レグスペ問題は解決済? 第60回NHK杯一回戦第十五局 ▲阿久津主税vs△脇謙二

後手の脇プロはハードパンチャー。攻めっ気が強く、終盤が恐ろしく強い。前期の順位戦において、宮田敦史プロとの対局で読み勝ちしていた将棋や、対勝又プロとの将棋で長手数の即詰みを読み切っていた将棋が印象に残っている。

先手の阿久津主税プロはプロが羨む才能の持ち主。基本的には切れ味鋭い攻め将棋であり、中盤に踏み込みの鋭い手を指し、ストライドの大きい手で一気に寄せきるような将棋。プロ入りしてから延々と活躍が嘱望されているが、ここ数年以内に大爆発してもおかしくない。というかすると思われる。

戦型は後手脇プロのレグスペ。東大将棋部で流行したということで角交換振り熊スペシャルという名前で、出版されている。由来などはその本の61-62ページに詳しい。

アマでは相当に有力で、プロ棋戦においても、いつも新登場戦法のヤラレ役の雰囲気がある井上慶太プロが屠られて「自分から手損して四間飛車にしてまた振り直して…こんなに手損して勝負になるなんて」というような味わい深いコメントを残していたように記憶する。

ただし、平成18年に行われた王将戦第三局▲羽生善治vs△佐藤康光において、初見と思われる羽生名人が振り飛車にはやや珍しい矢倉を用いて快勝したことから、矢倉で対抗すれば先手もやれる、さすがに手損が響く、という結論が出ているような雰囲気もあり、それを前提として、双方どのような工夫を見せているのか?に注目した。

41手目の局面では駒組みは飽和状態。アマとしてどちらを持ちたいか?と聞けば三段ぐらいまでは圧倒的に後手、と言いそうな雰囲気。私はどちらも持ちたくないが、強いて言えば…どちらだろうか?よく分からない。どちらも動かす駒がもう無さそうで、42手目に銀をぶつけて戦闘を開始したのは仕方なさそう。

取ってくれれば、歩も拾えるし、角銀二枚で飛車を虐めるような手もありそうで、後手も面白そうだったが、43手目の▲3五歩で途端に後手自信無し、という感じ。
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序盤の手損+1筋の端歩の分、先手は7?9筋方面に大きな貯金をしている。



互角に捌き合って相当、という展開でもなく、そもそも捌ける展開が見えなくなった瞬間だった。47手目の▲3四銀が、プロレベルでは殆ど勝着のような気分の良い手ではないか。55手目の▲7六歩打ちも、七筋だけで勝負にしたい後手の希望を打ち砕く、アマでも真似のできる良い手。

穴熊ではない対穴熊戦のコツは、焦らないこと、じっくりコトコト煮こむこと、という気がしているのだが、本局の阿久津プロの指し回しは見事だった。いっぺんに精算してサッパリさせるということをせずに、徐々にしっかりと手がかりを残して穴熊を解体していく。

穴熊退治の際に気をつけるのはお互いの金銀の数。ここで数的有利を維持して、二枚以上でくっついていく。そのうちの一枚がと金や桂馬香車の成り駒だとベスト。相手の金駒、特に金を剥がすのが寄せの基本だが、穴熊の場合はより重要となる。

先手の攻めが一息ついて、後手のターンになったように思われた場面で指された87手目の▲5六銀も7四に馬を引きつける手を防いでおり良い手。△6七金の瞬間が飛車の横利きもあり、甘い。とはいえどの辺からの構想だったのだろうか、私レベルではこの場面で、▲7四桂馬は打てたと思うが、最後の角は見えてなかったと思う。

この投了場面が阿久津プロの才能を示している。通常、金を持っていない穴熊というのは寄せやすいが、投了場面では後手の駒台に金が二枚あるのに受けがないのだった。

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アマの持ち時間の短い将棋であれば…ということで一頃流行したレグスペだが、プロの持ち時間が短いNHK杯であっても、トップクラスの実力者相手では通用しないということを本局で感じた。

棋理においては先手が良いはずだ、というレグスペ問題は二一世紀の難問となることなく、将棋プロという天才たちによって既に解明されてしまったということを示した一局だと思う。


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矢倉にされて難しい、というのはほぼ知れ渡っているわけですが、そうは言っても、後手番戦術に行き詰まると一度は試したくなるのがこの作戦。特に居飛車党の場合。

私の場合、そういう理由というよりは「アマが出版した棋書は買い」という定跡に則ったものですが興味がある方は絶版になる前に書店にて内容をお確かめください。

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