渡辺明改めあきら2010、二年越しの魔術 第23期竜王戦七番勝負第1局 ▲渡辺明?△羽生善治

遂に始まった名竜対決。振り駒の結果、渡辺竜王の先手から中座飛車の最新形となった。

第23期竜王戦七番勝負第1局 ▲渡辺明?△羽生善治

先手の八筋を謝らずに▲5八玉というのは羽生-郷田による名人戦のときからある思想。後手の△5二玉は松尾流と呼ばれる比較的新しい指し方。それにしても、松尾プロというのはそれぞれの戦型で常に工夫してくる棋士であり、中には当然不発だったものもあるわけだが、その研究の素晴しさにはうならされるものがある。

△5二玉型の意味としては。先手から攻め立てられる地点は2筋3筋であり、そこから事前に逃げているということだろう。棒銀に対して玉を8八や2二に囲いに行かないのと同じように。そして中原囲いは玉が右にも左にもいける柔軟性があるので、それを活かそうということだろう。終盤に△5二玉と逃げて勝つ将棋が多いので、そしてどうせ攻めてくるのが2筋3筋なので、先に逃げておいても問題なかろうと。

先手の方針としては、中住まいの弱点である5三の地点をガンガン狙う構想(桂馬を二枚とも跳ねる)や、本譜のようにそれでも敢えて1?3筋を攻めるものの二通りに分類される。本譜は後者のようだが、玉から遠いところに二手掛けることが少々気が引けるようにも思われ、具体的にどのようにして良くしていくのか?に注目したい。

後手は先手の端攻めをみて、3二の金に紐をつける。戦場から逃げたはずの玉が手損で戻るが、端攻めを誘った意味もあるだろうか。攻めさせて面倒をみておもむろに反撃する構想。先手玉は中住まいの玉頭をケアする駒がなく、「桂馬ぴょんぴょん」による反撃が厳しそうだ。また、中座飛車は攻めが途切れると終わり、という片道切符の戦法だが、本譜のような展開であれば後手番らしく受けつつ、安全に中原囲いの堅さも享受することができるのかもしれない。

この△5八玉型には、新山崎流の速攻だけは無さそうで、それを回避するだけでもやる意味があると見ているのではないか。(ただし、居玉嫌いの渡辺竜王が新山崎流の使い手だったかどうか?は分からない)。

渡辺竜王は時間をそれほど使わずに▲2一角の筋を決行する。前例では後手は△1三香と上がっているところで、羽生名人が新手△4五角を繰り出した。この手に対して深浦プロは疑問を呈する。既に研究済みで先手の攻めが続くというのがプロの見解であるはずだと。

封じ手の局面まで、まさに深浦プロが示した手順通りに進む。ただし50手目の△2三歩が控室や対戦相手の渡辺竜王を驚かせた受けただけの手。ただし、控室の早咲アマが指摘していたらしい。

少し話は逸れるが「フッと思ったのですが、今後も都合つけば、タイトル戦の開催される地元のアマ強豪の方に、解説とかに参加してもらうのは面白いのではないですかね?」という発言がツイッター上であって、そのとおり!と膝を打った。そのとおり。それ以外の言葉はないです。

何かしらのアマタイトルの県代表になるともれなくそんな特典が付いてきます、みたいな。平日でも地元強豪が有給を取って参加してくれるでしょう。地方紙にも話題を振りまくことになりかなりの好手と思われます。私は将棋の未来を松竹梅でみていて。もっともポジティブなケースとして野球の地域密着で成功したケースに近いものをイメージしている。その意味でもやる一手でしょう。シニアの元強豪とかでもいいかもしれない。名伯楽のシニア元強豪が愛弟子たちと集う絵が思い浮かぶ。

本題に戻る。△2三歩を見た私の率直なつぶやきは「土下座受け、来ました」というもの。手番を取って反撃する、というわけではなく、暫く受けに回ろうということなのだろうが、細い攻めをつなげさせれば天下一品の渡辺竜王としてはこの得た手番は大きいように思う。

解説チャットの佐藤康光プロの推奨は▲6五桂馬。ツイッター上では2八の地点に香車を据える手が推されていた。私の、一手も読まない直感での予想は「渡辺竜王は▲2八香とは指さないだろうな」というもの。渡辺竜王の思想として、居玉は嫌う、棒銀は上手くいかない、穴熊は優秀…などに秘められているのは、極端なリスク回避思考/志向だ。

当然やるべきときはやるし、やらせてみると勿論上手いのだが、▲2八香には棒銀を嫌う渡辺竜王が忌避するであろう味があるように思うがどうだろうか?

何も賭かっていないところの私としては、▲5六香と指したい。或いは△7六歩を怖がるならば▲6五桂。観戦中はその二択で呟いたが、趣味の素人では第一候補に上がる手は▲5六香のような気がする。強い人は▲2八香。こういう二段ロケットの味の良さ(を活かした経験)を手が覚えているからだろう。

コンピュータも▲5六香か▲2八香だろう。どちらも直接手でこうなると必然の指し手が続き掘り下げやすいからだ。観戦チャットの佐藤康光プロ推奨の▲6五桂は、△7六歩を怖がれる人間だけに指せる手。コンピュータは怖がれないし、その先の(前述の2つに比較した時の)茫洋さにより掘り下げが利かずに気づかない。現にツイッター上のGPSは▲6五桂を推奨していなかった。

では▲5六香で先手が良かったか?というとそういうわけではなく、その後の必然の手順を渡辺竜王は悲観しないまでも自信を持てずにしょうがないしょうがないで指していたようだ。

控室、そしてツイッター上では△1一歩の評判が悪かった。確かに5筋に居た飛車を6筋にかわしたのは▲6五桂を防いでいる意味があるし、そのもっと前に指した△7五歩が受けただけの手にならないということだけでも手の流れとしては、△7六歩としたいところ。

唐突だが、麻雀には流れ派とロジカル派というのがある。昭和麻雀、小島武夫から安藤満、桜井章一などなどぜーんぶまとめて流れ派。対する現代麻雀は、東風荘や天鳳というネット麻雀により、理論的には完全にランダムな場が出来たことにより、牌効率を重視したロジカル派が台頭してきた。良書として、とつげき東北氏や福地誠氏の著作がある(おしえて!科学する麻雀)。

将棋については基本的には理詰めで全部行けるわけだが、私レベルのインチキ将棋では、見栄えの良さ、手の連続性を重視するので何も考えずに7六歩と行くとおもう。特に何もかかってないお気楽将棋なので。ただし2三歩、2三金、という受けの手からの連続性を重視すると1一歩なのかもしれないが…。

ここにきて、将棋世界 2010年 11月号 [雑誌]での戦前対談において、鈴木プロが語っていた言葉が思い出される。

鈴木大介プロ曰く

(羽生名人のリベンジ率について問われて)でも今期の羽生さんが何も感じてなかったら凄いですけどね。二年前、年下に3連勝4連敗を食らって何も考えずにいられるのでしょうか。指しているときに負けた印象を思い出したりしないのかな。僕の場合、逆の立場だといい方向に考えたりしますけど



そしてその後も渡辺竜王の攻めが続く。竜が1一に出来た時点では既に先手が良いように思う。受け切りの方針と思われた後手羽生名人だったが、竜を作らせてからおもむろに△7六歩と取り込む。その後、竜王は1一の竜で5一の金を取って、次に7一銀を取ってそれで勝ちになっていたのであれば話は早いとしたもの。

終局の場面は投了図としては早いようにも見えるが、強い人からするとほぼ先手勝ちで間違いがないという。粘ってどうこうなるような将棋ではないということで投了した模様。

57手目の感想コメントにある変化図が以下。
101015_akira.jpg
これで後手のほうが良さそう、というのはなんとなく理解出来る。駒損で手番を握っている先手が攻めを続けられなければ、だが。

私の印象に残ったのは、やはり82手目の△4四玉だろう。ここは△2五玉との二択であり、そこで本譜を選択した。△2五玉の味を考えると、二年前の激戦がよみがる。そういうところに前述の鈴木大介プロの言葉が思い出されるのである。「二年前、年下に3連勝4連敗を食らって何も考えずにいられるのでしょうか。指しているときに負けた印象を思い出したりしないのかな。」という問いの言葉が。

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これで渡辺竜王は先手番の第一局を制した。気になる後手番だが、私は先日のブログ記事で書いたとおり全く心配していない。必ず、何かしらの秘策を用意しているはずだからである。それが角換わりであれば、一日目の封じ手までに相当手数が進むものと思われ、そのあたりのチキンレースにも注目したい。羽生名人が矢倉でリベンジを狙うとしても、そこにも何かしらの秘策が用意されているはずだ。

本局まで今年度勝率一位、タイトル戦一つの無駄星もなく全勝だった羽生名人だったが、あっさり止められた。渡辺明竜王が、なぜ魔王と呼ばれているのか本局をみてようやく理解した。恐らく悪魔との取引で竜王戦の連覇と引換に…と思いたくなるぐらいの二年越しの魔術だった。

いやー「あから」も強いけど「あきら」も強いね!(上手いこと言った顔

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「将棋観戦記」というブログで、プロ棋士の将棋を観戦して思ったことを記しています。棋力はありませんが、将棋観戦の楽しさを一人でも多くの人に知ってもらい、「観る将棋ファン」を増やすために貢献できればと思います。主に順位戦速報・タイトル戦等、ネット中継されている将棋を中心に将棋観戦記を書いています。棋譜・符号はなるべく用いずに、将棋のルールが分からない人でも、将棋の勝負の面白みが伝わるように努力します。

基本的にはリアルタイムでの将棋観戦中に思ったことを書き溜めつつ、対局終了後の感想を付け加えて、将棋対局のあった翌日の朝7時頃にアップされるように将棋観戦記を予約投稿しています。「一日一観戦記」をモットーにしているので、同日にネット中継が重なった場合は、対局の重要度を個人的に評価して観戦記の投稿日を調整しています。

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