震えの意味 第68期七番勝負第4局 ▲羽生 善治名人?△三浦 弘行八段

第68期七番勝負第4局 ▲羽生 善治名人?△三浦 弘行八段

今、一日目の昼食休憩時間にこれを書き始めた。戦前の注目は、その戦型だった。前局が終わった時点では、こうなったら次も横歩取りで行って欲しいと記した私だったが、実を言えば三浦八段の32金をみて、一手損かと喜んだのは事実。しかし続く44歩を見て、私の喜びは一瞬にして消え去った。ただし、後手一手損と比べると三浦プロの棋風や雰囲気とあっているとは思う。

後手のこの形は簡単にいえば専守防衛であり、先手は飛車先の歩を交換しつつ、角を捌くことが出来て、その後色々な展開はあるものの、特に不満は無い。ただし私も先後両方持ったことはあるが、同じぐらいの棋力でやれば、それなりにどちらもやれる。とはいえ、棋理からして先手が負けることのない勝負であろうと思われ、棋界の頂点を争う場で、先手が(羽生)名人、二日制の長丁場となれば、先手が勝つ可能性が高いのではないか。

これは丁度、前期名人戦、対郷田プロとの最終局で郷田プロが左美濃を用いたときに私が抱いた感想と同じものだった。もしこの左美濃に(羽生)名人が負けるとあっては、現代将棋の進化の全てが否定されることになる。その際はそう思ったのだが、実力伯仲したもの同士の戦いではどこまでいっても一手違い、ぎりぎりの戦いが繰り広げられた。本局もあるいはそのような展開を示すかもしれない。

ただし、現実問題としては、23手目?の棋譜コメントにて「手元のデータベースで検索したところ、現局面は過去に23局指されている。成績は先手16勝、後手5勝(千日手1局、持将棋1局)。」ということだった。戦型的には後手の不利感はあるが、なんといっても、三浦は後手を持って幾つか勝ち越しているようなので、本人にとっては「頼れる相棒」なのだろう。兎に角、後手番時の相棒の一人がやられた今、使うとすれば、この形しかなかったのかもしれない。恐らくこの名人戦前に行なわれた対丸山戦で一手損にて負けていることも多少影響しているような気がした。

この時点で形勢云々というのは無いとしても、スムーズに一歩交換できて、角を手持ちに出来る先手として不満は無い。あとは2日目にどういう展開が待っているか?に注目したいが、四タテの雰囲気が出てきたと正直には思う。(一日目の昼食休憩の感想はここまで)。

ここからは終局後の感想です。

二日目の控え室のプロの見立てはなんと、後手良し。良しといえば大げさだが、三歩打っているし、先手は手持ちだが、後手の歩は全て働くところにあるし、陣形は堅いので後手満足、というものだった。三歩持ってので、何はなくとも先手が勝つべき、という私の素人考えとは違う、正確な形勢判断だと思う。

先手は25歩を通したことに満足してじっと角銀交換に甘んじる。と金を桂馬で取った後手三浦プロに対して、その桂頭を叩く羽生。控え室が推奨する手があり、それが放たれれば、後手が良いとのことだったが、三浦が繰り出したのは最強の77歩だった。控え室の評判も悪くはなく、俄然後手ノリの雰囲気だった。

再度73にと金を作った局面。ここが一つの分かれ目だったかもしれない。二度目の73のと金に対して、後手が飛車を逃げたところで攻守が入れ替わった。先手は、手持ちの歩が多く(序盤のやり取りの結果だ)、25歩が通っているために堅陣であるはずの銀冠が24歩からどう応じても破壊されていくことが確定している。

手抜きで77に成り込んだ後手の三浦プロだが、同金上がるで、形は悪くても、縦横限らず、二枚金は堅い。81手目の84銀も良い手。「積極的に攻めて一発で逆転された!」という紛れの無い手であり、現時点の局面が勝ちなのであれば、その安定度を高める一着だと思う。82手目の予想は、twitter上で幾つかやりとりがあった。幾つか手は見えるが、本譜は、最強ではあるものの、後手が苦しい展開だと思った。

理由としては、63と金、が来るまでに何かしら手にする必要があること、そしてそれは難しそうに見えたことが挙げられる。そこで打たれた23角。この類の手は通常、苦し紛れのことが多いように思う(銀だとまた別で、特に駒得の銀をここに打ち付けるような手があれば相当に良い)が、正直この角の見た目の派手さ具合はあるものの、その後の成果が勝敗を決するような気がしていた。

101手目の57金で先手が良いと思う。そのままゴールするかと思いきや、またもや終盤で羽生がもたつく。素人目にも77に玉を逃げそうなtところで、玉を逃げずに金を上がる。金の頭を歩で叩かれて、それから玉を逃げることでまるまる1枚金を損した。本局何度目かの形勢のもつれを誰もが感じていた。そしてそれを最も感じていたのが後手の三浦プロだった。

このあたりから、両者の手は震え始めたようだ。その姿を見たわけではないが、その意味を中継の盤面しか見えていない将棋ファンの誰もが感じていたことと思う。名人戦という大舞台のタイトル決着の一番というのはその辺で指す将棋とはわけが違うのだ。その場に立ったものしか分からない重圧。第一局で、通常の対局とは全く違う疲れ方をしたという、勝負の間じゅう頭脳をフル回転させて読みを入れているであろう三浦プロ。

今、それら全てが極限に達していることを三浦プロの手の震えが伝えていた。

そこから先の手順の善悪を私は読む気にはなれなかった。既にこれは手の良し悪しを超えた戦いであり、二人の人間の精神力のぶつかり合いになったと考えていた。コンピュータ将棋が如何に強くなろうとも、この三浦プロが我々に与えるような感動を与えてくれる日が来ることはないような気がした。

そうは言っても、手の意味はわかるし、指されれば反応する頭がある。馬を作った後手が急に手厚く見えた局面で羽生が指した17桂馬が三浦プロの読みになかった手で勝負手。正確に応じれば後手が勝ちだったようだが、怪しく迫る羽生名人の前に三浦プロが間違える。このあたりは本当に数手でくるりと形勢が入れ替わったように見え、本当に驚いた。

そして馬を取られて44角が厳しかった。そこから詰ましに行って、詰まずに羽生名人の防衛となったわけだが、他の手を指せばどうだったのだろうか。寄せるのが駄目となれば受ける手。43金と打てば先手は歩を成捨てて金を打つしかなさそうだが、それでは届かないので後手が勝ちそうに素人目には映った。このあたりは専門誌を待ちたい。

即ち、寄せで勝つのではなく、この期に及んで受けて勝つ、というイメージ。怖いところだが、そういう緩急のつけ方、シフトチェンジの仕方、のようなものが三浦プロには欠けているというと言い過ぎだが、なかったようにこの四局を通して思われた。ただし、それ故に熱心に読みを入れる姿や、かたくなに封じ手を拒否?する姿に我々は打たれるものがあったわけだが。

四連敗ではあったが、十分に勝機のある将棋がいくつもあった。そのことは、果たして三浦プロを励ますのだろうか。それともそれでも勝ち切れずに負けたという事実が打ちのめすのだろうか。「私は今でも徐々に強くなっています」と語る三浦プロのことだから前者であってほしいと私は思う。



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基本的にはリアルタイムでの将棋観戦中に思ったことを書き溜めつつ、対局終了後の感想を付け加えて、将棋対局のあった翌日の朝7時頃にアップされるように将棋観戦記を予約投稿しています。「一日一観戦記」をモットーにしているので、同日にネット中継が重なった場合は、対局の重要度を個人的に評価して観戦記の投稿日を調整しています。

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