ならではの戦いの数々でBONANZA優勝!第23回コンピュータ将棋選手権

第二回電王戦で三浦弘行を破ったGPS将棋の金子知適氏が対局後のインタビューでこのように言いました。

「コンピュータ将棋選手権で連覇したチームが殆ど無いように、まだ棋力向上の余地はある」と。

そして第23回コンピュータ将棋選手権はその通りになりました。

ほぼ勝利を手中に収めていた?GPS将棋がなんと時間切れ負けという劇的な幕切れ。

その結果、1位Bonanza 2位ponanza 3位GPS将棋 4位激指 5位NineDayFever、6位ツツカナ、7位習甦、8位YSS、となりました。

しかも最終戦まで全敗だったYSSが習甦に最終戦で決勝初勝利を収めていましたが、もしここで習甦が勝っていたら、ponanzaが奇跡の初優勝だったとのこと。(参照)。

それほどまでに上位陣の実力は伯仲している、ということです。

再び金子知適氏の言葉を引用させていただきますが、一回勝負での結果をもってその実力が反映されているとは考えられないわけで繰り返していくことでこの順位が入れ替わる可能性も十分にあるわけです。

以下、簡単に決勝戦の様子を振り返りますが、最初に簡単に総括すると、人間同士、或いは人間対コンピュータ将棋とは全く違った異質な戦いが多かったように思います。

また、これまでのコンピュータ将棋選手権と大きく異るのは人間との実力差がある程度正確に把握されて始めての大会だったのでそういう目線で見ることが出来ました。

出来ましたが、コンピュータ将棋は決して完璧ではない。それでもその上であれだけ強い。まさに若かりし頃の羽生善治プロを観ているような気分になります。

そしてこのコンピュータ将棋を見ていて思うのは、人間・コンピュータかかわらず、まだ将棋を高めることが出来るのだろう、ということです。

囲碁の世界では史上最強の棋士は?という話のなかで現代の棋士ではなく、昔の棋士の名があがるということをきいたことがあります。

将棋においても、定跡の発達はあるものの、将棋無双・将棋図巧等、現存する長手数の詰将棋の完成度を見る限りにおいてはその中終盤力や構成力は現代に劣るものではありません。

人間のクリエイティビティとコンピュータ将棋の計算能力をベースにした定跡の完成度を高める作業、新手筋の発見、異感覚の取り入れ…などにより人間・コンピュータ将棋の双方に、さらなる発展が期待できるような喜ばしい予感をおぼえました。

以下、決勝の様子です。基本的にはBonanzaの戦いについて記します。

【第3回戦まで】
3連勝を決めたのはBonanzaとGPS将棋。BonanzaはNDF、YSS、ツツカナに勝利。GPS将棋は習甦、ツツカナ、YSSに。

ツツカナ、YSS、習甦はこの時点で脱落してしまった。

Bonanzaの初戦NDF戦は山崎隆之ですらやらないような超謎力戦。攻めの銀を3七に残したまま、しかも飛車もニートのまま、玉頭方面から敵陣を制圧するという謎将棋だった。

二回戦目のYSS戦は序盤は矢倉の本格的な展開だったが中盤の分かれからはまた謎のコンピュータ将棋同士らしい戦いに。攻めたはずが攻めごまを責められる展開で辛そうだったが、玉が中段に泳いでからはコンピュータ将棋特有の震えない寄せで辛勝。

三回戦のツツカナ戦は後手番でノーマル振り飛車。ツツカナは左美濃に構えるもののやや定跡形から外れる進行。後手は四間から中飛車に振りなおして、伸びすぎの5筋を咎めにいく展開。

この将棋も中盤からいきなりのノーガードでの打ち合いになり分かれは後手のBonanza有利。一目良さそう。ただしここからのツツカナの粘りがまさに船江恒平戦で見せたツツカナらしいものでした。これを見ていて人間では勝てんなーと思うと共に、何人か人間のベテランの先生、特に鬼籍に入っている先生方の名前を思い浮かべたのでした。主には振り飛車党の先生たちですが。

80手目ぐらいで人間なら勝ちやろーと思う将棋が終わったのが160手台、そんな将棋でした。


【4回戦、5回戦】

3連勝で迎えた4・5回戦、遂に全勝者が消えます。1敗で切り抜けたのは激指、ponanza、GPS将棋。Bonanzaはポナンザと習甦に連敗してしまいます。

四回戦のponanzaとBonanzaの対決は、先手ponanzaで正調の角換わりに。先手ponanzaの早い玉上がりが既に人間にとっては異質なのですがコンピュータ将棋はそこをスルーして粛々と進めます。それに呼応するように4二玉ではなく、4一玉と進めたボナンザに対して、おそらくponanzaはこれを得意技にしている?と思われる、桂馬の単跳ねでいきなり仕掛けます。(コンピュータ将棋は本当にこういう攻めが多いですね…)。

4二玉であれば桂馬の利きに対する受けゴマが多いのですがこの一手で銀を上に逃げるしかないようではキツイです。3三の地点に無限オカワリが実現して先手のponanzaがペースを握ります。

65手目、気持ちのよい手ですね。
ponanza65teme.png

死ぬほど攻めまくるんですが、やややりすぎて息切れというか、逆転していたのですが、なぜかBonanzaが攻めに転じずに受けて無理を通す形となり、ponanzaの勝ちとなりました。

この勝負は振り返ってみればかなりの意味をもつ将棋で、ここをすんなり勝っていればBonanzaは普通に優勝していた…かもしれません。また、ここのponanzaの勝ちがあったからこそ、最終戦でponanza優勝の可能性もあったわけです。

五回戦については、その時点で優勝に最も近かった「激指とGPSの戦い」について触れます。

この将棋は個人的には凄く面白かったです。先手激指が相掛かりを所望して後手のGPS将棋が応じます。しかしなんだか後手のほうが先手のような手順で攻めます。この攻めは…そう、中原誠先生のアレです!

なんどかこのブログに私は書いていますが、中原先生のこの相掛かりを私は本当に愛していました。今でも大好きです。ただし、人間であればこういう攻めを後手で取ることはしないように思います。ちょっと図々しいよな…と空気を読むというか、大局観・全体観で知っている・感じ取るからです。コンピュータ将棋はある意味KYですねw

41手目までの進行は中原流相掛かりにおいてはかなりメジャーな手順です。定跡をなぞったのではないのだとしたら、コンピュータ将棋がプロにある部分では近づいているであろうことを示しています。独力で考えて似たような展開をたどっているのであれば。

で、例によってこの将棋、プロでも実戦譜があるんです。類似局面が。これは勝又教授が当日のUstreamでも話していましたが、中原流相掛かりフリークであれば、この手順はあるだろうなーと思う、かなりメジャーな手順です。それこそ清水市代先生の将棋でも出現していてオカシクないですね。

大野八一雄 vs 中川大輔 1997-06-03 王将戦

これがプロ棋戦で出現している局面。先手が中原流相掛かりです。(大野先生も相掛かり好きでしたね。)
oononakagawaaigakari.png

で、こちらが昨日出現した局面。(を先後逆にしたもの)
gekisasigpssengogyaku.png

手番の違いで玉が5二に上がれていないので、後々飛車を渡してストレートに王手が入ったために先手の中原流相掛かりを受けている激指がよくなりました。この将棋もコンピュータ将棋の特性を示していますね。(ただしこの将棋も後手が勝ち切るまでに192手まで掛かってますが…)。


【6回戦、7回戦】
ここで優勝の目が残っていたのは、一敗の激指、ponanza、GPS将棋、そして2敗のBonanzaでした。どれか一つは連勝するでしょう、という勝又教授の御言葉もあり、まさにその通りBonanzaが連勝して優勝したわけですが、最後の勝負がGPS将棋勝勢での時間切れ、だったわけです。

まずはBonanzaが最終戦に望みを託した「決勝 6回戦 Bonanza - 激指」から見てみます。

ボナンザ先手でゴキゲン中飛車が出現します。正直、二次予選の感想でも書きましたが激指だけ居飛車ではなく振り飛車の出現率が高いのでその一点において、優勝候補にしにくいと思っていました。

定跡としてはかなり旧型の作戦に進みます。先手の金が7八だったことも理由ですが、二つ位を後手番で取るのはやはり負担になる、ということで人間ではあまり見られなくなった作戦でもあります。

先手は、後手の立石流っぽい展開に対するセオリーで組み上げ、打開を図る後手の銀交換に乗じて穴熊に組み上げます。交換した銀を8八に打ちつけてハッチを閉めるという手順はアマ強豪がやりそうな手でニヤリとしてしまいました。ここでも幾つかの名前が浮かびましたw

後手は5筋で歩損が確定しており、打開の糸口がないので先手の作戦勝ちは間違いないでしょう。後は等価交換の作業を進めるだけで先手のBonanzaがあっさり勝ちました。二次予選以降を通じて最もあっさり負けた将棋ではないでしょうか?

ゴキゲン中飛車が優秀ではない、というつもりはないのですがコンピュータ将棋を観ているとやはり振り飛車は勝つのに大変苦労する将棋なのだな、と思わされます。

そして七回戦最終戦、「決勝 7回戦 Bonanza - GPS将棋」は、Bonanza先手で正調の相矢倉になります。

馬を作られてBonanzaやや苦しいか?というところから困ったときの穴熊w

コンピュータ将棋もなかなかの実戦主義ですね。そしてこの将棋、その実戦主義が結実するわけです。ここから勝ってるのに時間切れ負けした、というのは既に大きく流れているので割愛します。上記URLから手順を追ってみてください。

私が思ったのは、昔のトップアマのタイトル戦っぽいな。ということです。敗勢の将棋を必死に粘り続けて詰めろがとけた瞬間に…など、幾つかの有名な将棋を思い出しました。

将棋の性質としては如何にもコンピュータ将棋、という具合でしたがそこから生まれるドラマ、与えられた感動はプロ将棋よりもむしろアマのタイトル戦のようなものでした。

プロ将棋も面白いし、アマ将棋も勿論楽しい。そしてコンピュータ将棋も人間からみれば理解不能な手順が出てきたりしますが、面白いし感動するのだな、ということを改めて確認することが出来ました。

願わくば、次回はニコ生でちゃんとした放送がみたいですし、是非今回ベスト5に入ったコンピュータ将棋の面々とプロの、特にトッププロに近いところの面々との第三回電王戦が観たいなぁ、と心から思った3日間でした。

関係者の皆様、そしてBonanza&開発者の保木邦仁さん、お疲れ様でした!


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基本的にはリアルタイムでの将棋観戦中に思ったことを書き溜めつつ、対局終了後の感想を付け加えて、将棋対局のあった翌日の朝7時頃にアップされるように将棋観戦記を予約投稿しています。「一日一観戦記」をモットーにしているので、同日にネット中継が重なった場合は、対局の重要度を個人的に評価して観戦記の投稿日を調整しています。

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