プロ棋士は強いんです!人間圧勝!第二回電王戦、阿部光瑠四段vs習甦

第二回電王戦阿部光瑠あべこうる)四段と習甦しゅうそ)の戦いをほぼ一日中見ていた。結果は人間、阿部光瑠の圧勝だった。

序盤、作戦に注目したが先手の一手損角換わり。お互いに角道を開けて飛車先を1つ伸ばしてそこから先手から角を換えるという作戦。かなり対コンピューター将棋っぽい作戦だなあと思っていたが、奨励会三段リーグ時代から用いている、阿部光瑠四段の得意戦法らしい。

私も少し手順は違うのだが実は先手で手損する角交換型の将棋を指す。そのほうが相手の得意を外して、自分の得意というか自分の知っている形に誘導できるからだ。序盤で一番光った阿部光瑠四段の作戦は、9筋の端歩位取りだった。

角換わりを人間同士で行う場合、私も結構早めに端歩を突く方だが、かなり早めに端を突いても、大抵相手は受けてくることが多い。無難を目指す人間らしい展開だ。特につかない場合というのは、振り飛車か居飛車が自分が穴熊にしますよ?という意思表示であることが多い。

人間同士だとそのような水面下での意思のやりとりを感じながら指していることが多い。しかし習甦にはその対話が通じなかった。会話における機微・ニュアンスというようなものが将棋という言語において外国人の習甦には通じなかった、というような印象を受けた。

そして将棋は34手目に終わった。プロというか専門的には34手目で将棋は終わっていたと思う。正直、この桂馬跳ねを観た時、私は「さてこれが無理攻めかどうか?」と呟いた。普通、人間同士でやってるときに似たような桂馬の単騎跳ねを試みる人はいるが基本は無理筋である。

私はコンピューター将棋への信頼があるのでこれは何かしらの人間の盲点を突いた攻めである可能性もある…とみていたのだが、振り返ってみればこの桂跳ねが既に敗着であり、阿部光瑠四段の作戦にハマっていたのだった。

流石の私でも41手目、▲6六歩の時点でプロの勝ちを確信した。Twitterでも「阿部光-習甦 41手 ▲6六歩 うわ、マジで横歩取りましたか…まさかとは思ったけど。これはプロ圧勝だな。というか、勝てたら百万円と同じ展開だなぁ。」と呟いた。

このコメントはどういう意味か?といえば、アマチュアがコンピューター将棋に挑戦する「勝てたら100万円」という企画でアマチュアが勝てた将棋というのは、コンピューター将棋の弱点を突いた特殊な作戦によるものだった。

ただアマチュアのその企画は早指しだったので、序盤の微差での有利をひっくり返されることが多かった。今回は持ち時間が四時間なので、その展開も考えにくい。というわけで私はTwitterで次のようにつぶやいた。

「 阿部光-習甦 43手 ▲6七銀上 この展開だとプロとコンピュータ将棋の強弱というよりは、プロとアマの違いが出るだけのような。逆にこれでコンピュータが勝つなら相当強いわな。」

ようは序盤で将棋は終わっていたのである。

そして私はこのようにつぶやいた。「阿部光-習甦 60手 △6七金打 うむ。これは先手必勝ですね。見事にはまりました。勝てたら百万円と同じ展開ですね。」

「阿部光-習甦 62手 △4二金右 んーこれは酷い。終わるまでは長そうだけど見どころのない将棋になった気がする。手がないので固めただけという。」

正直、かなり醒めたコメントだとは思う。とはいえそういう印象を受けたのは事実である。…対局後の記者会見を観るまでは。


以下は対局後の記者会見。

阿部光瑠四段「率直に嬉しいです。あぁいや、なんか盤のまえに座る前はいろんな想いが重なっていましたが、盤のまえに座ってみたら、やっぱり将棋は将棋で、楽しかったです。電王戦に選んでもらって勝てたというのも嬉しいですし、強いコンピューターソフトに勝てたっていうのも嬉しいです。」

習甦の竹内さん「後半無駄な手があって残念ですが記録的なイベントに参加できて光栄です。周りの方がコンピューター将棋に興味がなかった人からも衣装どうするの?とかいわれて祖父の和服を着て来ました。いい棋譜を残したいという抱負を残したのですが、それがうまくいかなくて残念でした。」

瀧澤武信会長「今回は出来ればなるべく人間のほうにたくさん勝って貰いたい。そのほうがデータが集まる。プロが真剣に指した棋譜というのは貴重。しかも今回は阿部光瑠先生は習甦を研究したうえで対局してくれたということに意義がある。今回対局してくれた阿部光瑠先生に感謝したい」。

飯野七段「対局の結果を論ずるのはおこがましいので控えますが、第一回電王戦米長邦雄先生が対局しましたが今日は米長邦雄先生の法要だった。それが重なって、しかもこの盤上に先後両者に米長玉が発生したという。米長会長が導いてくれたのではないか。きっと米長会長もほっとしどこかでこの会場を笑顔でみているのではないか。ひとまずイベントが問題なく終わってホッとしている」。

田中寅彦プロ「練習で苦戦しているのをみていたので大丈夫かな?と思っていたが阿部光瑠四段がお昼に鰻と寿司を頼んでいるのをみてこれは大丈夫だなと思いました。第二戦の佐藤慎一プロもプレッシャーがかかっていると思うが、是非応援していただきたい」。

佐藤慎一プロ「阿部さんの指し回しが非常に完璧というか。練習でもこんな完璧な将棋は観たことはない。この準備をしてきた阿部光瑠プロに感心しました。自分のときは人間が圧勝するということはないと思う、ぎりぎりになると思う」。

阿部光瑠プロ「佐藤慎一プロへのアドバイスといえるほどのことはないですが、団体戦として一勝できたので気楽に挑んでほしいなと。最初の出だしが自宅で対局してたやつだとちょっと手順が違ったのですが一手損になった。でも△4四角▲9八玉は研究通りだった。(△3一玉▲3七桂が入ってるのがちょっと違ったが)。」

以下、報道陣からの質問。

テレビ朝日「ハナをかんでましたが?」

阿部光瑠四段「花粉症、アレルギーそして風邪も引いてました。本音は自分にいらっとするのですがいつものことなので気にせず指してました。コンピューター将棋で一番うらやましいのは緊張とか一切ないので精神的に悪いなと思ってもブレることがないので、無理なんですけど見習っていきたい。」

竹内「(スペックは?)一般のパソコンよりはハイスペック。8コア、CPUダブル。理論上の計算スピードは1秒間に1千数百万ぐらいの局面を評価する。(今後の課題は?)桂馬を跳ねやすすぎるという指摘を受けたが、機械学習なのですぐにどう反映するかは難しいが考えて行きたい」

読売新聞「序盤、かなり上手く相手の攻めを誘って行くような指し方だったが事前の研究ですか?」

阿部光瑠四段「とんでくれればいいなとおもっていたんですが、そういう感じになって。△2二玉とされた局面では桂馬跳ねられてちょっと自信がなかった。入ってない形は研究してたんですが。その後の手順は研究と実戦は同じだった。(だいぶ思い通りにさせた?)はい、そうですね」。

観戦記者「昼食がうな重とマグロということで。」

阿部光瑠四段「吉田正和プロがうな重と寿司とうどんを頼んでいたので、どうなのかな?とおもって…。ちょっと対戦相手の三浦くんに余った中トロと大トロを上げて…。」

習甦の竹内さん「(昼食は?との問いに)昼食休憩の形勢がわるくなかったので普段通りじっくり食べました」

朝日新聞「今日の対局に臨むまでに、習甦相手に何局ぐらい指したのか?準備のあたりを」

阿部光瑠「順位戦が終わってから毎日習甦と四時間で指して・・・大体こういう形がこれなのかなという。これをやるという作戦は決めてなかったですが。(専門的ですが四手目に8四歩とされて)自分横歩取りができないので角換わりしかできないので、研究してた手順になったら嬉しいなということで指しました。(毎日四時間で指したということは一日一局ということ?)朝はやく起きて八時ぐらいから一局ぐらいは指せるかな。二局目は一時間とか。だいたい毎日二局指せるようにしました。出かけてる日を抜いても二〇局以上はやっているんじゃないかなと思います」。

フリーライター「竹内さんに伺いたいのですが、CPUやメモリの詳細を」

習甦の竹内さん「(専門的すぎて忘れました)…メモリは一六ギガ」

フリーライター「竹内さん大変立派な和服ですが?」

習甦の竹内さん「祖父の遺品です。紋も竹内家のものです。」

阿部光瑠四段「(持ち時間が多いほうがいい?)そうですね。一分将棋だとすごい優勢でもひっくり返されることもあって。終盤に一時間ぐらい時間を残したいなと思っていました。」

阿部光瑠四段「(端歩をつきこされたのが突き返してこないのをみこして?)そうですね、練習でも端歩を受けずに桂馬をはねる展開があって。飛車とか切ってくると入玉しやすいなと」

習甦の竹内さん「(おやつの時間では?)あのあたりでコンピューター将棋が形勢悪化したことを悟った。仕掛けた頃は実際優勢だと思っていたが、60手目すぎから怪しいと思い始めていました。角を打たれた時、ゼロ手で馬を作らせて、負けを覚悟した。」

朝日新聞「勝ちを意識したのは?」

阿部光瑠四段「負けはないなと思ったのは終盤の△3四銀というところ。相手が投了するまで気は抜けないのであまり勝ったという風には思わなかったです。(凄く緊張してもおかしくないと思うが?)特にはないんですが、いつもどおり自然体で指せたらいいなと思っただけですね」

朝日新聞「竹内さんにプログラムの上から観た場合、どういう敗因があってどうやって改善していくか?」

習甦の竹内さん「すぐには答えにくい。弱点がわかってもそれを具体的につよくするのは結構難しい。これから考えていく」

阿部光瑠四段「(なぜ桂馬を跳ねてきた?)やっぱり自玉が堅いので攻めは切れないんですけど、人から見ると無理気味なんですけど、コンピューター将棋は攻めをつなげるのが上手いので。歩得もしているし。」

ここまでが記者会見。

やはり、将棋というのは強い人と指さないと分からないところがある。正直、序盤で終わっているという感想しかなかったのだが、この記者会見をみて本当に私は感動してしまった。

練習将棋をコンピューター将棋と毎日同じ持ち時間で一局、合計二〇局以上は指した、というところにまず感動しました。そして、練習将棋で出現していた序盤の手順としては、▲7六歩△8四歩▲2六歩に後手から一手損にしてきたらしい。

それに対して▲7六歩△3四歩で早くも目論見が外れていたのだった。一瞬にして無になった研究。普通だったらそう思うだろう。しかしここで自身の元々得意としていた作戦があった。先手からの一手損。これがバックアッププランとなって事前の研究に回帰することが出来た。

ただ想定していた局面は後手が△6五桂馬と跳ねる時の後手玉が△3一玉の位置であり、実戦は玉が入城している形だったので、その堅い玉から猛攻されてどうなるのか?ということは阿部光瑠四段にも分からなかったようで自信はなかったということ。

結果的には△4四角▲9八玉という想定局面にほぼ悪条件なく持ち込むことができての完勝となったのだった。手順だけみるとあーハメたのね、良かったですね。ということになるのだが、プロの「対局は集金で、研究こそが仕事である」という言葉をそのまま実現させたのが本局だったということだ。

遠山雄亮プロもブログで書いていたが、阿部光瑠プロというのは物凄い早見え早指しで、若くして上がったものの荒削りで、そして研究も深いというよりは正直むらっけのある序盤の雑な粗い将棋で出来不出来の差が大きくて…と思っていたが、全然違った。

真剣に努力してそしてその努力が努力に本人自身が思わないような、苦しいとも思わずにプロだからやる、対戦が決まってるからやる、というのを肩肘張らずに普通にこなしていけるという継続することの才能を持った人なのだった。

私のような凡人は将棋の上手い人は才能のある人、知能指数が高い人、ぐらいに考えてしまうことが多いのだけれども、人並みならぬ努力があってこそ初めて結実するものがあるということを今回の阿部光瑠四段の取り組みによって気付かされた。

確かにコンピューター将棋の序盤の欠陥を突く形で序盤で圧勝したわけだが、その裏にはこういうドラマがあったということに、人間は感動する。コンピューター将棋の無機質な実力の高さではなく、勝っても負けてもこういう取り組みがあるからこそ、人間は将棋に感動するのだと改めて理解することができた。

なぜ実力的にはプロに劣る甲子園野球があれだけ人気があるか?ということと全く同じである。

奨励会という細くて長い道程を通り抜けてきた一握りの天才中の天才達が、その生命を削るような努力のもとに築きあげられてきた将棋とその定跡ということに人間は感動するのだった。

ここでちょっと唐突ですが、荒木飛呂彦のジョジョの奇妙な冒険から一文引用したい。

「人間讃歌は“勇気”の讃歌ッ!!人間の素晴らしさは勇気の素晴らしさ!!いくら強くてもこいつらゾンビは“勇気”を知らん!」(ツェペリ)第3巻”



まさにこの言葉を今日の対局を通じて思いました。将棋の内容を超越した人間讃歌をまさに感じることができてとても幸せな一日でした。そういう意味で阿部光瑠四段には本当に感謝したい。また、そういう環境をととのえてくれた習甦の竹内さんも素晴らしかった。

快くソフトを貸してくれたからこそ、こういう展開が生まれたわけであり、そしてその対局にご自身の祖父の紋付き袴で臨まれるという姿勢に、プロ棋士ならびに将棋への尊敬の念が現れており、対局前からの言動からここまで全てにおいて好感度100%でした。

見た目も吉田栄作っぽくてカッコイイですし、是非今後も頑張って欲しいと思いました。今日はどちらの対局者も本当に素敵でした。

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さてここからの第二回電王戦の展望ですが。個人的には勝てるとしたらレーティングの高い阿部光瑠プロと船江恒平プロだろうと以前から予想していた。また、コンピューター将棋の序盤戦術の欠陥を今回のように突くことができれば、駒落ち将棋の熟練度というか駒得を勝勢に導く技術に長けたプロであれば勝てるだろう。

そういう意味では二戦目の佐藤慎一プロが残りの四人の中では最も負ける可能性が高い。実力的にもそうだし、ソフトを貸してもらえていないということで、阿部光瑠四段のような事前準備はできないので、ある意味普通の序盤になるか、思いっきり力戦に持ち込むかのどちらかになるだろう。

思いっきり力戦…の究極が新米長玉であり、そういうふうには指さないと断言していたのが、佐藤慎一プロなので、今回は普通の将棋になる可能性が高い。普通の将棋になると、あの早見え早指しの阿部光瑠四段ですら「相当優勢なのに逆転された」と言っている通り、ノーパソレベルのコンピューター将棋でも恐ろしい強さを発揮する。

今回の対局後の記者会見で佐藤慎一プロが「今までみた対コンピューター将棋戦ではここまでの完勝は観たことがない、自分の場合はもっと接戦になるはず」といっていたが、その通りだと思う。

対人間という意味では相手が誰であっても、佐藤慎一プロのようなアツい男はやややりにくい面があるはずだがその点、そういう心理的なものが一切ないコンピューター将棋ということで最も苦戦が予想される。また、ponanzaの開発者の山本一成さんは策士であり、序盤戦術を相当限定してくる可能性もある。変な穴を突かれるぐらいならば…ということで。

後手番の佐藤慎一プロの作戦に注目が集まるが、なんとなーく角交換型の振り飛車をやりそうな気がする。今日の将棋でも明らかになったように、コンピューター将棋は角を手持ちにすると死ぬほど猛烈に攻めてくるので、そして角交換型の振り飛車は計算の世界なのでかなり苦戦するように予想しているのだが。

あとは本当にponanzaの開発者の山本さん次第だろうか。自身の棋力も高いのでコンピューター将棋の弱点も知り尽くしており先手番で初手▲2六歩と指すような気もしている。そう指すと後手は相掛かりを受けるか、振り飛車にするしかなくなるからだ。

ひとまずコンピューター将棋の全勝を覚悟していたので、今回の一勝は本当に大きい。

阿部光瑠四段の名前も全国的に知名度があがって、しかも好感度もしょっぱなからドカンと上がったと思う。ご両親をこの一八歳という年齢で養い、それを当然と言い、そしてこのプロ棋士全員にとって大きな意味をもつ勝負の先鋒として十分にその役目を果たした。本当に素晴らしいことだと思う。阿部光瑠(あべこうる)ですよ!><

最後に繰り返しますが、「人間讃歌は“勇気”の讃歌ッ!!人間の素晴らしさは勇気の素晴らしさ!!いくら強くてもこいつらゾンビは“勇気”を知らん!」(ツェペリ)

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電王戦関連の記事第1戦から第5戦までのリンク】

プロ棋士は強いんです!人間圧勝!第二回電王戦、阿部光瑠四段vs習甦

佐藤慎一敗れる。第二回電王戦第二局▲ポナンザ対△佐藤慎一

【追記有】将棋の常識が変わる?詰まし屋一閃?! 第二回電王戦、第3局▲船江恒平五段vs△ツツカナ

【追々々記有り】引き分け:入玉に賭ける星 第2回電王戦第4局 ▲Puella α vs △塚田泰明九段
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テーマ : オセロ&将棋&囲碁&チェス - ジャンル : ゲーム

Tag : 阿部光瑠 あべこうる 習甦 しゅうそ 電王戦 GPS将棋 ポナンザ 塚田泰明 米長邦雄 船江恒平