「プロ棋士対コンピュータ」を思うときに読んでおきたい三冊

ブログを書いていると、非常に嬉しいコメントをいただくこともあるし、予想していなかったような厳しいお言葉(主には更新や記事レベルの低下に関すること)をいただくこともある。また、議論に発展させたほうがよいかもしれないと思われる、論点の提示をいただくこともある。

個人的には、コメント欄でそのようなやりとりが延々と続くことを好まないので、避けさせていただいている。

東海の鬼 花村元司伝」の中で著者の鈴木啓志氏が、私と同様のコメントを記しているのをみたが、それについての疑問の言葉を頂いたこともある。

コンピュータvsプロ棋士については、一方ならぬ興味を持ち、その推移を見守っていた私としては、どのような意見を貰ったとしても、やはり違和感を持ったということについて、偽ることは出来ない。

ボナンザvs渡辺明あからvs清水市代のあたりで、どのような発言があったのか?というのを知りたい人には、「閃け!棋士に挑むコンピュータ」を読んでもらいたい。第二章には米長邦雄のコメントが幾つか出てくる。

私は米長邦雄氏が日本将棋連盟の代表という立場を活用?して、対コンピュータの諸々を行なってきたことを評価してきた。ただし、勿論それを評価する際の判断軸は私独自のものであって、当人の判断とも巷間の判断ともことなることに異議を唱えるものではない。

ただし、コンピュータ将棋にまつわる氏の発言なりを、まじめに観てきたつもりだったが、これからの動きについては、自分の考え方のスタンスを少し変えた上で見ていくことにはなるだろうな、とは思う。これは勝手に恋心を抱いて、拒絶されたことによる憎しみ、というようなものではない。

そういう、勝手に利己的に感じた裏切りに対する憎しみ、ではなく、今後の展開・シナリオとしてはそれほど御大層なものはないだろうな、という枠組みに対する期待感の消失である。

勿論勝負の楽しみはあるし、将棋はおもしろいものになるだろう。ただし長期的な展望としての面白みというものではなく、行き当りばったりなところが連続していくのだろうと。思えばプロ対コンピュータの5対5についても、事前の話し合いがあったのかどうか、よくわからないところもある。(「われ敗れたり―コンピュータ棋戦のすべてを語る」が出版される前であれば、対局前に細かな作戦会議が行われた上で決まったと思ったかもしれないが、決定経緯について何を書かれても、もはや信じられないというか。)

自身の違和感を再確認するために、「閃け!棋士に挑むコンピュータ」を再読したのだが、「あから」の指した△5七角に対するプロの反応を、ボンクラーズvs米長邦雄戦の後に、そして「東海の鬼 花村元司伝」の後に読むと、また違った印象を受けることに気づく。

花村元司の鬼手には角や銀を使ったものが多い。角や銀という駒が斜め後ろに効く駒であるという性能が理由の一つだとは思うが、プロが一目悪手とした△5七角も花村元司だったら、一目で指したような気もする。

特にオチはないのだが、一文だけ、「閃け!棋士に挑むコンピュータ」から引用しよう。

(なぜボナンザの対戦相手に渡辺明竜王を選んだのか?に対して)米長邦雄曰く

渡辺明が勝つのであれば、プロになりたての新四段も勝つ。100メートル走を9.9秒で走るか、10.1秒で走るか、プロの間にはそれほどの差がないのだから


とのこと。

私が米長邦雄の日記で「勝敗も名前も秘すから指してくれ」と伝えてボンクラーズと対戦させたということと、「われ敗れたり―コンピュータ棋戦のすべてを語る」で記されたことの間に、何かしらの「だまし討ち」のような気分を感じるのだが、実際にテスト対局?を行った森下卓プロが、あの本の中でコメントを残しているので、特に問題ないのであろう。

恐らくこの私の個人的な気分に関する記述はこれで最後になると思うので、しつこくて申し訳ないが書かせて頂いた。

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Tag : 花村元司 米長邦雄 あから ボンクラーズ GPS将棋 ポナンザ 渡辺明

清水市代女流王将vs.あから2010(コンピュータ将棋ソフト)の感想

遂に世紀の対決が始まった。

2010年10月11日 清水市代女流王将vs.あから2010(コンピュータ将棋ソフト)

持ち時間は3時間。戦型はどうなるだろうか?清水女流は居飛車。先後は振り駒だろうか。あからが先手番になって▲2六歩となった場合はかなり厳しい気がする。或いはあから後手番での横歩取りや一手損。女流で流行っていない形になった場合の難しさはあるかもしれない。

個人的には相居飛車が見たいが、対抗型であから穴熊に組んだときに清水女流がどういう陣形を選択するか。

どちらになるにせよ、延々と定跡を踏襲するような将棋には、清水女流がするとは思えないので、力戦調持久戦で斬り合いになるべく持ち込まずに入玉を狙うのがいいと思う。あからが四間飛車穴熊に来たら、右玉にして…と思うが右玉にしてボコられると先日の新人王戦のように恐ろしいことになるので勇気がいるところ。

…とここまでが私の戦前の予想というか期待していた点。

対局は始まってみると後手あからの△3三角戦法となった。清水女流は普段はあまり見せないように思う居飛穴を志向したが、不慣れなせいか、或いはあからが機敏だったのか、囲い切る前に開戦となった。

パッと見の私の意見としては、31手目の▲5九金が緩手だった可能性があるように思う(ただしプロ棋戦でも似たような例はあるとのこと)。32手目△4四角に対する▲4五歩も堂々としているようで危険だったか。

戦いが一段落した44手目の局面。手番は先手。駒割は▲金△桂(歩歩)で判断が難しいが、歩が関係ないとすれば先手だし歩切れの先手に対して二枚持っている後手を評価すれば後手。陣形はこれまた難しいが攻め駒との関係で後手のほうがやや安全だろうか。このあたりの形勢判断はとても難解。

コンピュータがこの桂金交換を許したということは、与えた金の運用先がないであろうこと、歩を二枚貰ったこと(厳密には金と歩歩桂の三枚替え)を高く評価したということなのかもしれない。人間だとこの金桂交換を避ける順から読むはずなので異感覚に映る。

49手目の▲4二角成の瞬間が甘く、後手のターン。得た二枚の桂馬を立て続けに打ち据え、二枚とも丸々金に替った57手目のところでは後手のあからが良いと思うがどうだろう。

ただし、攻め駒の飛車が隠居しており、狙いの先手玉のコビンもまだどうなる感じでもない。どうするのか?と見ていると△5二金打として、彼我の安全度の相対的な差を広げ、あわよくば本譜のようにお荷物の飛車と手数を掛けて作った先手の馬を交換してもらおうというものだった。交換となった辺りでは後手良し。

63手目、二枚の桂馬を得て、後に角の入手が見えている先手が控えの桂馬を▲8六桂と打ち据えたが、これを放置しての後手あからの応手が異筋の好手だと思う。

64手目の局面。ここであからは△6九金と打った。
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この金に▲2四飛と走ると角を打たれて2二の角を取ると先手玉が詰んでしまう。先手陣は金銀があるものの、二枚は上ずり一枚は一段目にあるために守備力が低いのだった。

前述の筋を防いで▲7八金と引くと今度は玉のこびんが危うく、それを狙う△5七角。それに対して▲7七銀と引くと△5六銀で後手の駒が左香以外は全部使えるようになった。
ただし66手目の局面で、プロの見解としては▲7七銀以外の手を挙げる人が多かったようで、▲7七銀と△5六銀の交換は後手がかなり得をしたようだ。(ツイッター上では戸辺プロといつもん氏が▲4九飛を推奨しており、それにて先手が良いのではないか?という話まであった。となると△6九金は悪い手だったか?)。

その後も後手のあからの方に面白い手が連続する。終盤で印象に残った手としては△5五角(頓死筋の防ぎ)、△8五銀(一手スキ)だろうか。特に△5五角は焦りすぎない柔らかい好手だと思う。

結果だけみると序盤は難解だったものの、途中からは後手のコンピュータソフトの圧勝だった。この将棋の異質なところは、先手が歩を手にすることも後手が得た歩を使うことも終局まで一度も無かったということだろう。

清水女流は何の得もない勝負を勇気をもって受けて、この日唯一戦っている生身の人間として正々堂々の勝負をみせてくれた。並の男であれば、平常心を保つことすらままならない戦いだろう。普段はみせない着物姿に込められたものを考えずにはいられなかった。

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コンピュータ将棋の弱点

それは恐怖や痛みを感じないことだと思う。これはコンピュータ将棋の長所でもあるのだが、長所と短所は表裏一体だ。

本局でいえば63手目の▲8六桂に対し、あからは全く受けなかった。(本譜においては確かに受ける必要がなかったが)。数年前に行われた渡辺明vsボナンザの際も、相穴熊に知悉した人間ならば一目の竜切りの筋を、その効果が形としてではなく、実利として生じるのが先だったために候補手として上がらなかったのだった。

今回、合議制であってもその痛みと恐怖心の無さを完全には無くすことが出来なかったようにも思うし、その一方で冷静な△5二金?△2二飛という手があったことを見ると多少は解消されているようにも思う。(どちらの手も合議制によるものというよりは、ある一つの個性をもったソフトによるものの可能性も高いが、違う個性のソフトを組み合わせるメリットが出ている)。

人間側の戦略としては、コンピュータが震えることがないために、気づかぬうちにどうにもならなくなっているような戦い方が良いのだろう。そして現時点では入玉がその一つに挙げられる。


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ではコンピュータソフトの実力はどの位あるのか?

将棋連盟の出版事業を一元委託されている毎コミュ。そこで販売している将棋ソフト激指の広告は機関誌である将棋世界にも掲載されている。そこには控えめではあるが堂々とこのように記されている。

本ソフトの(中略)強さは「将棋倶楽部24」でレーティング3000点台(プロ級)といわれています。



戦前の清水女流vsあから2010の勝敗予想では、元奨励会三段で週刊将棋編集長だった古作氏などが2?8程度を予想しており、これはちょうど女流棋士の対男性プロとの勝率(対男性棋士で2割弱の勝率)に近く、プロレベルであることが確認される。

以下、私が戯言レベルの話として書いたコンピュータ将棋の実力に関するもの。日付が古いものから順番に並べており、一番下のコンピュータ将棋の将棋倶楽部24でのレーティングは3000点以上か?が最新。

もし新四段に8割勝つレベルだとするとプロ棋士レーティングでトップ20ぐらいに位置することになる。ここを上限とし、最大で見積もってプロのトップ20と同格、最低でも奨励会三段リーグレベル。ということになる。

私は何度か清水女流が男性棋士と戦う姿を見ているが本局ほどの圧勝劇というのはなかなか無いように思う。少なくともプロ四段クラス以上であることは間違いないのではないか。

今後、連盟が指定する男性棋士が対局する予定であり、最終的には名人か竜王が対戦するとのこと。名人竜王といえども、100%勝てる相手ではなく、せいぜい7?8割ぐらいだろう。そして現時点の羽生・渡辺に2?3割勝てるプロというのは低位?中堅クラスぐらいに位置しているという事実があり、そこから考えるとコンピュータ将棋は既にプロの中堅ぐらいまで来ている可能性がある。

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ボナンザVS勝負脳―最強将棋ソフトは人間を超えるか (角川oneテーマ21)

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コンピューター将棋(将棋ソフト)の実力(レーティング)は奨励会入品レベル

続:コンピューター将棋(将棋ソフト)の実力(レーティング)は奨励会入品レベル?

コンピュータ将棋のような、羽生善治プロの第一次全盛期(の将棋の例)

コンピュータ対羽生名人まである可能性

#csalive ターミネーター製造工場の視察 ?第20回世界コンピュータ将棋選手権を3日間眺めての感想?

コンピュータ将棋の将棋倶楽部24でのレーティングは3000点以上か?

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