佐藤康光将棋の本質 2011年01月16日第60回NHK杯三回戦第六局 ▲佐藤康光vs△久保利明二冠

先手佐藤康光プロ、後手久保利明二冠。対戦成績はツイッターの呟きで知ったのだが、21?21と全くの五分らしい。迎えた対局は後手のゴキゲン中飛車に先手▲3七銀戦法となった。例によって棋譜だけみた、個人的な感想。誤りを恥ずかしがらずにつぶやいてNHKテキストの発売日に赤面するというのが習慣になっている。

2011年01月16日第60回NHK杯三回戦第六局 ▲佐藤康光vs△久保利明二冠

この▲3七銀戦法はいわゆる素人向けの定跡ではないと私は考えている。扱いにくい戦法であり、ハマった時の快感を忘れられずに続けると勝率は四割ぐらい、という印象。野球のバッターで言えば、二割三分でホームラン35本、という一昔前のパ・リーグの注目されていないチームの四番バッター、或いは大洋ホエールズのアッパースウィングの田代、という印象。

後手は久保利明二冠ということで応手は△3二金ではなく△3二銀。個人的にはこれも振り飛車側を持つとすれば素人向けではないと思う。普通は△3二金と指すべきだろう。2二に撤退したときに紐がつくつかない等、素人には3二金のほうが安全な変化が多いと思う。

ちょうど自動車教習所ではスローインファーストアウトを学び、F1レーサーがアウトインアウトをやるような違いだろうか。

この▲3七銀急戦の肝はもしかすると3筋の突き捨てとそのタイミングかもしれない、というのは糸谷遠山戦と合わせてみて思うところ。

何も懸かっていないアマチュアの私としては常に味付け濃い目なので、こういう突き捨ては大好きである。

お互いに馬を作りあった局面の形勢は分からないが、アマチュアでは後手のほうが方針を立てやすいと思う。

そこから佐藤康光佐藤康光たる所以、というような構想が隠されていた。

40手台?80手台に双方20手づつぐらい指しているわけだが、後手の久保利明二冠は隙あらば穴熊、という元々の棋風であり後手番ということもあり穴熊に。先手の佐藤康光プロは堅く囲うことは放棄して押さえ込みのような、地下鉄飛車での左玉風の構え。

この形自体は初めてだろうが、研究や実戦において「佐藤康光流対ゴキゲン中飛車、左玉戦法」の素地があるために、打開は難しい状態になったものの、悲観せずに戦うことが出来た。

一方の後手の久保利明二冠は元々穴熊が上手いこともあり、馬飛付きの3枚穴熊、打開は難しかろうと見ていたのではないか。その過信が、或いは打開の隙を与えて、攻めさせて迎撃するつもりだったのか、84手目に△5二金と寄ったのが、或いは疑問手だったかもしれない。

この一手で二筋が手薄になり、飛車成りが受からなくなった。捌きの棋風であるところの久保利明二冠としては、左側の駒は捌ければそれでよしと思ったのかもしれないが、本譜のように桂馬と香車を拾われ、竜に横から睨まれ、縦を桂馬と香車で狙われる、というのが穴熊攻略の一番の方法なのだった。

たしかに93手目の局面の先手陣、銀を変なところに撤退させられた姿は褒められたものではないのだが、それでも後手からの攻めが無い、先手玉が5筋方面からの逃げ道もあり広いというのが、とても大きい。

急戦や、銀冠、地下鉄飛車で振り穴に対抗していた頃の私は常に焦燥感に駆られていたのだが、右玉系で対抗するようになってからは、その玉の広さが心理的にとても大きく、焦らずに戦うことが出来るようになった。

右玉系の広さで対抗する形の味を覚えた人にとっては、本局の途中からの先手の指し回しはとても安心して観ていられるものだったように思う。

4七の馬が何もしていないようで玉の退路を確保しているために先手玉はその広さを絶対的に確保しているのだった。

また、穴熊攻略における▲9九香の存在。この香車が動かずに済む場合、大抵穴熊退治側が幸せになるように思う。9九の香車が出動すると既に意外に大変なケースが個人的には多い。

手数は長かったが途中からは先手の勝ちに揺るぎが無かった。

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トッププロに共通するところとして、「将棋を簡単に見すぎない」という面があると思う。その見方にそれぞれの特徴が現れているが、羽生善治名人は少し良さそうなところや苦しいところでも全く油断しないし、森内俊之プロは少しの形勢の差がそのまま勝敗に結びつくことを知っているがゆえに序盤において厳密な組み立てを行う。渡辺明竜王はその見切りの良さに定評があるが、先人の蓄積したものや現状の見解に対して懐疑的で常に自身の主張を元に組み立てた序盤戦術を用いる。

それに比べて佐藤康光は序盤が甘いというか粗いというか奔放というか。他の棋士が少し損と思うような戦法・作戦を用いる。通常の棋士が、先手番でそこまで頑張ってその程度の得しかないのであれば、それはある意味損なのではないか?と思うような作戦を用いる。

しかしそれは裏を返せば、そのぐらいして得た形勢の微差を得ることの大変さを知っているということでもあり、そしてその微差を得ることでそれを拡大して勝ちきることが出来る自信の現れなのだと思う。

少なくとも自身が知っている局面、経験値において相手を上回る局面であれば微差であっても勝ちきれる、という考えているのであれば、これはまさにMY定跡派にとっては完璧な手本であると言える。

今これを書いているのは当日の19時頃であり、既に聞し召している(と自分に向かって書いていいのか文法的な正しさは知らないが)状態で、かつ1週間ぶりの将棋(先週は千駄ヶ谷で中村真梨花女流の指導対局を眺めながら合間に3連勝した。一つは穴熊退治!)、24におけるR戦でMY定跡にガッツりハマる展開により三連勝した気分の良い状態で書いているので頬が緩んだ文章で申し訳ないが、佐藤康光将棋の本質、面白さというのはあまねく観る将棋ファンにゆきわたっている理由というのは、序盤の奔放さにあるわけだが、その奔放さというのは単なるファンサービスではなく、将棋の本質について他の棋士よりも深く、そして鳥瞰しているが故のものである、というところにあるのではないか。

例によって見直していないので読みづらい文章だと思うが以上とさせて頂く。


新手への挑戦―佐藤康光小伝新手への挑戦―佐藤康光小伝
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上地 隆蔵

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基本的にはリアルタイムでの将棋観戦中に思ったことを書き溜めつつ、対局終了後の感想を付け加えて、将棋対局のあった翌日の朝7時頃にアップされるように将棋観戦記を予約投稿しています。「一日一観戦記」をモットーにしているので、同日にネット中継が重なった場合は、対局の重要度を個人的に評価して観戦記の投稿日を調整しています。

将棋観戦中に書き始め、対局が終了すると思われるところから観戦記を完成させていることが多いです。文章内の形勢判断は個人的主観によるもので、観戦中の控え室のプロの意見を取り入れず、将棋ソフトの解析を行なっていないため、形勢判断が正しくない可能性があります。

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