第69期順位戦B級2組3回戦

しばらく前の対局なので、結果から書いてしまおう。この3回戦が終わった時点でのトップは阿久津主税プロ。続いて飯島栄治プロ。この二人のみが3連勝。ここから1敗勢がなんと11名。

後ろの方は…とみると降級点を一つ持っている先生方が多目。降級点制度により、C2には若手と中堅しかいなくなったが、B2にも確実にその波が押し寄せている。結局はトーナメントプロと普及プロの二極化現象が、公益法人化と同じタイミングでやってくることを示しているようにも、思える。

以下、終局順に。結果表記は先日に引き続き順位戦速報からの引用だが、この程度であればお許しいただけるのではないか。問題があれば変更するのでご指摘賜りたく。


(阿部 隆八段?窪田 義行六段…19時59分千日手成立)
後手の藤井システムを用いた窪田プロだが、持ち時間を30分ほど多く使った状態で千日手が成立した。

先後どちらを持ちたいか?というと振り飛車党の場合微妙な事が多いが、窪田流は先手のほうが良さそう。というわけで30分の持ち時間で先手番を買ったことになるが、これがどう出るか?に注目したい。

窪田プロの将棋はなんというか、序盤で危険な筋があってもまずフルえずに踏み込む。そしてぐちゃぐちゃになって、そこから粘りに行くという訳の分からないところがあるが、藤井システムの先手番となると攻めて攻めて攻めまくってから、おもむろにザ・ワールドが発動される感じだろうか。というわけで先手番でのシステムを期待。



堀口 一史座七段(2勝1敗)●?○田中 寅彦九段(1勝2敗)…20時25分
作戦家同士の対戦。堀口一史座プロは最近復調されているように思う。将棋は後手の矢倉志向の4四歩に引き角から先手が歩を交換する将棋。後手が飛車先を決めているのが如何にも田中寅彦流だ。

先手が46歩・47銀型から攻めたのがどうだったか。後手の攻めのほうが速そうで、沢山突き捨ててから攻め合いに持ち込んだ先手だったが後手の迎撃で飛車が撃ち落され、攻撃力が落ちた。しかも、そのまま玉のそばにと金を2枚作られて、攻守ともに見込みなくあっさり投了となった。

先日の王座戦挑戦者決定戦の藤井プロの将棋の攻め方に先手の手順的には似ていたが、実現するまでの手数と、後手の角の運用のし易さが異なっていた。



神谷 広志七段(1勝2敗)●?○佐藤 秀司七段(1勝2敗)…20時38分
ここも早かった。先手の中飛車に対して、佐藤秀先生の右玉!。佐藤秀司先生といえば前期対先崎戦で右玉を受けていた。思うところあっての採用だろうか。

対振り飛車右玉の愛好家としては、プロの実戦が見れるのは嬉しい。先手番の神谷広志プロの工夫は端歩を受けなかったことと、玉のコビンを開けなかったことの二点。その二手を省略して攻めまくるというものだったが、前者は角が楽という意味で有り難く、後者は4六歩との関係でありがたいように思う。

とはいえ、角を引いて桂馬を早めに交換される順というのは、右玉側には拒否する術はなく、ここからは言われるがままに応じ続ける上手的な手が続く。

対中飛車で楽なのはこの桂馬が交換されても5五桂馬が無いことだろう。守りゴマが沢山利いている五筋を攻めてくれるのは実は楽、先手にとっては大変、ということ。

▲6五桂馬には大抵△6四歩と受けておいて、7三の地点に金が来るのはありがたい。相手の言いなりになっているようだが、桂頭の負担がなくなるのでこの交換は割と苦にならない。

本譜の攻めは対右玉に不慣れな先手の攻めの構想の悪さがあったように思う。具体的にどうするべきだったかというのは私もよく分からないが、端歩と自玉の整備を後回しにして攻めた割には成果がなかった。

▲2二角などは相当にありがたい手だったが、あのあたりでは既に先手がやり損なっている感じ。



先崎 学八段(2勝1敗)○?●野月 浩貴七段(1勝2敗)…23時30分
少し髪が伸びたが相変わらず坊主頭の和尚こと先崎プロと、最近ツイッターを始められた野月プロの対戦。戦型は野月プロが後手ということで、中座飛車に。

野月プロのツイッターで
http://twitter.com/nozuki221/status/20486786796
165分考えて、温めてた構想を試した。大成功。 その数手後、2手続けてゴミみたいな手を指した。そこて全て終了…

とのことだったが、どこだったのかよく分からず…。先手が馬を作り、後手がと金作った辺りでは既に先手が良さそうだったので、端歩突いたところや銀をぐるりと4八に置き直す辺りだろうか?専門紙待ちで。



畠山 成幸七段(2勝1敗)●?○島 朗九段(2勝1敗)…23時44分☆
ここはノーマル角換わりからの後手棒銀。私もたまに脅かしでノーマル角換わりからの棒銀をやるのだが、大抵右玉にされませんか?振り飛車党でもある(あった?)畠山成プロということでこの玉を6八に持って行く構想は意外だった。

54手目のコメントで後手が指し易いとのことだが、確かに銀桂交換ではあるが先手の金銀が酷いし、低いので攻めに使えないのが辛い。角の性能の違いもある。

最後は測ったかのような(まあ測ってるわけですが)ぴったりの詰みで島朗プロの勝ち。



戸辺 誠六段(2勝1敗)○?●南 芳一九段(0勝3敗)…23時47分☆
初戦の辛い負けをモノともせずに白星先行させた戸辺プロの将棋は、終始先手の戸辺プロが良かったように思う。南プロは昔は棒金の名手だったので往年のそれが見れるか?と思ったのだが、流石に辛いだろうということだろうか、面白い趣向を見せてくれた。

後手は背水の陣、という印象の反撃がキツそうな陣立て。先手は互角に捌けばといういつもの振り飛車らしい思想。

しかし攻めることが出来ずに無理そうな手順で先手に竜が出来た辺りで既に勝負アリ、という感じ。勿論実際に指せば、特にアマであればどうなるか分からないが、戸辺プロがここから逃すイメージはなく、実際にも本美濃が手付かずのまま、確りと勝ち切った。



青野 照市九段(2勝1敗)○?●森下 卓九段(0勝3敗)…0時1分
森下先生は事前予想で当たりが悪くないこともあり、島朗先生とセットで昇級候補に挙げていたのだが、結局三連敗となってしまった。

それに比べて王座戦での活躍といい、青野先生の息の長さ。先日引退された有吉先生もそうだが、昔の先生方は何が違うのか分からないが素晴らしいことだ。

戦型はノーマル角換わりからの90年代風味。これは後手の桂馬が使えないので先手としては怖さはない。後手は良くて千日手、悪ければ一生受け続けるか、相手のミス待ち、というところで打開の義務と権利を先手が有する。

解説コメントで示されたこの形の先手の勝率には驚いたが、持ち時間が長くて、深く読めるプロであれば一方的に攻めることが出来る先手がやれるということなのだろう。

本局も終始攻めまくった先手の青野プロが快勝した。



橋本 崇載七段(2勝1敗)○?●泉 正樹七段(2勝1敗)…0時4分
この将棋はハッシープロの強さが存分に発揮されていた。後手の急戦調に対してどっしり構えて迎撃体勢を築く。後手の突き捨てに同歩同歩と応じ続けて、端のと金と歩の枚数、そして端は破られているが先手陣は右翼への逃げ道が確保されているので先手が良さそうだ。

107手目の▲5四香が鋭い決め手。△同銀だと7四に角を打たれて王手銀取りで、後手が6三に受けて桂馬打って、玉が逃げても5一飛車成りがまた先手(同玉は頭金)ということ。よって泉プロは逃げたが、槍の効果でここでも5一飛車成りが先手だ。

最終手もカッコよく、今期のハッシープロは相当に走りそうな気配を感じた(と書いた次の戦いで村山慈明プロが敗れたので縁起が悪いかもしれないが)。



土佐 浩司七段(1勝2敗)○?●桐山 清澄九段(1勝2敗)…0時6分☆
先手の横歩取り回避により相掛かりとなった。浮き飛車に構えて、ひねり飛車に。味としては石田流vsという風情で、突破しようとする先手とそれを防ぎつつ、飛車をいじめたい後手の戦いに。

石田流と唯一決定的に違うのは玉頭二筋の歩が切れていること。石田流の場合、玉頭方面に飛車が来る時は何らかの具体的成果をあげる見込みがないと歩越し飛車なので後々負担になる。

しかしひねり飛車なので本譜の2七飛車型、飛車冠が固かった。最後は後手の防衛ラインが突破されることが確定して後手の桐山プロが投げた。投了図では先手の銀得で後手の金は4段目と5段目にあり、全く守りに利いていないのに対し、先手の駒の働きはほぼ完璧に近く投了も已むを得ないだろう。



北浜 健介七段(2勝1敗)●?○飯島 栄治六段(3勝0敗)…0時30分
ツイッタラーの女性陣見るファン言うところの北浜係長と飯島主任の対決。鑑賞ポイントのあまりの違いに驚くとともにいつも感心しているわけだが、そう言われると本当にこの二人はサラリーマンのように見える。勿論悪口ではなく、サラリーマンになっても確りこなせるであろう、勤勉さとソツの無さ、優秀さを感じさせる、という意味だ。多分。

戦型は相掛かり。先手の浮き飛車から、再度合わせの歩から横歩を狙うという構想に対して、後手は棒銀からの速攻。本譜の進行をみると確かに先手は飛車の動きに手数を費やしており、有力なのかもしれないが、具体的な戦果を挙げられなかったので作戦成功と言えるかどうかは微妙なところ。

53手目の局面では、控室曰く係長良し、ということらしい。少し進んで62手目では玉の堅さは先手、駒割は▲桂△香で微妙だが先手は歩切れの二歩損。手番は先手ということで攻めが続けば先手良しという感じだろうか。

細い攻めを五月蝿く繋げるのは北浜係長得意の営業スタイル。これで数々の大きな商談を決めてきたのだった。対する飯島主任は良家の出とは思えないほど粘り強いドブ板営業で地道に出世レースで勝ち上がってきた。

飯島主任は新卒から下積み生活が長くなったが、毎年コンスタントに安定的な売上を上げて前期主任昇格試験に合格したばかりだった…とこの調子で話が止まらなくなるのがツイッターの恐ろしさであり、楽しさだ。

本局は後手が逆転した将棋だというのは私にも分かるのだが、何処が悪かったのかは微妙だ。私であれば、63手目の桂跳ねの代わりに単に角を7二に打ちたかった気がする。

先手の玉頭に手がついてからは、腰の重い飯島主任の攻撃により、係長は投了せざるを得なかった。感想戦が場所を移して行われたのだが、ロケーション的に商談にしか見えない風景は必見。



阿久津 主税七段(3勝0敗)○?●飯塚 祐紀七段(2勝1敗)…0時42分
広瀬プロの王位戦挑戦が、各世代の天才を本気にさせたようだ。阿久津プロもその一人。今期は昇級を義務として取り組んで欲しいと思っていたが、言わずもがな、の才能全開な指し回しを見せている。

三連勝を決めた本局はノーマル角換わりからの腰掛け銀。前期の竜王戦第一局で森内プロが見せたような二枚銀の構想から先手が細くも攻め切った。後手は居玉で頑張っていたが、それが祟ってしまった。



窪田 義行六段(1勝2敗)○?●阿部 隆八段(1勝2敗)…1時27分☆
指し直し局も藤井システム。後手は居飛穴。藤井システムから苺囲いに組みなおして二筋に飛車を振り直しての攻撃は面白かったが、冷静になってみると単なる右玉であり、勝ちにくいと思われたが、囲いの金を用いての棒金から先手がペースを握った。

玉がほぼ丸裸になったが、常に強気の攻めで窪田プロが勝ち切った。私も苺囲いの利用者としてこの囲いの弱点(というか囲いというよりも掘っ立て小屋だ)は知っているつもりだったが、この強気の手順は参考には出来ないが感心した。



中川 大輔八段(2勝1敗)○?●安用寺 孝功六段(0勝3敗)…1時30分☆
ここは後手の阪田流向かい飛車だった。途中で縺れたようにも見えたが、終始居飛車側がリードしていたように思う。温故知新の中川プロらしい、金銀の運用に優れている中川プロの持ち味が出た将棋だった。



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角換わり腰掛け銀研究

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Tag : 将棋 ノーマル角換わり 腰掛け銀 石田流 藤井システム 中座飛車 矢倉

第69期順位戦A級2回戦 ▲三浦弘行八段-△渡辺明竜王

今期調子がイマイチな二人の対戦。三浦プロは7?12。ただし5つの黒星は対羽生戦によるもので、それを除けば7?7。除く意味がないので7?12は7?12なのだが。

対する渡辺竜王は一頃の神がかった勝ちっぷりが失われて元の冬将軍に戻ったのか7?6。悪くはない。悪くはないが、周りが勝手に竜王にもとめている成績ではない。後手番戦法に苦労している印象で、マタギのように先手の角換わり腰掛け銀を討ち取っていた前期とは打って変わって、指す将棋が無いといった苦労が見られる。

第69期順位戦A級2回戦 ▲三浦弘行八段-△渡辺明竜王

そんな後手番戦法に苦心している渡辺竜王が選択したのはノーマル角換わり。そして棒銀からの早繰り銀へのシフト。これは私が個人的に棒銀フェイクの早繰り銀と呼んでいるものであり、先日の順位戦において日浦プロが先手番で似たような思想を用いて勝又プロを破っていた。

後手一手損に対して、先手がこの手法を用いると端歩の分もあって相当に得な気がするのだが、先手番で用いる人は少ない。それは銀立ち矢倉が優秀だから、ということのようだ。

一手損の後手番の場合、元々の手損が解消されるだけで手得するわけではないのでその優秀さは薄れるが、ノーマル角換わりの場合、端歩の関係が影響しない戦いになれば手得の意味がある。居玉が嫌いな竜王にとっては、得した一手分、玉を囲えるので、一手損角換わりよりは比較的指す気になるということだろう。

将棋はやはり後手の棒銀フェイクの早繰り銀vs先手の銀立ち矢倉となる。実は似たような戦い方を「棋聖戦本戦1回戦、小林(裕)六段戦。」において行っている。(私の感想はこちら「渡辺明の角換わり棒銀」)。この将棋では与えられた盤面図を見る限りでは、先手の9筋の一手が無駄手化しているので成功しているだろう。

しかし本局は途中で竜王側がそれほど面白くないと私は感じた。端を受けて、角を投入して一歩を拾いに行った辺りの手順の味としては粘りに行っている、ぐらいの印象。

先手の銀立ち矢倉は金銀の連係が良く、一段高いところに築城されているので普通の矢倉よりも当たりが強そうなものの、先に桂馬の筋から逃げている銀という意味もあり、玉の居室が広々した印象で息苦しさがない。

59手目の局面。
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先手の陣形の美しさ、次の7七角が実現した局面を思い浮かべて▲5九角としたこの瞬間は相当に気持ちが良い。将棋を指すものとしての喜びを感じる瞬間、といえばいいだろうか。

ここ数手の先手は王者の銀立ち矢倉の完成、王者の行進といった堂々な手が続いているのに対し、後手の手は卑屈なとりあえず囲っておきましょうという2二玉、桂馬の攻撃と角筋に気づいての撤退につぐ撤退で、竜王の指す手ではない。奴隷のような手、ではないが、王様が通る時に道端で伏せるような身分の人間が指す手だ。

居飛車の後手番が苦労しているというのは分かるし、手が見えすぎる渡辺竜王だから尚更に苦労が見えてしまうというのもあるかもしれないが、それでも必要以上に悲観しているような、凝らし過ぎておかしくなっているような印象を受ける手順だった。

そこから挽回したように見える場面もあったが、何しろ先手陣は鉄壁で、角二枚を主力としたぼちぼち攻めが炸裂した。見どころがないとは言わないが、将棋の作りが悪すぎたというか、手損の将棋で端での一手得もなくなり、さらに手損して勝てるほどA級の将棋は甘くない、ということだろう。

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今期の挑戦者は久保二冠か渡辺竜王だろうと思っていたが、どちらも苦戦しそうなA級の序盤戦である。連勝は今のところ、谷川・森内という永世名人資格をもつ二人。流石のひと言である。

高橋先生が連敗。さすがに今期は一気にハードルが上がっているので苦戦はやむを得ない。

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Tag : 将棋 銀立ち矢倉 三浦弘行 渡辺明 ノーマル角換わり 羽生善治