だ。

最近では今期B2の開幕戦で窪田義行プロが対北浜健介戦で用いていたが結果は負け。(http://meijinsen.nifty.com/pay/kif/meijinsen/2010/06/18/B2/4847.html)

郷田真隆プロはケレン味を嫌う剛毅な性格であり、一手損すら正道ではないとして指さないほど。この戦法をみてどう思ったのだろうか。

先手の方針がなかなか謎で、早めの一筋突き越しにどういう意味があったのかは、テレビで見ていないので不明。後手の端歩との関係でいうと損のように思われるが、全体のバランスを取るという意味だろうか。

更に謎だったのが33手目の▲3八銀。2七の地点からの後退でこの辺の先手の指し手はかなり不可解だ。これらの手の代わりに自陣の構築を急ぐのが普通だと思うのだが。

39手目の▲1七桂で飛車交換となる。駒の損得は一応無く、玉形はやや先手、手番は先手ということで少し先手が指し易いように思われた。

前述の先手の非有効手の連続を思うと不思議だが、後手は飛車の展開に費やしているので低く陣形を保って玉の周りにいる金銀の枚数の違いで先手良し、ということなのかもしれない。やはりどこまでいっても後手の左金分辛いという。

シンプルに飛車を打ち合っての47手目、▲6二香で一丁上がり、の図。▲4一竜を利かせてから後手が伸ばした九筋を逆襲して先手優勢だろう。

後手も縦横の攻めを見せているのだが、先手が先受けして狙いがシンプルすぎるだけに次が続かない。

69手目、投了図の香車も前述の▲6二香同様の痛打であり、指しようがなく投了もやむを得ず。

こうしてみると序盤の郷田真隆プロの不可解な動きも本譜の飛車交換を待っていたと見ることも出来る。ケレン味のある戦法には例え早さし戦の初見であっても良くすることが出来るという自信があるということを示した将棋だったと思う。(大抵のこのたぐいの将棋はアマチュア時代に嫌というほど見ている、ということもあるだろう)。

テレビ将棋ということもあり、面白い将棋をみせる意図で用いたのかもしれないが、まともな将棋を楽しみたかったと思った人もいるのではないか。

私はテレビでは見ていなかったが、対戦カードを見た時の期待はこの棋譜を見たときに落胆に変わった。

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